ドラゴン襲来の余波、迂回路を進め
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■ショートシナリオ
担当:MOB
対応レベル:1〜5lv
難易度:やや難
成功報酬:1 G 94 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:12月21日〜12月28日
リプレイ公開日:2004年12月27日
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●オープニング
冒険者ギルドに、ウォーアックスを携えた金髪の女戦士が入ってくる。ちゃんと手入れをしていれば、もっと輝きを保っていただろうその髪は、ボサッとしていて伸び放題に近く‥‥
「なあ、ドラゴンが来てるんだろ? 何か手頃な退治依頼は無ぇかい?」
その口調も相まって、やや粗暴者という印象を受ける。グラケルミィ・ワーズだ。
「ん、ああ‥ちょっと遅かったな。そろそろ粗方の対処も終わって、今は後始末の段階なんだ」
ギルド員は、別に珍しいとも思わずに対応する。ドレスタットでは、冒険者の中では、グラケルミィのような者は決して珍しいタイプではない。まあ、普通に存在するタイプなのだ。
「何‥? 後始末って何だ?」
「んー‥どうやら、ドラゴン達はドレスタットに探し物をしに来てるらしくてな」
それで、その探し物というのが『タカラモノ』、『ヤクソク』などという呼び方をされているらしく、元々はドラゴン達の所有物であったモノを、誰かが持ち去ってドレスタットまで運び込んだ、らしい。あくまで魔法を用いてドラゴン達と会話を試みた者からの情報で、ドラゴン達が言うには‥‥という感じのものではあるが。
「げ、そうすっと‥そのタカラモノの捜索とかその内にすんの?」
「そうなるな、今はまだ暫定的な情報だし、捜索の体勢も整ってないからもう少し先だろうが‥」
ドレスタットは交易の要。それらの流通に対して捜索を行うとなると、生半可な事をやっていては到底見つからない。
(「まいったな‥、捜索とかそういうの、苦手なんだよなぁ‥‥」)
「な、なぁ‥。じゃあ他に何か依頼は無いか?」
「依頼なら別にあるぜ。ほれ、そこの壁に貼ってある依頼書から、好きなの選べばいいだろう」
その言葉を受け、グラケルミィは壁に貼られた依頼書を順番に読んでいく‥。
「お、これなんか面白そうだな。切羽詰ってるのか、報酬の具合も良いじゃねぇか」
そうして選んだのは、商品の輸送依頼。どうやら、ドラゴン襲来の余波で普段使っている道を馬車が通れなくなったらしく、今はあまり使われていない道を使って商品を運ぼうというもの。道の復旧を待っていては、間に合わない可能性があるらしい。
人が通らないせいでその道に対する情報が全くなく、何が出てくるのか分からない。食料の少ない冬の森、人の持った食べ物の匂いに惹かれ、獣が出てくる事も十分考えられる。もしかしたら、オーガ族が人知れず近くに移り住んで来ているかもしれない。
「いいね、捜索なんかよりよっぽどアタシの好きな依頼だ」
「あ」
グラケルミィはある事に気づいたようだ、この依頼の期間中に日は24、5へと移り変わる。まあ、冒険者らしい過ごし方なのかもしれな‥
「そういやぁ‥そこの記録係、前にアタシの名前間違えなかったか?」
●リプレイ本文
●先の見えない迂回路
「忘れるところだったわ。依頼主さん、運ぶ物って何? 取り扱いに注意とかいるかしら?」
李 美鳳(ea8935)は依頼主の商人に、今回の依頼で運ぶ荷物の事を尋ねていた。すると、特に割れたりするようなものはないので、多少の振動を受けても別に平気なようだ。詳しい荷は、結構沢山の種類があるという事なので、ここでは割愛しておく。
「おお、流石騎士様、分かってらっしゃる! じゃ、ヨロシク」
そう言ってジャギ・フロド(ea9677)は、寝袋をシエル・サーロット(ea6632)のドンキーに積む。たった寝袋一個ぐらい自分で持てよという気がしないでもないが、いざという時の初動を遅らせたくないのなら、それも悪い事では無いだろう。
「これで、皆さん準備は整いましたね? 忘れ物とかありませんよね?」
「ええ、大丈夫です。輸送先の皆さんがお待ちですからね、不備を起こして遅れる事など無く参りましょう」
シエルが同行する冒険者達に声を掛けると、ファル・ディア(ea7935)を始めとして、各自準備が整っている事を告げる言葉が返ってくる。
