再発生など、あってはならない

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:11月20日〜11月25日

リプレイ公開日:2004年11月26日

●オープニング

「‥そうか、何か手を打つ必要があるな。無駄な金は使いたくないものだが、どうしたものか‥」
 身なりの良い男と、騎士と思わしき男が言葉を交わしている。彼等が今居る場所は山奥に建てられた家屋の中だが、その部屋を彩る調度品の数々は、彼等が貴族に連なる者である事を示すのに十分だった。
 その身なりの良い男だが、この山中にある鉄鉱石採掘所再開の為に、主の貴族の命を受けてこの地に赴いてきている。与えられているのは、採掘所再開までの予算枠と再開までに発生する事柄への対処の権限。採掘所に関する事柄は一切を任されていると言ってもいい。
 自分の裁量で全てを行って構わないというのは、主からの信頼の表れであると言えるが、別な言い方をすれば何かしらの問題が発生した際、その対処を失敗すれば全て自分に降りかかってくる。任された務めを果たせるかどうかを試されているとも言えよう。
「畏れながら、ここは冒険者ギルドに依頼してみますのがよいかと」
「冒険者か‥あまり好かんのだがな。 ‥‥ふむ、例えばこういう形式の依頼は許されるのか?」
 何か妙案を思いついたのか、身なりのよい男は向かいに座る騎士に対し、自分の思いついた依頼内容の説明を始めた‥‥

 ――三日後、冒険者ギルド。
「輸送と、襲撃が予想される野盗の撃退か。‥‥野盗の対処がメインだな」
 依頼の内容はギルド員が言った通り、輸送と野盗の撃退。輸送する品は、採掘再開の為の資材や現地で働く人達の為の食料や水。単価の高い物は一切含まれていない為、今までに出ている被害の額は多いとは言い難いが、その為に毎回護衛をつけるほどの価値が無いのもまた事実。
 故に、この依頼では野盗達の対処を徹底してもらい、再び野盗の襲撃がないようにしてもらいたいとの事。最低ラインは相手の過半数の捕縛で、捕縛する余裕が無い場合はそれに応じた結果が出ても構わない、らしい。言葉を濁しているが、『それに応じた結果』が何を意味するのかは冒険者ならば解るだろう。
「失敗すれば報酬は0、輸送品に被害が出たらもちろんその分は引かれる、保存食とかの経費もこっち持ちで往復分の六日分。その代わり、対処出来た野盗の数に応じて追加報酬もあるそうだ。もちろん、過半数を超えた分からだけどな」

「つまり、野盗は単に潰すだけでなくて再発防止の為の見せしめも兼ねて、徹底的にとっちめろってわけだな。気に入った、この依頼受けるぜ俺は」
「追加報酬の額は‥っと、うん‥なかなか。成果を挙げた分は評価してもらえる、腕を試すには‥‥え゛っ?」
 互いに互いがその場に居る事を知らず、それなのに同時に声をあげた朱と蒼。偶然なのか何なのかは分からないが、同じ依頼を受ける事が多い。互いに異性としての感情は持っておらず、ただの腐れ縁なのかもしれないが、咄嗟の反応が、動きが、タイミングが、一致する。何の根拠も無い不思議な共か‥あれぇ?なんかユアンとかいう人、顔色が優れないな?

●今回の参加者

 ea1551 セレネス・アリシア(27歳・♀・クレリック・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea1793 河崎 丈治(36歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea4284 フェリシア・ティール(33歳・♀・ナイト・人間・ノルマン王国)
 ea6332 アヴィルカ・レジィ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea6632 シエル・サーロット(35歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8370 アーティレニア・ドーマン(38歳・♀・ジプシー・人間・神聖ローマ帝国)
 ea8537 ナラン・チャロ(24歳・♀・レンジャー・人間・インドゥーラ国)
 ea8583 アルフレッド・アルビオン(33歳・♂・クレリック・エルフ・イギリス王国)
 ea8585 ウェンディ・ローランド(23歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)

●リプレイ本文

●冒険者の心得
「おいおい、何言ってんだよ。依頼主は向かう先に居る貴族サマなんだぜ、一体どうやって頼むんだ?」
 グラケルミィのその一言で、河崎 丈治(ea1793)やアルフレッド・アルビオン(ea8583)の考えていた事前準備の案は色々と打ち砕かれた。
「あれば捕縛確率が上がるから、良いと思ったのですが‥」
 この案にはもう一つ穴がある。確かにこの場に依頼主なり依頼主の代理人なりが居れば、その交渉は可能だったろう。しかし、今回の依頼主はいわゆる出向中の身であり、彼等が求めているような投網を持ってくる必要のある任には就いていない。

