ゴブリン、侮るべからず
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■ショートシナリオ
担当:MOB
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:10人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月03日〜10月08日
リプレイ公開日:2004年10月08日
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●オープニング
「ん、いいところに来たな、面白い依頼が一つ入ったところだ」
面白い依頼、それは一体なんだろうか。冒険者ギルドには絶えず依頼が舞い込んでくるが、それらは大体にして単純にモンスター退治が多い。村がゴブリンなどのオーガ族に襲われる事は日常茶飯事で、被害が大きくなる前に退治を依頼しに来るのだ。
「まぁ、これもモンスター退治に違いはないんだがな。しかも相手はゴブリン‥‥おっと、そう興味のなさそうな顔をするなよ。面白い、って言ったろ? 話は最後まで聞くもんだ」
依頼の内容は、ギルド員が言うようにゴブリン退治だった。ただ、依頼書に書かれているゴブリンについての情報が、ちょっと変わった文を含んでいた。村人が目撃したゴブリンは普通よりも体が大きかった、との事らしい。
依頼書を作成するにあたりギルド員が、それはホブゴブリンではないのか? と問うてみたところ、村人は、ゴブリンには違いないと思う、数年前に村が襲撃された時、防衛の依頼を受けてやってきた冒険者達とホブゴブリン達との戦闘を家屋の中より見ていたが、その時に見たホブゴブリンとは明らかに違う。と答えたそうだ。
生物には個体差というものが存在する、それはゴブリン達オーガ族でも変わらない。この個体差というのは、ゴブリンとホブゴブリンといった細かい種族の差とはまた別物。身長の差や体格の差、背の低い者や背の高い者、痩せた者にちょっと体の大きな者、そういった事だ。
「たかがゴブリン。でも、ちょっとは勝手が違ってくるかもな」
ギルド員の言うようにたかがゴブリン、少々体が大きかろうが苦戦を強いられるという事はないだろう。油断さえしなければ簡単な依頼、村までも街道沿いに行けるので保存食も必要無い。ゴブリン相手では物足りないかもしれないが、戦闘経験を積むというだけならリスクも無く、もってこいかもしれない。
●リプレイ本文
●北西より来る小鬼に備えて
「兄さん、もしくはお兄ちゃんと呼んでくれ」
キラキラという擬音が普通に出ていそうな、そんな爽やかな笑顔でエグゼ・クエーサー(ea7191)が、自分よりも年下‥正確には外見の年齢が年下の冒険者達にそう告げる。各人どうにも微妙な反応を返したが、荷物を重そうにしていたので持ってあげたベアトリス・レジテア(ea7295)は‥‥いや、彼女もダメだった。
エグゼは母国語であるゲルマン語の他に、ジャパン語もイギリス語も片言で話せるのだが、ベアトリスはラテン語しか分からない。きっかけはあったのだが、次に繋げる事が出来なかったというか‥‥かくも言葉の壁は厚いのである。
先に挙げた例は分かり易い一例なのだが、今回の冒険者達は使う言語が様々だった。野営の時などの会話では、ジョウ・エル(ea6151)が度々間に入ってやりとりを成立させていたりしたのだ。彼の手が回りきらない時は、ウォ・ウー(ea6027)も通訳の真似事をした。
そうそう野営の時の話だが、もう10の月に入り、昼間はよくとも夜間は冷え込む日が増えてきた。最近寝具を用意しておらず、体調を崩しかける冒険者を多くみかける。自分の為にも、依頼主の為にも、体調管理には気をつけてもらいたい。
「すみませぇん、ゴブリン退治に必要なのでぇ、貸して貰えませんでしょうかぁ」
