オーガの脅威とオーガの想い

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:1〜5lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 51 C

参加人数:12人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月10日〜01月19日

リプレイ公開日:2005年01月17日

●オープニング

 ドレスタットから数日の‥やや遠い位置にある村。ドレスタットから遠い事が幸いして、この村にまではドラゴンは現れていないが、代わりに別の脅威が村を襲っていた。‥最近、村の近辺くへと移ってきたのであろう、オーガの群れだった。
「あいつはきっと、仲間が来るのを待っていたんだ!」
「このままじゃ、奴等に食われるのを待つだけです! オーガを全員とっちめてもらえるよう、依頼を!」
 あいつ、とは一体のオーガの事。
 数週間前から村の近くの森で見かけられたが、村人達としては怖すぎる存在なので、出会ったら即座に逃げ出す事で難を逃れてきた。おかげで、猟師達などは少し狩場を変えざるを得なくなって、この冬の時期、たださえ少ない獲物が更に減ったし、村としては迷惑な話である。
 しかし、たった一体だけで、襲い掛かってくる様子もないので、村としては放置する事にしていた。冒険者ギルドへモンスター退治の依頼を出すとなれば当然タダでは済まされず、またドレスタットまでの道中の方が危険かもしれないからだ。この判断で良かったのか、村に直接の被害が出る事は無かった‥そう、今日までは。
 今日の昼前に村へと一度被害が出た。蓄えていた食糧を貪り、食い散らかすとそれで満足したのか、オーガ達は一旦帰って行った。しかし、このままではいずれ‥。村の長は決断をし、冒険者ギルドへとオーガ達を退治してくれるよう依頼を出す事にしたのだった。


「なあ‥受付さん、この依頼って‥」
「ああ、それか。まあ‥単純なオーガ退治なんだがな」
「‥‥‥」
「今、冒険者連中の間ではえらい噂になってるな、パリのオーガの‥‥だったか? 存命の為の署名だか何だか‥。で、結局‥その依頼を受けるのか受けないのか、どうするんだ?」
 壁に貼り付けられた依頼書を前に悩む冒険者。それから一旦目を離して、他の仕事にとりかかるギルド員。依頼はこれだけではなく、なにより今ドレスタットは、ドラゴン関係の事件がまだまだ続いている。
(「全てのオーガを退治して欲しい、か‥」)
 依頼書を見つめる冒険者の胸の内は、少し複雑だった。

●今回の参加者

 ea1747 荒巻 美影(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4847 エレーナ・コーネフ(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea6282 クレー・ブラト(33歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea6724 トール・ヘルバイター(30歳・♂・ウィザード・シフール・イギリス王国)
 ea7211 レオニール・グリューネバーグ(30歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ea7400 リセット・マーベリック(22歳・♀・レンジャー・エルフ・ロシア王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8533 シヴァ・アル・アジット(34歳・♂・ナイト・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea9887 レイモンド・アトウッド(50歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0254 源 靖久(32歳・♂・志士・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●オーガとオーガ達
 枯れ草をかき分け、木々の間を抜けて周囲を捜し回る。‥見つけた。
『ヴェイ‥‥‥』
 目的の、複数のオーガを発見したオーガは、軽く挨拶の声(と思われる)を発しながら歩み寄っていった。対する複数のオーガ達も、同胞の来訪に気づいて挨拶の声(これも推測である)を返す。人の耳に聞こえる音としては、明らかに両者の発した言葉は違ったが、それでも互いに意味は通じているようだった。

 数日後、このオーガ達は揃ってどこかへと向かって歩き始めた。その内の一体が、何度も何度も仲間に話しかけているようにも見えた。だが、どうやらそうして何度となく話しかけられるのに嫌気が差しているのか、その一体のオーガを全く無視しているかのように、他のオーガ達は歩み行く。
 そしてそのオーガ達が向かう先には、一つの村があった。


●その胸の内は
 村に到着した冒険者の胸の内は結構バラバラだったが、依頼を遂行するという意思が共通しているようで、ファング・ダイモス(ea7482)を始めとして周囲の偵察に出ようとする者も居たし、リセット・マーベリック(ea7400)は、シヴァ・アル・アジット(ea8533)と共に、オーガ達が来て帰っていった方角に罠を仕掛けようとしていた。
 村に到着するまでの準備段階で上手く行かなかった事がある、レイモンド・アトウッド(ea9887)が行おうとしていたスクロール作成だ。あくまでも入り口は『スクロールを使用する』で、精霊碑文学を『読める』事と『書き込める』事の間には、大きな力量の隔たりがある。
 代わりと言っては何だが、シヴァが作ってくれた罠用の金属部品は、ちゃんとした設備が無く、道具だけで作ったものにしては中々良い出来に仕上がっていた。これを罠に使えば、オーガ相手でも十分な効果が期待出来るだろう。