「グラキさんの目があっちに向かってる間に、走って買ってきたほうがいいですよ?」
 セレネス・アリシア(ea1551)やアヴィルカ・レジィ(ea6332)、それにウェンディ・ローランド(ea8585)やルメリア・アドミナル(ea8594)にユアンが言葉をかける。言葉をかけられた四人は最初はなんで走らなければならないのかが分からず、キョトンとしていたが‥
「水や食料はとても大切だわ。空腹では仕事の効率も落ちるでしょうし‥ね?」
 フェリシア・ティール(ea4284)が遠まわしに言ってくれた。彼等四人は、ギルド員の説明を聞いていなかったのだろうか、必要な分の保存食を持って来ていないのだ。出発の予定時間まで余裕があるのを確認すると、急いで四人は保存食を買い求める為に走り出したのだった。

 どちらの例にも言える事だが、「仕事に必要な物は、その時までに自分で用意する」が、冒険者としての心得である。それに今回は、他の人が余分に持っていた寝具を借りる事でどうにか難をしのいだ冒険者が、三人も居た。大事な物を失いたくないのなら、今の内に自分の事は自分で面倒を見れるようにならなければいけない。


●初日の夜に、寝具持って来てない人は怒られてます
 パリを発って二日目の夜。そろそろ目的地近くまで来ており、明日からの道中は、いつ野盗の襲撃を受けるか分からない。冒険者達はそれに備えて早い内に野営の準備に取り掛かり、休息を取る。
「今は良くなってきてるけど、最初は随分顔色が悪かったわ。‥何か、気になる事でもあるのかしら?」
「気になる事というか‥」
 フェリシアもグラケルミィと同じで金髪に、赤系統色の衣服。色だけなら同じような感じなのに、全然違うなぁ‥とかユアンは思う。髪の輝きも違うし、何より持っている雰囲気が全然違う。
 ユアンとグラケルミィの出会いは、お互いが最初に受けた依頼だった。
 打ち合わせ無しの咄嗟の連携攻撃。その後は、グラケルミィの方がユアンを気に入った形での関係なのだが、彼女の勘の良さと戦闘技術を、ユアンは少々羨ましく思いながら敬意を払っている。彼女と一緒なら、何故か強大なモンスターとも渡り合えそうな気がするのだ。
「でも、そういうのってちょっと分かるな。踊り手やってるとさ、歌や音楽‥それに他に踊り手さんとかと、その場で合わせたりする事があるんだけど、偶にすっごく『合う』時があるんだ」
 アーティレニア・ドーマン(ea8370)が話に加わってきた。自分と同じ感覚を持っている相手と、時折出会う事がある。歌や音楽、踊り‥それに絵画などの芸術分野だとそれが顕著に表れやすいから、彼女にはユアンの話に実感が沸くのだろう。
「でも、グラキさんって歯に衣を着せないタイプって言うか、それでフォローする事が多くて‥」
「ああ‥それは分かるわ。でも、やっぱり知り合いが悪く思われるのは嫌だものね」

「ところで、グラキさんって恋人は居るのかしら? ユアンさんと同行する事が多いって聞きますけど‥」
「ん? ああ‥今は居ないし、考えてないな。ユアンは良い仕事仲間ってとこだ」
 少し時間が経ち、今は見張りの二直目。シエル・サーロット(ea6632)がグラケルミィとこうして話すのは、これが初めてではない。
「そういう話題振るってことは、アンタにゃお相手がいるのかい?」
「いえ‥まだ特定のお相手は‥。でも、ちょっと気になる方はいますわ」
 「自分の目の前に居る、グラキさんがそうですわ」と言いたいところなのだが、まだ聞いておきたい事もあるし、あまり強く迫って嫌がられてしまうと立ち直れそうにないので控える。まだ帰りの分の日程もあるのだ。


●とりあえずは満足の成果
 山道を荷馬車が進む。木箱に半数が隠れて、半数が外。木箱を少し加工して、中から外の様子が窺い知れるようにしている者も居る。それをもっと進ませて、木箱から出易いように加工しようとした者も居たが、これは流石に難しくて出来なかった。
(「来ましたね‥」)
 コン、コン、コン‥っと小気味の良い音が、木箱から三度鳴る。周囲の障害物のせいで姿はまだ見えないが、野盗がブレスセンサーに引っ掛かった証拠だ。しかし、ここで急に警戒を強めれば、こちらが相手に気づいた事がバレる。なんとももどかしい時間は、木陰より放たれた数本の矢が終わらせてくれた。
「ひい、ふう、みい‥‥六人か。へっ、ようやく護衛をつけたと思ったら、こっちの半分かよ」
「しかし頭ぁ、こいつら良い鎧付けてますぜ。矢が効いてるように思えねぇ」
 荷馬車は、野盗に半包囲されていた。相手にしてみれば、荷馬車がこの道を通るのは何度も経験して分かりきっているので、簡単に待ち伏せをする事が出来る。この状態から相手を包囲し返すには、どうにかして相手の布陣を狭い範囲に押しこまなければ無理だ。