シエルはグラケルミィ・ワーズは最近同じ依頼を受ける事が多く、グラケルミィが冒険者としての基本的な準備を怠る事を嫌うのを知っていたので、早い内にそれを皆に伝えていた。なにしろ、冒険者達が受ける依頼は危険が多く潜んでおり、不備は即座に自身とその周囲の命に関わってくる。
「良い子にして待っているのだぞ、馬次郎」
どんな道を通るか判らぬし、馬次郎は置いていこう。思い切って、石動 悠一郎(ea8417)は自分の飼っている馬を借家に置いて行く事に決めた。馬次郎とは、故郷のジャパンで道に迷った時も、ノルマンに来てから道に迷った時も、この依頼を受ける為に冒険者ギルドに来る途中で道に迷った時も、ずっと一緒だったのだ。‥ん? 今、何か変な所があったような気が。
「あれ? グラケ姐もこの依頼なんだぁ」
「ん、ナランか。確か‥アンタとシエルは、こっちに来る前に同じ依頼を受けたよな」
自分に声を掛けてきたナラン・チャロ(ea8537)に彼女は応対しながら、彼女は自分の荷物を確認していた。
「では、そろそろ出発するか。何が出るか分からないし気を引き締めていかないとな」
レイ・ファラン(ea5225)が言うように、迂回路は今は使われていない街道で殆ど情報がない。
(「どんな相手にも立ち向かい、馬車を守りきってみせる」)
だから、何が出てきても立ち向かう決意を、ファング・ダイモス(ea7482)は胸にする。
●匂いに惹かれて、獣の群れ
やはり人の通りが殆ど無いという事で道は荒れ気味、本来ならもう少し広かったであろう道幅も、ギリギリ馬車が通過出来るぐらいに狭まっていた。だから、普通の道より少し進むのが遅くなってしまっているが、こればかりは仕方がない。
日が沈みかけ、夜の闇が冒険者達と馬車を覆いはじめる。
「今日はここら辺りで野宿ですかね」
「そうだな。この辺は上手い具合に、テントが張れそうなぐらい開けているし」
ファルが提案し、レイが受ける。レイが言うように、この辺りは少々のでこぼこはあるものの結構開けていて、テントを設置したり火を焚いたり‥野営をするのに適した場所だ。
「枯れ枝を集める時間も必要だしな」
「それもそうですわね。じゃあ、テントを張る班と枯れ枝を集める班に分かれて、準備しましょうか」
悠一郎の言う事ももっともだ。日が沈んで完全に闇に覆われてしまえば、枯れ枝一本集めるのも面倒だ。美鳳の言葉を受けて、冒険者達はそれぞれの班に分かれて野営の準備を始める。
程なくして準備は整い、まずはファングとシエルとグラケルミィが最初の見張りを受け持つ。彼等が担当した時間帯は何事も無く過ぎていったが、次のレイとファルと悠一郎が見張りに立っていた時に、この依頼における最初のゲストはやってきた。
「やはり獣ぐらいは出てくるか。‥飛斬剣士の刀の錆になれ!」
現れたのは野性の犬、餌を求めて冒険者達の元へと出てきたのだろうか。ファルが他の冒険者達を起こしに行っている間に、ソニックブームの射程を活かして悠一郎が先制攻撃を仕掛けると、予想外の攻撃だったのか相手はまともに攻撃を受け、大きく身を斬り裂かれた。
「後ろ‥!? っと、さっすがに足が速いね〜」
「させません!」
オーガなどのモンスターの類に比べれば耐久力も低く、その牙も武具に身を包んだ者に深手を負わせる事はないが、足は十二分に速い。
冒険者の中でも比較的体の弱い、一般に後衛と呼ばれているような者達に狙いを定め、野犬達は駆けてきたが、後ろに回りこんできた相手にナランは器用に対応してみせ、ファングはファルに飛び掛かってきた相手を盾で遮り、強烈な返しの太刀を放つ。
「肉を切らせて骨を断つ‥! こいつがまた‥やめられないんだよ‥さあ、お次はどいつだ!?」
自分に飛び掛ってきた野犬を、三種のCOを組み合わせた大技でもって捻じ伏せ、ジャギは相手よりも‥飢えた獣よりも鋭く不気味な眼光を放つ。それが原因なのか、他の冒険者達にもあっさりと仲間がやられているのが分かったのか、リーダー格の野犬が逃げ出すと、それにつられるように他の野犬達も逃げ出していった。
「思ったよりあっさりだったな。しかし‥この血の臭いに惹かれて、もっと厄介な相手がくるかもしれないな」
「仕方ありませんね。灯りはホーリーライトを複数出しますから、少し場所を移しますか」
厄介なものである。獣それ自体も障害になるが、叩き伏せたら叩き伏せたで、また別の問題が生まれるのだ。
●先手を取られ、打撃与えれず、ジリ貧。
