トラブルメーカー

■ショートシナリオ


担当:瑞保れん

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 62 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月13日〜06月20日

リプレイ公開日:2005年06月24日

●オープニング

「お前何考えてるんだ?」
 ユーリーは渡された羊皮紙に目を通すと、目の前の男をキッと睨んだ。えらく目つきが悪い。もって生まれた物もあるとも思うが、今の鋭さは明らかに目の前の男に対する憤りの表れである。
「何って? え? ユーリーちゃんの事だよ〜〜。ほら、仕事したい〜したい〜っていってたしね」
 金髪の男はおどけて答えた。ニヤニヤと笑みを浮かべるその姿に、ケインのイライラはますます増長していく。
「確かに! 確かに俺は仕事したいといったよ。お前に仕事を取ってこいといったよ」
「ね、だから〜〜」
「だからって! 誰がこんなややこしい仕事を引き受けて来いといったんだよ!」
「いい仕事じゃ〜ん。普段の3倍のギャラだぜ〜」
「ケ〜〜〜イン!!」
 眉間にしわを寄せ、額に青筋をたててユーリーは椅子を蹴飛ばし立ち上がる。そして、ケインと呼ぶ男にむかい羊皮紙を突きつけた。
「こんな普通で大体2ヵ月以上かかる依頼を、たった1ヵ月でやれっていうんだから3倍なんてあたりまえだ!」
「さっすが〜、ユーリーちゃん! それを1ヵ月でできちゃうんだから凄いよね〜〜」
「勝手なことばかり言うなあ!!!!」

 この二人は、いつもこんな調子だ。

 目付きの悪い男ユーリーは彫金師だ。腕は悪くない。地道な性格らしく、コツコツと性格に細かい細工を仕上げていく。
 にやけた金髪のお調子者な男ケインは、そのユーリーの作った物を売り歩く行商人だ。注文もとってきたりもする。口は上手なので、それなりに売り上げを上げてくるのだが、何しろいい加減。綺麗な女の子に破格の値段‥‥だったらよかったのだがほとんどタダで商品をあげたり、酒場の飲み代が足りなくなって勝手に商品をその代わりにつかってしまったりとか‥‥。
 真面目なユーリーにとっては殺しても殺しきれないくらいの恨みがあるのだが、幼馴染ということもあって何となくこの関係を切ることができなかった。
 恨みを超える言葉では表せない信頼関係が、この2人の間にはあったのだと思う。

