【後方支援】高みを目指す者、商品輸送
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■ショートシナリオ
担当:MOB
対応レベル:1〜3lv
難易度:やや易
成功報酬:1 G 10 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:09月28日〜10月10日
リプレイ公開日:2004年10月04日
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●オープニング
男はある程度の成功をおさめ、それを元手に更なる高みを目指そうとしていた。そう、彼は商人と呼ばれる職業に就いている者。やはりその道を歩むならば、徐々に徐々に単価の高い物を取り扱ってみたいというのが人の常だ。
さて、ここジ・アースで単価の高い物・・・・特に希少価値ゆえに高い物と言えば、月道を通しての交易によってもたらされる品々というのが、広く一般的である。今回の依頼主である商人が、取り扱い始めようと決心した品物も、そういった品々の一つだ。
「・・・・と、そういうわけでな。詳しい依頼内容を説明するぞ」
今回の依頼内容は、商品の輸送。
どこからか情報を手に入れたのだろうか、一度目の輸送は野盗の妨害に合ってしまい、商品は無事ではあったものの元の街に引き返す事になってしまった。そこで、今回は商人が半専属的に雇っている冒険者(冒険者としては、運送業という副業をしているという形になる)の殆どを集めて護衛を増やし、確実に運ぶ事にしたのである。この分野ではこの仕事が初仕事、契約不履行などあっては以降の仕事に大きな損失となってしまう。今回で運んでしまわないと納期に間に合わないので、念には念を、という事なのだろう。
ここで問題になったのが、その集められた運送業を副業としている冒険者達が、本来ならば運ぶ事になっていた商品の数々である。もちろん、その中でも重要なものは元々の担当者が割り当てられているが、運び手が足りなくなってしまっている商品もある。
「つまり、重要な輸送に人を集める必要があるので、その分足りなくなった人手‥‥って、あれ?!さっきまで話を聞いていた奴等は何処にいった?!」
「あっちの壁に貼ってある依頼書読んでます」
「‥‥ともかく、色々と運ぶ事になるので拘束期間が長い。代わりと言ってはなんだが危険度が低いし、期間中の食費は全て向こうが持ってくれる。割が悪い仕事ではないはずだぜ?」
もう一度冒険者達を集め直し、最後の説明をギルド員は終えた。冒険者としての活動ではなく、副業をやるような感じの依頼なのだが‥‥結構、冒険者というのは何でも屋みたいに思われているのだろうか。
「まぁふてくされるなって。依頼主にしても大事な仕事は、やはり慣れていて信頼の置ける者に任せたいもんだろ? お前等も、もう少ししたらそういう依頼が回ってくるだろうさ」
こういう時の『もう少し』は油断ならない。そういう目でギルド員を見つつ、冒険者達はこの依頼を受けるかどうか、しばし思い悩むのであった。
●リプレイ本文
●手荷物
「おお、話に合った臨時の手伝いだな、よろしく頼む」
依頼を受けた冒険者達は、最初に向かうように言われた倉庫前で、ジャイアントの冒険者と思わしき人物から声を掛けられた。どうやら彼が、今回の依頼主が半専属的に雇っている運び手達のリーダー的な存在のようだ。
「すまんが後少しだけ待っててくれ、先にこいつを荷車に積んじまうからよ。 ああそうだ、この間に奥に行って仕事始める準備をしてきな。まさか、その荷物抱えたまんま仕事やろうってんじゃないだろ?」
彼がクイッ‥と親指で挿した先には木箱が数箱。続いて目線で示唆した先は、冒険者達が背負っているバックパック。言われてから冒険者達は気づいたが、このまま荷の輸送や積み下ろしを手伝うのは、ちょっと厳しい。
