腐肉鼠、ただただ喰らうモノ

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月12日〜09月19日

リプレイ公開日:2004年09月17日

●オープニング

 周囲一体に異臭が漂っている、その中心は今目の前にある洞窟の入り口で間違いはないだろう。そして、更に洞窟より異臭があふれ出し、周囲に充満する。吐き気を催す臭いに続いて、暗い穴倉より出てきたのはジャイアントラット。いや、ジャイアントラットだったモノと呼ぶのが正しいのだろう、その瞳に宿る光は生者のそれではない。
 通常の生命体が持つ『生』の力ではなく『負』の力によって、この世に留まり動き続けるモノ。アンデッドと大別して呼称されるモンスターだ。穴倉より這い出るように地上へと現れたそれは、生前よりも更に旺盛な食欲を発揮して、周囲の生あるものを貪り喰う。
 彼等はアンデッドの中で更に分けられた区分によるとズゥンビ系と呼称される部類になり、そのズゥンビ系アンデッドは、肉体があるがゆえにその『死』の痛みに苦しんでおり、生者に襲い掛かって仲間にするか、その血肉を貪る事によって痛みを紛らわせようとする。
 捕食は生を繋ぐためではなく、ただ己の痛みを紛らわす為。その行為に際限は無い。

「・・・・というわけで、村周辺が取り返しのつかない事態になる前に相手を完全に叩く。これが、この依頼の内容だな」
 肉体があるがゆえに、その肉体を完全に叩いてしまえば倒せてしまえるのも、ズゥンビ系の特徴である。とは言うものの、ズゥンビ化したモンスターを完全に叩くまでに攻撃を加えるのは骨の折れる行動だが。
 このまま放っておけば、村周辺の小動物はズゥンビジャイアントラットに喰われるか、それを恐れてどこかへ移ってしまう。そうなれば村の猟師達はその糧を失い、ひいては村の存続も危ぶまれる。まだ村への直接的な被害が出ていない内に一刻も早く、と、こうして冒険者ギルドに新しく依頼が舞い込む事になった。

●今回の参加者

 ea0219 ラフィス・クローシス(20歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1888 アルベルト・シェフィールド(35歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea3305 スケル・ハティ(29歳・♂・神聖騎士・人間・ノルマン王国)
 ea4284 フェリシア・ティール(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea4567 サラ・コーウィン(30歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea4919 アリアン・アセト(64歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea5264 シオン・クロスロード(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea5624 ユリア・フィーベル(30歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)

●リプレイ本文

●ボム&ウォール
「大丈夫。周囲を一回りしてみたけど、ズゥンビジャイアントラットらしき影はないわ。そっちは?」
「何かが蠢いているのは分かりますね・・・・これ以上近づいたら、多分気づかれますよ」
 ラフィス・クローシス(ea0219)が戦闘開始前に、周囲に既に洞窟内より出て行ってしまっているズゥンビジャイアントラットがいないかを、その目を生かして確認しに行き、アルベルト・シェフィールド(ea1888)が、インフラビジョンを用いて洞窟内部を確認する。
 アルベルトは目の良いほうではないし、相手はズゥンビ化してしまっているので周囲との温度差は殆ど無く、インフラビジョンを用いているとは言っても内部の様子はあまり窺い知れない。だが、それでも何かが動いている事だけは分かった。状況からしてこれがズゥンビジャイアントラットに間違い無いだろう。
 なお、先の会話には正確には間にサラ・コーウィン(ea4567)が入って、通訳をしている。ラフィスはイギリス語しか話せないし、アルベルトはゲルマン語しか話せない。今回の依頼に参加して冒険者の中で、その両方の言語を話せるのはサラだけだった。