「まったく‥‥仕方ないな。」
 今回もそうだった。
 ちょっと羽振りの良い商人からの注文で、奥方にプレゼントするオリジナル特別製のブローチがほしいというもの。細工も凝ったものが希望らしく、時間がかかりそうだ。
「おい、ケイン‥‥これって」
 詳しく発注内容を見直していたユーリーの顔色が、スッーと変わった。
「なにぃ?」
 暢気に椅子にだらりと腰掛けて鼻○そほじるケインの頭に、ユーリは一発拳を見舞う。
「いて?! なんだよぉ!!」
「お前この紅石って『林檎石』だろ?」
「うん、そうだよ。お前の作る物で紅石っていったら『林檎石』だろう」
 『林檎石』。
 物としては普通の何の変哲もない石。しかしただの普通ではない。
 キャメロットから2、3日はいった渓谷にある淵。そこに転がっている石は鮮やかに赤く、磨くと熟れた林檎のようにつやつやとした紅石となるのだ。ユーリーとケインは偶然に淵をみつけ、それを沢山持ち帰って。綺麗に磨いて『林檎石』なんて洒落た(?)名前をつけ、宝石の代わりに装飾品の飾石に使っていたのだった。
 タダの石とはいえ、見栄えは綺麗な紅色。そして、値段は普通の宝石なんかより断然お得‥‥ってなわけで、これがなかなか評判がよく、よく売れていたのだった。
「お前なぁ‥‥。この前、林檎石が在庫切れたって言っただろう」
「あれ? そうだったっけ?」
「‥‥お前が勝手に酒場のねーちゃんたちに大量安売りしたせいだろうがぁぁぁぁぁ!!!」
 また、拳を握り締めたユーリーを、ケインはまーまーとなだめる。
「ユーリーちゃん怒らない怒らない。眼つきますます悪くなるよ〜。これ以上悪人顔になって、街歩くたびに役人に尋問されるのも嫌でしょう?」
 なだめてるんだが、余計に怒らせているんだが、バカにしてるんだか‥‥‥‥。
「‥‥‥‥はあ」
 ユーリーは肩で大きく溜息をついた。
「それじゃあ、ケインは石を取りにいってくれ」
「え?!」
「お前が取ってきた仕事だ、それぐらいは働け。俺は外枠の彫金をしておく。その間に石を採ってきてくれたら、期日はキツイとはいえ出来ない仕事じゃない」
「えええ〜〜〜〜!!! 俺一人で行くの?! あそこ危ないよ〜。熊とか蛇とかヘンな動物いっぱいでるしぃ〜! 毒茸とか間違えて食べるかもしれないし〜〜」
「勝手に食べろ‥‥と、言いたい所だが石の為にも戻って来て貰わないと困るからな。冒険者でも雇って同行してもらえ」
「えええ〜〜!!! 行こうよ、ユーリーも」
「嫌だ。それこそ茸でも食わされかねん」
 さすが、ユーリー。ケインの行動を先に予想した。
「えええ〜〜!!! でも、ユーリーが選んだ石じゃないと‥‥」
「がんばって選んで来い。お前が選んだ中から俺が選ぶから。下手な何とかも数撃ちゃあたるだろう、きっと」
 冷静さを取り戻したユーリーは、冷たい表情でケインに言い放つと、彫金作業に戻ろうと作業台へと向かった。
「むう‥‥‥‥。でもな〜、多分ユーリー一緒に行く事になると思うんだよねえ。俺の予想だと‥‥多分もうすぐ‥‥」
 怪しげな発言をケインが呟いた時だ。

 うわあああ!!!

 叫び声がしたかと思ったら、真っ白な顔をしたユーリーが作業台から飛び離れた。
 手には‥‥‥‥無残にも折れた1本のタガネ。ユーリー愛用の彫金用のタガネである。
「な、なんなんで‥‥‥‥さっきまでちゃんとあったのに‥‥って、ケイィィィン!!! お前かああああ!!!」
「え? 何で?」
「お前さっき作業台でちょこちょこしてただろう!」
「あ〜〜〜‥‥‥‥てへ♪」
「『てへ♪』 じゃねぇよ!!!」
 神経質でこだわり性なユーリーは、自分の使う道具類にもこだわっていた。
 このタガネもキャメロットから離れた山に住む鍛冶師が作ったもので、研ぎ直しも彼にやってもらわないといけない。しかも、最悪な事にこの前町にやってきた鍛冶師に代わりのタガネを預けてしまい、今使えるタガネはこれ1本だったのだ。
「いや〜〜、なんか落としたらポキッと‥‥」
「落として折れるような物じゃないよ! これは!」
「何でだろうね〜、不思議だ」
 怒り一発のユーリーの拳をヒラリと避けると、ケインは楽しそうに笑った。
「よし、これでユーリーも行くに決定! 石のある渓谷から鍛冶師の爺さんが住む場所って近かったよな。ついでだよ、ついで。はい、もう決定!!」
 手を叩いて陽気にいうケインの前で、静かに怒りの炎を燃え上がらせるユーリー。
 ゴゴゴという音が部屋に響きわたる。(イメージ)
「ケイン‥‥‥‥」
「‥‥‥‥あ、やべ」
「絶対コロス!!!!!」
 ユーリーの掴んだ椅子が、部屋の中を舞った。

*  *  *

「あ〜〜、これ至急扱いのお仕事」
 冒険者ギルドのお姉さんは、そう言って一つの依頼の紹介を始めた。
「ん〜と、ここから2、3日かかる渓谷までの護衛。渓谷行って、それから1日ぐらいかけて山に住む鍛冶師の所にいって、それからキャメロットに送ってほしいんだって。この辺獣多いからね〜」
 お姉さんは羊皮紙の依頼の内容をスラスラと言う。
「一緒に行くのは、大人の男の人2人。腕っぷしはあまり強くはなく、普通程度もしくは下。‥‥‥‥えーと、何々?」
 そこまで読んで、お姉さんは首を傾げた。
「『要注意人物1人います。依頼主ユーリー・トルゥース』‥‥っていったい何の事かしら?」