冒険者達は村に着くと、村長への挨拶もそこそこに早速相手を迎える準備を始めた。冒険者達が村に着くまでに一回、既に村はゴブリンの襲撃を受けてしまっている。仕事熱心な冒険者達に、村人達は快く協力をしてくれた。
エリア・スチール(ea5779)主導の下に作れた罠は、相手の接近を知らせる鳴子と、ロープを使った相手を転倒させる為のもの。残念ながら落とし穴は掘れなかった。村には畑を耕す為の道具はあるが、地面を掘る為の道具は無い。掘ろうとすれば掘れない事はないのだが、少し時間がかかりすぎてしまう。
「んー‥馬を使うのは無理でしょうかねぇ?」
エリアは更に、ゴブリン達を罠まで誘う囮の役をかって出た。それは自分が馬を持っているからで、それを使えば相手に捕まる心配もなく逃げてこれるからなのだろうが、森の中をそのような行動をしながら馬を操るとなると、生半可な技術では到底出来ない。
「仕方ない、俺が行こう」
冒険者達は急遽予定を変更して、囮役に一番向いていそうな仲間を探す。その結果、ディノ・ストラーダ(ea6392)がエリスの代わりに囮の役をする事になった。
●十人十色(前)
「そうだ、そのまま‥‥赤い狼はここだ!かかって来い!」
ディノが森に分け入ってから数刻後、カラァンと乾いた音が村の北西から発せられ、それが戦闘開始の合図になると、冒険者達は一斉に家屋の陰から飛び出し、ゴブリン達を打ち倒すべく駆けてゆく。
「日頃の運動不足にはちょうどよいかもしれんのう」
仲間が駆けつけきらない内に、ジョウが多数のゴブリンを巻き込むようにしてファイヤーボムを打ち込んだ。ゴブリン達は爆風に晒され、その体力を確実に削られたが、彼等にも魔法に対する抵抗力というものは存在する。中には比較的軽い怪我で済んでいるゴブリンもいた。
「俺、戦う。俺、勝つ!」
それはまさに、流派コナンを教えを体現したかのような一撃だった。罠にかかり、爆風に晒され、浮き足だっている所に、ウォはメタルクラブを渾身の力でもって振り下ろしたのだ。
攻撃を受けたゴブリンは何が起こったのか理解出来ていないだろう。一命はギリギリ留めているようだが、もうそのゴブリンには戦闘能力どころか、満足に動く力すら残っていない。
「大きいゴブリンってどんなノか興味あったノに大したコトないネ?」
「そのようだが‥気を引き締めて行くとしよう、確実に倒すぞ!」
少しばかり体が大きいとはいえ、ゴブリンはやはりゴブリンなのかもしれない。しかし、羽生 天音(ea6687)や聯 柳雅(ea6707)のように、手数で戦う者にとってはその多少の耐久力の差が、大きな結果の差を生む事もある。
天音と柳雅の戦い方を比べると、天音に対して柳雅はフェイントアタックを駆使してよく攻撃を当てたが、代わりに相手の攻撃をもらう事も何度かあった。逆に、柳雅に対して天音はフェイントアタックを駆使してよく攻撃をかわしたが、代わりに何度か拳が空を切る事があった。
「戦闘経験は有った方が得だし、頑張ってみようと思ったのに‥」
重い。他の皆‥とはいってもバリバリの前衛系だが、彼等が平然と振り回せるような武器も、ベアトリスの細腕には酷く重く感じられる。これでは、満足に投擲する事は適わない。
「マトモに正面からの方法は、私には合わないのね‥」
哀しい現実である。得手と不得手、それは確かに決まってしまっているのだ。それを覆す事は不可能とは言わないが、今は動きを鈍らせてでも威力の高い武器を使うしかないのかもしれない。
●十人十色(後)
「ちょっとでも足止めになれば良いかな‥‥スリープ!」
ユリア・ミフィーラル(ea6337)がスリープでゴブリンを眠らせ、一時的に敵の手の数を減らす。荷物を殆ど持たずに身軽になり、前衛の陰に回ってはスリープを唱える。一見地味だが効果は高い、援護とは本来そういうものだ。
同じようにディノやアンノウン・フーディス(ea6966)も後方からの援護、こちらは補助ではなく矢と真空の刃による直接的な援護だ。
「確かに少しタフっていうのは本当だな、普通なら矢の一発でも結構効くはずだぜ」