「必ずやわし等が平穏を取り戻す故、ご安心あれ。民を護る事こそが騎士の務めじゃよ」
「おお、なんと心強いお言葉。わしらただの村人は、オーガなどが相手ではとても抗う術などございません。なにとぞ全てのオーガの脅威をお払い下さいますよう‥」
「はい、ご心配なさらないで下さい。私達は依頼を果たす為に此処にきたのですから」
 ヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)と荒巻 美影(ea1747)の言葉を受け、またも頭を下げる老人。彼がこの村の村長であり、村人の声を受けて今回を依頼を行う事を決断した‥この依頼の依頼人だ。
「既に村に被害が出ていることですし、野放しにしておくと大変なことになりそうですね」
 この場には、エレーナ・コーネフ(ea4847)や源 靖久(eb0254)も居た。
「それで、オーガについてもう少し詳しい情報は分からないのですか?」
 もう少しオーガについて情報が欲しいからだ。とはいえ、全てのオーガを退治して欲しいと言われている以上、相手の数が分からないのは確かに困ったが、とにかくオーガの目の届きそうな場所からは逃げ出していた村人達には、依頼をする際に言った以上の事はやはり分からないそうだ。

 そこへ、クレー・ブラト(ea6282)が飛び込んで来た。
「えらいこっちゃで! 思うとったよりえらい早くにオーガ達が来おったらしいんや!」
 彼は怪我をした村人に応急手当でもするべく村の中を歩き回っていた。よほど怪我が酷いならばリカバーも使う事を考えていたが、襲撃時には今のところ前の一回のみで食料を食い散らかされただけなので、村には誰も怪我人は居なかった。
 余計な気づかいだったかと少し落ち込み、そして誰も怪我人が居ない事に少し安心しながら、仲間の元へと歩き始めたところで、レイモンドのオーガ達が来たという内容の叫びを聞きつけたのだ。


●オーガの脅威とオーガの想い
「リセット、罠はどうなっておる!?」
「とりあえず半分ぐらいは仕掛け終わってます! それで少しは‥」
 慌てて物陰に引っ込み、相手を迎え撃つ体勢を整えるリセットとシヴァ。
「他の人達はどうしてんの?」
「今、レイモンドが呼びに行ったはずだ。トールが発見した位置を考えれば、なんとか間に合うだろう」
 村の周囲を飛び回り、上空より見渡していたトール・ヘルバイター(ea6724)は、いち早くオーガ達の接近に気がつき、その事を仲間に伝える為に村へと舞い戻っていた。ゆっくりと歩いている様子が見えたオーガ達がこの村へと辿り着き、仕掛けられた罠に引っかかる頃には、レオニール・グリューネバーグ(ea7211)が言うように大半の仲間が揃って、立ち向かえる準備が整うだろう。

