異国の忠義、いざ

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:1〜3lv

難易度:普通

成功報酬:4

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月09日〜10月14日

リプレイ公開日:2004年10月13日

●オープニング

 冒険者ギルドに一人の冒険者が入って来る。
「折り入って頼みがある、少し‥変わった依頼を出してはくれぬだろうか?」
 冒険者の風貌は、ここノルマンで暮らす人々の服装とは大きく違っていた。ハカマを穿き、腰に備えた得物は反り返っている。そう、彼は異国よりこの地へ赴いていきているサムライと呼ばれる者だ。
「出せるかどうかは‥内容によるが、アンタなら少しは都合してやるぜ。先の依頼、お疲れ様だったな」
「ああ‥手強い相手でござったが、おかげで資金が届きもうした。それで、依頼の内容なのでござるが‥数日間、拙者を守って欲しい」
「‥‥え?」

 依頼主のサムライについて、少し説明を加えながら依頼内容を言おう。
 武家の家系に生まれて二十余年、主に仕えて数年が経過したある日、主の領地を守るべくオーガ族の掃討の任に就いた。その任の最中に出さずに済んだはずの被害を出してしまい、彼は自分の力量の不足を多いに恥じ、異国の地にて一より剣の腕を磨く事としたのだった。
 冒険者としてギルドに出入りするようになってから幾月、才だけでなく努も加わった彼の剣は、数多くの敵を屠り、数多くの命を守ってきた。そんな折、一通のシフール便が彼の元に届いた。
 なんと、ジャパンの地に妖狐が襲来したというのだ。この故郷の一大事に、主を持つサムライならば至極当然の事として、彼は主の下に馳せ参じる事を決意し、月道を渡る為の資金を用意すべく動きはじめた。一冒険者にとっては大金ではあるが、どうやら先の依頼の報酬でその額に達したようだ。

 だが、その先の依頼において悪い事が2つ起きた。
 1つ目は逆恨み。依頼は至極真っ当なもので、悪事を働いていた者を捕えただけなのだが、犯人の周りに居た者の恨みを買ってしまったようだ。
 2つ目は犯人が腕の立つ相手で、こちらも痛手を負ってしまった事。この為に、普段ならば払うのに造作もないと思える逆恨みの相手も、今の状態では不安がある。

 依頼をこなし、身の回りの物も処分し、ようやくにして月道を渡る金額を得れたが、その為に彼に他事に回す金銭の余裕は一切無い。故にこの依頼における報酬は‥
「出せるのは粗茶が一杯。この地に渡ってきた時に拙者が持ち込んだ残りの、最後にごさる」
 ただそれだけである。
「無理は承知。皆、霞を食んで生きれはしないのでござるからな」
 今の状態では不安がある、といった程度。決して追い払う自信が無いのではないが、無念のままに倒れる可能性は出来うる限り減らしておきたい。そういう事なのだろう。少しばかりの逡巡の後、ギルド員は新しい依頼書を書き上げ、壁に貼り付けた。

●今回の参加者

 ea5366 ファイラルド・ミッチェル(61歳・♂・ウィザード・エルフ・フランク王国)
 ea5753 イワノフ・クリームリン(38歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 ea6707 聯 柳雅(25歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea7401 アム・ネリア(29歳・♀・クレリック・シフール・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●見返り無き依頼
「‥かたじけないでござる」
 今回の依頼に参加してくれた冒険者を前にして、依頼主のサムライは深々と頭を下げた。
 無理も無い。彼自身が理解しているようにこの依頼は金銭の報酬が無く、また秘境の探索などの何かしら貴重な体験が出来るわけでもない。その上、依頼の性質上、彼とともに数日間過ごす事になるので、その間は生業の収入も期待出来ない。無い無い尽くしのこの依頼で得られるものがあるとすれば、彼がノルマンに来る際に持ち込んだ『茶』の最後の残り、ただそれだけなのだから。