「ちっ‥まさか、ゴブリン相手にカスリ傷にしかならん場合があるとはな‥‥」
2人がゴブリンに遅れをとっているというわけではないが、やはり相手は話通りに少々タフなようだ。
戦闘は開始からずっと冒険者優勢で続いており、このまま決着が着くように思われた。だが、後方からちょこちょことやってくる相手に苛立ったのか、まだ怪我の少ないゴブリンが強引に後衛に迫った。この後の反撃を考えれば、周囲を囲まれる形になるために無謀な行為ではあるが、回避技術を満足に持たず、耐久力に不安を抱える術者達には脅威である。
「させません!」
「エリア、お前は俺が守る!」
もちろん、冒険者達はそれに備えていた。高速詠唱を生かして、比較的ゴブリンに近づいていた為に狙われたジョウを、エリアが庇い更にそれをディノが庇う。‥2重庇いにゴブリンびっくりである。そして、びっくりしている間に、ウォのメタルクラブに吹っ飛ばされた。
「いちゃついてないでこっちだ!」
「いいから私から離れろ!‥宙に舞いたくなければな」
次に狙われたのはアンノウンだった、それも2体に。逆に言えば、ゴブリン達に残っている最後の戦力がこの2体だった。他のゴブリンは逃げ出しているか、倒れ伏しているかだ。ここを乗り切れば全員大した怪我もなく戦闘を終えれるだろう。
だが、アンノウンは周囲にきたゴブリンに対しトルネードの詠唱をした。遅い、取り囲まれてから詠唱を始めたのでは、とても間に合わずに攻撃を受けるだろう。他事が全く出来ない無防備な詠唱の間、身を守ってくれるエグゼを自ら遠ざけては、それは確実だ。
今回は運良く、ユリアがあらかじめスリープを詠唱していたり、ジョウが咄嗟にアッシュエージェンシーで作った分身を突っ込ませたので、ゴブリンの攻撃では大事には至らなかったのだが‥‥
「トルネーどぉぉお?!」
2体のゴブリンと一緒に、アンノウンは自らが発生させた竜巻に巻き上げられ、地面に叩きつけられた。初級クラスのトルネードの正確な効果は、『自身から15m内の一箇所に、3mの高さまで巻き上げる直径3mの竜巻を発生させる』だ。範囲内に入っていれば、自分も巻き上げられる。
「普通より体が大きいゴブリンかぁ‥‥何か変わった物でも食べてたのかな?」
地に倒れ伏しているゴブリンを見ながら、ユリアがぼそっと呟く。アンノウンが起き上がって状況を確認する頃には、戦闘は終わっていた。2体のゴブリンは周囲からの一斉攻撃の後に、天音のニュウ・ジャオ・クァン、柳雅のバオ・フー・チャンでそれぞれトドメを刺されていたのだった。
●追撃戦と晩餐会
「これは‥逃げていったゴブリンしかいない?」
「そのようだな。ベアトリス、俺は後方の皆に伝えてくる。戻ってくるまで見張りを頼む」
冒険者達は逃げたゴブリンを追い、村より北西の森へと足を踏み入れていった。先行して相手を偵察しているのは、ディノとベアトリスだ。
どうやら、ゴブリン達は先程村へと襲撃をかけてきたので全部で、棲家と思わしき場所には、戦闘の最中に深手を負って逃げ出していったゴブリンしかいなかった。これならギルドに報告をするまでもない、自分達だけで始末してしまえる。
「お疲れ様、晩御飯出来てるよ」
ゴブリン討伐を終えて戻ってきた冒険者を出迎えてくれたのは、ユリアの料理だった。思わず自分の目を疑ってしまいそうなほどに食欲をそそる料理がテーブルに並ぶ。調理法一つで、食材はここまで化けるものなのか。
「こレ、ちょっと形崩れちゃっテルけどおいしーネ」
「え? あ、あー‥それはね」
きらきらきら
「お兄ちゃんは料理だって出来るんだぜ!」
「‥エグゼさんが作った分なの」
何故だろう、一瞬世界の時間が止まったような感覚に襲われたのは。
ゴブリンの棲家から村が奪われた多少の金品を取り返し、村人達から感謝の言葉を受け取りながら、今晩はこの村でゆっくり休む。明日にはパリへの帰路に着き、そしてパリではまた新たな依頼が彼等を待っているのだろう。