【ドレスタット救援】存在してはならない物

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:1〜3lv

難易度:やや難

成功報酬:0 G 84 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:10月20日〜10月28日

リプレイ公開日:2004年10月28日

●オープニング

「な、なんでこれがここにあるんだ‥‥」
 目の前にあるモノを、呆然とした表情で見つめる青年の顔は既に蒼白。そう、それはこのような所には存在してはならないモノ。青年は慌てた様子でその建物から飛び出し、助けを求めるようにして路を駆けてゆく。息を切らせて見知った顔の下へと辿り着き、焦燥の面持ちで自分が見たモノの内容を告げる。
「なんだと‥‥!」
「バカな、誰がドジったんだ!」
「俺はそっちの担当じゃないぞ!」
「俺だって‥‥!」
 その場が一気に喧騒とし始める。
「待て!誰が、という追求は後回しだ! ホントにそれがあの倉庫の中にあるなら、その問題を解決するのが先だろう!」
 リーダー格と思わしき人物が、騒ぎ始めた皆を一喝する。
「ともかく、皆で確認しに行ってみよう。そいつの見間違いか何かならいいんだがな‥‥」
 その言葉に皆は頷き、足を揃えて倉庫へと向かう。

(「どうか見間違いか何かであってくれ‥‥!」)
 最初に一人でそのモノを見た青年は、そう願わざるを得なかった。自分の見間違いか何かであれば、単に早とちりして皆を騒がせる原因を作っただけで済むのだ。もし見間違いでなければ‥‥あれの担当は自分であったはずだ、上からどれだけの叱責が来るか分かったものではない。

「こいつか‥‥。確かに、今ここに、これがあるのはおかしいな」
「ああ、ここに書いてある数字、こっちの羊皮紙に書いてある数字と一致するぜ」
 なんと無情なのだろう、見間違いや何かでは無かった。青年はガックリと頭を垂れ、自分の失敗を悟った。
「しっかしどうすんだよ、船はもう‥‥」
「とりあえず上に報告だ、後はそれからの指示に従う他あるまい」
 重い足取りでその場を離れ、そのまま彼等は自分達の上役の下へと足を向ける。空模様は、まるで彼等の心中を表しているかのようにどんよりと曇っていた‥‥。


 翌日、冒険者ギルド――。
「つまり‥‥忘れ物?」
 ドレスタットで開催される開港祭に向け、商人達は自分達が所属している商人ギルドを中心として祭りの為の準備に追われている。そんな時間的余裕の無い中で、冒険者ギルドに依頼を持ってきたかと思えば‥なんとこの商人、雇った者の不始末が原因なのだが、船に乗せるはずだった商品の一部がまだこのパリに残ってしまっているのだ。
 船は商人ギルドを介して、自分を含めた数人の商人で共同で保有しているという形になっている為、自分が商品を運んでもらう順番は既に済んでしまっている。2日後にはドレスタットからパリへとその船は戻ってくるが、その時には他の商人が荷を運ぶ順番である。
 そこで、仕方なく陸路を使って商品を運ぶ事にした。航路よりも日数はかかってしまうが、背に腹は抱えられない、まだ祭りには十分間に合うはずだ。しかし、祭りが開催されるという事は、人と物と金が集まるという事で、当然、賊の動きも活発になっている。海賊達の話などはその顕著な例だろう。こうなってくると、やはり輸送の仕事は冒険者ギルドへと依頼としてやってくる。
「分かりました、急ぎ依頼を受けてくれる冒険者を募りましょう」
 冒険者ギルドの受付係は素早く依頼書を書き上げ、ギルドの壁の中でも、暗黙のルールで急ぎの依頼が貼られる場所に貼り、そしてギルド内に、急ぎの依頼を受けてくれる者は居ないか呼びかけた。

●今回の参加者

 ea2265 ベルナテッド・リーベル(27歳・♀・クレリック・人間・イギリス王国)
 ea5894 マピロマハ・マディロマト(26歳・♀・神聖騎士・シフール・ノルマン王国)
 ea6044 サイラス・ビントゥ(50歳・♂・僧侶・ジャイアント・インドゥーラ国)
 ea6065 逢莉笛 鈴那(32歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea6278 エミリエル・ファートゥショカ(26歳・♀・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea6905 ジェンナーロ・ガットゥーゾ(37歳・♂・ファイター・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7060 エレナディス・ラインハート(21歳・♀・神聖騎士・ドワーフ・フランク王国)
 ea7572 ウルリッヒ・ラング(45歳・♂・ナイト・人間・フランク王国)
 ea7617 神威 雄斗(26歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea7724 ウィンディー・ベス(31歳・♀・ファイター・人間・イギリス王国)

