ゴブリン少年

■ショートシナリオ


担当:宮崎螢

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:5人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月05日〜12月10日

リプレイ公開日:2004年12月13日

●オープニング

 晴れた日の街角に、少年のただならぬ叫びが起きる。道行く人々が思わず辺りを見回し、通りの店の親父が少年をつかまえて問いつめる。
「坊主、本当だろうな? 見間違いじゃねぇだろうな?」
「だって、ほら。あそこにゴブリンが‥‥」
 少年が指さす通りの彼方を見ると、怪しい影がうろちょろしている。小さな背丈に青黒い顔、ボロ切れをつなぎ合わせたような鎧を着込んだ異形の者が2人。きょろきょろと辺りを見回しては、動物じみた動きで物陰から物陰へさっと走っていく。
「コブリン怖いよぉ! 助けてぇ〜!」
 悲鳴を上げて逃げ出す少年。
「こいつはヤベぇ! 皆の衆、手を貸してくれ!」
 店の親父は棍棒を片手に皆を呼び集め、逃げ出した少年とは逆方向に駆けていく。手に手に得物を持った旦那衆が押し掛けてくるのを見ると、ゴブリンじみた怪しい連中はさっと路地裏に駆け込んで姿を消した。それを追いかけて旦那衆も路地裏へ。
「こんな町中にゴブリンが出るなんて、本当にいやだねぇ」
 店番に残ったおかみがつぶやき、何気なく後ろを振り返ると‥‥大人ほどの背丈もある青黒い顔の恐ろしい姿が、牙をむいてそこに立っていた。
「ぐわあははははは! オレサマはゴブリンだゴブぅ〜!!」
「あ〜れ〜!!」
 おかみは腰を抜かして叫んだ。
 一方、路地裏に踏み込んだ親父衆であるが、ゴブリンの姿はどこにも見あたらない。代わりに子どもが二人、道の真ん中で遊んでいる。
「お前ら、ここでゴブリンを見なかったか?」
 親父の質問に子どもは首を振る。追跡を諦めた親父衆が戻ってみると、街のあちこちの店が荒らされ、人々が騒いでいた。
「大変だ! あんたらが出払っているスキにゴブリンが襲ってきたんだ!」

「こんな事件が何度も起きているんだ。しかもゴブリンどもはいつの間にか煙のように消えちまう」
 ゴブリン退治の依頼にやってきた男たちに事務員は訊ねた。
「ところでそのゴブリン、何か怪しい所はなかったか?」
「そういえば‥‥あいつら小汚い姿の割に臭いがしなかったな。ゴブリンってのは普通、遠くからでも分かるようなひでぇ臭いがするって聞いたことがあるんだが。それにもう一つ、ゴブリンが現れる前に必ず少年が現れて、ゴブリンが出た! と、叫ぶんだ。金髪でソバカス顔の少年だ」
「なるほど。その少年が事件の鍵のようだな」
 近いうちに事件は再び起こるだろう。その時が来たら行動だ。

●今回の参加者

 ea3012 アリア・エトューリア(25歳・♀・バード・人間・イスパニア王国)
 ea3225 七神 斗織(26歳・♀・僧兵・人間・ジャパン)
 ea7383 フォボス・ギドー(39歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8586 音無 影音(31歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea8989 王 娘(18歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

