ねくろまんさー?

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:1〜4lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:9人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月11日〜11月18日

リプレイ公開日:2004年11月17日

●オープニング

「まったく‥、その向上心は大変結構なんだがなぁ‥」
 そうして依頼内容の感想を述べると、ギルド員は集まった冒険者達に説明を始める。パリから数日離れた村で、墓地より死体が持ち出される事件が何件か発生した。偶然にも目撃した村人の証言によると、死体が自ら動き出して彼の後をついていったのだという。
「まあ‥クリエイトアンデットだろうなぁ‥」
 ぽりぽりと頭を掻きながら説明を続けるギルド員。
 悪事を働くものはどこにでもいる、今回の相手は死体を使っていったい何を企んでいるのだろうか。ともかく、これ以上事件が広がる前に相手を突き止めて捕縛するなりなんなり‥。早く動けば動くほど、その分だけ相手が操る死体の数も増えないだろうから依頼達成も楽になろうというのに、ギルド員からそれを勧める声は無い。
「いやあ、そのなあ‥犯人の居場所は分かっているんだが」
 だったらすぐにでもその場所に赴き‥
「犯人は、事件が起こった村の村人が良く知ってる奴なんだよ。思い立ったら他事が目に入らなくなるタイプらしくてな、村から来てる依頼も『彼を説得して死体を操るなんて馬鹿な真似を止めさせて欲しい』というものだ」
 決して悪人ではなく、今回の事件は一時の気の迷いか何かであると村人達は主張する。彼が自分の行いを反省し、死体を元通りに埋葬してもらえれば、彼に必要以上の追求はしないらしい。
「ちょっと変わった依頼だろ? あ、受けるなら村まで道のりの保存食は忘れないようにな」

●今回の参加者

 ea1606 リラ・ティーファ(34歳・♀・クレリック・人間・フランク王国)
 ea1837 レリック・ダウグ(34歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 ea1888 アルベルト・シェフィールド(35歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea1908 ルビー・バルボア(34歳・♂・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea2940 ステファ・ノティス(28歳・♀・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea6592 アミィ・エル(63歳・♀・ジプシー・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7107 ノーテ・ブラト(33歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7579 アルクトゥルス・ハルベルト(27歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 ea7602 リーン・クラトス(26歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●村人の訴え
「私はクレリックとして、安らかに眠る死者の魂を冒涜するような行為を見過ごすわけにはいきません」
「我がハルベルド家の家訓にも、死者にはその貴賎を問わず敬意を払うべしとあるしな」
 パリを発ち、依頼をしてきた村に着いたのは三日目の事だった。道中の野宿の際、火打ち石で火をおこしてはいたのだが、もう秋も過ぎかけたこの季節には朝晩はグッと冷え込む事もある。寝袋ならばまだしも、毛布一枚だけではキツかったりもする。
 依頼書にあった情報通りに、村人達は今回の依頼で何とかしてほしい彼の事を悪い人間だとは思っておらず、なるべく穏便に事を済ませてもらえるように言葉を繰り返す。村人達の話し振りから判断するに、どうやら相手は黒の教義を信仰しているクレリックのようで、村から少し離れた場所で自分の研究を行っているらしい。
「死者のささやかな眠りを自分の勝手で無理やり起こすようなこと、体を自分の研究の為に魔法で操るなんて‥自然の摂理に逆らう、愚かな行為です!」
 リラ・ティーファ(ea1606)やアルクトゥルス・ハルベルト(ea7579)、ステファ・ノティス(ea2940)達にとっては許しがたい行為なのだろう。村人達にも遺体を再び埋葬する事をしっかりと約束する。
「うーん、ちょっと板ばさみ状態と言うべきか‥」
 彼女達と同じく神職にたずさわる者、神聖騎士ではあるノーテ・ブラト(ea7107)の表情は何故か晴れなかった。彼の目指すモノや、彼が修得している技能は、どちらかというと今回の相手寄りだからだ。

