林檎の気持ち
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■ショートシナリオ
担当:瑞保れん
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:0 G 78 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月10日〜10月15日
リプレイ公開日:2004年10月18日
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●オープニング
キャメロットの街に秋風が吹き始めた。
どことなくアンニュイな空気に誘われて、人々がどこと無くロマンチックになる、そんな季節‥‥ってどんな季節だよ!
という突っ込みはさておいて‥‥。
「はあ〜〜、愛しいあの方‥‥」
窓枠に肘をつき、うっとりと空を眺める少女一人。
くるくるの金髪、蒼く澄んだぱっちりとした瞳、白雪のような肌。どこなく漂う育ちの良さといい、まさしく美少女! といっていいだろう。
少女は潤んだ瞳を伏せると、小さく溜息をついた。
「‥‥わたくし‥‥どうしたら良いのかしら‥‥」
小さな胸を震わせて、少女はまた秋の空を見つめた。
雲ひとつない空を、鳥が飛んでいく。
鳥の影が小さく‥‥小さく‥‥そして見えなくなった頃、少女の顔がパッと明るくなった。
「そうだわ!」
ポンと手を叩くと、慌てて窓から離れ部屋を出て行く。
「こうなると全は急げですの!」
廊下を小走りに走り、階段を駆け下りて‥‥。
「爺! 爺や!!」
「何ですか、お嬢様! 階段を走るなどはしたないですぞ」
階段を下りたフロアには、白髪に白髭の典型的アールグレーな執事が少女に向かい、お小言を言う。
「今は、爺の話を聞く暇は無いのですわ。急いでいますの」
「お嬢様! またそんな事をいって‥‥」
「爺!!!」
くどくどと話を続けようとした爺の言葉を、少女はピシャリと遮った。
爺が黙ったのを満足気に見届けると、少女はにっこりと微笑み言葉を続けた。
「爺、ワタクシお出掛けいたしますので、準備をしてくださいませ」
「お出掛け‥‥と申しますと?」
「昔行ったリンゴ山に行きますの」
「リンゴ山‥‥と申しますと、街から離れた山の麓のあのリンゴ園ですか?」
「そうですよ。あのリンゴでアップルケーキを作るのです。採れたてリンゴのアップルケーキ‥‥美味しいですわよ」
自信満々の笑顔で少女は爺を見つめた。
「はあ‥‥。それでしたら、誰かをリンゴを採りに行かせて、その後パイを作りますので暫しのお待ちを‥‥」
「ダメですの!」
少女はキッと爺を睨みつける。
「それでは意味がありませんの」
「ど‥‥どういう事で?」
爺は恐る恐る、少女に尋ねた。
「ワタクシ自らが林檎を採りに行き、そして最高の林檎を選び、そしてワタクシの手でケーキをつくるのです」
うっとりと空想の世界に浸る少女‥‥。どうやら完成したパイ‥‥そしてその先の妄想までに頭がいってるようだ。
「では、爺やお供の者もご一緒に参りますので、その準備ができるまで‥‥」
「嫌ですわ」
「嫌といわれましても!」
「だって、爺が来ると横から口をだして結局全部やってしまいますもん。他の者だって爺の顔色伺って同じことです」
少女は不満気に口を尖らせた。
「そんな無茶な!」
「ワタクシ自信の手で作らないと意味が無いのです! どんな障害も乗り越えて行く! それぞ、恋する乙女の醍醐味‥‥」
「‥‥‥‥恋?」
「‥‥コホン。何でもありませんわ」
思わず軽く咳払い。
そして話題を変える。
「とにかく、ワタクシもいつまでも子供扱いされてるのも嫌ですの。爺のお供なんてまっぴらごめんです」
「お嬢様! またそんな我儘を! ただでさえあの辺りは街と違って、野生の獣がウロウロとしてるんですぞ。そんな危ないところにお供なしで行けるわけ無いでしょう! それにお嬢様はお料理などできない‥‥」
「だまらっしゃぁ〜い!」
屋敷中にいきわたるような、怒声響く。
「ワタクシは決めましたの。誰がなんと言おうと!」
こうなると、このお嬢様は梃子でも動かない‥‥と、いう事を爺はわかっていた。
さて、どうしたものか‥‥。
爺の苦悩が始まった。