●今回の参加者

 ea0681 カナタ・ディーズエル(27歳・♂・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea1466 倉城 響(29歳・♀・浪人・人間・ジャパン)
 ea5382 リューズ・ウォルフ(24歳・♀・バード・パラ・イギリス王国)
 ea6089 ミルフィー・アクエリ(28歳・♀・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea8789 ガディス・ロイ・ルシエール(22歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb0432 マヤ・オ・リン(25歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1960 ラミエル・バーンシュタイン(28歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 eb2099 ステラ・デュナミス(29歳・♀・志士・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

「わ〜お。なんか綺麗なお嬢さんばっかじゃん。らっき〜♪」
 出発の日、ユーリーの家の前に集まった冒険者達をみて、ケインは陽気にそう言った。
 今回の同行冒険者8名、そのうち6名が女性であった。女の子がとっても好きなケインにとっては、もうウハウハな状況である。
 ユーリーはそんなケインに鋭い冷たい視線を送り、
「遊びにいくんじゃない」
 と冷静に嗜めた。
 何と言うか‥‥人間関係は複雑なのだと再認識するね。
 カナタ・ディーズエル(ea0681)は少し遠い目をしながら、その光景をみつめていた。
 その横で、頭からすっぽりとフードを被ったガディス・ロイ・ルシエール(ea8789)はギルドで見た依頼文書の但し書きを思い出していた。
 黒髪じゃなくて金髪が、要注意人物?
 
*  *  *

 幸いにも天候にも恵まれ、ユーリーはああ言ったが、ちょっとしたピクニック気分になるのも無理ない。数人の冒険者もそんな気分の者もいた。
「へえ、タガネには2種類あるんですね」
 ユーリーの横にべったりとくっついているのは、倉城響(ea1466)である。ケイン対策の為‥‥というのもあったのだが、彫金というものに興味があったからだ。
「うん、そう。『切る』のと『彫る』の。彫金師には一番大切な道具って言ってもいいんだ」
 ユーリーは眼つきは怖くて気難しそうだが、話すと結構気さくで‥‥ちょっと理屈っぽく話しは長くなるが、まあ真面目な良い人だ。
「技法にも色々とあってね‥‥。それも国や地方単位で変わるけど、最近は他国からの細工物も増えたので‥‥」
 まだまだ続きそうな話に、ケインが後ろから突っ込む。
「女の子相手にするなら、もっと楽しい話しようよ」
 ケインが退屈そうにユーリーに茶々をいれる。話しに水を差されて、ユーリーの眉が不愉快そうにピクリと動いた。
「いえ、楽しいですよ。ちょっと興味があるので」
 笑顔でフォロする響に、ユーリーを挟んで横にいたミルフィー・アクエリ(ea6089)も同意するように頷く。
「そうか〜? 無理すんなよ〜。それよか、俺と話ししたほうが何倍も楽しいよ」
「ケイン。少し気を引き締めろ。タダでさえ緩んだ顔が、益緩んでるぞ」
 ユーリーの叱咤に、ケインはちぇーとばかりに唇を尖らせた。そう、話しがつまらない‥‥というのもあるのだが、一番不服なのは、ユーリーの横に女の子がピッタリくっついているという事実が許せないのだ。
 自分の周りをふと見つめる。
 後ろで驢馬を牽いてテクテクと歩く少女、リューズ・ウォルフ(ea5382)。
 あの子は、いかんいかん。三十路男が手をだしたらヤバイだろう。
 次は目線を前に移し、先頭の方をカナタと共に歩くマヤ・オ・リン(eb0432)。
 あれはヤバイ。あの手の女は怒らせると危険だ。証拠はない。オレの感だ!
 妙な自信を心で呟いたが正解。彼女は上品そうに見えるが、異性相手はちょっと危険。ケインみたいなタイプは、かなり危険であろう。
 この横にいるフードを被った奴は見た感じは女っぽいが間違いなく男だし、こっちの驢馬牽いたエルフの彼女は何か俺を警戒してるぽいし。
 ステラ・デュナミス(eb2099)にも目線を移し、ケインは動物的勘のような分析をしていく。
 後は‥‥。
 ふと斜め後ろを見る。
 出発前に「蛇よけ」といって、ハーブをくれた娘だ。結構美人さんだし、胸とか足とかセクシーなスタイル。
 目が合うと、ニッコリ微笑み返された。
 ちょっと若いのが気がかりだが、これぐらいなら‥‥。この娘だ、決定。
 よくわからん決定を己の心に建てると、その娘、ラミエル・バーンシュタイン(eb1960)の横に行き、笑顔で話しかけて肩に手を回す。
「さあ、楽しい旅をゆっくり楽しみましょうね〜」
 ご機嫌のケインに、振り出しに戻るようなユーリーのツッコミがすぐさまはいった。

