占いにご用心

■ショートシナリオ


担当:宮崎螢

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 0 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月01日〜01月06日

リプレイ公開日:2005年01月06日

●オープニング

「姐さん、今日も客の入りは上々ですぜ」
「そうかい。で、金を持ってそうなヤツは?」
「ボチボチ、ってトコですね」
「分かった。じゃあアンタ達、いつもの通りに‥‥」
「「へぃ、姐さん!!」」

 最近、パリの一部では占いがブームになっている‥‥正確には、とある占い師が、だ。この占い師、腕が良い‥‥つまり、よく当たると評判なのだ。
 かくして占いの館の前には、恋愛や商売や健康など、悩みや相談事のある者達が長蛇の列を作った。
「私の恋、叶うんですね‥‥ありがとうございます、告白します!」
「えぇ、頑張って」
「今が勝負時か、よし、新商売を始めるぞ!」
「上手くいくように、祈っていますわ」
 喜んだりガッカリしたり、それでも、訪れた者達は概ね嬉しそうな顔で占いの館から帰って行くのだった。

「今評判の占い師を、調べて欲しいんです」
 そんなある日、冒険者ギルドにある商人が依頼に来た。腕を吊っているのは、ケガの為だろうか。
「近くケガをすると言われ、避けたければまじないをするしかないと言われたのです‥‥大金を払って」
 けれど、そんな金は払えないと商人は断り、ケガをしたのだ‥‥占い通りに。
「ですが、これは事故ではありません。私は襲われたのです」
 商人仲間に話すと、同じ様な目に遭った者が他にもいたのだと言う。そして、それは全て占い師の申し出を拒んだ者達なのだ、と。
「そして、もしあの占い師が関わっているなら、止めて欲しいんです。これ以上、私のような犠牲者を出さない為に」

●今回の参加者

 ea1550 エリベル・フルウルド(31歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea1591 ティエ・セルナシオ(23歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea2954 ゲイル・バンガード(31歳・♂・神聖騎士・ドワーフ・ロシア王国)
 ea3131 エグム・マキナ(33歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea3277 ウィル・エイブル(28歳・♂・レンジャー・パラ・ビザンチン帝国)
 ea3811 サーガイン・サウンドブレード(30歳・♂・クレリック・人間・フランク王国)
 ea5227 ロミルフォウ・ルクアレイス(29歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea6894 片柳 理亜(29歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea8989 王 娘(18歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 ea9308 イエッタ・ムーン(31歳・♀・バード・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●敵情視察
「まぁ、あながち間違いでもないんですよね。大金を払わなかったから怪我をした‥‥それだけの事、さてどうしたモノでしょう」
 占い師が関係しているかもしれない事件。サーガイン・サウンドブレード(ea3811)が考え込んだのは、僅か。
「とにかく、一度様子を見に行きましょうか」
 サーガインは直ぐに決断すると、件の占いの館へと足を向けた。
「ここに腕利きで、しかも飛びきり美人の占い師がいると聞いて参りました」
 時節柄か、幾分空いた感のある占いの館で待つこと、暫し。占い師に面会したサーガインは大仰に両手を広げて見せた。
「しかし、所詮噂ですね‥‥次元が違います、何て美しさなのでしょう。素晴らしい、あなたに占っていただけるならどんな事でも良い事に聞こえそうです」
「あら、お上手ですわね」
 歯の浮くようなお世辞に、占い師はただ面白そうに笑った。
「あなたとの今後も占っていただきたいのですが、その前に‥‥今後私はどうしていけば良いと思いますか?」
「‥‥そうですね、貴方はもう少し落ち着いた方がいいかもしれません。誰か心に想う方はいらっしゃらないのですか?」
 占い師はサーガインを冷やかし客と思ったらしい。適当に、けれど、決してぞんざいではなくあしらわれたのだった。
 ただ「占いではなかったですから」という事で、見料はとても低かったけれど。