●ゴブリンは偽物?
 うっしゃ〜ゴブリンは全部撲殺〜! ‥‥などと心中で思っていても、フォボス・ギドー(ea7383)はれっきとしたナイトである。人前でナイトにふさわしからぬ粗野な発言はしないのだ。
「話を聞いてやってきた。街にゴブリンが出るそうだな?」
 撲殺〜! 撲殺〜! ゴブリン撲殺〜! ‥‥いや、ここは心の声ではなく仲間の言葉に耳を傾けよう。
「ゴブリン‥‥多分、偽物だよね」
 浪人の音無 影音(ea8586)がそう言った。
「普通、名乗りを上げて人間の商店を襲うゴブリンは居ません」
 14歳のバード、アリア・エトューリア(ea3012)も言う。
「どうせ、人間がゴブリンに変装して襲っているだけでしょ?」
 15歳の侍、七神 斗織(ea3225)も彼女たちに同意見だ。
「実際に村でゴブリンに襲われた方々のお話から判断する限り、『ゴブリンだゴブぅ〜』などと人語を話すゴブリンはいないようですね。陽動のゴブリンはおそらく子どもの変装。発見の報を入れた少年も仲間でしょうね。問題は店を襲ったゴブリンですわ。こちらは背丈が人間の大人ほどもあるとの事。子供が大きな着ぐるみの中に入っている可能性もありますが、子供を手先に使った盗賊の可能性も捨て切れませんわ」
 影音がぽそりとつぶやいた。
「‥‥そうすると‥‥斬れないや。‥‥まあ、良いか」
 だがしかし!
 たとえ、ゴブリン盗賊団の正体が人間と判っていても!
 たとえ、背の小さいのが予想では子供と判っていても!
 モンスターを名乗っている以上は『化け物として狩る』が俺の主義!
 つか、世の中なめてるのか? ゴラァ!!
 ‥‥とか思ったりしていても、フォボスはナイトである。そういうことは心のうちにしまっておいて、ナイトらしく立派にふるまう。だって28歳のフォボスは今回のパーティーの中では最年長なのだし、若い者たちに手本を見せねばナイトの名がすたる。
「では手始めに、騒ぎを露骨に煽っている少年を捕らえるとするか」
「ところで斗織、例のものは?」
 武道家の王 娘(ea8989)が斗織に言った。
「はい、これですね」
 斗織が王に差し出したのは、耳を隠すためのふわふわヘアバンドだ。
「‥‥」
 ヘアバンドを受け取ったはいいが、不満げな顔になる王。王はハーフエルフだ。そのせいで見かけの年齢が実年齢の半分の13歳にしか見えないのはまだいいとして、問題は人間にしては尖りすぎ、エルフにしては短すぎるその耳だ。分かる者が見ればすぐにハーフエルフとばれてしまう。好奇や嫌悪の目に晒されたり、ハーフエルフ嫌いの連中とトラブルになってたりしては依頼遂行もままならない。それで斗織から耳を隠すアイテムを借りることになったのだが‥‥。
「‥‥」
 ‥‥これを私につけろって?
「さあ、つけてみてください」
「‥‥」
 ‥‥なんか嫌。
「王様、とってもよく似合ってます」
「‥‥」
 ‥‥いや私には似合わない。
「とっても可愛いです」
「‥‥」
 ‥‥だから可愛いのは嫌だ。
 だが、ここで不満を言っても始まらない。王はそっけなく言った。
「では、始めるか」

