不運なる者達の呼び声

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:12月21日〜12月28日

リプレイ公開日:2004年12月27日

●オープニング

「そろそろ再開の目処が立ってきたな、残るは‥‥例の区画か」
 男が指揮している鉄鉱石採掘所再開の為の工事、その最初の作業が始まったのは結構な月日をさかのぼる。
 採掘所が一旦閉鎖された理由は、落盤事故。多数の被害者を出し、採掘所自体もかなり危険な状態にまで追い込まれた。その後は、調査団がたまに派遣される以外は放置が貫かれ、ある程度の安全が確認された後に採掘所再開の為の工事が始まったのだ。
 例の区画とは、その落盤事故において一番多くの被害を出した区画の事だ。
 二度と事故を起こさぬように、良く練られた計画を元にした再開工事は滞りなく進行していた。だが、その例の区画近くまで進んだ時に異変は起きた。崩れ落ちた洞窟内より、かつて鉄鉱石採掘に従事していた者達が、つまり落盤事故による被害者が不幸にもズゥンビと成り果て、這い出て来たのである。
 生者が近くに来た事で、その活動が活発になったのだろうか。ズゥンビが生者を襲うのは、痛みを紛らわすと共に、自分達の仲間を増やす為だとも言われている。だとすれば、なんと不吉な出来事だろうか。
 過去のその時点では対応に困り、その区画は一旦封鎖され、工事計画全体を進行させる事が優先された。
「回された騎士の数では、現地や周辺の警護で手一杯‥」
「やはり、増援を要請した方がよろしいのではないですか?」
「たかがズゥンビ程度で、か? 物笑いの種になるだけだ」
「しかし‥」
「何、少し冒険者に対する認識を改めたのでな。すまないが、またパリへと馬を飛ばしてもらうぞ」

 ――三日後、パリの冒険者ギルド。
「‥というわけで、ズゥンビ退治だな。今度も、倒した数次第で追加報酬だな」
 参加者と同数の対処で最低限度の報酬。それより多くを対処してくれれば、その分は追加報酬という形で支払われるそうだ。残っている記録におけるその区画の被害者はやはり多く、その中のどれだけの数が今もズゥンビとして活動しているのか分からない。
「今度はズゥンビですか‥」
 青い衣服を身にまとった青年が、少し大きめの溜息をつき、こんな時に彼女が居てくれればと思う。彼は本来の威力そのままに敵に打撃を与える事は出来ても、全力で振るって得物の重量を効果的に使う術は持っていない。彼の得物であるスピアは格闘武器としては軽い部類に入り、相性が悪いからだ。
 しかし彼は、自分が弱音を吐いている事に気づき、この依頼を受ける事にする。自分の戦闘方法は、確かにズゥンビのようなタイプの相手とは相性が悪いが、全く効果が無いわけではない。アンデットと遭遇する事は、冒険者を続けるならばこれから何度でも経験する事になる、避けては通れない道なのだから。

「あ」
 それと、ユアンはもう一つある事に気づいたようだ。この依頼の期間中‥丁度向こうに着く頃には、日は24、5へと移り変わる。まあ、冒険者らしい過ごし方なのかもしれないが。

●今回の参加者

 ea1646 ミレーヌ・ルミナール(28歳・♀・レンジャー・人間・ノルマン王国)
 ea4822 ユーディクス・ディエクエス(27歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea5808 李 風龍(30歳・♂・僧兵・人間・華仙教大国)
 ea6332 アヴィルカ・レジィ(16歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea7468 マミ・キスリング(29歳・♀・ナイト・人間・フランク王国)
 ea7841 八純 祐(29歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea9033 アナスタシア・ホワイトスノウ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea9543 箕加部 麻奈瑠(28歳・♀・僧侶・パラ・ジャパン)

●リプレイ本文

●挟撃の心配はあらず
「坑道の見取り図の写しは‥貸してはもらえないの?」
「ああそうだ。すまないな、こればっかりは重要な書類だから」
 アヴィルカ・レジィ(ea6332)は、向かう先の坑道の見取り図を借りようとしたが、これは残念ながら断られてしまった。代わりに、先程から冒険者達に応対している騎士は、坑道は一本道が続いて、その先に大部屋(落盤の影響で出来てしまったものだが)があるだけの、かなり単純な構造になっているので、そう心配する必要は無いとつけ加えてくれた。
 なおこれは余談だが、貴金属が産出される鉱山はその価値の重さから、普通は国が管理する。この鉱山からは鉄鉱石のみで、今現在ズゥンビの為に封鎖されている区画近くからは、良質の鉄鉱石が産出されるそうだ。

