Wild Rose

■ショートシナリオ&プロモート


担当:瑞保れん

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月22日〜11月27日

リプレイ公開日:2004年12月10日

●オープニング

 キャメロットのとある酒場。
 といっても貴族や、裕福な商人、地主達が集まる遊戯場。正体を隠すように仮面で顔を隠す者もいる。それぞれに酒に酔い、女に酔い、男に酔い‥‥。そんな人々が交じり合う、社交場であった。
 そんな人間が集まる場所に、数ヶ月前からある噂が広がりだした。

「ワイルドローズが帰ってきた」

 その噂に一喜一憂する人々。

 身分ある者達は、酒場の一室に集まりトランプなどの賭け事に興じている。ここで多額の金銭や宝石などが飛び交う事もあり‥‥。そんな酒場に 数年前、突如社交場に姿を現した天才的ギャンブラー‥‥それがワイルドローズ。
 ある人は男といい、ある人は女という。ある者は年端もいかない若者だといい、ある者は熟練した腕前の老人だという。
 噂が噂を呼び彼(彼女)の名前だけが1人歩きして、実際の実体がすでにわからないのだ。
 確実に判っている事は、目印は体にある薔薇の刺青、そして狙った獲物を逃さない腕前‥‥。
 そして、数年前のある日を境に、その名前はピタリと聞かれることがなくなったのだ。足を洗ったという噂もあり、外国へ渡ったという噂もあり、命を落とした‥‥という説まであり。

 そして、またその伝説が再び蘇ろうとしている。

「依頼はね、出現したワイルドローズ‥‥と言われる者を取り押さえる事よ」
 冒険者にその伝説を説明した後、受付嬢は本題を切り出した。
「酒場で随分荒稼ぎをしているようよ。しかも‥‥あんまりよい手段とは言えないみたい」
 よい手段ではない‥‥。
 賭け事で一番汚い手‥‥しかし一番稼げる手段‥‥それは相手を欺く事。‥‥イカサマ。
「身包みはがされて、財産を食いつぶすまでいった人間もでているようよ。まあ、自業自得なんだけど‥‥あまりに節操がないくらい酷いようなので、こんな依頼が来たみたい。イカサマの証拠もつかめないらしくてね」
 賭けは自己責任。自分の身を破滅させてまで、何故のめりこむのか?
 受付嬢にはそれが理解できなかった。
「ワイルドローズはぎりぎりまで正体を現さない。普通の客を装っているわ。一番儲けていそうな客、騙しやすい客を選んで姿を現して、最後にワイルドローズと名乗って姿を消す」
 今回の目撃されたワイルドローズは20代ぐらいの男、手下を3人つれている、腕に紅い薔薇の刺青をしておりそれを見せてワイルドローズだと名乗っている‥‥という事だそうだ。

「でも‥‥本当いうとこの男‥‥伝説のワイルドローズじゃない可能性があってね。昔の話だと、彼はイカサマには手をださない主義だったはずなの‥‥。そのあたりも考慮して動いてもらえるかな?」


●今回の参加者

 ea1877 ケイティ・アザリス(34歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)
 ea2686 シエル・ジェスハ(28歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea7371 ナナシ・ギガフィールド(43歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea8333 ティアナ・クレイン(30歳・♀・レンジャー・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

 キャメロットの北西部、貴族達が住む上流階層街の一角にあるその酒場は、場末のエールハウスと違い、上品な内装と雰囲気で訪れる者達を出迎え、凝った料理を食べさせてくれる。
 客は貴族や豪商、地主といった、所謂金持ち達だ。社交場とはいえ遊技場もある事から礼服着用の義務はないが、それでも皆、身分相応の服装をしていた。
 庶民は行かない酒場だが、シフールは別だ。好奇心旺盛な彼らは興味を持てばどこにでも行くし、どこにでも入る。だからシフールのウィザード、ナナシ・ギガフィールド(ea7371)がこの酒場の中を飛んでいても、ゲームに熱中する者達は気にする様子はなかった。
 確かにナナシ以外にも、酒場の中を飛び交うシフールの姿があったし、彼らはそれよりも目の前のトランプの役を考えたり、チェスの相手の次の手を読むほうが遥かに重要だからだ。金や宝石が掛かっているのだから無理もない。
「むむむ‥‥難しいな」
 ナナシは勝負の妨げにならないよう静かに、とある商人と貴族のトランプの勝負を後ろから見つめていた。彼の栗色の瞳はイカサマを見逃さないように貴族の一挙一動に注目していた。どうやってイカサマをしているかは分からないが、後ろめたいことをしていれば態度に表れる。目は人一倍いいからそれを見抜けるだろう――とナナシは思っていた。
 が、この勝負は目を付けていた貴族ではなく、相手の商人が勝ってしまった。
「ワイルドローズは貴族だと聞いていたのだが、誰彼構わず貴族を疑っても致し方がないか‥‥」
「そうですね、貴族さんは沢山いますからね」
 ナナシに声を掛けてきたのは、見ている彼も和んでしまうようなほんわかとした温かい笑顔を浮かべた貴婦人だった。レンジャーのティアナ・クレイン(ea8333)である。
 ティアナは給仕として酒場に紛れ込もうとしたが、門前払いに遭ってしまった。貴族達が出入りする酒場である。給仕の選定も厳しく、おいそれと紛れ込めないのだ。
 そこで故買屋を営む貴婦人に扮して、堂々と正面から入っていた。
「遊戯場は大きく2つに分けられますね。向こうで行われている闘鶏や闘犬は、流石にイカサマは無理だと思いますから、こちらのトランプやチェスを見張っていればワイルドローズさんは現れるでしょう」
 ティアナは酒場の中を見て回り、何処に何があるか把握していた。闘鶏や闘犬、剣士達の賭け試合は別の常設会場で行われていたが、冒険者ギルドで聞いた話によるとワイルドローズの賭博とは違うだろう。
「それにワイルドローズさんはぎりぎりまで姿を現さないみたいですから、現れたらすぐに動けるようにしておきましょう‥‥それに、あらあら、こんなに寝癖を作って。こちらに来てください」
「お、おい‥‥我が輩は向こうの貴族をチェック‥‥」
 ティアナはクールなナナシの髪にひどい寝癖を見付けると、彼の意向に構わず壁際へ引っ張っていき、そこで手慣れた手付きで寝癖を直していった。
 ナナシは彼女の湛える温和な笑顔から母親に諭されているような気分になり、なぜか抗えなかったという。

