焼き栗売りの少年

■ショートシナリオ


担当:瑞保れん

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 93 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月25日〜11月01日

リプレイ公開日:2004年11月04日

●オープニング

●受付嬢の憂鬱
 この時期から冬場にかけてキャメロットの街角には、焼き栗屋台が姿を見せる。
 キャメロット近くの村の山で採れた美味しい秋の栗を、高温に熱した石と共に焼き、そして街角で人々に売リ出しているのだ。寒いキャメロットの冬に、この焼きたてホクホクの栗は格別の味である。
 そんな熱々の栗をほおばりながらフウと溜息をつくのは、冒険者ギルドの受付嬢である。

「まったく、この世にはこんな美しい女性もいるってのに‥‥」

 どうしたの? と尋ねると、彼女は掲示板を指差しながら事の次第を語りだした。

「実はね‥‥」

●ある青年と焼き栗売りの少年のお話し
 最近キャメロットの商店街にある広場で焼き栗屋台の売り子少年が、ちょっとした評判なの。
 少年‥‥といっても歳の頃は18、9歳らしいんだけど。
 何が評判って‥‥すっごく綺麗なんだって! 通り過ぎようとする人が、思わず足をとめてしまいたくなるほどの美少年。あんまり人付き合いが上手な子じゃなくって商売上手じゃないんだけど、あんまりに綺麗だから、それが評判になってさ。屋台は大繁盛していたの。
 そこまでなると、その店には常連がつくというもの。この屋台にも当然に常連客がいたわ。栗の美味しさ目当ての人もいれば、少年目当ての人‥‥これが何故か男が多かったらしいんだけどね‥‥とにかくそういう人がいたの。
 そんな常連の1人に、カヤという青年がいてね。彼は彫金細工師で、彼の勤める工房がこの広場の近くにあって、この時期の栗はいつも楽しみにしてたんだって。なので少年が店を出し始めたころからこの屋台に通っていて、少年とも顔なじみだったらしいわ。

「体の調子はどうだい?」
「今日も繁盛してるね」
「めっきり寒くなってきたね」

 そんな風に栗を買い求める度に親しげに声をかけて‥‥。あ、別に少年が目当て‥‥というわけではなかったらしいわよ。彼はあくまで栗が目的‥‥って言ってたんだけど‥‥まあ、いいか、それは。
 それが少年にも伝わったのかな?人見知りな少年も次第に、青年の言葉に笑顔を見せ、売り買いする僅かな時間の会話が、2人の毎日の日課のようなものになっていたそうよ。

 ところがある日。
 店じまいをした少年が家路についていたの。彼は栗が獲れる郊外の村からやって来ていたんだけど、その日は店じまいが遅くなったおかげで街道を歩いているうちに日がすっかり暮れてしまって‥‥。カンテラ1つで暗闇の道を歩いていると、なんだか後ろを誰かにつけられているような気がする。おかしいな‥‥と思っていると、突如屈強な男が数人現れて少年に襲い掛かったの! 少年は必死に抵抗したんだど、相手には全く敵わない。売り上げを取られた上に、それから‥‥‥‥まあ、いろんな事されそうになって‥‥いろんな事って何? って、アタシの口からは言えないわよそんな事。各自で想像して頂戴。
 ‥‥今思うと、少年は狙われていたのかもしれないわね。街で評判になっていたわけだし。売り上げか体かどっちが本当の目的かは知らないけど。
 とにかく‥‥・。
 寸での所でそこに本当に偶然にその街道を、仕事で他の町に出掛けた帰りの青年が通りかかって‥‥って、運命よね〜まったく。驚いて青年が大声をあげると、男共はすぐに逃げだしたそうよ。
 少年はなんとか体は無事だったんだけど、その日の売り上げは全部盗られた上、大切に身につけていたネックレスまで奪われちゃって。
 そのネックレスは金細工に大きな緑の石がはめ込まれたもので、少年の母親の形見でいつも肌身離さずつけていたそうよ‥‥。
 すぐお役人に届けたんだけど、今だ男たちを捕えることができてないらしいわ。