●リプレイ本文

●新天地に向かう馬車
「運ぶ物って砂糖なんだ! へえ〜。私、お料理好きなの。砂糖って憧れよね」
「うむ、今度は積荷が暴れだしたりしないようだな」
 逢莉笛 鈴那(ea6065)とサイラス・ビントゥ(ea6044)は、馬車の中に積まれた荷を確認していた。
 砂糖は、貴族だけでなく一般の人々にもある程度親しまれているが、それも懐が暖かい時の話。
「さぁ、ご主人様にみっともないとこ見られたくなかったら、おいらの言うこと聞いてくれよ」
「ええと、ちょっと待ってくれ。すまないが話を整理させて欲しい」
 一方、馬達の近くで御者と話し合っていた冒険者が四名。
 御者の負担を減らす為に、自分が三人目の御者になると言い出したのがマピロマハ・マディロマト(ea5894)。彼女はシフールで、馬に乗るという行為には向いていないが、馬を操るという行為は工夫一つ。事実、この後の道中において彼女は、依頼主が用意した御者よりも上手く馬を制していた。
 次に、馬車の周りを自分達の馬で並走して周囲の警戒、何かアクシデントが起こった際にいち早く対応出来るように、という役割に手を挙げたのがジェンナーロ・ガットゥーゾ(ea6905)、エレナディス・ラインハート(ea7060)、ウルリッヒ・ラング(ea7572)。ジェンナーロは馬を飼っていないが、今回の依頼中だけマピロマハから馬を借りるようだ。

 今回の輸送依頼の目的地はドレスタット。北海とライン川の交わる場所に位置し、イギリス王国「チェスター」への月道が発見されたのをキッカケに、貿易港としての地位を確かなものにした。それ以前からも海洋・河川貿易の要として古くから栄えてきた町として知られ、その歴史はノルマン人がノルマン王国を建設する前にまでさかのぼり、実に百年以上前から拠点と認識されている。
「よ〜し、待ってなさいよシン。絶対成功させてドレスタッドで一緒に買い物するんだから〜♪」
 ベルナテッド・リーベル(ea2265)が明るく自分の決意を言葉にし、最後の順番で馬車に乗り込んだ。彼女の愛しの旦那様は別件の依頼を受けており、どうやらその依頼もこの依頼と同じく、依頼終了後はドレスタットで解散となるようだ。


●賑やかな馬車、そして千里の一歩
 昼間は馬車に揺られっぱなし。何もせず過ごすというのは、時間を長く苦痛に感じるもの。移り行く景色を眺めるのもいいが、さすがに何時間も眺め続けるとなると‥どうしても飽きる。
「思ったよりロープが多くて、困っていたんです。ぜひ、お願いします」
 そんな中だと、エミリエル・ファートゥショカ(ea6278)がしていた鳴子作りに、皆の目が行くのも無理のない話だろう。最初に手伝い始めたのはウィンディー・ベス(ea7724)、次に参加したのがベルナテッド、最後に鈴那が加わった。
 こうなってくると馬車の中は一気に話し声が絶えなくなった。
「‥ベルナテッド、その‥結婚って‥幸せか‥?」
「そういえば出発前に何かおっしゃてましたよね?」
「あーそれ私も聞いたー。でも結婚‥って、そこまで話進んでるの?!」
「えと、まあ‥はい‥」
 頬を赤らめながらベルナテッドが答えると、途端にどんな人なのかの質問攻めが始まった。
 話が弾んで来るのはいいが、ここまで来ると少々うるさく感じてしまう。夜の見張りに備えて今の内に睡眠をとっていた神威 雄斗(ea7617)は、どうやらその話声に目を覚まさせられてしまったようだ。彼はまだ馬車の外が明るい事を確認すると、自分が起きる事になった原因に目を向ける。
「すまないが‥もう少し静かにしてくれ。今の内に寝ておきたい‥」
 そして、それだけ言うと、すぐにもう一度寝るべく体を横にしてしまった。今は一応冒険者として仕事中なので、彼女達の方もその事は分かったらしく、声のトーンを下げて話を進めるが‥
「ねえねえ、ニンジャの人っていっつもあんな格好しているの?」
「うーん普通はしないんだけど、ある意味冒険者の証明になるからかなぁ?」
「でも、それにしてもさぁ‥」
 積荷の傍らに座し、その一部始終を見ていたサイラスが微妙な気分になったのは、きっと気のせいじゃない。

「あの、もう少し歩を速められません?」
 マピロマハがそう言ってしまうのも無理もなかった。馬車の前に一人、馬車の左右に一人ずつ、計三人が馬を駆っているが、お世辞にもその乗り方は上手いとは言えなかった。
 先頭を行くウルリッヒはまだいくらかはマシなように思えるが、左右のジェンナーロとエレナディスは、周囲の警戒を行いながら、これで連続して何日目かの乗馬になるという事を考慮しても、とても乗りこなせているとは言えないレベルだ。
 疲労が溜まっているのも目に見えて分かる。このままでは道を進んでいくのにも支障をきたすので、三人は三日目の夜から見張り番のローテーションを外された。少し急ぎ気味の馬車に並行して馬を駆るには、三人の騎乗技術はまだまだ習い始めの域を出ていない。