「やれやれ、厄介な人がいるものですね‥‥」
 一方、エグム・マキナ(ea3131)は小さくボヤキながら、被害を受けた商人たちへの聞き込み調査をしていた。
「占い師はどんな事を言いましたか?」
「はい。近い内にケガをするだろう、と。けれど、自分が特別なまじないをすれば、その災厄を避ける事が出来る、と」
 今までに襲われたと確定している被害者は5人。どれも言われた内容はほぼ同じだった。
 ただ、最初は偶然(?)転ばされたぐらいだったのが、徐々にエスカレートしている感があった。それに、表沙汰に出来ない者や、高額な費用と引き換えにまじないを受けた者など、隠れた被害者は探せばいそうだと、エグムは推測していた。
「それで、何人くらいに襲われました?」
「そうですね‥‥2・3人だったと思います」
「成る程」
 もし組織立っているとしても、あまり大規模ではない‥‥考えながら、エグムは礼を述べて場を辞した。
「さて、皆さんに伝えてきましょうか」
 そうして、エグムは占いの館へと歩を早めたのだった。

「私が占って貰い、様子を見て参ります」
 エグムとサーガインからの情報を得て言ったのは、イエッタ・ムーン(ea9308)だった。
 自分が囮となり占い師と接触し、実行犯を誘き出す‥‥それがイエッタの狙いだ。
「何かあった時の為に、護衛に付こう」
 と、ドワーフのゲイル・バンガード(ea2954)が請け負った。
「念の為、あたしも囮として占ってもらいに行くわ‥‥二段構えってヤツね」
「では、わたくしは理亜様の付き人として同行致します」
 こちらは、片柳理亜(ea6894)とロミルフォウ・ルクアレイス(ea5227)。
「私は占い師の監視をするわ‥‥同じ占い師として、もし占いを悪事に利用しているなら止めないと」
 そして、エリベル・フルウルド(ea1550)やウィル・エイブル(ea3277)達がそれぞれ、役割分担を整えていく。
「久々の依頼ですが、皆さん宜しくお願いしますね」
 ティエ・セルナシオ(ea1591)は皆にペコリと頭を下げてから、
「私も理亜さんの護衛につきますね。ロミルさん、お互い頑張りましょうね〜」
 旧知の仲であるロミルフォウにニコリ、微笑んだ。
「‥‥占いってちょっと興味あるな‥‥今度占ってもらおうかな‥‥」
「うーん、良く当たるって事は、問題になってる怪我の事以外も当たってるって事だし‥‥占い自体は本物なのかな?」
 ふと呟いたウィルと理亜に、苦笑を返すエリベル。
「話を聞いた感じだと、あの占い師のは占いというより悩み相談って感じね」
 ルーン占いで生計を立てているエリベルからすると、サーガインより聞き及んだ占いは、占いと呼べないほど稚拙だ。
「まぁ基本くらいはかじっているようだけど」
「占いって、当たることもあれば、はずれることもある。そういうのでしょう?‥‥という事は、あの占い師は全然当たらないって事?」
「ですが、占いの結果を支えにして、気持ちを強く持てる‥‥決断する時、後押ししてくれる何かが欲しい事はありますよね」
 ロミルフォウは、ウィルに優しく笑んだ。並んでいる客達も、全員が占いを信じているというわけではないだろう。それでも、迷ったり悩んだりした時、人は指針となるべき強い言葉を欲するものだから。
「でも、だとしたら尚更悪いよね。その人達の気持ちを踏みにじるなんて。ここは何としても真相暴いて、反省させないと!」
 ぐっと拳を握り締める理亜にロミルフォウやエリベルも同意し、そして、それが作戦開始の合図になったのだった。

●囮作戦開始
「エックスレイビジョン」
 魔法を使った瞬間、エリベルの身体が淡い光に包まれた。それは壁を透視する‥‥占いの館の中を見張る為の魔法。
「あなたも大変そうですねぇ、まだ小さいのに」
 その横でサーガインは、ひたすら気配を‥‥だけでなく、感情まで殺しているかのような王娘(ea8989)に優しく声を掛けた。
「何かあったらこの私、クレリックのサーガインに何でも言って下さい。私は頼りになる男ですから‥‥」
 娘は一度チラとサーガインを見、けれど、感情を窺わせない表情のままで直ぐに視線を占いの館へと向けた。
「本当に、何でも言って下さいね」
 だが、そんな娘に、サーガインは気分を害した風もなく、ただ優しく言葉を繰り返した。
「何を知りたいのですか?、可愛いお嬢さん。恋の悩みかしら?」
「そっ、そんな‥‥恋、なんて‥‥」
 イエッタは出来るだけ箱入り娘っぽく、恥らいつつ頬を染めた。
「そう? なら‥‥健康運とか出会い運とかを占いましょうか?」
 ニコニコとカードを繰る占い師に、イエッタは内心首を傾げていた。
(もしかしてお金持ちに思われていないのでしょうか?)
 そんなわけはない、という自信はある。元より、純粋培養お嬢様〜な雰囲気をまとうイエッタである。
「ありがとう、気に入ってもらえたなら、是非またいらして下さいね」
 結局「ケガをする」云々の宣託は出ず、とはいえ、一応警戒しながら、イエッタは占いの館を後にしたのだった。
「‥‥」
 そんなイエッタを影から護衛するのは、ゲイルだ。ゲイルは一度こちらをチラと見たイエッタに一つ頷いてやり、エリベル達に合図すると、その後を追った。
「情報によると、この辺りで襲われてるようなのですが‥‥」
 暫く留まってみるが、その気配はない。
「金持ちなら誰でも良い、というわけでは無いようだな」
 ゲイルは考え込むように、呟いた。