 深くを頭を下げたままの依頼主に対し、慌てた様子で冒険者達は頭を上げてもらうように告げ、互いに簡単な自己紹介を済ませた後、早速護衛に関する話を始める。冒険者達の話が進むにつれ、依頼主のサムライはこの冒険者達ならば、安心して月道が開くまで日を進める事ができるだろうと思った。
 ぱっと思いつく就寝時に、お食事中の方などには申し訳無いが用便の時など、決して一人で行動する時間が無いように注意を払ってくれている。日常生活で行っている動作は、それが自然な動作である為に、案外注意を払いにくいものなのだ。ふとした弾みで目が届いてない時間が発生してしまう。
 ただ、依頼期間中すぐ傍に居てもらう冒険者について、依頼主のサムライの方から希望が出た。同じ男性であり、その内でも特に熱心さの感じられたイワノフ・クリームリン(ea5753)にお願いするとの事だ。
「いや、その‥やはり異性が常に傍に居るというのは、少々落ち着かないでござる」
 イワノフと同じかそれ以上に、聯 柳雅(ea6707)も依頼期間中に発生しそうな問題に注意を払っていたが、よく異性と間違われる事があるとはいえ、彼女はれっきとした女性である。彼の言う事も仕方の無い事かもしれない。

「これは‥ちょっとリカバーじゃ治せないかも‥」
 依頼主のサムライに、怪我の具合を見せてもらっていたアム・ネリア(ea7401)は、残念ながらこの怪我は自分の手には少し負えない事を悟った。リカバーで治せる範囲の怪我は、実は思ったよりも大きくない。少し怪我を負う度にかける事が出来れば問題無いのだが、一旦大きな怪我を負ってしまうとリカバーでは治せない。
「何かあればいつでも言ってくれ」
 ファイラルド・ミッチェル(ea5366)が所持している炎の精霊魔法の一つ、フレイムエリベイションは、炎の力により努力と根性を誘発させ、一時的に行動をし易くする事が出来る。少し怪我に響いてしまうかもしれないが、もし逆恨みの相手が無理に襲ってきた場合などに、万一に対する保険になるだろう。
「貴殿の忠義‥‥無事に果たせて見せよう」
 今は10月の9日、次に月道が開くまでは丸5日以上。それまでの数日間の護衛依頼はこうして始まった。


●付き従う影
「なんかついてきてる人達が居るね、あの人達がそうかな?」
「‥そうか、特徴は?」
「えっと‥‥」
「間違いなさそうですね、依頼主から聞いた特徴と一致します」
 依頼主のサムライとイワノフが共に行動し、それを少しの距離を置いてファイラルド、柳雅、アムの3人が行動する。こっちの3人組は、同時に逆恨みの相手が来ているのか来ていないのかも調べる。バックパックの中に入り、そこから覗くようにして後方を見ていたアムが怪しい人影を見つけた。30分ぐらい前から、自分達‥‥いや、正しくは依頼主のサムライとイワノフと同じ道を歩いてくる。
「機を伺っているにしては、距離が遠くないか?」
「おそらく‥イワノフさんが同行しているのが原因ではないかと」
 柳雅の疑問にファイラルドが答える。イワノフはジャイアントでその身長は2mを越す、そんな大男が騎士然とした格好で標的の傍に居ては、今回の相手は仕掛けようという気になれないのだろう。
「逆恨みしてる人は、それが逆恨みなのか解らないから困るんだよね」
 仕掛けてこない、それは逆に言えば相手を捕える事も出来ず、期間中の間ずっと相手に対して注意を払っていなければならないという事になる。依頼主のサムライがつけ回されたのを感じ、早くに冒険者ギルドに依頼を持ってきたため、彼等はまだ一度も仕掛けてきた事はない。今、何かしらの理由をつけて相手を捕まえようとしても、『たまたま同じ道を歩いていただけだ』などとシラを切りとおされれば、解放せざるをえない。

