【朱と蒼】猛き鬼と疾き賊

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:1〜3lv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 78 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月18日〜09月25日

リプレイ公開日:2004年09月25日

●オープニング

「ヒデェもんだな、こりゃ完璧にやれちまってる」
「ええ、被害にあったのはこの一軒だけのようですが‥‥」
 とある一つの村の家屋がモンスターに襲撃された、オークやゴブリンによるこの手の被害はよくある事だ。その報を受けて駆けつけてきたのが、今目の前に居る2名のファイター。数度同じ依頼をこなした事のある仲で、今回は別々の依頼の帰り。パリへの帰路の途中、たまたまこの村で鉢合わせたらしい。
「‥‥おい。気になったんだがこの家、色々と盗られてねぇか?」
「そりゃゴブリンやオークだって、価値があると思えば盗んではいきますよ」
「いや、そういう事じゃねぇ。奴等がやったにしては‥‥キレイだ」
「キレイって?」
「賊も入り込みやがったんじゃねぇかって事だ、勘だがな。ま、こーいう時の乙女の勘はアテになるぜ?」
「勘ですか、しかも乙女って‥‥」
「‥‥んだよ、その顔は」
 今まで同行した依頼での立ち振る舞い、今も変わらぬその口調。何をどうして乙女と言うのか‥‥と、じと目で見てくる相手に、やはり乙女とは言いがたい表情で返す彼女であった。

 だが、村人に詳しい話を聞くにつれて、その彼女の勘が間違ってはいない事が証明された。確かにこの家を襲ったのはオークだが、そのオークが帰ったその直後に、数名の人間が家の中へと入って行ったらしい。ここまでだけならオークと賊に協力関係があるのかもしれないが、どうやらオークは西へと帰って行き、賊は東へと帰って行ったそうだ。
「つまりこの場合、賊がオークを利用して火事場泥棒を働いたって事になりますか」
「ま、そういうこったな。こりゃ冒険者ギルドに依頼が出るな、早いとこパリに向かわねぇと」
「それならいっそ、僕達も村から依頼を持っていく人と一緒にパリに向かったほうが」
 彼等が現地で依頼を受けるという手もありだが、2人で戦うには相手の数が多すぎる。
「いや、おまえはここに残って相手のアジトを見つけておけ。心配しなくてもギルドにもう一人参加者が居る事は言っておくからよ。こっからだとパリまでは往復6日ってとこか、それまでには見つけておけよ。ちゃんと両方な」
「へ? ‥‥えええええ」
 だが結局、彼は断われなかった。‥‥別に彼女は対応として間違った事は言ってはいないのだから。


 その3日後。場所はうってかわって、パリの冒険者ギルド内。
「‥‥とまあ、そういう経緯で彼女が今ここに居るわけだ」
 依頼自体はその村からの依頼になる。ギルドからの推奨として立てられている大まかな作戦の流れは、双方を同時に潰す事。その犯行の形から、賊を優先してはその間にオーク達が村に被害を与えるだろうし、オークを優先してはその間に賊は村周辺より逃げ出してしまう事だろう。
 そこで参加者を二つに分けて両方を同時に殲滅にかかる。オーク側は目の前にいる女性のファイター、賊側は相手のアジトの捜索を行っている男性のファイター、それぞれの班に同行して依頼に協力してくれるそうだ。
「相手はオークと賊っていうのは分かってるんだがな、どうやら詳しい数は特定できてはいないそうだ。オークは2体ぐらい、賊は4名ぐらいというのが証言で最も多かったらしいが、それより多い可能性も無いとは言い切れない。この依頼を受けるのなら、オークと賊のどっちに行くかは決めておくようにな」

●今回の参加者

 ea1545 アンジェリーヌ・ピアーズ(21歳・♀・クレリック・エルフ・ノルマン王国)
 ea3075 クリムゾン・コスタクルス(27歳・♀・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea4263 ホメロス・フレキ(34歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea5225 レイ・ファラン(35歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea6027 ウォ・ウー(40歳・♂・ファイター・ジャイアント・イスパニア王国)
 ea6632 シエル・サーロット(35歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea6905 ジェンナーロ・ガットゥーゾ(37歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6960 月村 匠(39歳・♂・浪人・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●アジトの場所
 ユアンが調べた相手のアジト、まずはオークの方だが、これはやや小さめのごく普通の洞窟であるそうだ。入り口は一つ、奥行きもそれほどない。ただ、周囲は山肌が露出しており障害物が全く無いため、何か罠を仕掛けたりするのには向いていないらしい。
 次に盗賊の方、こちらは村に近くに位置する砦跡をアジトとしているらしい。規模も小さく、既に砦としての機能は全く残っていないが、少し小高い所に築かれているため、村で何か起こった場合に直にそれに気づく事が可能であるように思えたそうだ。オークの襲撃後に火事場泥棒を働いた事から、その予想はおそらく間違っていないだろう。


