真実は霧の中
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■ショートシナリオ
担当:MOB
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 50 C
参加人数:8人
サポート参加人数:1人
冒険期間:12月05日〜12月15日
リプレイ公開日:2004年12月10日
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●オープニング
夜が明けきらぬ時間に突如発生した深い霧‥いや、霧自体は元々発生していた。しかし、十数m先ならともかく、1m先ぐらいしか見えない程の深い霧はあまりにも不自然だ。そして、霧を抜けるか、霧が晴れるかした時には、持っていたはずの荷物の一部が無くなっているか、多数の傷を負わされている‥。
「最近、街外れで不自然な霧が発生して、周囲の確認が出来ない間に大怪我を負わされたり、荷物を奪い取られる事件が起きていてな」
それでこの依頼だ、とギルド員が示したのはクルード退治の依頼。
「クルード? 退治、と言うからにはモンスターのようだが‥」
「クルードっていうのは、デビルの一種だ。視野を遮る霧を吐き、鞭のようにしなる細長い尾を持ったヤツで、大きさは1mちょっとだがネズミに似ていて、耳まで裂けた大きな口も特徴だな。被害者の一人の、鞭で叩かれたような傷と、ぼんやりとだが大きなネズミのように見えたっていう証言が、クルードの仕業だとする理由だ」 冒険者の問いにギルド員は、手際良く相手の特徴と、何故その相手が犯人だと決めつけられたのかを説明していく。
「犯人はデビルか‥厄介な相手だな」
デビルには通常の武器では傷一つ付けられない。有効なのは銀製の武具か魔法ぐらいと、対抗する手段は限られる。
「そうそう、少し‥気に掛かる証言がある。無理矢理荷物を奪って逃げていっただけのケースもあるらしい」
DO、EVIL。悪さをするのがデビルなのだから別に不自然ではないのだが、その尾で打たれるケースと打たれないケース、二通りの犯行があるらしい。
「犯人のクルードは複数で、別々に悪さしているのかもな。だからちょっと長い期間の依頼になる」
今までの犯行頻度から、この程度期間を取れば両方のケースの犯人が動くだろうとの事らしい。もちろん、相手がクルード一体だけで、単に気まぐれに両方のケースを起こしてる可能性もある。そっちのケースならば、少し楽が出来るのでありがたいのだが‥。
――何処かの家屋の中。
「視界が効かないのはツラいが、案外なんとかなるもんだな。‥くっくっく、デビル様々だな!」
自分の家でゆっくりと、奪った荷物の中身を物色している男が、確かにそこに居た。
●リプレイ本文
●まずは情報収集
「拙者は少し被害者に話を聞きに行こうと思います、どこで襲われたかは知っておきたいですし」
音無 藤丸(ea7755)は、まずは情報を集める事を申し出る。彼が言っているように、とりあえず大体の出没箇所を調べないと、街外れといっても結構範囲は広いのだ。
「では藤丸、よろしく頼む。俺では、ちょっとここの人達と話をするのは無理だからな」
姚 天羅(ea7210)が申し訳なさそうに言う。彼はラテン語と華国語しか話せないので、今もアーティレニア・ドーマン(ea8370)に言葉を訳してもらっている状態だ。とは言うものの、藤丸の方もそれほどゲルマン語が達者というわけではないのだが。
そのやりとりの影で、天羅よりも更に申し訳なさそうにしている冒険者が居た。ニャミィ・テンダキャー(ea9129)だ。彼女は、その場に居る誰よりもゲルマン語を上手く話せる。しかし、この場に居る誰よりも情報を聞けない。彼女の耳は、人より長く、エルフより短かったのだ。
情報を集めている間‥依頼を受けてよりの数日間は、運が良かったのだろうか、冒険者達にとって都合の良い事に霧が出ない日が続いた。
