ワインよりもエールがお好き
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■ショートシナリオ
担当:MOB
対応レベル:1〜5lv
難易度:普通
成功報酬:1 G 8 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月15日〜12月20日
リプレイ公開日:2004年12月20日
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●オープニング
「依頼の申し込みかい? 申し訳無いが、今はドラゴン達の対応に結構な人数が回ってるんだ。受けれる余裕のある冒険者が居るかどうか、ちょっと保障出来かねるぜ」
ポリポリと、申し訳なさそうに頭を掻きながら応対するギルド員。そのまま続けて、ゴブリン程度のモンスターや、ちょっとした事件なら、知り合いの中で多少なりとも戦闘の心得のある者を探して、どうにか出来ないのかと尋ねるが、依頼を申し込みに来た者は首を横に振る。
「それが‥。向かった者の話では、思いっきり殴りつけたはずなのに、痛がる様子もなかったらしいのです」
向かった者というのは、彼の店で雇っている若者なのだが、彼が言うには倉庫に忍び込んだと思わしき影を、手に持った棒で殴りつけたが、全く堪える様子もなくその場から飛び去ってしまったのだという。
「飛び去った‥? む、その相手の詳しい特徴は分かるか?」
「はい。若者が言うには、毛むくじゃらでコウモリのような羽を持っていたらしいのです」
「倉庫の中の物に出てる被害は?」
「エールです。犯人が来るたびに結構な量が飲まれてしまっているんです、どうにかしてもらえませんか?」
「‥‥おそらくグレムリンだな。やれやれ、デビルか‥よりによってこんな時に」
人を困せるような事をしているのだから、デビルらしいと言えばデビルらしいのだが。
「でっ‥デビルですか!? ただのモンスターじゃなくて!?」
「ああ、その若者は無事で済んでいるのかい?」
慌てた様子で、こくこくと首を縦に振る依頼主。
「たらふくエールを飲んだ後だったから、機嫌が良かったのかもしれないな」
デビルには、魔法や銀の武器などでしか傷を負わせる事が出来ない。普通に暮らしている人達には、明らかに手に余る‥。なにしろ追い払う手段が無いのだ、どうしようもない。
「依頼内容を確認してくれ、報酬額とかも‥‥。羊皮紙に書いてある内容で問題無ければ、すぐに壁に貼り出しておくからよ」
ただ、人手が足りない状態が続いている。その点だけは分かってくれ、とギルド員は苦笑しながら説明する。
依頼主の話によると、相手の数は二体。報酬額が少ないように見えるが、追い払ってくれれば、エールを半日飲み放題にさせてもらうとの事。このままなら、どうせデビルに飲まれてしまうだけなので、それならいっそ‥という訳のようだ。
「なにぃ半日エール飲み放題だと!? 受ける、俺はその依頼受けるぜ!」
えらく現金な冒険者‥いや、冒険者の中にはこういうタイプもそう珍しくはないか。彼の名前はイグス・ドリト、火の精霊魔法を使う人間のウィザードであるらしい。
●リプレイ本文
●迎撃の準備
「じゃあ、グレムリンが来るのは夜の間‥って事でいいんだね?」
キウイ・クレープ(ea2031)が依頼主の店主に聞き返す。最初はデビルを目撃した若者に聞こうとしたが、彼は忙しく酒場の中を動き回っていて、時間を割いてもらうのにはちょっと気が引けた。倉庫にデビルが出るという事で、仮病を使って(確証はないのだが)仕事を休んでいる者が居るので、人手が少し不足気味だからだ。
「それで倉庫は、人やグレムリンが出入り出来そうな箇所はどれだけあるのか? 入り口だけであるか?」
「窓とか扉とか、グレムリンに壊された箇所はないのか?」
ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)や石動 悠一郎(ea8417)は、倉庫は今どんな状態なのかを聞いていた。飛行能力を持っている事もそうだが、グレムリンは動きが速い。若者が応対した時も、攻撃が効かない事に気を取られていたとはいえ、あっさりと逃げられてしまっている。