●森に伏せる盗賊
 盗賊達のアジトまでの距離は、村からはそう離れていない。幸い、アジトの砦跡からは木々が遮ってくれているので、街道の様子が知られる事はないが、わざわざこちらの接近を知らせる必要はないだろう。冒険者達一行は、詳しい道のりを知っているユアンを先頭にして足を進めていた。
「ふんわか行きましょう、ふんわか」
 ホメロス・フレキ(ea4263)は、ウィザードでありながら、剣と盾を身につけている。彼によると、何でも前線で剣をふる事も出来るウィザードを目指しているようだ。剣と魔法の双方を使用する冒険者は、神殿騎士や月道を渡ってきた志士と呼ばれる異国の者など、あまり珍しい存在ではないが、ウィザードがそれを目指すとは珍しい。

 現地の村につく頃には最初の襲撃より日数が経過しており、次の襲撃が懸念されるため、すぐにアジトへと攻め込む手筈になっていた。これはユアンも了解したし、ここから新たに味方で打ち合わせる時間もないので、村までの道中に冒険者達が決めた戦闘方法で相手のアジトに乗り込むのにも、異存は無かった。
 先に挙げたホメロスが特にその分かり易い例なのだが、ユアンには冒険者達がどの技能を修得していて、どういった戦い方をするのか、新たに作戦を提案できるほどに把握する時間がないのだ。


 ウォ・ウー(ea6027)の合図で冒険者達は盗賊のアジトに接近する。アジトとして使われている以上、相手も周囲の警戒はしているので、冒険者達が入り口へと辿りつく前に、盗賊が飛び出してくる。手にはナイフやダガーを持っているが、体には鎧を纏っている事もない。情報通り、軽装だ。
 そして、盗賊達は目前に立ちはだかる大男、ウォを一瞥すると、一目散に逃げ出した。

 作戦の概要通り、味方の左翼の方から敵を囲む位置にいたユアンは驚きを隠せなかった。なんという事か、自分達にとっての右方向にポッカリと穴が開いているのだ。
 相手が軽装、それはマトモにぶつかった場合にこちらが負ける事は無いと同時に、向こうはこちらよりも速く動けるという事だ。当然、相手を包囲するように動くなら『戦闘開始前』だとユアンは思っていたが、冒険者達は『戦闘が開始されたら』と思っていた。
 今回の相手である盗賊は、自分達だけで村を襲う事もなく、オーク達が襲ったあとに火事場泥棒を働いていた。ずる賢く、臆病な者の集まりだ。ぶつかりあって勝てそうも無い相手に、自ら挑んでくるなどあり得ない事である。ましてや、2m超の大男に眼前に立ちはだかられては、戦意など沸こうはずもない。

「くっ‥逃がすわけには。 手加減出来ない、ゴメン!」
 猛然と盗賊に追いすがり、渾身の力でもってロングスピアを突き出す。彼の武装は軽装ではないので、このチャンスを逃せばもう盗賊に追いつく事は出来ない。下手に急所に当たるなどという事にならないでくれ、その思いと共に突き出された槍は、深々と盗賊に突き刺さった。

「大地の精よ、我に力を!地精召喚、グラビティーキャノン!」
 ユアンの他に、一番速くこの事態に対処出来たのは、前に出るという意思のあったホメロスだった。彼の接近戦闘技術はまだ未熟であるので、相手に迎え撃たれたら逆に窮地に陥っていただあろうが、今回はその意志が良い方向に転んで出た。
 確かに詠唱完了までに10秒という時間はかかったが、この状況下においてグラビティーキャノンの追加効果、転倒をさせるというのは実に有効に働いた。ウォも月村 匠(ea6960)も相手が襲い掛かってくるとばかり思っていたので、何も対処する事が出来なかったのだ。
「慈愛の神の鉄槌をもって、あなた方に裁きをくだします‥コアギュレイト!」
 盗賊が転倒している間にアンジェリーヌ・ピアーズ(ea1545)が距離を詰めて、その身を魔法で縛る。そして、ウォがその盗賊を手持ちのロープで、しっかりと捕縛する。依頼終了の後にこの盗賊には、しかるべき場所で、しかるべき裁きが下される事だろう。


「ダメだ‥見失ってしまった‥」
 匠は落胆の色を隠せない。逃がした盗賊は2名、捕えた盗賊も2名、半数を逃がしてしまった事になる。依頼としては、残念ながら失敗の部類に入るだろう。
「オーク班の皆様は無事でしょうか‥」
 アンジェリーヌが心配そうに呟く。こちらとは違い、向こうの冒険者達とオーク達は今頃ガッチリとぶつかり合っている事だろう。今回の依頼が初めての依頼だという者もいたのだ、心配するのも無理もない。