*  *  *

 町外れの街道を歩き、深い森へと足を進めていく。
 猟師のマヤの知識がここから活かされる。人数的によほどの事がないと、動物に襲われることはまずないだろう。
「こちらが刺激するような危険人物がいた場合は、例外ですが‥‥」
 そう言って視線を1人の男に移す。そう、噂の男ケイン。
「え〜〜! 俺、危険人物? とっても人畜無害なイイ男よ?」
 どこがだよ!
 ユーリー+冒険者が一斉に心で突っ込んだ。
 ここまでに既に、ペットで連れてきている犬にちょっかい出して危うくユーリーが噛まれそうになったが、躾が行き届いているので、その前で食い止める事ができた。昼食時には、目を離した隙にユーリーの飲み物をランタン油と取り替えていた。これも未遂で終わったが。
 他にも未遂行為が小さいものばかりであるが、しばしば。何となく、最初の注意書きに皆納得するばかりであった。
「無用な争いは避けるべきです。ケイン様が少ない脳みそを貪り食われている間に逃げましょう」
 冷たいマヤの言葉に、「え〜〜!」と反論するケインを、何度も陥れられそうになったユーリーが、眉間に皺をよせ冷たく言った。
「大丈夫だ、ケイン。動物もお前の脳みそは不味くて食えん」


