【収穫祭】空と地への逃亡者
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■ショートシナリオ
担当:MOB
対応レベル:1〜4lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 80 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:11月03日〜11月08日
リプレイ公開日:2004年11月08日
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●オープニング
収穫祭。年に一度のこの行事に、自分の村からパリまで出てくる人も少なくない。ただ、良く知らぬ街を歩くのは思っているよりも厄介な事で、自分が向かいたい場所へ行くのにこの道であっているかどうかなど、不安を覚える事もよくあるだろう。
パリ全体が収穫祭一色で賑わっているこの時期、人が集まる分そういった狙われ易い人も同時に増えてしまう。華やかな町並みの裏で、しっかりと犯罪の数が増えているのは致し方のない事なのかもしれない。
「‥で、村から来た人達がどうやら窃盗に遭ったらしくてな」
手口はこうだ。「自分もこれからそこに向かうつもりだった」などと言って親切を装い、目的地までの案内をするフリをする。そして「こちらの方が近道だから」と人目が無い裏通りを通り抜けようと手を引き、後は仲間とともに獲物の金を奪って逃走。
「それでその村人も相手を追いかけたんだがな、後一歩のところで逃がしてしまったんだとさ。それでここからが本題」
村人の証言では、その窃盗犯が茶色い光と緑色の光に包まれたと思ったら、茶色い光に包まれたほうは地面に沈んでいき、緑色の光に包まれたほうは空に浮かんでいったそうだ。そうして目の前の出来事にあっけに取られている内に、相手を見失ってしまったらしい。
「まあ、魔法なのは確かだろうな。おっと、ここから先は自分達で相手の力量を判断しろよ?もちろん、逃がさない為の対策もだ」
同一犯からの被害は既に2、3件出ているらしく、報酬は被害にあった村人と一緒にパリに来ている仲間内から。やはりと言うべきか、事情が事情なので報酬額は少なめだ。
「村人達も収穫祭に参加する為に、自分達の仕事を頑張って早く片付けてな、祭りを満喫するのをそれはそれは楽しみにしていたそうだ。どうか一肌脱いでやってくれないか?」
彼の説明を受けた冒険者達は、依頼書に書かれた犯人の特徴に目を通しはじめる。
「っと、大事な事を忘れるところだった。時期が時期なんでな、出来たら相手に大怪我はさせないように捕まえてくれ。それと当たり前だが、中心からはかなり外れるとはいえ、街中で犯人を追ってるって事は忘れないようにな」
●リプレイ本文
●犯人の特徴、力量
「折角のお祭りなのですから、仕事も休んで楽しめばいいと思うのですが」
マルス・ティン(ea7693)はそう呟くが、今回の犯人は『お祭りの時期だから』発生したとも言える。冒険者に斡旋される仕事は、内容が内容なので全くもって時期を選んでくれない。‥‥というよりも、時期ごとに合わせた仕事が舞い込んでくる。
「先ずは盗賊の人着や特徴を控えておきましょうか」
「茶色い方はアースダイブの魔法で、緑色の方はリトルフライの魔法‥‥でいいのかしらね?」
「それで間違いないと思いますよ。それにしても、いたいけなおのぼりさんの上前をはねようなんて、ふてぇやろうどもですねっ」
カルバート・リムリック(ea8169)とフィーラ・ベネディクティン(ea1596)が、依頼書に書かれている犯人の特徴に目を通しながら相手の使用した魔法を推測していると、シャルク・ネネルザード(ea5384)が加わってきた。
「証言からすると、高速詠唱が出来るのかもしれないですね」
「確かに。追い詰められてから、10秒もかかる詠唱を行えるとは思えないですしね」
「となると、他の魔法を使える可能性は‥かなり低い?」
そういう事になる。
決して可能性が全く無いというわけではないが、犯行の形からして、いざという時に初歩的な効果は確実に発動出来るようにしているはずだ。となると技能修得に費やせる時間は限られてるので、今回の相手ぐらいならば、他の魔法を使えるという事はまず無いと思って問題ないだろう。
「ともかく、偉大なる魔法をそんなことに使うなんて‥許せないわっ!! 絶対に捕まえて、懲らしめなくちゃ!」
「姐さん、一緒にがんばろうね」
「応とも。シフール武道家が弱いと思い込んでいる奴らに、実力というものを教育してやろうじゃないか?」
こちらでは黄 牙虎(ea4658)と真 慧琉(ea6597)の即席シフールコンビが結成。二人が揃えば戦闘以外でもバッチリだ! ‥‥と言いたいところなのだが、なんでか知らないけど冒険者達にはスタイルの良い人が少なくないので、油断は禁物である。何をどう油断するのかは知らないが、とりあえず禁物である。
「皆、犯人の特徴は覚えたよ‥な?!」
ごっちーーーん。その場に心地好い音が響いた、シャルクが自分の額を小突いたのだ。
「あの‥‥一体何をしてらっしゃるんですか?」
との問いかけに‥‥
「犯人の特徴を、しっかりと頭に叩き込みました」
‥と、きっぱりと答えるシャルク。うん、確かに頭に叩き込んだ‥‥のか?