あまり意識していないのかもしれないが、このバックパックは戦闘時は邪魔になるので地面等に置くが、それ以外の時は基本的に携帯している。武装や携帯品に至っては、常に装備したまま持ったままだ。今回の件などでは、商品の輸送中に不必要な荷物なら、一声かけてくれれば依頼主の方で預かってくれるだろう。
また、着込むのに時間のかかる鎧などの防具ならともかく、すぐに取って戦闘準備に入れる剣などの武器ならば、荷車の分かり易い場所に一緒に積んでもらうのも良い。事実、ジャイアントの冒険者は自分の得物である大剣を、荷物の上に積んでしまっている。
●シフール奮闘記
「整理を始める前に聞いておくが、これの名称はなんなのだ? 見た事がないのだが‥」
唯一のシフール参加者、メノリ・アルトワーズ(ea6439)は他の参加者とは別に、倉庫内で小物の整理と計数の仕事に回されていた。商業について少しかじっている者など、『棚卸し』という用語を知っている方は分かるかもしれないが、月に何回かは帳簿の在庫数と実際の在庫数が合っているかどうか確かめる。これがまた結構大変な作業なのだ。
「ああ、それか。それは香辛料って言ってな‥俺達庶民には手の届かない、貴族様専用の品さ。値段は確か‥‥」
「ええっ‥?!」
値段を聞いたメノリは驚かずにはいられない。シフールらしい好奇心の強さからか、手に持っている商品の事を聞いてみたところ、まさかそんな答えが返ってくるとは。
「‥冗談だ、そいつはただの砂糖さ。価格は‥確か嬢ちゃんと同じぐらいの重さで1Gぐらいだ」
中身が見えないのをいい事に、少しからかわれたらしい。しかし、砂糖でも一般人ではあまり手の出るものではない。懐具合の良い時にたまに、具体的に言うと28日を過ぎてからの3日間に食べる事がある程度だ。
●本日は晴天なり
「メノリさんも頑張ってるかな」
ジェンナーロ・ガットゥーゾ(ea6905)は、つたないゲルマン語で同行しているセリーヌ・ベシェール(ea7019)にそう話しかけた。彼等2人ともう1人、元より運送業を副業にしている冒険者、合わせて3人がこの班の内訳だ。
野営中の今もそうだが、日中はこれに輪をかけて平和だった。のんびりと荷車を引っ張って歩きながら、秋へと様変わりを始めている景色を楽しむ。流石に上り坂を登りきった後などは少し疲れたが、大したトラブルもなく、依頼内容は消化されていく。
「提案してくれたとおり、あなたには少し長めに夜の番をお願いするけど、大丈夫かしら?」
「ああ、おいら少しはこういうの得意だからさ、平気だよ」
「そう。じゃあ依頼が終わったら、お礼にハーブティーをご馳走するわね。ホントは今作ってあげたいんだけど、休憩中に摘んだハーブはまだ乾燥しきってないし」
『ローマの夜空もよかったけどノルマンの夜空もすばらしいなぁ』
今度は自国語、ラテン語でそう呟く。そういえば同郷の冒険者も同じ依頼に参加してはずだ、彼の班のほうもうまく仕事がはかどっているだろうか。パチパチと燃える焚き火を見つめながら、得物の手入れをし、時折眠気を覚ます為に体を動かす。
目的地までは、あと半日ほどの距離らしい。
『‥なんかいい天気だねぇ。まさにピクニック日和じゃありません?』
『そうだな。雨など降られては、一転して割に合わない仕事になってしましな』
言っている事は軽いが、紫微 亮(ea2021)はしっかりと手を動かしながら姚 天羅(ea7210)に話しかける。2人が今話しているのは華国語だ。
この班にはもう一人、ゲルマン語を話せるノーテ・ブラト(ea7107)がいる。彼は今、この班のリーダー、つまり元より運送業を副業としている冒険者と、荷について話しているはずだが‥‥
『バルバルスは怖いなー』