ドレスタットを出発して三日目。もう半日程度の距離まで目的地に近づいた頃、この依頼における二番目のゲストから、冒険者達は手厚い歓迎を受けた。その歓迎とは、遠方より飛来する何本もの矢。
「どうだい矢の味は? 噂通りだな、手には得物が一つ‥攻撃しか考えてない奴なんざカモもんだよ」
唯一盾を持っていたファングと、咄嗟に横ステップで攻撃を避けた美鳳、あとは後方に居たファルとシエル以外の五人は、その身に矢が突き刺さっている。
「くっ‥なんだよ、このっ‥!」
「自身は防御に徹しているとでも‥!」
ナランとレイが反射的に仕掛けるが、ガッチリと身を固めた相手が前に出てきて、敵の射手まで道を遮る。この相手は完全に防御に徹しているのか、レイのロングソードを捌ききったし、ナランのダガーは怪我を与えるには非力。
美鳳は相手の攻撃を避ける為に動く事を強制され、頼みの綱のニュウ・ジャオ・クァンが放てない。普通に殴るだけではナランの二の舞だ。更に、受けの体勢であったファングやジャギに至っては、一方的に矢を受けるだけだった。幸い、初撃と同じくファングは盾で攻撃を防いだが。
モンスターには近づいて殴るしか攻撃方法を持たないものも多いが、上に進んでいくにつれて相手がこちらが反撃可能な状態で攻撃してくる保障はどんどん減っていく。ただの矢など、まだまだ可愛いものだ。
「ちっ、遠くからチマチマと‥腹の立つ相手だぜ‥! 援護と本命は任せたぜ!」
身に刺さった二本の矢に構わず、グラケルミィは得物を振りかぶる。任されたとばかりに悠一郎がソニックブームを放つが、相手は冷静に盾で受け止める。そして、そこへ続けざまにウォーアックスが振り下ろされるが、これも平然と受け流される。
「もぉいっぱぁつ!!」
更にこれも受け流される‥! 完全に防御に徹した相手は、二人がかりの攻撃すら凌ぎきったのだ。しかし、彼等の攻撃はこれで終わりではない。このままでは無駄だと気づき、守勢から攻勢へと移ったファングが更に追い討ちをかける。
「食らえ、フルバーストぉ!!」
立て続けの攻撃に満足に応対出来なくなった相手は、ファングの太刀によって防具ごとぶった斬られた。スマッシュEXとバーストアタックEX、二つの大技を合わせた‥まさしく剛の技。これで前に出てきている野盗は、一人だけになった。
「今ですわ、そこの相手も一気に打ち倒してしまいましょう!」
最初から美鳳を狙っていた射手に、シエルはオーラショットを叩き込みながら叫ぶ。弓の射程は、初歩のオーラショットでは届かない距離。間合いを詰めて届かせたとしても大きなダメージにはならないが、今の彼女が使うオーラショットならば、同じ距離を届いて中傷を負わせる事も可能だ。
「我が牙に砕けぬものはない!」
十分な構えを取る事が出来た美鳳は、ここぞとばかりにニュウ・ジャオ・クァンを叩き込む。そこへジャギとレイの攻撃が叩き込まれて相手は崩れ去り、敵の射手達は壁を失って冒険者達の前にさらけ出された。慌てて逃げ出していく者の一人に、悠一郎のソニックブームが撃ち込まれる。
一旦流れが傾いた後は、あっという間に野盗は瓦解したのだった。
●セーラ様の贈り物?
目的地に着き、荷を届け終えると、既に日は陰り始めていた。今日の所は、ここで宿を借りて休む事になりそうだ。数日振りのテントでない寝床は粗末なものではあったが、やはりこちらのが寝やすいものだ。
美鳳が用意してくれていたワインで乾杯し、ささやかながらも聖夜祭の晩餐を食した冒険者達の中で、二名が借り宿を離れて、少しではあるが大事な事を話していた。シエルとグラケルミィだ。
「わたくし‥グラキさんの事が、友人としてでなく好きです。最初はちょっとした遊びのつもりだったのですけれど、今は本気ですわ。その力と心の強さ、冒険者としての気構え、そう言った物に惹かれて‥‥何を言っているのかとお思いでしょうし、同性愛は抵抗があるでしょうけど‥‥私は、真剣です」
最後に、返事は今度会った時でいいとシエルは言った。
薄々感づいていたのが、借り宿に二人が居ない事で確信に変わった、ファルとナラン。
「止めなくていいの、ファルさん?」
「いえ‥真剣に好いた方を想う事を止めさせる事など、出来る訳ありませんし‥。おや‥?」
部屋の中でも少し距離を置いて、美鳳と悠一郎。
「雪‥か‥‥」
「今日は随分冷えるなと、思っておったら‥」
それは「思い留まり早く宿に帰りなさい」という意味なのか、それとももしや「二人を祝福する」という意味なのか。この世の多くの者は、前者に決まっていると答えるだろうけれども‥。