●ゴブリンが出たぁ!?
 ゴブリン騒ぎが頻発する街の広場で、アリアはいつも吟遊詩人のお仕事でやるように、竪琴を弾いて歌っていた。残りの仲間たちはアリアの歌に聴き入っているふりをしながら待機する。すると、少年の叫びが聞こえてきた。
「ゴブリンだぁ! ゴブリンが出たよぉ!!」
 金髪でそばかす顔の少年が、叫びながら通りを走ってくる。ゴブリン騒動のたびに現れる例の少年に間違いない。
 そのはるか向こうでは、見かけはゴブリンのように見える小っこい連中が、通りかかった町の娘の服をつかんだり、髪の毛を引っ張ったりして大騒ぎ。
「いやぁーっ!! こいつら何とかしてぇーっ!!」
 娘の金切り声を聞いて、町の男たちが血相変えてすっ飛んでいく。
「ゴブリンめ! 今度こそはただじゃおかねぇぜ!!」
 その姿を見て小さな連中は路地裏に向かって逃げ出し、それを追う男たちの姿も路地裏に消える。
 行くぞ。フォボスが王に目線で合図を送り、二人は通りを駆けてゆく。しかし向かう先は男たちとは逆方向、すなわち金髪でそばかすの少年が騒ぎのどさくさに紛れて逃げていった方向だ。そしてアリア、斗織、影音の三人はそのまま待機。案の定、広場近くの店先から悲鳴が上がり、ゴブリンの姿をした図体のでかいヤツがそこに立っていた。
「うわーっ!! ゴブリンだぁーっ!!」
「ぐわあははははは! オレサマはゴブリンだゴブぅ〜!! 店の売り物をみんなよこすゴブぅ〜!!」
 腰を抜かした店員を後目に、でかいゴブリン野郎は店先に並ぶ品物を片っ端からズタ袋に放り込む。が、物取りに夢中になるあまり、背後から近づいた斗織の姿に気づかなかった。
 ガン!!
「痛ぇ!!」
 ゴブリン野郎の頭めがけて、斗織が軽く日本刀の峰打ちをくらわせると、ゴブリン野郎は叫んで両手で頭を押さえる。その隙を突き、影音がスタッキングをきかせてゴブリン野郎に組み付いた。
「うわ何をするはなせゴブぅ!!」
 叫ぶゴブリン野郎の頭を影音がよくよく見ると、頭の後ろに紐の結び目がついている。手に持つショートソードで結び目をすっぱり切ると、ゴブリン野郎の面の皮が──いや、ゴブリンのかぶり物がめくれてはがれそうになった。
「うわよくもやったなゴブぅ!!」
 ニセゴブリン野郎は影音を突き飛ばして逃げ出した。しかし影音は追いかけようとせず、それで逃げたつもりかとでも言いたげな風情で見送っている。
「それでは、私の出番ですね。ムーンアロー! ゴブリンに化けた集団のリーダーに当たれ!!」
 ムーンアローの呪文が放たれ、輝く矢が逃げるニセゴブリン野郎に向かって飛ぶ。
「うぎゃあ〜!!」
 ニセゴブリン野郎が路地裏に姿を消したのとほとんど同時に叫びが上がる。仲間と共にニセゴブリン野郎を追いかけながら、さらに呪文を唱えるアリア。
「ムーンアロー! ゴブリンに化けた集団のリーダーに当たれ!!」
「うぎゃあ〜!!」
「ムーンアロー! ゴブリンに化けた集団のリーダーに当たれ!!」
「うぎゃあ〜!!」
「ムーンアロー! ゴブリンに化けた集団のリーダーに当たれ!!」
「うぎゃあ〜!!」
 ムーンアローの射程は習いたてのレベルでも100mと比較的長い。矢の方向と叫び声を頼りに追いかけるのは造作もないことだった。