「困っている人の為だもの、どんな相手でも全力で戦うだけだわ。まずは予定どおり火攻めかしら?」
 フェリシア・ティール(ea4284)がそう確認する。どうやらまずは洞窟内にファイヤーボムを撃ち込み、相手の体力を削ぐ予定らしい。
 この魔法は爆風を起こすが、それは魔法の力によるものなので、周囲に可燃性の高いものがあった場合にたまに火がついてしまう事はあるが、基本的に火は燃え移らない。だが、狭いところではその爆風の範囲が倍程度に延びるという特性がある。洞窟内に撃ち込めば、間違いなく術者や周囲の仲間までに被害が及ぶだろう。
「爆風が延びてきそうだが、安心してくれ。俺がホーリーフィールドを張る」
 スケル・ハティ(ea3305)がそう皆に告げる。だが、実際にファイヤーボムを撃つウィザードのラフィスやアルベルトは、洞窟の外や入り口に撃つつもりでいた。
 それもそのはずである、ファイヤーボムの威力はホーリーフィールドの耐久力より高い。相手が出てきてしまうまでに詠唱を終え、張るとしたら一枚が限度。2名のウィザードがファイアーボムを撃てば、1発目でホーリーフィールドは解呪、2発目はマトモに喰らってしまう。
 だが、先制攻撃ができ、かつその後も容易に包囲状態に持っていけるこの案は悪くない。相談の末、ファイアーボム以外も使えるアルベルトには次に備えてもらい、初撃はラフィスに任せる事になった。

 ホーリーフィールドが張られ、続いてファイアーボムの火球が洞窟内に飛んでいく。ほどなくして爆発音と爆風、ホーリーフィールドは案の定解呪された。そして洞窟内部より異臭が溢れ、ズゥンビジャイアントラット達が這い出てくる。
 瞳に不気味な光を湛え、皮膚は腐り、先程の攻撃を受けて焼け爛れている、それでも尚も、こちらへと向かう歩みが緩む事は無い。普通の者ならば恐怖で足が竦むだろう。
「今度こそ蘇らない様にきっちりとカタをつけるか」
 だが冒険者達は怯まない。成さねば被害を受けるのは無力な村人達、これが冒険者達の仕事だ。


●オーラ&レジスト
「何をしているの、早く!」
「す、すみません。ちょっと待って下さい!」
 魔法というものは効果は確かに高く、修得さえすれば特に必要な物もないため、非常に利便性が高い。だが、それは万能の利便さではない。
 フェリシアとシオン・クロスロード(ea5264)は手分けしてオーラパワーを前衛にかけようとしていた。威力が増すばかりでなく、アンデットに対して更なる効果を付与するこの魔法は、この状況下においては他の追随を許さないほどに優れた魔法になるだろう。
 だがそれは相手の襲撃に間に合うよう成就したならばの話。魔法は発動させるために多くの行動力を必要とする。オーラ魔法は少し変わっていて、通常の倍の時間をかける事で一度に多くは必要というわけではないが、トータルで必要な行動力は同じだ。
 シオンがその両の手に持った物を離せば、通常の時間で成就させれただろうが、それだと今度は彼女が危ない。敵に襲われながら地に落ちた物を拾うのは、かなり危険な行動だ。

「う・・・・もう、魔法を使えそうにありません・・・・」
 少しだけ時間が前後するが、アリアン・アセト(ea4919)は1分強の後に全てのMPを使い切っていた。その道を歩み、高位の効果を得れるようになった魔法は、その威力や用途を広げる分相応に精神力を消費する。
 しかも高位の効果を得るのは難度が高い、彼女が専門クラスの魔法を成就させれるのは確率にして3割程度。なんとか前衛の全員にレジストデビルをかけることが出来たものの、それでも少し運が良かったと言わざるをえない。