「ここの占い、良く当たると噂を聞きましたから。占いという物に興味がありましたし、こういう機会でもなければこういった場所には中々来られませんし」
 同じ頃。理亜はロミルフォウを連れ、占い師と対していた。
「旅行が無事に終わるか‥‥占っていただけて?」
「分かりました」
 雑談を交わしながら、占いを進める。フランク王国から旅行に来ている、というのはロミルフォウとも打ち合わせ済み‥‥ボロを出す事はなかった。
「‥‥大丈夫です、貴女方はきっと無事に帰れるでしょう」
 言って、小さく祈りを捧げる所作。おそらく、理亜が本当に占いを頼ってきていたら安心しただろう結果と笑顔。
 だが、期待した言葉を引き出す事はやはり、出来なかった。
(食いつかない‥‥用心してるのかしら? それなら‥‥)
「ありがとう、これで安心です‥‥ロミル」
 理亜はロミルフォウから小袋を受け取ると、淀みない動作で黄金を取り出した。占い師が息を呑むのが、分かった。
「あ、すみません。いつもの癖で‥‥」
 それを確認し、優雅な笑みと共に引っ込める理亜。勿論、黄金は偽物だ。
「‥‥お嬢ちゃん、そんな風に金を粗略に扱うモンじゃない」
 そんな理亜に突き刺さった言葉は、今までとは違う‥‥怒った様なぶっきらぼうなものであった。
「そう‥‥ですね、気をつけますわ」
 戸惑いながら、理亜は優雅に一礼し、占い師の元を離れたのだった。

●飛んで火に入る
「もめているのかしら?」
 理亜とロミルフォウが退出した後。壁の向こうを透視していたエリベルの声が緊張を帯びた。
「占い師と男が三人‥‥口論してる?」
 それがどういう事なのかは分からないが、不測の事態なのは確かだ。
「男達が出てくるわ」
 エリベルの言葉に、娘は軽く頷いた。
「‥‥引き続き標的の監視を頼む」
 ウィルにそう言い残すと、軽い動作で男達の後を追う。サーガインが、続く。
 その後、少ししてから。占い師を見張る為に残っていたエリベルが、集中を解きウィルを振り返った。
「占い師が動くわ‥‥どうする?」
「行こう」
 ウィルは即答した。

「お嬢ちゃん、痛い目に遭いたくなかったら、有り金全部置いていきな」
「‥‥何ていうか、オリジナリティの欠片もないわね」
 イエッタと同じ地点に足を運んだ理亜は、現れた三人の男に肩を竦めた。
「おイタは許しません。‥‥強引な男性は、女性に嫌われますわよ?」
 ロングソードを構えるロミルフォウにやや怯むものの、黄金の魅力には勝てなかったらしい‥‥男達はそれぞれ手にしたナイフを構えた。
「ロミルさん、こちらは私に任せておいて下さいね」
 理亜を密かに護衛していたティエは既に、自分と理亜の周りにストリュームフィールドを展開している。
 と、そこで、男の一人がガクリと前のめりになりフラフラとナイフを落とした。背後から近づいたゲイルのデビルハンドだ。
 ゲイルだけではない。事態を察したイエッタが、エグムが、駆けつけていた。
「‥‥貴様等、占い師と接触していたな? 詳しく教えてもらおうか‥‥」
 慌てて逃げようとする男、その退路を断ったのは、襲撃者の後をつけてきた、娘とサーガインだ。
「ちっ‥‥このっ!?」
 小娘と見て取ったのか、襲い掛かってきた男を、
「‥‥遅い」
 シュッ、鳥爪撃で戦闘不能に追い込む娘。
「あまりやり過ぎないで下さいね」
 動けなくする程度で、と念を押すティエにサーガインが「大丈夫」と軽く手を挙げた。