●ニセゴブリンをやっつけろ!
 さてフォボスと王だが、金髪でそばかすの少年の後を追って町のあちこちを走り回った末、使われていなさそうな物置小屋の前でニセゴブリン野郎を追っていた仲間たちとばったり出会った。
「どうやら、少年はこの物置小屋の中に逃げ込んだようだ」
「首領っぽいニセゴブリンも、やはりこの中へ逃げ込んだようです」
 そっと中をのぞき、聞き耳を立ててみると、小屋の中ではニセゴブリンと少年が話をしていた。
「お頭! その傷、どうしたんだよ!?」
「この町はヤベぇ。早いとこ荷物をまとめて余所にずらかるぜ。おまえは仲間たちを呼び集めてきな」
「分かったよ、お頭」
 話を終えた少年は小屋から飛び出したが、その足がはたと止まる。目の前にフォボスが立っていた。手に持つモーニングスターの鎖をじゃらじゃらさせて、にらみを効かせながら。
「坊や。仲間の所に行く前に、ちょっと話をしようじゃないか」
 少年は逃げだそうとしたが、それを王が阻む。
「‥‥動くな。小屋の中でのゴブリンとの接触、どういう事か説明してもらおうか」
「知らないよ! ゴブリンなんて知らないよ!」
 ぼがっ!
 シラをきる少年をいきなり王は殴りつけ、続いて蹴りを入れた。
 どごっ!
「痛い! 痛い! 痛いよぉ! お頭、助けてぇ!」
 少年の叫びを聞いて、小屋からニセゴブリン野郎が飛び出した。しかし少年には目もくれず、裏路地を一目散に逃げていく。
「逃すものか!」
 王が真っ先に飛び出して追いかける。
「畜生! しつこいガキめ!」
 ニセゴブリン野郎、路地裏に並ぶ籠やら干してある洗濯物やら、とにかく目につく物を片っ端から投げつける。妨害をものともせず追いかける王、その横をムーンアローの光の矢がすうっとかすめ飛んで行き、またもニセゴブリン野郎に命中した。
「うぎゃあ〜っ!! もうたくさんだぁ〜!!」
 血迷ったニセゴブリン野郎、目の前の民家の軒先にあった水瓶をひっつかんで、追ってくる王に投げつけた。
 ばしゃあっ!!
 水瓶の水を全身に浴びる王。その髪の毛が逆立ち、目が真っ赤な血の色に染まる。心の奥底に眠っていたる凶暴な獣が理性の鎖が今解き放たれ、壮絶なる雄叫びを放つ。
「うわあああああああああああああん!!」
 ハーフエルフ、王 娘は狂化した! ささいなきっかけで狂化するハーフエルフの例に漏れず、王は水を浴びると狂化する体質なのであった! しかも狂化中、王は考え方や言動が子供っぽくなってしまうのである!
「ボクにひどいことしたなぁ!! わるい大人はボクがやっつけてやるぅ!!」
 強化前の3倍のスピードで王はニセゴブリン野郎に突進! 見事な足払いでこれを転倒させると、鳥爪撃の連続技で殴る蹴る! 殴る蹴る! 殴る蹴る! 殴る蹴る!
「ぐあっ!! ぐへっ!! あぎゃ!! ひぎぃ!!」
 ボガッ! ボゴッ! ボガッ! ボゴッ! ボガッ! ボゴッ!
 いつの間にか周囲には人だかり。
「まあ、元気なお嬢さんだこと」
「あらあら、ゴブリンのお面なんかかぶって。格闘の練習かしら?」
 ニセゴブリンの息も絶え絶えな様子を見て、フォボスが王を制止する。
「もうやめないか。下手したら死んでしまうぞ」
「悪いのはボクじゃないよぉ! 悪いのはこいつだよう!」
「分かった、分かった。いい子だからあとはお兄さんたちに任せなさい」
「うん。ボクいい子だよ」
 ぶっ倒れたニセゴブリン野郎の上にかがみ込んで、フォボスは聞いた。
「ゴブリンとか自分で名乗っていたよね。殺って良いよね。モンスターなら」
 さらに、影音がショートソードをちらつかせて追い打ちをかける。
「手下の子どもはともかく‥‥この人には容赦はしない‥‥」
 ニセゴブリンは情けない声で哀願した。
「お、おれはゴブリンじゃねぇ! おれは人間だぁ! 身よりのないガキどもを手下に使って、ゴブリンのふりして強盗やってただけなんだよぉ!」
 ニセゴブリン野郎を縄でふんじばって、斗織が言う。
「そういうことなら、きっちりと罪をつぐなってもらいましょう」
 冒険者たちは縄で縛ったニセゴブリン野郎を広場までしょっぴいていき、その首に『私はゴブリンです』という札をぶら下げ、自警団がやって来るまで晒し者にした。
 こうして贋ゴブリン盗賊はお縄となり、手下に利用されていた子どもたちも全員が自警団に保護されたのであった。
 これにて、一件落着。