●囮には囮としての条件があります
「なかなか現れませんね‥‥」
「来ないですねー‥‥」
建物の影で小さく蹲って毛布を被り、そこから目を覗かせながらボソリと呟いたのはアイリス・ビントゥ(ea7378)だった。
シャルクは最初は宿無しの振りをするつもりでいたが、色々と物が入ったバックパックを持ってきてしまっていたので、ちょっとそれに見せる事は出来そうにない。仕方ないので、アイリスと同じく建物の陰から犯人が現れた通りを監視していた。
なかなか犯人が現れない事に苛立っていたのは、彼女達の他にも二人。囮役のフィーラと、辺りの人に聞き込みをしていたマルスだ。
まずフィーラの方だが、彼女自身は嫌っているがどうしても実際の年齢よりも若く見られる。『子供=わざわざ狙うほどお金は持ってない』と犯人達は判断するだろう。せめてもう一人、あるいは他の人が囮役をすれば良かったのかもしれない。
マルスの方は、誰に聞いても同じ答え『道案内をするといってあっちの方に向かった』しか得られなかった。あっちの方というのは裏通りに入っていく道、これが犯人達が『こっちの方が近道だ』と言って、獲物を連れて行く道だろうとは思えるが‥。
「見つけたぞ、こっちの方向だ。今は相棒が相手を尾行している」
結局、空から捜していた牙虎と慧琉のシフールコンビが、依頼書にあった犯人の特徴と一致する相手を見つけ出した。慧琉以外の冒険者達一同は、犯人を発見した事を知らせてくれた牙虎と共に、犯人達を追い詰めるべく駆け出した。
「あ、皆来てくれたね。姐さん、あいつらはこの先を右に曲がった所に‥むぐ」
「しっ‥‥」
その場に居る全員が声を潜める。犯人の特徴と一致する二人組みが、一人の男性を連れて先の方に見える通りを横切っていったのだ。男性の方は身なりからして、まず間違いなく祭りの為に来ているどこかの村人だろう。
「まずいな、なんとかしないと相手が逃げ易い場所まで行かれてしまう」
「先回りするにも、裏通りに入った後どこへ歩いていくのか分からないのでは‥‥」
トーンを落とした声で、これからどうするかを相談し始める冒険者達。早くに結論を出してしまわないと、折角見つけた犯人達を見失ってしまうばかりか、また被害が出てしまう事になる。
「早い内に走って追いかけるか? 空の方はあたし達シフールコンビがなんとかするが‥‥」
「リトルフライでの飛行速度はそれほど速くは無いですからね」
「アースダイブの方は残りの五人でなんとかするしかないか」
村人でも追い詰めれたような犯人達なら、冒険者達が追いかければ簡単に追い詰められるだろう。後はどうやって捕まえるかだが、いくつか事前に考えてきてある。相手を見失わない内にと、冒険者達は行動を開始した。
●空へと逃げる者、地へと逃げる者
「へへっ悪ぃな、じゃーこいつは頂いて‥‥う!?」
「うおっまずい‥‥逃げるぞ! ったくどこのどいつか知らんが、ギルドに依頼でも出しやがったか!?」
盗みを終えたばかりの犯人達は、そのまま得意げにその場から逃げ去ろうとしてたが、そこへと冒険者達が駆け込んできた。慌てふためいて逃げ出すが、ほどなくして袋小路に追い詰められる。
「追い詰めましたよ、さあ観念してもらいますよっ」
言葉と共に、シャルクがロープを片手に地に逃げるという情報の相手に飛びかかる。最初はロープに石を結んで投げつけるつもりだったが、練習中にすぽすぽ石が抜けて飛んでいってしまうので諦めた。
「‥っととと」