●再び受付嬢
「と、まあこういう次第で依頼よ」
 ざっと事情説明をすると、受付嬢は一息ついた。そして、依頼についてを語り始める。
「依頼者は青年‥‥細工師のカヤさんよ。依頼は少年のネックレスを取り返す事。男たちはキャメロット周辺に出没する山賊の類かもしれないし、町から少年を狙っていたのかもしれない。暗闇だったから、少年も青年も顔がはっきり見えてなくて、なかなか限定できないらしいわ。ただ‥‥少年が首領の男の髪の色は金髪で、胸にかなり大きな切り傷があったのがチラリと見えたそうよ。これを手がかりにして、聞き込みしてみると情報が手に入るかもね」
 そして、受付嬢は再び焼き栗に手を伸ばすと、厚い皮をパチンとむき始める。

「いくら顔なじみとはいえ、名前も知らない栗売りの少年の為にお金払って依頼を頼むってのは、やっぱ心いってるよねぇ。‥‥いい男だったんだけどなあ、カヤさん」

 意味深な言葉を呟くと、受付嬢は再び深く溜息をついた。

●今回の参加者

 ea1910 風見 蒼(31歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea2545 ソラム・ビッテンフェルト(28歳・♂・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea6565 御山 映二(34歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea7393 イオン・アギト(28歳・♀・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea7630 カイン・アッシュ(32歳・♂・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7691 リク・シェータ(32歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7778 ローンツ・アビムル(30歳・♂・バード・エルフ・イギリス王国)

●リプレイ本文

●金髪の男を探せ
「本当に全くだよね。君みたいな美女を放っておくなんて、キャメロットの男は皆、節穴さんだらけだ」
 自分の手を握り締めながらカイン・アッシュ(ea7630)に微笑みかけられると、ご機嫌斜めだった受付嬢もまんざらでもない表情を浮べる。
「で? カヤさんだっけ? 彼の居場所は‥‥」
 気分良く依頼人の居場所を教える受付嬢は、まったく知らない‥‥カインの真意を。


 さて、舞台はキャメロット市内の酒場へ。
 竪琴をつま弾きながら美しい歌声を披露しているのは、ローンツ・アビムル(ea7778)である。ソラム・ビッテンフェルト(ea2545)と手分けをし、噂の集まるような酒場へと情報収集にやってきていたのだった。
 ローンツは得意の演奏で酒場に集まった人々に好感を与え、うまく会話を弾ませる事に成功した。ソラムは演奏の仕事でなじみとなった酒場のマスターに、
「最近こんな話を聞きませんでした?」
 と、尋ねて情報を集めていった。
 ほとんどが噂話程度ではあったが、『傷のある金髪の山賊』の情報はいくつか得る事ができたのだった。『金髪の男』は最近キャメロット周囲で有名な賊のリーダーという事。傷は昔、巨大な怪物と戦って出来たもの‥‥と本人は言っているらしい。それと、そっちのほうの趣味があったらしく、時々美少年達をはべらして飲みに来ているという話だった。
「と、なると。噂の美少年はやはり狙われていたのでしょうか」
 ローンツは情報をまとめて、ふむりと頷いた。
 一方、同じ酒場での情報収集であっても、苦戦したのが御山映二(ea6565)であった。
 彼が聞き込みに選んだ場所は、キャメロットで一番ならず者が集まるという酒場。『何があっても笑顔!』という彼の心の方針より常に満面の笑顔で、眉間に皺を寄せたいかついおじさん、兄さんたちに『金髪の男』の情報を求めたのだが‥‥警戒されてしまって口を開いてはくれない。こういうお店に集まるのは、大概背後に疚しい何かを抱えている人間が多い。見知らぬ人間に‥‥しかも見るからに異国人の映二にホイホイと口を開けなかった。下手に喋ると、いつか自分がしっぺ返しを食らうかもしれない‥‥なんて考える者もいた。映二は有効な情報提供者にはチップ等を与えるつもりだったらしいのだが、もしそれを最初からちらつかせていたら、相手も欲に負け何を教えてくれたかもしれない。
 あまりに執拗に聞いてくる映二に絡む輩もでてきてしまい、一触即発状態に陥ったところを、偶然その店に訪れたソラムの仲介により事なきを得たのだった。
 