「それにしても、道中は寒かったですね」
「ええ、やっぱり冬の山は侮ってはいけませんね」
 荷物を一時貸し与えられた小屋の一室に置き、坑道に入っていく準備をしながら箕加部 麻奈瑠(ea9543)とユアン・エトワードは、ここに辿り着くまでの話をしていた。
 食料の乏しい冬の山、冒険者達が持った食べ物の匂いに惹かれて獣が出てくる事も考えられたが、幸いにして全く出てこなかった。代わりに冒険者達を襲ったのは、冬の山の寒さ。ユアンが持ってきていた分も含めて、テントは八人分。交代で見張りに立つから、一度に全員分は必要ないし、寝袋は全員持ってきていたので何事も無く過ごせたが、それでも寒いものは寒い。
「皆さん、準備は終わりましたか?」
「ああ、終わっている。それにしても事故の被害者がズゥンビになっているとはな、早く成仏させてやるのが情けと言うものだろう」
「そうね、亡くなっても静かに眠ることが出来ない人たち‥。せめて、私達の手で解放できるといいわね」
 マミ・キスリング(ea7468)が周囲に言葉を投げかけると、李 風龍(ea5808)やミレーヌ・ルミナール(ea1646)を始めとして、全員準備が終わっている事と、不運なる被害者達を弔ってあげたい事、それが言葉となって帰ってきた。
「そうそう、アナスタシアさん。備えあれば憂いなしと言うでな、これを一時貸しておこう」
 そう言って、八純 祐(ea7841)はアナスタシア・ホワイトスノウ(ea9033)にソルフの実を渡した。これは、飲み込むと即座に失われた精神力が一定量戻ってくる優れものである。


●不運なる者達の呼び声
 頑丈に据えられた木組みを外し、行動の奥へと続く道が開かれる。ここから先は、以前に起きた落盤事故で最も被害者の多かった区画。もう崩れるような事はまずないという話だが、他の工事が終わった区画に比べ、まだ補強されていないので、不安は完全には拭えない。
 坑道はそれほど広く無い為、マミと祐が先頭に並んで進む。歩くだけなら三人ぐらいはいけそうだが、戦闘を行う事を考えると二人でいったほうが、あまり不自由がなくて済むだろう。日の光の届かない坑道を進むための灯りは、冒険者一行の中央に立った麻奈瑠が持った。

「来たようだな‥。う、これはまた酷い有様だ‥」
 ズゥンビは死者が成り変わるもの。当然、死んだ姿のままで活動を始める。
「い‥いや、ズゥンビって全部こんななの‥?」
 病魔に倒れた者などであれば、比較的綺麗な(この表現はどうかと思うが)ズゥンビも存在するが、基本的にズゥンビは凄惨な姿。
 今回のズゥンビは落盤事故に巻き込まれた被害者という事で、輪をかけて身体の損傷具合が酷かった。既に片腕の肘から先を失くしている者も、顔が半分潰れてしまっている者も居たのだ。
「ミレーヌさん無理はしないで。この光景は、普通は‥そういう反応になってしまうから」
 心配して言葉をかけるユアンも、他の冒険者達も、目の前の光景に何の嫌悪感も抱かないわけではない。それが幸なのか不幸なのか、無理矢理抑え込む事が出来るだけ。それはある種の慣れであったりもするが‥
「安らかに眠れるようにできれば‥磨魅・キスリング、いざ、参ります」
 使命感といったものでもある。誰かが終わらせてあげなければ、彼等はその凄惨な姿を引きずって、終わらない痛みから一時でも逃れようと、生者に襲いかかり続けるだけなのだから。
「無理そうなら下がられても‥。どの道、一度に戦える人数は限られていますし‥」
「いえ、大丈夫‥です。私達が終わらせてあげなきゃ‥」
 ユーディクス・ディエクエス(ea4822)の提案を振り払い、ミレーヌは立ち直る。
「大丈夫‥です」
「分かりました。協力して出来る限り‥いえ、全てのズゥンビを退治しましょう」
「‥サービス」
 アヴィルカがミレーヌに触れ、何かの魔法をかけた。多分、フレイムエリベイションだろう。上手く成功したとは思うが、魔法によって努力と根性を誘発されたミレーヌは、怯えが殆ど消えて雰囲気が変わった。先程までは握っているのかいないのか、その感触が不確かだったダガーも、今はしっかりと握れている。