惜しくも後少しの所で地面に潜られてしまう。フィーラやマルスも相手に魔法をかけようとしていたが、相手が見えなくなってしまってはどうする事も出来ない。一部の例外を除き、対象を取る魔法は詠唱開始とその詠唱終了後の発動時に、相手の姿を目視していなければ効果を発揮しない。
「ブレスセンサー」
抑揚の無い声でクコ・ルナーシェ(ea7855)が魔法を発動させる‥が、全く反応が無い。それもそのはず、アースダイブには地中での呼吸を可能にする力も、息を長く続かせる力も無い。地中に潜っている間は、息を止めざるを得ないのだ。
だからブレスセンサーで探知する事が出来るのは、相手が息をする為に地上に顔を出した時だけで、その時ならわざわざ魔法使わなくても普通に目で見れば一目瞭然。30秒毎ぐらいに相手はぴょこぴょこ顔を出し、だんだんと遠ざかっていく。
「ま、まちなさい! ほら、カルバートさんも手伝って下さい!」
「いや俺はオフシフトとカウンターアタックのコンボを‥‥」
「そんなの、ただ逃げるだけの相手に一体いつ使う機会が訪れるっていうんですか!」
そうでなくとも、身体が頑健でない者が多いウィザードにそんな大技を放てば、大怪我どころの騒ぎではなくなる可能性もある。カルバート・リムリック(ea8169)は他の冒険者より一歩遅れて追いかけ始め、結局、地に逃げる方は、魔法の効果時間が切れるまでの6分間追いかけ続け、その後にようやく捕縛したのだった。
「はい、アイリスさん。後はもう目一杯引っ張っちゃって」
「いいぞ相棒。ふ、貴様は青いキャンパスに浮かぶ汚れた染みだ‥‥地に落ちて己の罪を償うが良い」
「こ、こいつらぁ‥!」
シフールコンビがロープを相手に巻きつけ、その一端をアイリスに手渡す。リトルフライの飛行能力とシフールの飛行能力を比べると、後者の方が圧倒的に勝っている。念集中時は停止しなければならないので、オーラ魔法の使用を断念せざるを得なかった牙虎だが、相手の捕縛を確信すると得意げに言葉を相手に放った。
さあ、後はアイリスが相手を引っ張って降ろせば‥‥
「く、くそっ‥ぜんっぜん浮かびやがらしねぇ」
「よいしょ、よいしょ‥‥。ううう‥な、なんかうれしくないです‥」
あ、えーと‥その、それほど気にしないで欲しい。リトルフライは、自分がなんとか戦闘が出来る程度の物としか一緒に浮かび上がれないので、別に普通の人がロープを持っても一緒に浮かび上がったりしないから。ね?
ともかく、空に逃げる方は相性が良かったせいもあってか、案外あっさりと捕縛されたのだった。
●紡がれる詩
「悪いことはこれっきりにして、罪を償った後は真人間になってもらいたいものですね」
相手をしっかりと縛りつけながら、カルバートが犯人達にそう投げかける。
「も、もったいないです‥‥。せっかくの才能なのに‥‥」
少しおどおどしながら、アイリスも言葉を繋げる。
魔法を扱えるという事は、それなりの修業を彼等は歩んできているはずなのだが、罪人に身を堕とすとは一体どこでどう間違えたのか。単に手に入れた力を悪用して、手っ取り早く金を手にしようとしただけなのかなんなのか‥。捕えられた犯人達は一向に口を開こうとしないのでその理由は不明だが、冒険者崩れが犯罪を犯す事は決して少なくない。
捕縛した犯人を官憲に引き渡した後、犯人達から取り返した金銭を被害者たち返し、依頼は無事に終了した。
なお、後日に収穫祭で賑わうパリの一角で、白髪のバードによって一つの詩が歌われたそうだ。それは、童顔のウィザードやシフール義姉妹など名は伏せられていたが、確かにこの騒動を元にした詩だったのだろう。