【聖夜祭】遠き故郷を想う

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:4

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月03日〜01月08日

リプレイ公開日:2005年01月09日

●オープニング

 年の瀬の一段落。しかし、ドレスタットはまだまだ騒がしい。突然のドラゴン達による襲撃から始まった混乱から、まだ抜けられていないせいである。
 領主であるエイリーク伯も帰還し、どうやらドラゴン達は取られてしまった大切な物を取り返しに来ているのだと分かり、今必死で捜索が行われている。事件は解決に向かっていると思っていいだろう。
 楽観が過ぎるという見方も出来るが、今は聖夜祭。それに来年は、神聖暦1000年という区切りの年でもある。人々は今を生きられている事を神に感謝し、家族と共にこの時期を過ごす。近年では、冒険者達を中心に恋人と過ごすという事も見られるようだ。

 それら夢のような一時‥‥まあ、そんな一時のなかった人も居るだろうが、それはさておき。新しい年をより良く過ごすために、自分が借りている棲家や宿を掃除していたところ、冒険者は懐かしいものを見つけた。
「これは確か‥、冒険者になる為に故郷から出てきた時、持ってきたんだっけ?」
 遠い地へと出て行く自分を心配して、家族や友人が持たせてくれたもの。
「いつの間にか無くなったと思っていたら‥。なんだ、こんな所にしまっておいたのか」
 冒険者の中には、遠く異国の地からここドレスタットまで来ている者も多い。冒険者として活動していると、家族の元に戻る機会はそうそう無い。家族も含めて故郷にいる人達は、今も無事に過ごしているだろうか? こうして、少しの間だけ冒険者は故郷の地、家族、友人、自分の過去を思い返す。初心を思い返すというのも、当てはまるかもしれない。

「うわっやばっ、もう日もあんなに沈みかけてるじゃないか!」
 そしてしばらくしたら、掃除が全然終わってない事に気づいて、慌てて再開するのだ。

●今回の参加者

 ea1598 秋山 主水(57歳・♂・侍・人間・ジャパン)
 ea5934 イレイズ・アーレイノース(70歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6282 クレー・ブラト(33歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8851 エヴァリィ・スゥ(18歳・♀・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea8936 メロディ・ブルー(22歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 ea9009 アリオーシュ・アルセイデス(20歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0132 円 周(20歳・♂・陰陽師・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●秋山 主水(ea1598)
「おお、これは‥ジャパンからの便りか。年賀の時期に合わせて届けてくれるとは、シフール便も気が利いておるな」
 故郷のジャパンの地より送られてきた便りを受け取り、その地に残してきた教え子達の事を思い返す主水。遠い異国の地にまで便りを寄越してくれるとは、素直に感激せざるを得なかった。
 教え子と言っても、冒険者内でのちょっとした関係に過ぎないのだが、彼が皆に慕われていたのは間違い無い事だろう。彼自身も自覚しているように説教や薀蓄をよくするし、何より誰かに物事を教える事に関しては、その職に就いていてもおかしくないぐらいに手馴れていた。
「ジャパンは今頃、鴨鍋も美味かろうな」
 日々の務めに追われ、料理はごく基本的な事しか習えておらぬ志士。今は浪人だが、信頼できる友人として妻の事を頼んできた男。それに、この文を送ってくれた、自分と同じく侍の女性に、その女性と流派を同じくする者。他にも顔を思い浮かべればキリが無い。

 ひとしきり故郷の地を思い返した後は、カキゾメというものを主水は行った。書き上げた文字を見返して、満足そうに頷く主水。どうやら、彼の今年一年は充実したものになりそうだ。


●イレイズ・アーレイノース(ea5934)
「あれからもうすぐ五ヶ月、そうこうしている内に半年にもなりますか‥」
 十字架のネックレスを軽く握りしめ、ベッドに倒れこんで仰向けになり、ぼんやりと天井を見つめながら過去を思い返す。イレイズが初めてモンスターと戦ったのは、彼が冒険者になった時よりも更に過去へと遡る。
 故郷のローマにおいて彼が教会の門を叩いたのは、オーガ族の襲撃によって村が崩壊し両親を失った直後だった。神聖騎士の資格を得る為の過程は長く苦しいものであったが、彼は復讐心をその支えとして順当にこなしていった。