「まだ、倒れないの? 臭いんだから、早く倒れて下さい!」
 洞窟入り口で戦闘を開始したため、相手は入り口の所に位置しており、同時に戦わねばならないズゥンビジャイアントラットは3体程度で済んでいるものの、最初にオーラパワーとレジストデビルの補助をもらったサラは、たった一人で奮闘していた。
 その斬撃は、ズゥンビジャイアントラットを深く深く斬り裂く。その身はたまに相手に捉えられるが、通常より強いはずのその牙でさえ、今の彼女にはカスリ傷にしかならない。アリアンがその精神力を使い果たしてまで付与した力は、普段身に纏っている鎧と共に、確実に彼女を守ってくれていた。
「少しだけ遅くなっちゃったけど、剣を抜いたら容赦はしないわ!」
 フェリシアは自身にオーラパワーをかけ終えると、すぐにサラの隣に駆けつけ確かな援護になった。1人と2人ではかなり違うが、それでもまだ前衛の数が足りない。シオンはほどなくして駆けつけたが、それまでに時間がかかりすぎていた。彼女は相手が出てきてからオーラパワーの念集中を開始したが、フェリシアのように戦闘開始前から始めるべきだったのだ。
 今回は補助魔法の効果もあってなんとか大事には至らなかったが、もし、レジストデビルの補助が無かったり、ユリア・フィーベル(ea5624)が、レジストデビルが前衛全員にかかり終わるまでリカバーを唱え続けていなければ、どうなっていたかは分からない。
 それにしても流石に専門クラスの魔法の効果といったところだろうか、サラもフェリシアもシオンも、カスリ傷しか負っていない。しっかりと身を固めた者に更なる防御力が加わっては、文字通りズゥンビジャイアントラットでは歯が立たなかったのだ。

「くっ、ホーリーフィールドが全然持たない!」
 スケルは何度も何度もホーリーフィールドを展開したが、毎回一瞬にして打ち破られた。ファイアーボムしか使えないラフィスが攻撃に加わるには、なんとかしてこちらに被害が出ない状況にしなければならない。だが相手の牙はホーリーフィールドの耐久力を上回っているし、相手の欠点である命中能力の低さは壁が相手ならさっぱりと消え去ってしまう。
「大丈夫! 周りに他のズゥンビジャイアントラットは居ないみたいだから、皆頑張って!」
 どう考えても、ファイアーボムの爆風の範囲に味方が入ってしまう。仕方ないのでラティスは頭を切り替えて周囲の警戒に回った。イギリス語で発せられる彼女の言葉を理解出来ているのは、サラだけであろうが、周囲の警戒をディテクトアンデッドを用いて行う気で居たアリアンは、精神力を使い果たしてもう魔法を使用する事が出来ない。

「マグナブロー!」
「これで、終わりです!」
 吹き上がるマグマの炎に焼かれたズゥンビジャイアントラットにサラがトドメの一撃をさし、戦闘は一旦の終わりを迎えた。ラティスの方も相変わらず周囲に異変は無いと皆に伝えてくる。とりあえずこれでひと段落だ。


●迷える魂よ神の御許に
「・・・・ピュアリファイ、迷える魂よ神の御許に」
 ユリアがピュアリファイを用いて、ズゥンビジャイアントラットを浄化していく。
 彼女が魔法を唱えれないほど消耗していたら、ズゥンビジャイアントラットには油をかけて焼却してしまうつもりだったが、どうやらそれをする必要は無く、全てのズゥンビジャイアントラットをピュアリファイによって浄化する事が出来そうだ。眩い光に包み込まれ、ズゥンビ達はその存在を失くしていく。

「どうやら、洞窟内にはもうズゥンビジャイアントラットは残っていないようです」
 アルベルトも、もう魔法を唱えれる回数が心許ない。洞窟内にズゥンビジャイアントラットがまだいるとしたら、あの騒ぎで出てこないのはおかしい。念のためインフラビジョンを用いて内部を覗き見るが、動いているモノがあるようには見えない。

 洞窟周辺には未だ悪臭が残ってはいるが、それもしばらくすれば無くなるだろう。日も陰りだした。こんな所での野宿はゴメンだと、冒険者達は近くに位置する村、依頼主の村へと足を速めるのだった。