「ま、ど〜やら相手は悪いヤツってわけじゃ〜なさそうだし、なんとか丸く収めたいもんだな」
「確かにアンデッドを使えば、戦闘が楽になりますわね。おっほっほ! ‥とは言うものの、死者を冒涜する行為は私も嫌いですわ」
 村人の意を汲んで、というのもあるが、自身の道徳観念からしても死者は死者のまま、ゆっくりと眠らせておいてあげたいというのは、レリック・ダウグ(ea1837)やアミィ・エル(ea6592)や他の冒険者達も同じなようだ。


●輝く太陽の下で蠢く死者
 現場に赴いてみると、クリエイトアンデットによって作られたと思われる数体のズゥンビを従えた、壮年の男性が居た。別に夜にしか動けないと決まっているわけではないが、日に照らされながら動くその数体のズゥンビは、冒険者達に明らかな異質を感じさせる。
「身なりや人数からして冒険者の方々のようだが、私に何か用かな? 急用でなければ少し待っていただけないか、魔法の効果が持続する時間というのは限られているのでな」
 自分の行いに、全く非を感じていないかのような口振りである。いや、口振りだけならまだしも、彼は最初に冒険者達を一瞥した後は、すぐに自分が作り出したズゥンビに目を戻し、先の言葉を放つ間もそっちを向いたままだ。
「あ、あのですねえ! 死者の眠りを妨げる行為は神の教えに反するのでは‥‥」
「それならば、クリエイトアンデットなる魔法は禁術の類になっていてしかるべきだろう」
 ピシャリと言い放つ。早期に説得を終わらせる事は、やはり無理だろうか。
「時間が惜しいのだ、研究の邪魔をしに来たのならお帰りいただこうか」
 男性は再び冒険者達の方に向き直し、ズゥンビ達をけしかけようとする。彼とズゥンビの位置が近すぎて、アルベルト・シェフィールド(ea1888)やリーン・クラトス(ea7602)によるファイヤーボムの先制攻撃は無理だろう。たった数体のズゥンビならばそれでも問題無く倒せるだろうが‥。

「ちょ、ちょっと待て! 俺達の依頼主は村人で、えっと‥‥ほら、あんたの事を良く知ってる村の!」
 戦わざるを得ないか、と思われた直後に発せられたルビー・バルボア(ea1908)の言葉によって、彼の動きが一瞬止まる。村人に一言だけは通したものの、殆ど無断で死体を持ち出してきている事に少しは呵責を感じていたのだろうか。
「自分も貴方の行っている事に少し興味があるので、お話を聞きたいですね」
 ノーテのその言葉に、数名がピクリと反応するが‥
「村人からは説得してもらうように頼まれて来たんだ、ちょっと話し合いに応じてくれないか?」
 ルビーが続かせる言葉に、上手く行くかもしれないという事を覚え、堪える。
「先程から依頼、依頼と言葉を聞くが‥‥ギルド経由の正式な依頼を受けて来たのか?」
 はっと気づいたように、彼の言葉に頷く冒険者達。
「そうか、そこまで思いつめていたのか‥。いいだろう、私の研究に興味のある者も居る事だしな」
 良い方向に向かっていきそうな感じだ。村人の話を出されると彼にも思う所があるのか、それとも単に自分の研究に興味を持つ者が居た事を喜んだのか、どちらが主な理由なのかは分からないが。
 これで話が上手くいけば、死体を全く傷つける事無く、再び埋葬してあげる事が出来るだろう。


●高く、遠くを見つめる者
「対アンデットを想定した研究と聞いていますけど、クリエイトアンデットは対アンデットに使用しても有効ではないでしょう?」
 最初にリラが口を開いたが、クリエイトアンデットの効果は正しくその通り。クリエイトアンデットは死体を動かすのであって、既にアンデット化したものに対して使用しても、全く効果を示さない。
「ホーリー系やピュアリファイの方が有効なはずです。即刻、馬鹿げた研究は中止し、遺体を元通り埋葬して下さい」
「そうですよ、使うつもりなら自分で死体を用意しないといけないし、簡単な命令しか出来ないはずです」
 それもまた正しい。しかし‥一つ溜息をつくと、その男性は誤解の訂正を始める。
「何か勘違いしているな。私の研究は『クリエイトアンデットのアンデットを操る力』であって、クリエイトアンデットそのものではない」
「どういう事です‥? では、操る力を研究して何をするつもりなのですか?」
「そうだ、何故こんな研究を始めたんだ?」
 アルベルトとルビーが、男性の本意を聞くために言葉を紡ぐ。