●罪と罰と
「あんた達っ!?‥‥そうか、罠だったってワケかい」
 男達を捕縛した、丁度その時。遅れてやってきた占い師は、全てを察したようだった。
 背後からのエリベルとウィルも見て「降参」というように肩を竦めた。
「もうちょっと持つかと思ったけど‥‥」
 そう言う姿はもう、神秘の占い師ではなかった。
「あぁ、お嬢ちゃんケガはなかったようだね」
 ただ「良かった」と理亜に向けられた微笑みは、同じで。
「何故貴方方はこの様な事をするのですか? 詳しく聞かせて貰いますよ」
 抵抗はもう無い‥‥判断したティエは腕組しながら、問うた。
「元々、私らは孤児院暮らしさ。でも、金の亡者共に家を取り上げられてね‥‥奴らに一泡吹かせてやりたかったのさ。金も欲しかったしね」
「お金持ちの方皆が、悪辣な手段で稼いでいるのではありません」
 嘯く女に、ロミルフォウはキッパリと指摘した。だから、理亜とイエッタ達少女を狙うつもりはなかったのだろう、この女性は。
 とはいえ、結局は逆恨み‥‥ロミルフォウの言葉や表情に怒りが滲むのは、仕方ないだろう。
「それは‥‥そうかもしれないけど‥‥」
 女は渋々、頷いた。おそらく占いをしている中で、自分でも薄々勘付いていたのだろう‥‥ただ認めたくなかっただけで。
「占いが何かを決めるのではなく、行動を起こす人の力によって願いは叶うものだということは、貴方方が一番ご存知のはず。貴方がなさっていることは、貴方を信じて頼る多くの人々の心も踏みにじる行為なのですよ?」
 ロミルフォウは何より、それが許せなかった。占い師を間近で見て感じたから‥‥楽しそうに占いしているな、と。だったら、それを悪事の道具にしてしまったら、ダメなのだ絶対に。
「まっとうに働こうとは思わないのですか? 大人のやる一挙一動を子供は見ているものです」
 エグムもまた、厳しく追求した。同じ目に、未来の子供達を遭わせて良いのか、と。
「10年後の社会が騙し合いだらけの社会となったりしたら、貴方達の責任ですよ? 大体、占いとは人の運命を決め兼ねないもの、悪用してはならないものです。この重要性を‥‥」
 放っておくといつまでも続きそうだ、というかエグムはトコトン説教するつもりだったわけだが。
 それを救った‥‥遮ったのは、サーガインだ。
「こんな事しなくても、姐さんの占いならお客さんはたくさん来ますよ。私を占っていた時の姉さん輝いてました。ですからもう止めましょう」
 見当違いの復讐を止めるなら、金を稼ぐだけなら立派に占い師としてやっていける、サーガインは本当にそう思うから。
「どんな理由であれ、占いを悪事に使った事は許せないわ」
 そして、全てに決着をつけるように、エリベルの右手が占い師の頬を打った。
「で、占い師への罰は結局、どうするんですか?」
「私は秘密裏に処理するべきだと思いますね。嘘でも人々の希望を揺り動かしていたのですから‥‥今回の話が人々に伝わらない様に処置するべきですよ」
「それに、この占い師さんなら更生して、まともな占い師にもなれると思うわ」
 ティエに、理亜も同意した。だから、罰は出来るだけ穏便にすませたい、と。
 それはまた、全員の意見でもあった。
「ちょっ待て、俺たちの意見も‥‥」
「‥‥死にたくなかったら真っ当に生活をするのだな。‥‥私はいつでも貴様等を見てるぞ‥‥」
 文句を言い掛けた男たちが、娘が手にしたナイフに押し黙る。ナイフが映し出す、怯え青ざめた自分達の顔に。
「あんた達‥‥ははっ、あんた達みたいなお人よしがいるなんてね」
「でも、罪は償ってもらうわよ。とりあえず、あなたは謝罪と、ちゃんとした占い修行ね」
 エリベルに、女は頷いた。どこか晴れ晴れとした顔で、頷いたのだった。
 だから、エリベル達は確信した。そう遠くない未来、またパリに一人の腕の良い占い師が誕生するだろう、と。