「と、まあそういうわけ」
ギルドの受付嬢はちょっと苦笑い気味に、これまでの事情を冒険者たちに告げる。
「お嬢様が林檎狩りに行くの護衛してほしいの。それも護衛だという事を内緒にしてさり気なく、近づいて道中共に行って欲しいそうよ。後、ケーキ作りを1人でやるっていってるらしいから、それもできたら手伝って欲しいみたい。家の者が手伝うって言ってもまず聞かないだろうけど、貴方達がうまく仲良くなれば‥‥もしかしたらって。あ、後爺やさん、何故ケーキを作るのか‥‥って事をとても気にしてたわよ」
受付嬢は傍らにあったリンゴを手に取ると、悪戯っぽく微笑んだ。
●リプレイ本文
●希望は秋風に乗って‥
「大丈夫心配ありませんわ。1人でいいんですの、行ってきます〜」
メイプル・ファルファートは大きなバスケットを腕に抱え、颯爽と家を出て行く。
後ろでは執事が心配そうな目をしたまま見送っていた。街の中ですらまともに1人で歩かせていなかった、お嬢様である。それをいきなり街の外、しかも獣が出やすい郊外の方だなんて。
いくら手を打ってるとはいっても、自分がついていけない事が、執事にはもどかしく不安を倍増させるのであった。
そんな事は全く気にすることも無く、メイプルは少し鼻歌交じりで街を歩いていた。
朝の街はとても心地良い。雲ひとつ無い青空も、駆け抜けるそよ風も、さえずる小鳥の歌声も、すべて自分を祝福してくれているようだ‥‥とメイプルには思えたのだった。
「若いなぁ‥‥俺にもそういう時代が‥‥」
メイプルの後ろをつけながら喜びに満ち溢れた彼女の様子を見て、セドリック・ナルセス(ea5278)はしみじみと溜息をついた。最近年齢もまた1つ増えてしまい、改めて己を振り返る。年寄りじみた自分の言葉に、なんだか虚しくなり目から心の汗がハラハラと落ちていった。――そういえば、最近疲れが翌日に残って‥‥、なんて思考にまで行きつくしまつ‥‥危険だ。
そんなセドリックを、ポップ・ヴェスパティー(ea7430)がまあまあと宥める。
「と、とにかく執事さんに林檎園への道筋も聞いたし、後はお嬢様への接触だね」
ノイズ・ベスパティー(ea6401)の言葉に、フィミリア・リヴァー(ea6596)も頷いた。
「じゃあもう少し行って、メイプルさんが疲れた頃に話しかけてみましょうね」
作戦の確認。皆がこくりと頷いたが、
「おっほっほ! 生意気な小娘を騙すなど、簡単なことですわ」
アミィ・エル(ea6592)は高笑い一発。この依頼最年長と思えない元気さである。セドリック‥‥この前向きパワーを分けてもらいさない。
と、そんなこんなしているうちに、メイプルは足取り軽やかに街を進んでいくのであった。
街を暫く歩くと建物が次第に少なくなり、野の花咲く草原が多くなっていった。
「ふう‥‥」
さすがに歩き疲れたのか、メイプルは道端に腰を下ろして一休み。バスケットから水袋を取り出すと、一口喉を潤した。
「もう‥‥爺がいろいろ持たせるから‥‥」
溜息交じりに恨めしそうにバスケットを睨んだ。心配した執事が何かといろいろと持たしているようだ。
「こんなの私1人で持ってたら、林檎園につくまでに疲れて死んじゃうわーです」
自分が1人で行くと言い出したのに、ちょっと愚痴モード。
その時‥‥。
「お嬢さん♪ こんなところで何してるんですか♪」
陽気に尋ねるシフールが1人‥‥後ろには数人の人々いた。
「まあ、妖精さんこんにちは」
メイプルは笑顔でシフール‥‥ノイズに挨拶をする。
「あら、お一人で旅行ですか? わたくし達も慰安旅行に赴くところなんですわよ」
にっこりと話しかけるアミィに、メイプルも笑顔で答える。
「ええ、林檎園に行ってますのよ、おば様」
アミィの額にぴきりと何かが走った。‥‥いくら童顔20代ぐらいに見える‥‥と自称していても、メイプルから見たら‥‥。ちなみに、セドリックも彼女にとっては十分『おじ様』である。
「おねえさん達はね、旅芸人一座なのよ」
煮えくり返るハラワタを押さえ、作り笑顔を満面にうかべるアミィに、メイプルが気が付くわけもなく‥‥。
「わぁ〜旅芸人さんなんですね〜。すごいわ〜、素敵!」
と無邪気に喜んでいた。
「林檎を採りに行くんですね? 僕らも行きませんか?」
「うん! 林檎食べたいねー! お菓子も作りたいなー」