「壊された箇所といえば扉で‥。ええ、出入り口もそこだけです」
「あらあら‥、それはまた災難ですね」
なお、扉については一度は修理する事も考えたが、先にデビルをなんとかしてもらわないと、また壊されてしまうだけなので、とりあえず応急処置だけをしているそうだ。いつもと変わらないニコニコとした表情で、エレーナ・コーネフ(ea4847)は同情の意を述べる。
「俺ぁイグス。炎のウィザード、イグス・ドリトだ。今回はエールの為、よろしく頼むぜ」
「エールの為って‥素直な奴だな。こっちこそ宜しくな。あんたの魔法を頼りにしてるよ!」
もう一つ、炎じゃなくて火だろうとネイ・シルフィス(ea9089)は思ったが、それは流しておいた。イグスは彼女がハーフエルフだと知っても、「そう言われれば、耳の長さが人間ともエルフとも違うな」と言ったっきり、何一つ態度を変えなかった。
これは別に冒険者達の中では、珍しい事ではない。とにかく『仕事がこなせる事』が重視される冒険者達の中では、種族がどうとかはあまり気にされないのだ。とはいえ、街中に出れば避けられ気味になるし、地方に行けば、「そこのハーフエルフ」などと名前以外で呼称されるなど、露骨な差別を受ける事もままある。
「デビルは銀に弱いと聞いたのですが、ネックレスを腕に巻きつけたりすれば、少しは効果があるのでしょうか?」
「いえ‥正確に言うと、銀に弱いのでなく、銀ならば効果があるのです」
エリーナ・ブラームス(ea9482)は、神聖騎士でありながら、まだ神聖魔法を一つも使えない事に引け目を感じているのか、デビルに有効そうな手段を模索していた。丁度良く、ボルト・レイヴン(ea7906)という同じく神に仕える冒険者が居たので相談してみると、少し残念な答えが返ってきた。
「とりあえず、グレムリンが来た事が分かる仕掛けでも作っておくか?」
倉庫に到着した後、冒険者達はグレムリンを迎え撃つ準備を整え始めた。ダギル・ブロウ(ea3477)は鳴子のような仕掛けを作る事を提案したが、出入り口が後で修理予定の不恰好なツギハギの扉しかないので、これを閉ざしておけば、それで相手が来たかどうかは分かるだろう。
キウイ、ヘラクレイオス、悠一郎、それと‥その三名にバーニングソードをかける為にイグスが、倉庫内の物陰に潜み、残りの五名は倉庫の出入り口である扉が見える位置に待機して、グレムリン達を待ち構える事にした。とはいえ、まだ夜までは時間があるので、一旦倉庫から離れて少し時間を潰す。
●ワインよりもエールがお好き?
日が落ち、夜へと時間が移りかわる頃に冒険者達は倉庫へと戻ってきた。前述の四名が倉庫の中へと入っていき、同じく五名が倉庫の入り口が見える位置で待機する。
「あの‥ネイさん、こうして待ってると結構寒いですね」
「そうだねぇ‥。もうすぐ年も移りかわる頃だしね」
季節は冬、あまり動かずに待機していると、普段よりも寒さを感じてしまう。それをキッカケとして、エリーナはネイへと声をかけた。本当はもっと早い内に話してみたかった。偏見は持っていないつもりだったが、いざ行動を共にするとなると、どうしても腰が引けてしまっていたのだ。
「冬の時期は、女性には辛いですよねー‥と、あら?」
話に加わりながらも、扉近くを見ていたエレーナは、そこに向かって飛んできた二つの影を見つけた。
「来たか。あれがグレムリンとかいうデビルか‥」
途端に冒険者達に緊張が走る。そんな中でも落ち着き払った様子でダギルはロングソードを抜き放ち、率先して倉庫の扉へと向かう。そして、その後ろを、少し慌てた感じでエリーナがついていく。
「なにビクビクしてんだい? 確かにその剣じゃデビルに傷はつけれないが、止めてくれればあたしとボルトが魔法でなんとかする。あんたを信じているさ、前は任せたよ」
「神よ、この者に幸運を。‥そういう事です、私達のような術者には、それは無理ですから」
そんなエリーナをネイの背を押し、ボルトがグッドラックをかける。そうして奮い立った彼女は、ダギルと共に開かれた扉の奥へ‥中の様子を窺いながら、足を踏み入れていった。
倉庫の中には、ワインもエールも保管されている。が、グレムリン達はワインなんかには興味がないと感じで素通りしていき、エールの樽の下へとさっさか進んでいった。「樽一杯のエールでグレムリンを誘き出すのは可能」そんな話があるが、この光景を見る限りそれは本当の事なのだろうか。