 風見蒼(ea1910)とイオン・アギト(ea7393)は少年がやってくる村のほうに、馬で向かい聞き込みを行っていた。
 無邪気な笑顔で元気に動き回るイオンを子ども扱いした村人に、イオンが食って掛かる場面が幾度とあったが、蒼がなだめたりしてその場はなんとか(?)修まった。
 聞き込みの結果、村からキャメロットに行く街道は一時期は山賊が現れる事もあったが、最近は騎士団や冒険者ギルドからの派遣などの取り締まりでめっきり減少し、比較的安全だったそうだ。とは
 なるほど‥‥と頷く蒼の横で、イオンが元気に尋ねる。
「最近、美少年好きの夜賊とかいますか〜?」
 その言葉に一瞬面食らった村人だったが、やや好色そうにニヤリと笑った。
「賊は知らないけどね‥‥地主だったら知ってるよ」
「ワシはそういう趣味はわからんが‥‥まあ、どんな輩かの? その地主は」
 関係ない事かもと思いながら妙に気にかかった蒼は、苦笑いを浮かべながら村人に尋ねた。
「この村で一番の金持ちさ。村の大部分の栗山は奴の者さ。‥‥まあ山賊とは何の関係ないだろうよ。金も‥‥そっちのほうも、全然不自由はしてないだろうしね」

 カインは受付嬢からカヤの居場所を聞くと、彼の元へと足を伸ばした。キャメロット市内の工房に彼は勤めていた。仕事を中断してもらいカインは、カヤに事件に関連することを聞き込むことにした。
 焼き栗売りの常連客に怪しい人物がいたかもしれない。何か変わったことがなかったかと尋ねたが、特に思い当たる節はなかったようだ。気づいていたら自分が乗り込んでネックレスを取り戻す、と意気込むほど彼はどうしても少年にネックレスを取り戻してあげたいと熱く語った。
 受付嬢の嘆きの言葉は、なるほど正解であった。短い黒髪、凛と釣りあがった涼しげな目、スイと通った鼻筋、仕事柄か腕もがっちりと程よい肉付きで‥‥。確かに、いい男の部類に入るだろう。
 カインのお眼鏡にもシッカリ合格だったようだ。
「‥‥ああ、心配しないで、犯人は必ず見つける出すさ」
 じっと見つめるカインの視線に首をかしげたカヤに、カインは誤魔化すように微笑む。
「ところで‥‥君は少年の事をどう思っているの?」
 カヤは「え?!」とばかりに、困惑した表情を浮べる。どうやら、自分の気持ちがよくわからないらしい。
「ただ‥‥私は彼を助けてあげたいだけなんですよ」
 そう言って彼は困ったような笑顔を浮べた。

 リク・シェータ(ea7691)はキャメロットの故買商を回っていた。事件よりすでに日が経過している。すでにネックレスは売られているのでは? と、考えたのだ。
 1軒‥‥2軒。
 めぼしい情報は集まらない。
 数日まわったが結果がでず、この見解は間違いだったのかなと、不安がよぎり始めた頃だ。
「ああ、そんなネックレスみたね」
 ある質屋のがリクの問いにコクリと頷いた。
 詳しく事情を聞くと、1週間程度前に金髪の男がやってきて色々とな物を売りにきたそうだ。その1つにネックレスがあったらしい。物は悪くなかったのだが値段の折り合いがつかなかったらしい。
 残念ながら親父はそれ以上は何も知らなかったが、男と会話で「最近森は朝晩の冷え込みが厳しい」と、言っていたそうだ。

●深き霧の戦い
「森‥‥そこがアジトかな?」
 映二はリクからその話を聞き、首をかしげた。
 時は夕刻。
 ソラム以外のメンバーは冒険者ギルドに集まり、情報の整理をしていた。
 『金髪の男』についてはほぼ特定できていた。男の名前はサワル。最近良く噂が出回るならず者らしい。強い上に、根っからの悪党。要領がいいので、役人の目をうまく誤魔化しているそうだ。
「サワルは少年に最初から目をつけていたみたいだね」
 カヤから話を聞いた後カインは商人ギルドに話をつけ、少年が栗売りをしていた広場に占いの屋台を開き、情報収集を行っていた。予想通り栗売り常連も訪れいろんな話を聞けたのだが、その中でサワルらしき男が訪れていたらしい。
 人物は特定できたが‥‥後は居所だ。
 アジトは早々すぐにはわかるものではない。下手すると誰かが自分をかぎまわっている噂を耳にして、姿をくらますかもしれない。
 そんな不安が皆の心によぎったそのときだ。
「わかりましたよ」
 まるでそんな空気を見計らったように、ソラムがその場に現れた。
「サワルの子分らしい男が酒場に現れました。他の客と話しているのを、演奏しながら聞き耳をたてていたんですが、ポロリと尻尾をだしてくれましたよ」
 満足気なソラムの表情に、周囲の状況が一変して明るくなった。
「それじゃ‥‥善は急げって事で‥‥」