 ジプシーのケイティ・アザリス(ea1877)は目立っていた。貴族の社交場という事で、最低限の礼儀としてマントは羽織っているものの、その下はやや小振りな胸や細くくびれた腰を僅かな布で覆うだけで褐色の肌を露にし、神秘的な碧い双眸と相まってイギリス人の女性には無い得も言われぬ色香を漂わせていた。
 ただ、ここにいる男性達の大半は紳士――と自負している者――である。じろじろとケイティの姿を覗き込むようなことはせず、声を掛けてくる時もあくまで紳士的な態度でにこやかに、だった。
「(この人もハズレね。“危険な匂い”が全然しないのよね)このハードな世界で打ち勝ってきた伝説の勝負師、そんな人こそあたしの理想なの。嗚呼、そんな人に一目会えたらなぁ‥‥」
 彼女は恋する乙女が白馬の王子様を待ち焦がれるような遠い目をしながら、お決まりの台詞で本日18人目の誘いを断った。
「砂漠の国の女神は、高嶺の花。だからこそ一際美しく咲き誇り、手に入れたくなるのかもしれないけど」
「え‥‥!?」
 その時、一人の青年がケイティに声を掛けてきた。また適当なことを言いふらして断ろうとした彼女は、振り返って息を呑んだ。
 腰まで伸ばしたブロンドストレートヘアが印象的な、柔らかな優しげな物腰の青年だった。歳はケイティと同じくらいだろうか。笑みを浮かべているものの、目は笑っていない。
 ケイティの“女の勘”が告げる。求めていたちょっと危険なタイプの人だと――。
「そう言って何人の女を泣かして来たのかしら?」
「手厳しいね。あなたに興味があるといったほうがよかったかな?」
「あたしが欲しいなら、一勝負しない?」
 ケイティも褒められて悪い気はしない。ご褒美に『ケイティ自身』をちらつかせながら、彼女はこの青年とトランプで一勝負した。
 ケイティもトランプはかじっており、青年と五分五分の勝敗を期した。しかし――。
(「何なのかしら? 本気を出していない訳じゃないけど、底が見えないというか、まだ余裕がある感じよね」)
「ワイルドローズに憧れているようだけど‥‥」
 ケイティは青年の掌の上で踊らされているような感じだった。占星術師の顔になり、青年の永遠を見ようとする。名前すら聞いていない青年に、惹かれ始めている自分がいた。
 青年はトランプを伏せ、その上に手袋をはめた左手を乗せながら切り出した。
「伝説は蓋を開けたら意外に大した事がなかったりするから、過度の期待はしないほうがいいと思うよ。憧れは憧れのまま取っておいたほうがいい」
『ワ、ワイルドローズだ!』
 だが、ケイティがその言葉の真意を問う前に、店内に喚声が響き渡った。