2人の下に戻ってくるなりラテン語でそう言った。バルバルスというのは、ラテン語で異国語を話す蛮人の意であるらしい。少しはラテン語の分かる天羅が何があったのか尋ねると、どうやら自分の馬に輸送する品の中でも大事な物を載せようとしたノーテに、少し相手が怒ったらしい。
「まあ、気の短い奴だと思って我慢しとくか?」
「仕方ないですね‥‥」
元々、単に人手が足りないから依頼を出しただけなので、運び方に口を出されるの嫌ったのだろう。もしくは、単純に荷の一部を自分の馬でも運ぶと言えば良かったのかもしれない。取扱いに注意が必要な物は、やはり慣れた者がやった方がいいのだから。
「大したモンなんだな、魔法ってのは‥‥」
日程も終わりに近くなった頃、空模様があやしくなってきた。雲の色からして大雨が降るという事はあまり考えられないが、いつ小雨が降り始めてもおかしくない雰囲気だった。
案の定、出発してから2時間ぐらい経った頃に雨が降り始めたが、ルーチェ・アルクシエル(ea7159)がウェザーコントロールで天気を一時的に変えた。空を見上げてみると、雲は依然として空に存在し、いつ降り出してもおかしくない雰囲気、一時的に雨が止んでいるといった感じだ。ジャイアントの冒険者も、これには驚きを隠せなかったようだ。
「ルーチェさん、これって具体的にはどういう魔法なんですか?」
「んー‥、それが結構あやふやなんだよね」
ウェザーコントコールは違和感が感じられないように、天気を一時的に変える。その為に唱える度に、効果が及ぼされる範囲は変わるし、目に見える効果も変わる。今回のように雨から曇りに変えれば、単に雨が止むだけだし、晴れから曇りに変えれば、おそらく太陽が隠れるぐらいだろう。
「ともかく、雨が止んでいるうちに急ぐとしますか」
スティル・カーン(ea4747)が愛馬のメテオローを歩みを再開させる。今回の輸送を終えれば、依頼内容は全部消化した事になる。道中は平和そのもので、天気にも悩まされる事が無かった。依頼は、予定よりも少し早く終わる事になるだろう。
だが、もう季節も本格的に変わり始め、日中はともかく夜になれば冷え込む日もある。寝具を用意していない冒険者は、少し体調を崩しかけた事もあった。今はまだいいが、冬が近くなってきたら毛布ではとても凌げなくなってくるだろう。
●剣の舞
剣法。華国の戦士が使用する伝統的な剣の流派で、その剣運びは激しく静と動、攻と防が入れ替わるもので武踊に見えるほど。この流派を修めている天羅と、剣舞に興味のあるルーチェとで、一つ舞いを踊ろうという話が持ち上がっていた。互いに言葉の通じないので、間にノーテに入ってもらい、互いの動きを打ち合わせる。
亮の笛の音を合図にルーチェが仕掛ける、そのナイフを天羅がロングソードで受け止める、その合を始めとして、2人の舞いは始まった。
「本当に、踊っているようにも見えますね‥‥」
思わず呟いたノーテだけでなく、その剣舞を観ている他の者をそう感じていた。実は2人とも舞踊に関しての知識と技術を、結構な水準で持ち合わせている。それも一因なのかもしれない。天羅が次々に繰り出す斬撃を、ルーチェが華麗に避わしていく。
舞も終わりに近くなり、天羅が今までと動きの違う踏み込みからロングソードを振り下ろす。
(間に合わない‥‥?!)
観ている者はそう感じ、咄嗟に体を強張らせてしまうが、それと同時にそこに在ったはずのルーチェの体は、一瞬にして横へと移動し、そして、天羅の体は綺麗な弧を描いて1回転した。
足払いを受け、天羅は派手に転倒したがこれで打ち合わせ通り。剣舞を終えた2人を迎えてくれたのは、セリーヌのハーブティーだった。丁度メノリも仕事を終えてきて、これで全員集合だ。
いやぁ上役が気の短い奴で、こっちは一回数え間違えちゃってさ、などと今回の依頼で起きた事を話し合い、互いを労い合いながらの談笑。彼等はこの先、何を経験し、どんな冒険者になるのだろうか。