被害の件数が増えてきていたせいか、早朝に街外れを歩く人も一時的にめっきり少なくなっていたので、クルードは現れていない。これなら、冒険者達が早朝に街外れを歩けば、久しぶりの獲物だと喜び勇んでクルードは出てきてくれるだろう。
「そ、それで‥クルードはどの辺りに出るんですか?」
アイリス・ビントゥ(ea7378)が問いかけると、藤丸などは自分が調べた結果を、他の冒険者達に話す。
調べていく過程で分かった事だが、一定の範囲内で事件は起こっているものの、とにかくバラバラの地点で被害が起きている。クルードは自分で霧を吐き出す事が出来るので、これは当然の事なのだが、追いかける側としては嫌なものだ。
「き、霧の中だと‥囮とかやっても、見失ってしまいます‥よね?」
「仕方ないな、ある程度まとまって動くしかないか」
アイリスが心配しているように、被害者の話によると霧の中では1m先も満足に見えなかったらしい。これでは、天羅が言うようにまとまって行動しておかないと、一発で仲間を見失ってしまう。
「荷物、消える‥困る‥紐、結ぶ‥‥紐‥紐?」
各自準備を整えていく中で、チェムザ・オルムガ(ea8568)は自分の荷物が盗られないように、自分の体と荷物を結びつけようと思ったが、肝心の結ぶための物が無い。ロープの一本でも買うか借りていれば、話は違ったのだろうが、これではどうにもならない。
●クルードの吐く霧は、ミストフィールドと同じ効果です
「デビルが相手、それもこんな朝早くから‥。こう連日早く起きるのは中々大変だけど、頑張りますか」
クルードは、朝霧が出る日に現れる事が多いと聞く。既に発生している霧と自身の吐く霧が相まって、獲物に近づくのも、逃げ出すのも容易だからだろうか。
「クルードが来たら、アーティは俺が‥‥アーティ?」
ふっ‥と、目線の先のアーティレニアの姿が霞み、チェムザは自分の目をこする。
「来たか‥。話には聞いていたが、ここまで周りが見えないとは‥」
急にぐっと深く濃くなり、僅かな先しか見通せぬ程に視界が白く埋まっていく。
「ニャミィさん、バーニングソードをお願いします」
対応する為の手段はある、あとは相手の姿を早く見つけるだけ。
「どこだ‥どこから来る気だ‥?」
一般に殺気感知とは、対峙している相手が殺気を放っているかどうかを見極める。相手が隙あらば襲い掛かろうとしているのか、単に警戒しているだけなのか、敵意の程を知れる。そういう意味に近い。
そして、バックアタックは死角からの攻撃に対処する為の技術ではあるのだが、全く姿を確認出来ていない状態ではどうする事も出来ない。後ろに回りこまれた事を、ギリギリ眼の端で捉えている状態。そのような状態でも、真正面から向き合っている時と同じように対処出来ると思えば良い。
「見つけた‥歩いていた方向を前として、右の方向に何か居るわ」
インフラビジョンを使用していた群雲 蓮花(ea4485)の目に、もや〜っと新たな赤い存在が浮かび上がる。今まで同行して歩いていた仲間達とはまた別の存在。霧のせいで正確な情報は得られないが、そこに何がしかの存在が居るのは間違いない。
「ぐわっ!」
クルードには、霧の中でも普通に見通せる目が備わっているという。一斉に自分の方向を向いた冒険者達に警戒心を抱いたのか、尾の射程距離ギリギリから攻撃を仕掛けてきた。天羅が体の弱い仲間の前に立って壁になったり、レジストデビルのおかげである程度凌げてはいるが‥守っているだけではこのまま嬲り殺しだ。
「ぐぅっ! こ、これではただの的になるだけです、突っ込みましょう!」
バーニングソードを受けれた冒険者はまだ全員ではないが、無理にでも前に出て相手を捉えないと、このままでは相手の尾撃を一方的に喰らうだけだ。盾の一つでも持っていれば、それを全面に押し出して被害を減らせれただろうが、誰も持ってきていない。
クルードの吐く霧にも、効果範囲には限度がある。視界が通常に霧に戻った瞬間、藤丸の前にデカい鼠が現れた。
「なるほど、確かにこれは大きなネズミだ。迷惑なんですよ‥消えてもらいます」
視界の効かない霧さえ抜け出せば、相手はたったの一体。別段、遅れを取るような相手ではない。