●罠を仕掛ける位置はちゃんと確認しておきましょう
 向かってきたズゥンビに対し、まずはマミと祐が立ち塞がった。マミは武器を振り下ろして叩きつけ、祐は拳に力を込めて撃ち抜き、ズゥンビに打撃を与えていった。
 一般的なズゥンビには攻撃を避けるという概念が無いのか、もしくはあっても動きが全くついてこないのか、攻撃を回避される事はまずない。ピュアリファイとかの特別な効果のある手段を除き、とにかく攻撃力を高めれるだけ高めれる戦闘方法が、一番効率が良い。
「ぐ‥ぐぅ!? 心のどこかで、たかがズゥンビと侮っていたか‥?」
 だが、結構腕を振るう速度は速く、防御面をおろそかにしていいという事もない。マミは手にしたロングソードで相手の爪を受け止めれたが、祐の方は何も受け止めれる物がなく、そして身のこなしが軽くもない。
(「今来ているズゥンビの数は少ない‥。ここは相手の後ろに回りこんで‥」)
「な、待て! 下がれ!!」
 その場の誰かが反射的に叫んだが、彼の行動は最悪のタイミングだった。丁度、アナスタシアが事前の打ち合わせ通りにズゥンビの背後に、射程距離ギリギリのライトニングトラップを設置したのだから。
「ぎゃあぼばば、あびば!?」
 どしゃあ‥! そういう音で形容するのが相応しい様子で力なく崩れ、膝をついて蹲る祐。
「いけない、あのままでは危険過ぎる!」
「祐殿!」
「こうなったら、速攻でズゥンビを倒して助けないと‥!」
 ユーディクスが、風龍が、ユアンが、一斉に前へと駆け出してズゥンビに連続した打撃を与える。何が何だか分からないぐらいにゴチャゴチャした、慌てふためいた戦闘。それが終わり一息をつける頃には、祐は麻奈瑠からリカバーを受けていた。
「どう? 治りそう? それにしても、あと一瞬反応が遅れて、もし私まで魔法発動してたら‥」
「これぐらいの怪我なら、リカバーでもなんとか」
 幸運にも魔法に対する抵抗が成功したのか、重傷一歩手前で踏みとどまった祐。もし抵抗に失敗していたら、もしアヴィルカのマグナブローまで発動していて、これにも抵抗失敗していたら‥。想像したくない結果だ。

 怪我から立ち直った祐は後方に回り、今度はユーディクスと風龍、それにミレーヌが前に立った。
「ここから先、不自然に少し広くなってるけど、なるほど‥崩れた跡があるわね」
 そのまま少し先に進むと、彼等は現れた。二体の大きな、生前はこの採掘所でも頼りにされた働き手だっただろう‥ジャイアントのズゥンビだ。目の前に2mを越す巨体が聳え、生者のそれとは違う光を湛えた瞳が見下ろしてくる。
「狙いは‥膝!」
 風龍がロングロッドで相手の足を薙ぎ払って転倒させると、そこへユーディクスがクルスソードを振り下ろした。それでもまだズゥンビは活動を続けたが、再び立ち上がりきるまでに攻撃受け続けて戦闘力を失い、自分の攻撃力を発揮する前に倒れ去った。もう一方のズゥンビも、ミレーヌが敵の注意を引きつけ、マミがスマッシュで弾き飛ばし、そこへマグナブローが撃ち込まれる。行動や思考が単純なズゥンビ相手には、面白いように連携が決まっていく。
 その後も、交代しながらの戦闘を繰り返し、最後には遺体を外へと運び、へとへとに疲れながらも、冒険者達は全てのズゥンビを埋葬して弔う準備を整える事が出来たのだった。


●満天の星空の聖夜祭
「これで、天に昇れますように‥」
「聖夜には‥間に合ったみたいね」
 夕日の差す中、冒険者とは別口で呼ばれた神父が葬儀を取り仕切り、落盤事故の被害者達は丁重に弔われた。工事計画は残すところこの区画のみであるらしく、来年に入って少しすれば鉄鉱石採掘所としての機能を再開するだろう。
(「死者達に、安らかな眠りを‥生ける者達の前途に祝福を‥‥」)

 ふと気がつくと、日はすっかり沈み、空には満天の星空が広がっていた。冬の山は寒く、肌を突き刺すようで少し辛いものがあるが、この夜空を見上げれる対価としては悪くないものかもしれない。
(「小さい頃は、よく一緒に兄さんと戦闘訓練をしたんだ‥。けど、兄さんは俺を避けるようになった‥冷たくなった‥俺が足手まといだから。強くなったら‥兄さん振り向いてくれるかな‥」)
 聖夜祭は家族と共に過ごす日。冒険者として活動をしている以上、こうして仕事先でバラバラに過ごす事もある。しかし、夜空を見上げるユーディクスの顔には、単に同じ空を見上げている家族の事を思っているだけとは思えない雰囲気があった。
「ここに居たんですか、ユーディクスさん。皆さん、食事を一緒に取ろうと待ってらっしゃいますよ」
「早く来ないと、折角のスープが冷めてしまいますよ」
 そんな彼をマミと麻奈瑠が迎えにきた。

 そうそう、その食事の席でユアンが話した事だが、彼は年が変わったらドレスタットに向かうそうだ。