ファング・ダイモス(ea7482)の言葉に、ノイズも同意する。
「もしよかったら、ご一緒させてはいただけませんか?」
フィミリアのお願いにメイプルは満面の笑みで答えた。
「いいですわよ、私が案内してあげますわ」
メイプルと6人は再び道を進み出した。
重いと愚痴を行っていたバスケットは、ファングが預かり持ってあげる。
「僕は冒険者上りの手品師見習いなんです。だから少々の荷物は平気にもてるんですよ」
軽々といろんな荷物を持って歩くファングに、メイプルは賛辞の言葉を送った。
ファミリアが疲れているだろうから馬にのらないか、という申し出は丁寧に断っていた。
「私自身の足で歩いていないと意味がないんですの。苦労してこそ、実りがあるんですのよ」
‥‥彼女にとっては、自分の足で歩いていく事に意義があるようだ。
「もしかして? あなたも‥‥恋をされているのですね?」
そんなメイプルの様子に、ファミリアは微笑みながら尋ねる。突然のファミリアの言葉に、メイプルは慌てたように顔を紅くさせた。
「顔を見れば分かりますわ。私も‥‥片思いなのですけれどね」
ファミリアはノイズを指差しながら、照れくさそうに笑った。
「まあ‥‥。お姉様」
メイプルは少し潤んだ瞳でファミリアの手をとり、「がんばってくださいね」と言葉をかけたのであった。
そんなこんなで、しばらく道を進むと‥‥・
今度は1人のシフールと馬が一頭。
「どうしたの? 妖精さん?」
道に佇んだシフールは、何か困っている様子。そう感じたメイプルはシフールに駆け寄り尋ねた。
「私は学者で、美味しい林檎を求めているんである!」
「林檎?」
「しかし、道に迷ったのである。はあ、どうしたものか‥‥」
シュンとしたシフールに、メイプルは笑顔で答える。
「大丈夫よ、妖精さん! 私が案内してあげるわ」
そして自信満々にトンっと胸を叩いた。
「本当であるか? ありがとうなのである♪」
嬉しそうに礼を言うシフール‥‥リデト・ユリースト(ea5913)の顔をみて、メイプルはどこか誇らしげだ。
「メイプルさんがいらっしゃってよかったですわ」
アミィのお世辞が、またメイプルの機嫌をよくさせた。アミィが心の中で高笑いをあげていただろうという事が、メイプル以外の者には何となくわかった‥‥。
●林檎♪ 林檎♪
途中、噂通り狐や隼が突然襲う事があったが、セドリックやファングが難無く倒していく。最初にファングが冒険者上りだと言っておいたこともあり、メイプルは疑う事もなくその活躍に拍手をしていた。
メイプルが道を間違えそうになった時もあったが、ノイズが気をきかしそれとなく道を誘導し、事なきをえた。
お昼になると、メイプルはバスケットを広げてピクニックランチ‥‥と洒落込む。サンドイッチやら、スコーンやら、フルーツやら、なんだか1人で食べるには多すぎやしないかという量だったが、メイプルは冒険者達にもそれを分け、皆で楽しくランチとなったのだった。執事はこうなる事も予想したのだろうか‥‥。いいや、単にメイプルだけの為に用意したんだろう‥‥。
「林檎は正にこの季節の味の宝石なんである!」
食事を食べながらリデトは力説する。林檎の美味しさ、素晴らしさをメイプルに懇々と語り続ける。
「素敵ですわ♪」
メイプルは嫌がる事もなく、素直にその話を聞いていた。心の中でやはり自分は間違いなかったと思い、何だか嬉しくなっていた。
「美味しい林檎を手に入ったら、とても美味しいお菓子が作れますわね」
「ほお、お菓子をつくるのであるか!」
リデトはその言葉にすぐさま反応した。
「私は林檎の美味しさにかけてはちょっとうるさいんである! 良ければ林檎の菓子作りを見さえてもらえないか?」
リデトと同じく、ノイズもメイプルもお願いする。
「僕もお願いしたいな。僕料理作るの得意なんだ。良かったらキミのお家のオーブン貸してもらえると助かるな‥‥。僕達こんな生活でしょ? だからたまにはちゃんとした設備のあるところで作りたいんだ♪」
メイプルの返事は即答だった。
「いいですわよ! 私に任せて頂戴♪」
しばらく行くと、その林檎園があった。
赤く熟した林檎が、木々に鈴なりになっている。
皆は美味しそうな林檎を選び、それぞれにとっていった。
メイプルはリデトと共に、美味しそうな林檎を探していた。