「コラッ、大事な酒を飲みやがって、あっち行け!」
頃合を見計らい、キウイがグレムリン達を叱りつけるが、彼女の方を一瞥しただけでグレムリン達は、また浴びるようにエールをガブ飲みし始める。何とかしたいが、今の状態ではまだ相手を傷つけれない。
「ぐぬっ‥こっの野郎〜‥!」
仕方ないので引き返し、バーニングソードの付与を待つ。彼女がそれをやっている間に、自分でオーラパワーを付与したヘラクレイオスが飛び出し、イグスからバーニングソードの付与をもらった悠一郎が追いかける。
明確な攻撃の意思を察知したのか、グレムリン達もエールを飲む事を中止して冒険者達に向き直り、こちらに向かってきていた冒険者達へと飛びかかる。そして、待ってましたと言わんばかりにヘラクレイオスはカウンターでスマッシュを放つが、相手が飛行している為に上手く振り下ろす事が出来ず、得物の重量が乗りきらない。そして‥
(「こ、こやつら、随分と手数が多いの‥!」)
このままではリカバーでは治らない怪我を受ける。そう判断したヘラクレイオスは咄嗟に、かつ冷静に行動を切り替え、相手の爪をノーマルソードで受け止める。それでも全ての攻撃を止める事は適わず、重傷一歩手前の怪我を受けてしまっていた。
そんな彼の視界に、宙に舞う三つ目の影が映った。
まさか‥! 三体目のグレムリンが居たのか、このままではやられる‥! しかし、それは三体目のグレムリンではなく、木箱を踏み台に更に壁を蹴って、飛行した相手よりも高い位置へと舞い上がった悠一郎だった。
彼はそのまま、グレムリンの背後より斬りつける。そして、そこへ援護が追い撃たれ、一体のグレムリンの動きが鈍る。
「集いし不可視の力よ、眼前のものを抑制せしめよ」
もう片方には抵抗されたようだが、エレーナのアグラベイションだ。
「では、ホーリーも受けてもらいましょう」
「風よ切り裂け‥!」
そこへ、たたみかけるようにボルトのホーリーと、ネイのウインドスラッシュが撃ち込まれる。
対象を取る魔法の利点、それは必中であるという事。詠唱を始める前も終えた後に発動する際も、正しく対象を認識している必要があるが、それを満たせばたとえ混戦中でも必ず狙った相手に命中する。倉庫内に積まれた物にも、仲間にも当たる事はない。
「逃げるなら、エールの代金を置いていきなっ!」
相方をヘラクレイオスと悠一郎に斬り伏せられ、慌てて逃げ出しはじめたグレムリンの背に、キウイが深々とロングソードを突き立て、グレムリンの退治は終わった。怪我を負っているとはいえ、動きの速いグレムリンにキウイが追いつけたのは、ダギルとエリーナが入り口に立ち塞がっていたからだろう。
●酒宴
冒険者達がグレムリンを退治した四日後、夕方頃より閉店までの間、約束通りにエールが飲み放題となった。デビルは基本的に死体が残らないので退治した証は無いが、三日間一度も現れなかった事を退治の証とした。
「わしらドワーフにとって、酒は命の源じゃよ」
三度の飯より酒が好きなヘラクレイオスは、半日の間ずっとこれ以上無いほどに上機嫌で過ごしていた。彼にとってこの三日間は、きっと何よりも長い時間だったに違いない。
「‥ふむ、このえーるとやらもなかなか良い物だな」
潰れてしまわないようにという思いもあるが、悠一郎は故郷の酒との違いを愉しみながら飲んでいた。他の冒険者達も、酒は嫌いではないが決して強い方ではないのでゆっくり飲み、どちらかというと今回の依頼を無事に終えれた事を労いあいながらの面が強かった。
そんな中で一人潰れた、イグスだ。無謀にもヘラクレイオスと飲み比べをして粉砕したのだ。卓に、ぐてんとうつ伏せになった彼を心配して、エリーナが声をかけるが‥
「イグスさん? 大丈夫ですか‥?」
「う〜ん、膝枕して介抱してくれたら大丈夫かも」
「あー‥これなら別に放っておいても大丈夫そうだな」
すぱーん。イグスの言葉は、心地好い効果音と共にネイに両断された。
そんな光景を微笑ましいと思っているのか、いつもと変わらないニコニコした表情で見ているエレーナ。その卓を囲む者の中にハーフエルフが居る事など、一人を除いて誰も気に留めていなかった。留める必要など、今は無かったのだから。