(「神に見放された、罪深いオーガ達に粛清を」)
 迷いは無かった、自分に正義を感じた。
 一体のゴブリンを斬り伏せた時、相手はそのまま後方の湖へと倒れこんでいった。
(「汚らわしい血で湖を汚しおって‥まだ息があるのか」)
 泉に身を浮かばせたそのゴブリンは自分を睨んでいた。トドメとばかりに剣を振り下ろしたが、ただ水の飛沫が飛び散っただけ。
(「これは‥!? 今確かに、オーガ族がそこに居たはず‥」)
 バカな。いや、まさか‥湖に映っていたのは‥。

「信仰心を見つめ直す為に、巡礼の旅に出たい」
 それを口実に冒険者になり、ローマの地を離れる事にした。イレイズは悪夢からは解き放たれたが、信仰の名の元、幼子を救うという彼の旅はまだまだ終わりそうにない。


●クレー・ブラト(ea6282)
「神父のおっちゃん、今も無事でおってくれるんやろかなぁ‥」
 彼が居た教会は、神聖ローマ内において異端とされる考えをもった神父のいる所だった。とは言っても、当然表には出しておらず、また教会も結構な田舎の地に建っていたので、どうにか隠し通せていた。
「人の価値は種族や血筋で決まるのではなく、その人が何を想い、何をしてきたかで決まる」
 それが神父の考えだったが、クレー自身もこの考えを聞き共感をした。そして若さゆえか、このままローマに居ては何も変わらないと思い、国外へと出る事を考えた。出ても何も変わらないかもしれないが、現状よりはマシだろうと。

 その後、冒険者となる事で国外に出る名目を手に入れたクレーは、ノルマンへと足を向けた。
 10年ほど前に起こった復興戦争でローマの支配から脱却し、以後ローマの隔離政策によって迫害されたものたちを受け入れる体制を取っているこの国は、彼の興味を引くに十分だったのだろう。そして、冒険者として活動をしていくにつれ、ローマの考えが特異な事を知る。
「うーん、もうローマには戻れへんかなぁ‥」


●ファング・ダイモス(ea7482)
「規模は全然違うけど‥。やっぱり、この光景を見てるとどうしても思い返してしまうな」
 窓辺にもたれかかり、年の初めから慌しく人と物の行き来する通りを見つめる。彼の故郷の村は、丁度複数の街道が交わる位置にあって、ドレスタットほどの規模には遠く及ばないが、交易の盛んな街だった。
 その村で、彼はいつしか父親と同じく荷を運ぶ仕事に就いていた。彼の頑健な肉体の基礎は、この時に作られたのだろう。

 街から街へと渡り歩く商隊にはモンスターや野盗という脅威が絶えず、いつも護衛がついていた。急を要する場合には臨時で雇われる事もあったが、重要な品となると信頼が必要になってくるので、半専属的に雇われているのが殆どだという。
「お袋には悪い事しちゃったかな‥」
 いつしかその姿に憧れていた。
 初めてお袋を泣かしてしまったのは、自分が冒険者になる事を告げた時だった。父親は立派な冒険者になってこいと言って、ギルドへの登録の為と少しばかりの銀貨銅貨を渡してくれたが、お袋は自分が街から旅立つ時も心配そうに見つめていた。
「でも、いつか故郷にまで名前が届くように‥。よし、やるか」


●エヴァリィ・スゥ(ea8851)
「故郷‥生誕の地、還るべき場所‥私には‥ない」
 エヴァリィの借り宿はガランとしていて、人が暮らしていれば当然感じられるはずの生活臭が感じられなかった。
 彼女は、自分がいつどこで生まれたのか覚えていない、覚えているのはロシアで旅の一座に拾われた所から。それ以前の記憶は酷く曖昧で、それは彼女自身が思い出したくないからなのかもしれない。だから、冒険者としての登録を受ける時に、出身国はロシア、誕生日は一座に拾われた日、一座に貰った芸名をそのまま自分の名前とした。
 彼女は自分がデミヒューマンとして認められていないと誤解している。一般に地方に行けば差別は大きくなり、こういった認識を持つハーフエルフは少なくないが、彼女がいたロシアはその中で唯一といっていい例外なのに。
 それとも失われた記憶に、何か理由があるものか。

 冒険者の関わる場所では、個人の感情はともかく全体では気にされない。依頼をこなせる確かな実力があれば、今の冒険者として生きる彼女を否定する者は周囲には居ない。自分が自分である事は自分の力で守る、彼女は今この瞬間の全てを噛み締めながら生きているのだろう。
「歌声に釣り合うぐらいに、楽器の方もちゃんと演奏出来るようにならないとね‥」
 鳴らした竪琴からは不協和音。彼女の今年の目標は、とりあえずそれだろうか?