 マヤの言うとおり凶暴な獣が寄って来ることはなかった。時折ミルフィーが歌を歌いながら歩いたのも良かったのかもしれない。
 途中カナタは、夕飯用に山鳩1匹を仕留める事ができた。
 日は暮れ始め、丁度キャンプを張るのに良いスペースも見つけたので、本日の行程は終了。
「俺も手伝おうか〜」
 早速支度をしようとしたリューズと響の側に、ケインが近づいてくる。
「大丈夫ですよぉ〜」
 響はおっとりとした口調で、柔らかく手伝いを断る。
「そお? でも何か悪いな」
 いや、手伝ってもらうほうがコワイから‥‥。
 側で火打石を打とうとしてたガディスが、心の中でポツリと呟いた。
「ハーブ摘んできました。これをお料理に使ってください」
 ラミエルがハーブを一束持ってやってきた。近くの沢付近に生えていたらしい。
「ありがとうございます。ラミエルさん。私の荷物の中にチェスがありますので、料理ができるまでケインさんと遊んでいてください」
 ハーブを受け取ったリューズが、ラミエルにそう言ってお願いする。
 ラミエルはその言葉に笑顔で頷くと、ケインと共にその場から立ち去った。
 そして、しばらくし‥‥。
「お待たせしました」
 料理の腕には多少の自信のある二人だったので、保存食の材料と調達した山鳩とハーブで、野外にしては結構豪勢な食事ができた。
「ほお、美味しそうだね」
 マヤは感心したように、運ばれた来た料理を見る。
「さて、では食事にしますかって‥‥あれ? ユーリーさんとケインさんは?」
 見当たらない二人に首を傾げた響の言葉に、ステラが苦笑いをしながらテントのほうを指差した。
 そこには、熱心にチェスに向かうユーリーとケインの姿が‥‥。
「二人とも、食事ができましたよ」
 ミルフィーが声をかけても、二人とも生返事で頷くばかり。
「全く‥‥何だかんだいって仲いいのですね、この二人は」
 ステラはその光景を笑顔で見ながら、フウと息をついた。
 その後、二人はゲームを中断して食事をとりはじめた。ケインも今度は何も仕込んだりしてないようだ。
 美味しい食事に、二人も冒険者達の心も和んだ。食事に発泡酒やら響のとっておきの神酒『鬼毒酒』やら、蒸留酒やら、沢山の酒類も出てきて、ちょっとした宴会‥‥という感じになった。
 特にケインは集中的に飲まされたようで。と、いうのもケインに飲ませて早いこと大人しくなってもらおうという考えだったようだが‥‥。
 時が立ち‥‥。
「あれ? 皆、もう終わり?」
 何本目かの発泡酒を煽りながら、ケインはあっけらかんと言った。
 そう、ケインは人並み外れたザルだったのだ。
 気がつけば、呑めないリューズと夜警を理由に断っていたラミエルだけを除いて、ほぼ撃沈状態。テントに帰って寝ている者、木の根にもたれうたた寝している者‥‥ユーリーに至っては青い顔をして自分の寝るテントへ消えた。
「ん〜、だらしないな〜」
 豪快に笑いながらケインは、酒を飲み干す。
 リューズは溜息をつき、空を見上げた。森の空には綺麗な星がでている。リューズは星を見るのが好きで、思わず小さく「わぁ」と呟いた。
「ああ、綺麗な星だな〜」
 見つめているリューズに向かい、ケインはニカッと笑いかける。
「子供の時にユーリーとこんな山の森で迷ってさぁ。そん時二人で見た星も綺麗だったなぁ。怒って口聞いてくれなかったユーリーも、綺麗だな〜綺麗だなって無邪気に喜んで‥‥」
 懐かしそうに語るケイン。リューズとラミエルは少し微笑ましく思えた。
「‥‥すみませんでした、もう大丈夫です」
 そこへ一寝入りして酔いを冷ました、マヤとステラがやってくる。
「交代するよ。皆、もう寝なさい」
「ええ〜〜〜もうちょっと飲み‥‥はい、寝ます」
 駄々を言うケインだったが、マヤの一睨みに負け素直に引き下がった。
「あ、ケインさんはこっちのテントですよ」
 ラミエルはユーリーのいるテントにケインを行かさないように、さりげなく誘導していた。
「まったく、ただのだらしない人なんだか、いい人なんだか」
 後姿を見つめながら、ステラはクスリと笑った。


 そして翌朝。
「好きだぁぁ〜!!」
 絶叫が森に響く。
「うわっ!」
 ガディスは何者かに突然抱きつかれて、眠りから引き戻された。
「愛してるぅ!」
 何事と思いながら、背中に引っ付いたソレを振り返り見る。そこには、ぐおお〜〜〜と大イビキをかいているケインの姿が。
「な‥‥何ぃ?」
 予想外の展開にパニクっているガディスをよそに、外ではすでに起床しているメンバーが朝食の準備をしていた。当然その絶叫は聞こえたわけで、唖然として二人のいるテントに目をやった。
「ああ、寝ぼけて女と間違えて襲ったな」
 酷い二日酔いで、普段より一層眼つきが悪くなっているユーリーの言葉に、皆なるほどと頷いた。
「いい人かもって思ったの撤回です」
 誰ともなくボソリと呟いた。
 今のユーリーにとっては、ケインが女の子に嫌われようが、今頃ガディスに蹴り起されているだろうがそんな事どうでもよかった。
「ったく‥‥頭痛い」