「また、私の負けですか‥‥」
 自分の前に置いたトランプの札と相手の札を見比べ、レンジャーのシエル・ジェスハ(ea2686)の傍らに積んであった50Cが、目の前で相手の手に収まってゆくのをただ眺めるしかなかった。
「(待っていて下さいね、今取り返します)もう一勝負お願いします」
 即座にもう50Cを積み、再勝負を挑むシエル。
 白いマントに身を包む姿といい、湯水のように金を注ぎ込む気っ風の良さといい、彼女はギャンブルの面白さにハマった世間知らずなお嬢様のように映っていた。一見、短めの茶色い髪と動じない茶色の瞳がクールさを感じさせるが、実はギャンブルに関しては熱くなりやすいタイプだった。
 この手のタイプは得てしてギャンブルで負けが込むとカッとなって更に傷口を広げるのだが、シエルも多分漏れず、既に後払いの報酬分は使い込み、自分の所持金すら半分以上失っていた。
『ワ、ワイルドローズだ! ワイルドローズに違いない!!』
 負けが込み、格好の獲物にされているシエルの相手を誰とはなしにいう。その一言が皮切りになり、シエルの周りに集まっていた観客達がざわめき始めた。
 シエルは改めてワイルドローズと呼ばれた相手を見た。3人の連れを伴った礼服を着た貴族の男性だ。後ろの3人は護衛のようだがいい風体とはいえず、ワイルドローズはこの場には分不相応のように品がない。
「バレちゃぁしょうがないな。俺がワイルドローズさ。不服か?」
「いえ、ワイルドローズさんなら尚のこと、この勝負、運否天賦ではありません」
 ――ざわ。
 シエルは頷くと、最初の一枚を引いた――。

「駄目だ‥‥分からない」
「わたくしもです。何か隠しているように見えるのですが」
 ナナシもティアナもシエルの相手はチェックしていた。
 ナナシは様々な角度からワイルドローズを監視するが、いくら目の良い彼でも3人の護衛にきっちりと周りを固められていては、イカサマをしている確証は得られなかった。それにシフールとはいえ、勝負中の上を飛ぶのは禁止されていた。
 ティアナも同じで、彼女はその手の小細工をある程度見破れるが、肝腎の手元が見えなかった。
「ただ、漠然と見ていては何も真実は分からないよ。ポイントを決めてきちんと見なくちゃ。賭け事も同じ。見えないようで意外と真実は見えるものだよ。漠然とカードを切っても‥‥負けるだけだぞ」
「見えないようで意外と真実は見える‥‥そういうことね!」
 青年と一緒にシエルの勝負を見に来たケイティは、彼の一言で何かに気付いた。護衛が遮るワイルドローズを集中して見ていたが、見るのは彼の手元でなくてもよかったのだ。
 そしてケイティはイカサマの手口を見た。要するに彼だけではなく護衛がグルだったのだ。
 それをティアナとナナシに伝えたが、時、既に遅く、シエルは負け、所持金は残り50Cになっていた。
「まだ続けるか? なんなら身体で払ってもらってもいいぜ?」
「イカサマ無しでは勝てないと仰りますか?」
 シエルの上半身を舐めるように見るワイルドローズの粘ついた視線を遮るように、ティアナはナナシに持ってきたもらった新しいカードを差し出した。
「人聞きの悪いこと言うなよ。お前こそ、この女とグルになって俺の名を汚すつもりかぁ!?」
 しらばっくれるばかりか、ティアナを悪者に仕立て上げるワイルドローズ。
「ワイルドローズがそんな人だと思わなかった! サイテー!!」
 ケイティは泣き出すと、護衛の1人に平手打ちをかました。彼が尻餅を付くと、その拍子にカードがこぼれ落ちた。
「あなた、少しも薔薇が似合っていません」
 シエルはそれがワイルドローズの引いていたカードだと感付いた。台詞と同時にワイルドローズの顔目掛けて思いっきり拳を叩き込み、すかさずナイフを抜いて彼の首筋に突き付けた。
「フフフッ、確保完了。あなた達も抵抗しないでくださいね。この人に騙されていたことにすれば、罪も軽いでしょうから」
 既に護衛の1人はケイティが倒していたし、残り2人はティアナとナナシが押さえていた。

 こうしてワイルドローズ一味は取り押さえられ、騎士団に引き渡された。
 だが、この酒場で乱闘騒ぎは御法度である。しかも、机や椅子を(ワイルドローズや護衛が倒れて)壊してしまったため、シエル達も顰蹙を買ってしまい酒場のオーナーに絞られた。
 シエルはワイルドローズに取られた分のお金は返してもらえたので、気にしなかったが。

「キミのお陰でワイルドローズの悪事を見破ることが出来たわ」
「言ったでしょ? ただ漠然と正面から見ても真実は見えない。賭け事も同じさ。カードは偶然に巡ってくるけど、カードを切るのは人‥‥その人の真意を見極めることが出来るようになれば‥‥幸運の女神は微笑むんだよ、あなたのようにね。さようなら砂漠の国の女神」
 騒ぎが一段落した後、ケイティはワイルドローズのイカサマを見破る切っ掛けをくれた青年に礼を言った。彼は左手にはめた手袋を右手で押さえながら立ち去っていった。
「確かワイルドローズ殿は、身体のどこかに薔薇の刺青があるのだよな?」
「薔薇の刺青‥‥? まさか!?」
 ナナシの言葉に、ケイティは弾かれたように店の外へ飛び出すが、既に青年の姿はなかった。

 後日、捕まったワイルドローズは彼の名を騙った偽物だと分かった。男性の身体にはどこにも薔薇の刺青がなかったのだ。
 伝説のギャンブラー、ワイルドローズ、その正体を知る者はいない――。