 日の出前の深夜‥‥。
 キャメロットを外れた森の中の小屋。
 そこがサワル一味のアジトらしい。
「‥‥では霧で包み込んで仕掛けましょう」
 ソラムは小さく呟くと、呪文を詠唱し始めた。深い乳白色の霧が周囲に立ち込める。
「間違えて味方を切らぬように慎重にの‥‥」
 蒼は皆に注意すると、先頭で小屋に入っていった。その後に映二とリクが続く。
 突然の奇襲に賊も驚いた。見張りをしていた男は、蒼の日本刀であっけなく気を失う。刃を返して叩くように使用していたので、命を奪うような事はなかった。
「少年を襲うような不届き者、本来なら斬り捨ててやりたいところじゃが、依頼者殿の意向じゃ。感謝するのじゃな」
 隙をみて小屋から逃げたものは、外に立ち込めた白い霧に驚きの声をあげる。そして、そこからともなく聞こえる歌声。
「夜に抱かれた者たちよ 汝らが忘れしもっとも弱き時に帰れ 汝らは牙を持たぬか弱き子羊 ひとつに群れ震えながら夜を越す者 〜♪」
 ローンツの物悲しい<メロディ>が、逃げ出そうとする賊の戦意を喪失させていった。
 そのころ映二は敵の攻撃を笑顔で受け止めかわしていた。彼にとっては大した腕のものではない。余裕で対応していた‥‥が、奥の部屋から突如現れた1人の男に跳ね飛ばされた。
 金髪の屈強な男‥‥上半身裸で寝ていたらしく胸にはくっきりとした傷跡が。
「お前ら‥‥役人か!」
 怒り狂ったように怒鳴ると、斧を手にもち蒼に襲い掛かる。日本刀で何とか受け流したが、その隙をついてサワルは外へと逃げた。
「うわ!!」
 サワルは外の深い霧に動揺し、一瞬怯んだ。
「えーい、くらえ〜!」
 イオンの<ライトニングサンダーボルト>が真っ直ぐサワルに襲い掛かったのだ!
「ぐはああ!!!!」
 悲鳴に近い声をあげて、サワルは光に弾き飛ばされた宙を舞った。どしりと後ろ向けに倒れると、そのまま気を失う。もしこれが屈強なサワル以外の賊に当っていたら‥‥命を奪っていたかもしれない。
 他の賊の者は蒼たちの刀に倒れたり、ローンツの歌声で戦意喪失したりと、10人足らずの賊はすべて取り押さえることができた。

●焼き栗に火がついた
 賊を役人に引渡し小屋を捜索したところ、少年の物と思われる緑の石をはめ込んだネックレスがでてきた。ザインの証言によれば、思うような値で売れなかったので、あとからこれをネタにして少年に言い寄って関係を持ってやろうと考えていたようだ。
 ネックレスをはギルドを通じてカヤに渡された。
 それから数日後‥‥。
 冒険者ギルドに集まったメンバーに、カヤがお礼の挨拶にきた。‥‥焼き栗売りの少年もつれて。
 少年はあれからずっとショックから、村から出ることが出来なかったが、無事ネックレスも戻ってきたので外に出ることが出来たそうだ。
「また‥‥あそこで栗を売ることが出来ます。ありがとうございました」
 冒険者たちにお礼の焼き栗を渡しながら、はにかんだ笑顔で礼を述べる少年。
 その天使のような笑顔に、普段は全然そんな趣味じゃないと言ってる男たちまで、何故か妙に顔が赤くなってしまう。
 そんな奇妙な様子の男共の横で、イオンはパチンと焼き栗の皮をむき、ご機嫌な笑顔で大粒の栗を口の中に放り込んだ。
「焼き栗はおいしいよねぇ♪」

−END−