●メロディ・ブルー(ea8936)
 今でも、あの時を事を思い返すと涙が止まらない。
 復興戦争も末期の時期に兄が死んだと、急に父親を名乗る人から呼び出された。小さな小さな貴族の人だったけれど、だからなのか自分の兄弟や従兄弟に家を譲らずに、血の繋がった孫に継がせたいと思ったのだろう。
 僕と誰か知らない人との間に産まれた子供は、父親とその奥さんの子としてお披露目された。

 手切れ金のつもりなのか、それともハーフエルフと言えど単に捨て置くのはさすが気が引けたのか、生活の手段として冒険者の登録と騎士の資格を貰った。子供の方は奥さんが若かったから誤魔化せたのも不思議では無かったが、こっちは一体どうやって騎士の資格が貰えたのかさっぱり分からない。

(「でもね、こんな僕でも‥愛してくれるって言ってくれる人が出来たんだ」)
 でも、その人には既に奥さんが居て‥自分とっても彼にとっても、茨の道どころか進んではいけない道。だけど僕は‥。


●アリオーシュ・アルセイデス(ea9009)
「故郷の皆、元気にしとっかなぁ? あー‥聖夜祭過ぎてから、出てくれば良かったかもしれへんなぁ」
 横笛を片手で弄びながら、育った孤児院の事を思いだしているのはアリオーシュ。彼は両親の顔を知らない。孤児院の世話役‥皆に先生と呼ばれていた人が言うには、教会の前に捨て置かれていたらしい。
(「しもたなぁ‥。今頃皆、聖夜祭料理やー言うて、美味いもん食ってんやろなぁ」)

 ガシ‥と横笛を掴み直す。
 自分がバードになったのは趣味が高じて‥とは言うものの、月の精霊達の関心を引けるほどに音楽に親しみ、先人に師事してその力を引き出す為の修練を終えるまでには色々と苦労もあった。そんな彼を支えたのは、やはり音楽。
(「歌や音楽は、国や民族の違いなんか関係あらへん‥音楽を通じて分かりおうたら、それをキッカケにして仲良なれるかもしれへんやんか」)
 ハーフエルフへの迫害がある事は身をもって知ったが、それでも彼の顔にはすぐに笑顔が戻る。
「そういや‥今日ギルドにおった同族も、くっらい顔しとったな〜」
 彼の笛の音は、今年は何人の人の心に届くのだろうか。


●円周(eb0132)
「うううう‥酷いよ、母様ぁ」
 自分を産んで数年後に、彼の母親は月毎の便りのなくなった夫を捜す為、ジャパンよりノルマンの地へと渡って来ていた。
 彼も10歳になり、必至の勉強の甲斐もあってか精霊魔法も扱えるようになっていて、少し無理は言ったものの晴れて冒険者の資格を得た。‥ノルマンに渡ると初めて言った時の周囲の反応は忘れられない、皆なかなか信じてくれなかった。

 しかし、かくも運命とは残酷なのか、追ってきたはずの母親と再会出来た時、返ってきた言葉の内容は「自分に娘なんていない」というもの。
 自覚はしていた、自分が女の子に見られる事が多い事は。でも、まさか自分の母親にまでそう言われるなんて。いや、それどころか、生き生きとして自分に合う依頼を探していた母親の姿を思い返すと、自分の事を覚えていたのかいないのか、少し不安になってくる。
 彼はこの後、母親と一緒に父親探しをするのだろうか? どうか近年中に、彼の父親の消息が掴める事を‥。


●日は暮れて
「ふう、どうにか終わったな」
 いつしか太陽が随分動いていた事に気づいて、慌てて掃除と荷物の整理を終えた冒険者達。
 今年も、彼等の進む先に栄光があらんことを。