(「くっ‥どうすれば‥」)
「ふん‥自分達が不利な事ぐらいは分かるか。なぁに、荷を差し出してくれれば命までは取らねぇよ」
 予定とは逆に、自分達が半包囲されてしまった事で対応に困窮している冒険者を、どうやら野盗は少し勘違いしているようだ。だが、この事は逆に利用出来るかもしれない。
「‥ここは、一旦引き下がりましょう」
「なっ!? 何を言ってるんだ、引き下がるわけには‥」
 シエルの発言に丈治が反発する。が、他の冒険者達からも目配せされ、彼も含めた六人は荷馬車を残して少し後方へ引き下がる。
「‥おい、お前等がちょっと荷を確認してこい」
 こうも素直に引き下がってしまうと、流石に何かがあるのはバレただろうか。しかし打ち合わせなしの咄嗟の演技では、これぐらいまでしか六人ともが合わせるのは無理だ。
「ん? この木箱、なんで穴が開いて‥ぎゃあああっ!!」
 セレネスのブラックホーリーと、ルメリアのライトニングサンダーボルトが木箱の中より放たれ、間髪置かずにアヴィルカのマグナブローが地中より噴き出す。派手な魔法効果に相手の目がいっている隙に、一旦は引き下がった六人は再び荷馬車の元へ走り、一部はそのまま駆け抜け相手の射手まで迫らんとする。
「やっぱり何か隠してやがったか。おい、さっさと射掛けろ!‥‥!?」
「はっ話が違う! 楽に奪えるんじゃなかったのかよ!」
「やっぱり、護衛が居るのを確認した時点で止めとくべきだったんだ!」
 野盗の頭と、配下であるはずの射手の反応は真逆だった。元々、小銭狙いで集まった野盗はこんなものなのかもしれない。が、どうやらそれは射手のみに限った話らしく、荷を検めていた配下の方は魔法による奇襲を受けてなお、頭の指示通りに戦闘を開始した。

「あれ? あれれ? もしかして絶体絶命崖っぷち?」
 勢い良く木箱から飛び出したナラン・チャロ(ea8537)は、そのまま素早くダガーを振るいはじめた。それはいいのだが、トリッキーに動きに緩急をつけて切り裂いてみても、確かに身を斬られた事で相手の顔に歪みは走るがカスリ傷しか負わせられない。かといって、ダメージを重視する為に小細工抜きでぶっ刺そうとすると、今度は中々攻撃が当たらない。
 初歩クラスの魔法の射程は短いものが多く、弓の方が普通長い。セレネスのブラックホーリーは相手の射手に届かないので、仕方なく近くの相手に撃ち込まれた。そしてアルフレッドは、魔法には詠唱時間という大きな大きな1ステップが存在する事を失念していた。まあ彼の役割上、他の術者と同時に詠唱を開始すれば、ギブメンタルは問題無く使えるのだが。
「何やってやがる、術者なんてのは一発どつけばそれで終いだ! さっさとブン殴れ!」
 アーティレニアと剣を交えながら、野盗のリーダーが部下をどやす。灰で作られた身代わりをパスして踏み込み、術者の一人に襲いかかろうとするが‥‥
「足元注意ですわ〜♪ あら、良い色に焼き上がりました〜?」
 事前に仕掛けられていたライトニングトラップに踏み込んでしまい、白目を向いてその場に倒れ伏す。それを見た相手の射手は恐怖からか、その場から逃げ出してしまった。もう野盗の指揮もその士気も、ガタガタに崩れてしまっている。

「逃がさないわよ! 観念しなさい!」
「あんただけは確実に仕留めさせてもらう!」
 もうこれ以上戦闘を続けても勝ち目は無いと思ったのか、野盗の頭も逃走を始めたのだが、身に付けた武具が重くて速く走れない。フェリシアがニードルホイップで絡め取り、丈治が炎を纏ったスピアで突き刺して戦闘力を奪った。
 結局、頭目と荷馬車近くまで接近してきていた部下、合わせて過半数と少しを捕縛する事が出来、とりあえずは満足出来る結果になった。相手の射手は全員逃がしてしまう形になったが、戦闘開始からの反応を見るに彼等だけでは、もう再び野盗として荷馬車を襲う事は無いだろう。


「アタシはドレスタットに向かおうと思ってる。なんだか厄介な事が起きてるらしい」
「噂の事件ですか? 僕はまだパリの地から離れず、様子を見るつもりです」
「それじゃユアン、またどっかで会ったらよろしくね〜」
 捕縛した野盗を引き渡し、冒険者達は自分の次の道を決めてゆく。
「ご友人にはなれたでしょうけれど‥。あまり色恋沙汰に興味無い方に、ここから先はどうしたものか‥」
 ぶつぶつぼそり、引いてダメなら押してみるしか?