「かかった‥それ!」
 オーガ達が罠にかかったと同時、レイモンドがファイヤーボムを唱え終え、オーガ達の中心に叩き込む。
「その轟雷の双翼、今此処に打ち振るえ!」
「集いし不可視の力よ、眼前に立ちはだかるもの全てを吹き飛ばせ」
 続いてトールがライトニングサンダーボルトを、エレーナがグラビティーキャノンを撃ち込む。高速詠唱によって成就される魔法は速く、オーガ達に軽いが確かに怪我を負わせ、その体捌きをどんどん鈍らせていく。
「しかし‥流石にオーガ、といったところかの!」
 グラビティーキャノンの追加効果で転倒する事もなく、平然と立ったまま大きな棒を構え直して冒険者達を迎え撃つ様子を見せるオーガ達。
しかし、一対一に持ち込めばヘラクレイオスやシヴァ、靖久にとってオーガはそれほど苦戦する相手ではない。専門的に格闘の術を修めた者ならば、運悪く先に一撃入れられでもしない限り負けるような事は無いのだ。ただし、武器受けによる防御で手一杯で、被害は無いが打撃も中々与えれていない。
「すまん‥。ちょっと後退させてもらうで‥」
「オーガの膂力がここまでとはな‥」
 しかし、戦法を誤ったクレーとレオニールはそれぞれ強烈な一撃をもらって後退を余儀なくされていた。クレーの技術では到底部位を狙った攻撃は出来ないし、またホーリーでは威力が足りない。そして、レオニールが持っていたシルバーナイフでは、ディザームを行うのに十分な衝撃を発生させる事は出来ない。
「すみません、遅れました!」
「その分の仕事はするから、それでゴメンしてくれ!」
 二人が抜けた穴に、戦闘の場の横っ腹からファングとレオン・バーナード(ea8029)が飛び込んできた。
 最初はファングが猟師としての知識や勘を生かして偵察の先導をしようとしていたが、悪いが彼の知識は稚拙とでも言うべきで殆ど役に立たず、加えてレオンのそれの方が遥かに優れていたので早々に偵察の仕方を見直す為に村へと戻ってきて、再出発の準備を行っていた所で騒ぎを聞きつけたのだ。
「美影はん、さっきオーガに殴られたんは‥」
「あ、大丈夫です。我が羊拳は守りの拳、一撃ぐらいどうって事無いですわ」
 クレーとレオニールの二人は、その入れ替わりの間に自分達を庇ってくれた美影と一緒に後方へと下がる。クレーは美影の怪我を心配したが、彼女はヤン・ショウ・ファンでダメージを軽減していたので平気だった。


●届かなかった声
「被害が出てからでは遅い、倒せるべき時に倒さねばならぬ!」
「その通りじゃ。人を傷つけたくなく、人に傷つけられるのが嫌なら、山奥に行ってた方が良かったの!」
「村を守る為だ‥一人も逃さん、フルバーストォ!」
 オーガ相手にすら、それは圧倒的だった。
 大斧と大槌、それにジャパンの地より伝えられた武器の中でも大きな体をしている太刀が、オーガ達をぶった斬り叩き潰してゆく。激しい戦闘のせいか、オーガ達が持っていた金棒は大きく曲がったりしていて、既に武器としては使えなくなっていた。

 残るは一体のオーガだけになった時、そのオーガは突然戦闘するのを止めて冒険者達に何かを訴えるような仕種をしてきた。
「なんじゃ? 命乞いのつもりかの?」
「ふん、呪われしカインの末裔たるオーガごときにかける情けは無いの」
 手で何か大きな物を作り、その中から一本の線を引くような仕種。
「逃したら、いつ村を襲いに戻ってくるか分かりません。心を鬼にして討つべきでしょう」
「ええ、私も件の嘆願書に署名はしましたが‥。それは、そのオーガがデミヒューマン達が構成する社会に属することを、命をかけて証明したからですし」
 振り下ろされる刃。その一撃を受けてオーガはもう一度だけ先程の仕種と、何故かレオンの事を指差して慌てて逃げ出していった。
(「ほら、神サマもオーガを討つ協力をしてくれてるんだぞ、と」)
 オーガとの戦闘が始まった直後から空を覆い出した、暗い灰色の雲。それは段々と空に広がっていっていて、トールが空を仰ぎ見ると、既にその半分を埋め尽くしていた。
「地獄の血の海で溺死しているがいいぞ、と‥‥沈め!」
 雨雲の下でしか使えない制約の代わりに大きな威力を持ったその雷は、逃げてゆくオーガへと降り注いだ。


 オーガの撃退を終えた冒険者達は、全てのオーガの脅威を取り除いてくれた事に対する、村人達の雨あられにような感謝の言葉と、今日のところは村に泊まっていって下さいという勧めを受けて、ここに宿を借りる事にする。
 冒険者達は心配していたが、この付近にオーガ戦士などの上位種は居らず、結局オーガは全部で五体‥内一体は思い返してみるとあまり戦意が無かったので、実質四体と言ったところだろうか。

 外を見れば雨が降り出していた。
「クレーさん、村の方達が夕食を用意してくれたそうで。早く行かないとスープ冷めちゃいますよ」
「そんな窓際に居ては、体も冷えたでしょう?」
 そんな外の景色をぼんやりと見つめていたクレーを、レオンとエレーナが呼びに来た。
「そか、そりゃはよ行かんと村の人に悪いな。せやけど‥」
「せやけど?」
 クレーに、レオンが聞き返す。
「せやけど、雪が降るような日よりこんな雨の降るような日のが、よっぽど寒いもんやと思うてな」
「ああ、そう言われてみればそうかも知れないですわね」

 ‥‥依頼は、成功したのだ。