*  *  *

 そんなこんなで、旅路は進む。
 道中蛇やら狐がでることはあったが、何のことなく退治する事ができた。ケインの行動も‥‥まあ、3日も付き合っていると何となく行動も予想できるようになる。
 そして、赤い石があるという渓谷の谷にやってきたのだ。谷を下りしばらくすると、小さな滝が現れた。
「ここだ」
 ユーリーはそう言うと早速採石にうつるった。
 採石といっても、滝の淵周囲に転がる石を見ていくだけ。良さそうなものがないかチェックしていくのだ。
「石壁を砕いたりしないのか?」
 カナタの疑問に、ユーリーは首を振る。
「多分、この滝の上の岩かなんかが削れてできてる石だと思う。この辺の岩とはちょっと違うんだ」
 そう言って、今まで拾った石を見せてくれた。
 確かに赤っぽい石だ。周囲の岩はどちらかといえば灰色がかった色をしている。
「本当に違う。でも、こんなのが宝石の代わりみたいになるの?」
 響は不思議そうに首を傾げた。見た感じだと本当にただの普通の石だ。これが宝石のように、美しくなるのだろうか?
 その言葉に、ユーリーはニヤリと笑った。
「これが腕の見せ所‥‥。でも良い石がすくないな‥‥。丁度の大きさがない」
 石を磨くために、それなりの大きさが必要なのだ。
「噂の林檎石を一つもらいたかったんだがなぁ」
 カタナの言葉に、ユーリーは苦笑いを浮かべる。
「申し訳ないがちょっと無理そうだな。小さいのもあるけど磨かないとただの石。僕のほうもこれで一杯一杯だ、すまんが」
 まあ、仕方がないか。
 と、カタナは納得した。
「さて、これでよし」
 石を腰袋にいれて、ふうと息をつく。
「待たせたなケイン、これで石は‥‥って?!」
 バシャン
 冷たい谷の水がケインの頭から掛かった。
「‥‥ケイン‥‥」
 黒髪から雫をぽたぽたと落とすユーリに、ケインがにんまりと微笑み返す。
「いや、女の子と水掛け遊びしよっかな〜って思ったら手元が‥‥」
「‥‥ってお前はなんでそう、いつもいつも!!!」
 怒鳴り声をあげ、ケインの突撃していくユーリー。
「あ!!」
 誰かが声をあげるかあげないかの時。
 バチャーン
 ケインがひらりと避けて、ユーリはそのまま淵に落ちてしまった。
 慌てて皆で引き上げたので、ユーリーも腰袋にいれた石も無事だった。
「いや、わざとじゃないんだってば〜〜」
 ケインの笑い後が谷に響いた。

*  *  *

 その後、いろいろとあったが道中無事にいけた。いろいろあったけど。熊などの気配があった時あったが、対処がよく戦闘という事にはならなかった。
 そして、もう一つの目的地に到着。
「またケインがやったのか! ガッハハハ!!!」
 鍛冶屋の親爺はそう言って豪快に笑っていた。
 直すには作業には丸1日かかるそうなので、鍛冶小屋の側にテントを張り終わるの待つ事になった。
 食事は親爺がご馳走してくれが、またしても酒盛りになり、ユーリーが二日酔いで苦しむ事となる。
「どうやったら簡単に壊れるんだろうな、こんなのが、ワッハハハ!」
 頭痛で不機嫌そうな顔をしているユーリーに、親爺はまたしても豪快に笑いながらそう言った。

 そして‥‥後はキャメロットへ戻るのみ。
 ここからだとあと早ければ2日ぐらいでいけるだろう。

 そして、とっぷりと日の暮れた夜‥‥最後の事件が起こる。

「ぎゃあああ!!!!!」
 けたたましい悲鳴。
「どうした!!」
 火の見張りをしていたカナタとガディスは、飛び上がるように立ち上がった。テントからも声を聞いたリューズやステラが、慌てて出来てた。
「ユーリー様! 大丈夫で‥‥すね」
 心配したマヤであったが、別のテントから出てきたユーリーとミルフィーを見て、とりあえず一安心だった。
「大丈夫です。私がばっちし守ってるよ♪」
 ブイサインを出すミルフィーに、少し困ったように笑みを浮かべるユーリー。女の子と同じテントというのが気恥ずかしいのだろう。堅物だから。
「じゃあ。誰の声?」
 響が首を傾げる。
 ここにいない人間は‥‥。
「ラミエルとケイン!!!」
 急いで二人がいるであろうテントに駆け寄った。
 パッと幕を開けると‥‥。
「‥‥‥‥せ、正当防衛です」
 そこには半分涙目で鉄鍋をしっかりと構えているラミエルと、テントの真ん中で白目をむいて伸びているケインの姿があった。


 最後の最後に怪我人がでる。まあ、薬で回復する程度だったので大したことはない。


「自業自得だ」
 ユーリーがケインに向かい吐き出すように言った言葉に、一同大きく頷いたのであった。

−END−