「皮に張りがあって身が締まっている物、お尻のまわりがオレンジがかった物、黄色い物はより黄色が濃い物が完熟してて美味しいんである」
すっかりリデトは、メイプルの『林檎の先生』状態であった。
2人は1個1個慎重に選んでいく。
「指で軽くはじいて澄んだ音がするかどうか確かめるんである」
リデトの教えどおりに、メイプルは探していく。
そして‥‥。
「これはどう?」
「おお! それはまさしく林檎の黄金率! 素晴らしい林檎であるよ」
大切に大切に‥‥メイプルはそっと、その林檎をもぎ取った。
「林檎♪ 林檎♪ 素敵な林檎♪」
メイプルは本当に嬉しそうに、林檎に唇を寄せて小さく歌うように呟いた。
帰り道‥‥。
「リンゴの丘に登り行けば、芳しく香るあの日の記憶♪」
ポップの美しい歌声が、美しい秋の山路を彩っていく。大収穫の林檎を手に、皆がその歌に耳を傾けていた。
そして街につき。
「では、明日。私のお家でお菓子作りですわ。絶対きてくださいませね」
メイプルはそう言うと、大事そうに林檎を持って屋敷へと帰っていった。
●すぃーとあっぷる♪
翌日。
メイプルの屋敷に冒険者たちは集まった。
執事の案内で厨房へと通される。執事も無事メイプルが帰ってきたので、上機嫌だ。
厨房では真っ白な前掛け姿のメイプルが、にっこりと立っていた。
「さあ、ではがんばって林檎のケーキをつくりましょう♪」
作りましょう♪ ‥‥というのは簡単だが、やるのはそう簡単ではない。
これからが一苦労であった。包丁の使い方もしらないメイプルである。いくらレシピがあるといっても‥‥。
今にも手を切りそうにあるメイプルに、家事の得意なノイズが思わず手伝おうとしたら「私がやりますの〜〜〜!!!」と断固として包丁を譲らず。その意思に経緯を評し、ノイズは横でアドバイスをしていく。
「ほら、包丁の元をつかって皮はむいて‥‥手は猫の手で‥‥だ、大丈夫、変に割れても殻をのけたらいいから‥‥」
そんな様子にいてもたってもいられないのが執事だ。外から声を聞いては何度も厨房に入ろうとしたが、フィミリアに阻止される。
「ですから!!乙女にはやらなければいけない時があるんです!!」
と、強い口調で叱咤され、ぐうの音もでない執事であった。
お菓子作りは着々(?)と進む。
ファングは少し力仕事な粉振るいを手伝い、リデトはお菓子に美味しい林檎を熟考して選ぶ。
ポップはその中でも音楽を奏でる。楽しい音楽で楽しい気持ちのなりつつお菓子をつくれば、良いお菓子もできる‥‥そう思ってだったが、やや戦場な厨房で楽しい陽気な音楽というのも‥‥少し笑えた。
そんな光景を見てセドリックは、昔実兄の為に美味しいケーキを作ろうと炭を量産していた義姉の事を思い出し、何となく目から汗を流していた‥‥。
「ここは、切るように混ぜるです♪」
「切るように‥‥って、どう切るの!!」
「‥‥‥‥!!! 包丁はいりません、包丁は!!」
――まともなケーキが食べられるのかしら‥‥。
遠くで傍観していたアミィの額から、汗が滲んだのは言うまでも無い。
何だかんだといって、最後はキチンと形をしたケーキが出来上がる。単純に生地と林檎を混ぜ、その上にクランブル生地を載せて焼いた『林檎のクランブルケーキ』。
素朴なケーキだが、サクサクとした香ばしさがなんともいえない。
「できましたわ♪」
顔に白い粉をつけたまま、メイプルは満面の笑みを浮かべた。
その後、作ったケーキの1つを皆で食べる事にした。ノイズのアドバイスがよかったのか、味は中々のものであった。珍しい砂糖菓子ということもあり、冒険者も大満足。
アミィだけはケーキを拝借し、こっそり別の場所で食べていたが、「何かストレスがたまりましたわ」と呟いていたとか、いなかったとか。
そして、アミィを除いたメンバーが、ケーキに舌鼓打っているなか、リデトが何気なく言った、
「こんな美味しいケーキを食べる相手は幸せなんである!」
という言葉に、メイプルの顔が一気に紅潮した。
「あなた様に思われている方は幸せですわね♪ きっとその思いは届きましてよ」
ファミリアの駄目押しの一言に、メイプルの顔は益々紅く染まった。
まるで、もぎたての熟した林檎のように。
彼女の恋がどうなるか‥‥、それはまた別のお話しで♪
――END――