 三人が抜けた事で組み直した為、少しキツくなった夜の見張りだが、昼間にも睡眠をとる事で体調の管理をはかる事にした。襲撃してくる事が予想されていた野盗が現れたのは、そんな生活にも慣れてきたパリ出発から六日目の夜だった。
 カラァンと響く乾いた音は、それを知らせるのに十分だったはずだ。


●長所あるもの短所あり、後方に控える者を討て
「‥来たか」
 最初に、彼等が向かって来ているであろう方向に立ったのはウィンディー。そのすぐ近くに、後衛と馬車を守る為に弧を描くようにして鈴那と雄斗が並ぶ。
「すまない、遅くなった!」
 前衛としてすぐに前面に立ち、敵を止めて戦ってくれるはずだった三名が出遅れたのは致命的かと思ったが、野盗はこちらの様子を窺うようにして接近してくる。鳴子が張り巡らされていたおかげで、自分達の襲撃は既に相手にバレてしまっているからだろうか。ともかくその間に、冒険者達は迎撃する準備を整える事が出来た。
「来な! ここから先には行かせねぇぜ!」
 護衛対象を守る為の陣形を完成させ、相手の出方を伺う。冒険者達は完全に『待ち』の体勢だった。だから、野盗の中でも後ろに位置していた者の片手が、印を組んでいると気づいた時には既に手遅れになってしまっていた。冒険者達は誰一人相手が魔法を使ってくるなどとは思っていなかったのだ。

 後方に位置していた術者が淡い茶の光に包まれると、冒険者の一人は目に見えない力が自分にかかるのを感じた。
「一体、どうなってやがる‥!」
 体が重い、普段と同じ動きはとても出来そうにない。術者が唱えた魔法はアグラベイション、対象の行動を抑制し、その場にいる誰よりも初動を遅らせる魔法だ。
 ロングソードを投げ捨てるか? ダガーでも自分が振るえば軽装の相手ならそれなりのダメージを見込める、動きもある程度元に戻る‥。そうしてジェンナーロが思考を張り巡らしている間に、野盗は今を好機と襲い掛かってきた。反射的に相手の攻撃を受け止めて難をしのぐが、このままではジリ貧だ。
 改めて相手を見返してみると、前衛八人に後衛二人。その後衛というのがウィザードで、先程から魔法をどんどん詠唱している。魔法は殆どの場合抵抗を試みる事が出来る(とはいっても本能的にやっているのだが)ので、毎回効果を被るわけではないのだが‥。今相手が対象としている、一般的に前衛として呼ばれる者達は、その適正があればあるほど魔法に対する抵抗力に不利を抱えている。長所を持つ者は、同時に短所も抱えているのだ。
「くっ、最初の目的が補助魔法だったとは‥!」
 後手に回らざるを得ない護衛戦闘では、ある程度は仕方ないのかもしれないが、予想外の事態に冒険者達は有効な手を打てないでいる。相手も詠唱中の術者が無防備な事は知っているので、エミリエルのダーツは射線が通ってくれない。
「お? イイモン抱えてるじゃねぇか、そいつも貰っていくか!」
 そうして動きの鈍った前衛をパスし、野盗達が後衛に迫る。そこには、剣が持っているというよりも、剣にくっついてると表すのが正しいマピロマハが居た。
 しかし、幸運にも後方に控えていたのは、彼女や回復役のベルナテッドといった者だけでは無かった。野盗も目線を下げてマピロマハを見ていて気づかなかったのだろうか? 自分の前に巨躯の僧侶が接近してきている事を。
「喝!!」
 一喝とは正にこの事。サイラスの物理的退魔の法(数珠を握り込んだパンチ)をマトモに受け、野盗は大きく仰け反る。そのサイラスの一喝とほぼ同時に、その場の一角に煙が巻き上がる。何事かと思っていると煙の中心に居た鈴那が地を蹴り、今までの彼女とは思えない疾さで相手のウィザードに迫り、手に持った忍者刀で斬り伏せた。今度は野盗達が予想外の事態に追い込まれる番だった。


 魔法によって動きを鈍らされた直後は肝を冷やしたが、落ち着いて対処すればしっかりと鎧に身を包んだ彼等に、野盗達は満足に打撃を与える事が出来なかった。だが、運悪く相手の魔法に対する抵抗が連続で失敗し、一気にこちらの動きを鈍らされていたらどうなっていたかは分からない。相手は冒険者達を倒す必要は無く、馬や輸送品を奪ってしまえればそれでいいのだから。
 相手の数が多く、さすがに数名は取り逃がしたが積荷も馬車の馬も無事。もちろん、冒険者達が連れてきている三頭の馬も変わらずその場にいる。戦闘終了までの経過を考えると満足出来ないかもしれないが、護衛対象はしっかりと守りきれている。


●ドレスタット到着!
「せーのっ!」
 10の足が一斉にドレスタットの地を踏みしめる、「新たな土地への到着の記念に」というサイラスの提案に皆が賛成したのだ。再び自分の馬や馬車に乗り込み、後は街の中にある届け先まで行くだけ。忘れ物輸送依頼は、こうして無事に完了したのだった。