●山にそびえるオーク
「ダメだ〜。地面が硬くて、ちょっと落とし穴は掘れそうにないわ」
 落とし穴を掘ろうという作戦は、強固な地面に邪魔をされた。頑張れば掘れないという事もないのだが、おそらく掘り終える頃には日が暮れてしまうだろう。オーク達を挑発して罠に嵌めてやろうと考えていたクリムゾン・コスタクルス(ea3075)はちょっと残念そうな顔をしたが、もう一つの作戦がある事を思い出し、頭を切り替えた。

 レイ・ファラン(ea5225)がオークのアジト入り口にロープの罠をしかけ、ジェンナーロ・ガットゥーゾ(ea6905)が洞窟内に火のついたたいまつを投げ込む。
「焼けちゃってくれれば助かるけど、おそらく逃げ出してくるだろ〜な〜」
 何も燃え移る物が無い洞窟内にたいまつ一本投げ込んだところで、普通相手は焼けないし、逃げ出してもこない。むしろ、何かしらの敵が自分達の棲家を荒らしに来たのだろうと思うだろう。オークの一体が地に落ちたたいまつを拾い上げ、入り口へと近づいていく。


「来た!」
 入り口から、ぬ‥っとオークが顔を出した瞬間、レイが思いっきりロープを引く。敵を視認し、叩き潰そうと槌を振り上げたオークは、その体勢のまま豪快に地に倒れ伏した。
「この豚が! やっぱり引っかかりやがったぜ!」
 倒れたオークに、クリムゾンとジェンナーロが斬りかかる。2人のロングソードはざっくりとオークを斬り裂き、確かなダメージを与えたのだが‥
「ぐがあああっ!!」
 怒りの形相でオークが飛び起きる。ジェンナーロはロングソードで斬り裂いた後に、逆手に持ったダガーをオークに突き立てたはずなのだが、カスリ傷にしかなっていないように見える。流石にオークというべきか、恐るべき身体の頑強さ。あと何度、斬撃を浴びれば倒れてくれるのだろうか。
「ぐううぅっ!」
 ガギッ、ガギギギギィ‥‥!
 振り下ろされる槌を、ジェンナーロがなんとか受け流す。 耳障りな金属の摩擦音と共に、槌はロングソードを渡っていき、そのまま地面を激しく打ちつけた。

 めぎょ‥‥!
 嫌な音の方向に目を向けると、戦場に二本目の姿を表した槌が、レイの体を大きく弾き飛ばしていた。洞窟から出てきた、2体目のオークの仕業だ。
「レイ、大丈夫か!」
 思わずクリムゾンが声をかける。レイは苦悶の表情で必死に痛みを堪えながら、それでも落ち着いて体勢を立て直し始めている。皮肉な話だが、彼のような近接戦闘能力に長けた者ならば、下手に回避する事を考えるよりも、その剣を頼りに技でもって相手の攻撃を流すほうが確実だったりする。
「まだ大丈夫だ、このまま数の優位を生かして相手を潰すぞ!」
 いざという時の為に、リカバーポーションはバックパックに入れずに携帯しておくべきだったか。軽く自分の失敗を悔やむが、一撃だけならばまだなんとかなる。体の具合を確かめたレイは、オークをクリムゾンと挟撃出来る位置へと移動を始めた。

「う、嘘でしょう?! オークごときにわたくしの魔術が効かないなんて!」
 シエル・サーロット(ea6632)は驚愕の後に絶望に襲われていた。彼女の放つオーラショットは、何発放たれようともオークにカスリ傷以上のダメージを与える事は無かった。それどころか、半分以上は全く傷をつけれていないようにも見えた。他の仲間のように武器を持って来ていない彼女には、もうオークに対して攻撃手段がない。
「ユアンのお節介に感謝しろよ!」
 一対一でオークに当たらざるを得なくなっていたジェンナーロに、グラケルミィが加勢する。シエルやジェンナーロは依頼を受けるのが始めて、というのを聞いたユアンが、グラケルミィに進言しておいたらしい。


「いい加減に倒れろ!」
 オフシフトからのカウンターアタックで、レイが強烈な一撃をオークに叩き込み、戦闘を終わらせる。もう一体のオークは、ジェンナーロの斬撃を受けて動きの鈍ったところを、グラケルミィがぶった斬って終わらせている。
 時間はかかったが、こちらの被害といえば、後方に居たシエル以外が一撃ずつ貰ったぐらいだ。後で、アンジェリーヌに癒してもらう事が出来る範囲の怪我である。グラケルミィが前に出ていればもう少し早く終わっただろうが、今回はユアンのお節介を聞き入れて、一歩引いてサポートに回っていた。


●やや失敗の部類
 成果を挙げれなかった冒険者達は落胆の色を隠せないが、この経験を糧として成長してくれるだろう。
 最後にグラケルミィからの伝言を記載しておく。『出発直前に慌てんで済むよう、飯ぐらいちゃんと用意しとけ』だそうだ。