「ぶった斬りジプシー、アーティちゃん参上〜」
ズバッ! アーティレニアがノーマルソードで斬り裂く。
「え、え〜い」
ドッバァ! アイリスがスマッシュを用いてぶった斬る。
そうして、刀身に炎を纏わせた冒険者達に斬撃を浴びせられ、あっけなくクルードは撃退されたのだった。
言ってる事はなんだか微笑ましかったり、可愛いかったりするが、二人がクルードに負わせた傷は結構な深手である。クルードは通常の武器に耐性がある反面、自身を傷つけられる手段でもって攻撃されると、実はかなり脆かったりするのだ。
●霧の中の逃亡者
「こ、これで街が平和になればいいですね」
「どうだろうね〜? まだ、犯人がこのクルードだけとは決まったわけじゃないし」
「こいつ、荷物‥奪う気なさそうだった。多分、他にも‥居る」
倒れ伏したクルードを見下ろし、どうにもこいつは荷物を奪う気がなさそうに感じた冒険者達。その内にクルードの姿が消えてゆく‥。これは、別に逃げ出した訳ではなく、一般にデビルの死体は残らないのだ。
「皆、お疲れ様。今日のところはこれで終わりかな?」
「クルードがこれ一体だけなら、後の日程は楽が出来そうだったんですけど」
蓮花と高遠 美鈴(ea9155)が、クルードを仕留め終えた仲間を労う。ともかく一体のクルードを仕留め終え、今日のところはこれで終わりだろうと気を抜いたその時、建物の陰から助けを呼ぶ声が聞こえた。その方向には、不自然に濃い霧が発生している!
「だ、誰なんですか!? あたしの荷物をどうする気‥!」
声の主はニャミィだ。戦闘時の緊迫感を嫌い、バーニングソードをかけた後はその場から離れていたのだが、それが仇になったのか。視界が霧に包まれた直後、何者かが彼女の荷物に手を伸ばし、無理矢理に奪い去ろうとしていた。
「ニャミィ様、大丈夫ですか!?」
藤丸をはじめとして、冒険者達は一斉にその場に駆けつける。声や足音でその事を察知したのか、ニャミィの荷物を奪い去ろうとしていた何者かは、諦めて逃げ出しはじめたようだった。
「この霧‥もう一体クルードが居たのか!?」
「これは‥? 多分違うわ、赤く見える範囲が大きい。これぐらいの背の高さだと‥‥まさか人間!?」
先程クルードを見つけた時のように、蓮花の目には霧の向こうに居る相手が映っていた。
「デビルの仕業に便乗でもして、盗み働いてたってのかよ! よくもまあ、思いつきやがったもんだぜ!」
天羅を先頭に、冒険者達は追跡を始めるが‥
「逃がしません!」
「美鈴様、待って下さい! 今それを使ったら‥!」
美鈴が春花の術を使用しようとしたのを、藤丸が咄嗟に制止した。
忍法も魔法と同じく詠唱時間がある。美鈴が使おうとしていた術が発動したその時には、相手は範囲外まで逃げ出しており、相手と彼女の間には、彼女を追い越して相手を追いかけていた仲間が居ただろう。魔法の類は、高速で詠唱を終える事が出来ないのならば、相手を追いかける際に使用するには向いていないのだ。
まあ、それがなくとも、霧を発生させながら逃げていった相手を捕まえるのは、おそらく無理だっただろう。事前に相手の情報を掴んでいれば、どうにか対処の手段は考えれただろうが、今それを言っても仕方がない。
●犯行の停止
その後も依頼期間中は毎日捜査を続けたが、別のクルードが現れるという事は無かった。冒険者達が一体のクルードを退治した後は、事件はピッタリと止んでしまったのだ。どうやら、今回の事件の犯人はクルードと、それに便乗して盗みを働いていた人間の仕業だったようだ。
「便乗犯を捕まえれなかったのは、少々不満ですね‥」
「まあ仕方ないって。元々、この依頼はクルード退治なんだしさ」
冒険者達は皆、全体的に天羅のようにやや不満を残した結果だと思っていたが、アーティレニアは頭を切り替えるように促した。反省するのは大事だが、いつまでも後悔しているのはダメだ。幸い、犯行は止んで誰も被害に遭う事は無くなったのだ。
依頼自体は成功なのである。更に高い成果を望むなら、これを糧に次に進めばいい。