「レイス‥というアンデットモンスターを知っているかね? 魔法や銀製の武具でしか傷つかず、しかも高い魔法抵抗力を持ち、更に最も厄介な事に人間に憑依する事もある」
 男の話は続く。
「憑依したアンデットを、憑依された者から祓う手段は、実はこれといって存在しないのだ」
 意外と言えば意外かもしれないが、憑依したアンデットを祓うのには、基本的にホーリーなどで力押しするしか方法が存在しない。銀のアクセサリなどを身につけていても、別に何の問題無く彼等は憑依出来る。ホーリーなどでない通常の魔法や銀製の武具で攻撃をした場合、それが効果的であればあるほど被憑依者にもダメージがいってしまう。
「私の研究の目標は、アンデットに外から強制力を加え、憑依を解除する事なのだ」
 彼が欲しているのは退魔の為の力。今現在彼がやっているこの方法が、効率の良い手段であるとは思えないが、身近にあるものでとりあえず試してみようとでもしたのだろうか。だとしたら、その向上心は結構なのだが、少々気が短すぎる気がする。
「しかしだな、最低限守らねばならない信義、信念はあるはずではないか?」
「周りの人の気持ちを考える余裕を持たないと、良い成果は期待できないよ」
「善意ってのはな、方向を見定めなけりゃ、ただの迷惑になっちまうんだよ」
 口々に冒険者達は反論する。目的は正しくとも手段を間違えたものは、その全体が間違いになるのだと。
「あなたは泥棒をしているのですわよ。死体は、その人、または家族のものですわよ」
「キミがとても熱心だということは分かるんだ。ただ、その方向性がちょっとズレてるだけで。今回は素直に謝って、他の研究を頑張ればいいんじゃないかな」
「村の人達も、死体を元通り埋葬してくれれば、必要以上の追及はしないと言ってくれているんだ」
 ‥‥‥、少しの沈黙。
「そうだな、まさかギルドに依頼するほどに、村人達が思い悩んでいたとは思わなかった。いいだろう、死体は元通りに埋葬する事にしよう」
 少し引っかかる答えだが、これなら誰も傷つかずに依頼を達成出来る。話の途中で、相打ちを狙うという直接的な手段は冒険者の説得もあって諦めたが、彼の意思は強固なようで、アンデットに強制力を加えるという目的を止める気は無いらしく、今ここでこれ以上彼の考えを変えるのは難しいように思えた。


●説得成功、ではあるのだけれど?
「研究を止めるつもりは無いのですか? また、どこかの墓地から死体を盗む気なのですか?」
「いや、埋葬された死体を扱うのは今回限りにするつもりだ。代わりの研究対象を見つけるところからの出発だな」
 今日で知られている魔法の体系は、先人達による歴史の積み重ねの上に成り立っていると思っていい。彼が目指しているのは、今はまだ確立化されていない魔法。もしかしたら、いや、もしかしなくても彼が生きている間には完成しないかもしれないが、歴史の先端を行く者には、ある意味倫理というものが通用しない。
 それを良い事だと言う事はもちろん出来ないが、それによって作られる物、切り開かれる世界がある以上、悪い事だとも言い切れない。どんな力であろうとも、扱う者よっては容易に悪へと移り変わる。それは同時に、扱う者によっては善のままで居られるという事だ。

 再び埋葬された死者の傍らで、祈りを捧げるリラやステファを背に去っていく。そんな彼を呼び止めたのはノーテだった。
「ちょっと待って下さい、そう言えばまだ名前を聞いていません」
「私の名前か? それなら‥モリスン、だよ」
 素っ気なく答える彼を最後に見送ったのは、「わたくしもクレリックになればよかったですわ」というアミィのぼやきだった。