「逆恨みの原因になった依頼の話でござるか?」
「ああ‥こうして言葉を交わさないのも、互いに気が疲れてしまうだろう?」
「それもそうでござるな‥」
「いや、気が引けるなら別の依頼でも構わないが」
 帰れる処がある者、馳せ参じたく思う主に仕えられる者を素直に羨ましく思う。イワノフは、目の前に居る異国の者に、誰かの姿を重ねていた。騎士が冒険者として活動する理由は、大きく分けて2つ。1つは主の為、実力と名声を高く持った騎士を召抱えることは主の名誉にも繋がる。もう1つは仕える主を求めて、自分が召抱えるに値する実力と名声を手に入れる為だ。
 太陽も高く登り、そろそろ昼の頃。昼食をとるのと、落ち着いて話をする場所が欲しい2人は、道沿いにあるレストランに入った。もちろん、その後に3人組の冒険者と数人のグループが、同じレストランに入っていったのは言うまでもない。
 依頼期間終了までは、後3日。


●一期一会
 冒険者達の目の前にそれぞれ、澄んだ薄緑の液体の入った器が置かれる。
「これが茶というものでござるよ、慣れない者には少し苦いかもしれぬでござるな」
 茶は有名な嗜好品だ。華国地方で薬として扱われていた茶は、華国との貿易開始により東洋に広まり始めて栽培されるようになった。西洋では茶葉を輸入に頼っているため、高級な嗜好品として扱われているが、東洋ではそれなりに庶民にも親しまれている。
 依頼期間もこれが最後の日。柳雅の手当てが少しだが治りを早めているのか、依頼主のサムライの怪我も大分良くなってきて、次に日が変わる頃には一人で出歩いても問題無い程度まで回復するだろう。

「ところで、我が国に『一期一会』という言葉があるのを存じておられるだろうか?」
「いや‥すまないが聞いた事が無いな‥」
 その場に話題を持ちかけたのは、依頼主のサムライであった。今回の冒険者達は、ジャパンの言語や文化に通じているものが居なかったので、その言葉の意味が分からなかったが、サムライの彼はその意味と自分の過去を交えて一つ話をしてくれた。
 一期一会とは一生に一度限りの機会の事。自分はここノルマンに移って来て依頼を受け始め、その言葉の意味を深く受け止めるようになったのだと言う。冒険者達が依頼を受ける場合、一連の事件解決までといった事情でない限り、基本的にその場限りのチームを組む事になる。
「それもそうなのでござるが、特に依頼主についてでござる」
 普通に暮らしている人々や村が、冒険者ギルドに依頼を持ってくる事はそうそう無い。持ち込まれる依頼は毎度ただのゴブリン退治であったりなどだが、基本的には毎回違う依頼主から依頼が来ている。
 少し本来の意味からは外れれるが、自分達冒険者にとっては数多く受ける依頼の1つかもしれないが、依頼主にとってはただ1度きりの依頼なのだと。依頼主のサムライが、ノルマンに移り一から剣の腕を磨くべく思い立ったのも、似たような経緯かららしい。
「現実的な判断、という言葉が拙者は嫌いにござる。あれは、ただの己に対する甘えにしかござらん」
 もちろん、無理な事はやはり無理であるのは承知している。だが、その状況になるまでに自身に落ち度は無かったか、もっとより良い結果を導く方法は存在しなかったか、常に自答し精進したいと彼は言った。


●帰郷
「一期一会、か‥‥」
 依頼期間が終わり、もう後は自分一人で居ても大丈夫にござるという依頼主と別れた直後、イワノフはぼんやりとしながら、彼に教えてもらった言葉の意味を反芻していた。彼だけでなく、他の3人にも何らかの形で彼の言葉は残っているだろう。

「でも、逆恨みの相手はこれからどうするだろうね?」
「意趣返しにイワノフ殿を狙ってくるという事も、考えられなくはないが‥」
 時間も経過してある程度熱が冷め、当初の対象であったサムライがノルマンから去ってしまった事を知れば、相手も諦めてくれるように思える。もし、これで相手が今回の依頼に参加した冒険者達を狙ってくるような事があれば、今度はギルドから問題解決の為の依頼が出るだろう。
 月道が開く日は、もうすぐそこまで迫ってきていた。