足跡残った道を進んで

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:1〜5lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 89 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月26日〜02月04日

リプレイ公開日:2005年02月01日

●オープニング

「返事は今度会った時で構いません‥かー‥。なんでアタシなんかに‥」
 手入れの行き届いてない、バサバサした髪をかきあげながら、らしくない表情でエールをあおる。
 グラケルミィは、すぐ前に受けた依頼において、とある騎士から告白を受けた。グラケルミィもその騎士も、共に女性‥。ジーザスの教えに反しているし、普通はにべもなく断わるような事だろうが、彼女はまんざらでもないのか、帰りの道中ずっとギクシャクしていた。返答はまだしていないので、友達以上恋人未満の良い仲‥と言ったところだろうか。
(「家族、か‥」)
 今は聖夜祭の時期。殆どの人々は、今を生きられる事を神に感謝し、家族と共にこの二週間ばかりの間を過ごす。グラケルミィが宿に向かう途中にすれ違った家族は、どこかのレストランで食事をしてきた帰りだろうか。
(「今頃、アンタはどうしてんだよ‥」)
 満天の星空を見上げるグラケルミィは、どこか哀しそうな表情をしていた。多分、自分以外の誰にも見せた事の無い表情だろう。今の彼女は普段の彼女のイメージとかけ離れ、ひどく弱々しく感じられた。

 両親は自分がまだ小さい時に死んだ‥はず。原因は夜道を歩いている最中に、獣(オーガ族かもしれない、よく覚えていない)に襲われたから。なんで夜道を‥逃げるように歩いていたのか、それも覚えてねぇ。
 両親はアタシを先に逃がしてくれた。その後、しばらく待っても二人とも追いかけて来てくれねぇから、殺されてしまったのだと思った。今でこそ「殺されてしまったのだ」と平気で言えるが、その時その考えに至ったアタシには、それは恐怖でしかなかったもんだ。ひたすらに、走って遠くへと逃げた。
 気がつくと、部屋に寝かされていた。
 その家に住んでいたのは男が一人。疲れきって倒れていたアタシを助けてくれたのも、その男だった。思えば、酔狂な男だったなと思う。行き倒れていたアタシを介抱した上に、何故だか知らんが学を与えてくれた。共に過ごすに連れてだんだん分かっていったが、実は単に自分が成し遂げた事を自慢したかったんだが。それがどれぐらい困難なのか分からない奴に、いくら冒険譚を語ってもどうしようもねぇもんな。
 冒険譚。そう、男は冒険者だった。
 しばらく家を留守にしたかと思えば、全身に怪我を負って帰ってきたり、泥だらけの服で帰ってきたり、重い荷物をヒイヒイ言いながら運んで帰ってきたり、帰ってくるなり膨らんだ財布を見せつけてきたり、中身は全部銅貨だったり。
 ひたすら、子供っぽくて酔狂な男だった。
 軽い憧れの気持ちからだったのか、自分もいつしか冒険者になりたいと思うようになった。冒険の合間をぬって、男はアタシに基礎をみっちり叩き込んでくれた。今では感謝しているが、あれをもう一度受ける羽目になるのはちょっと勘弁願いてぇな。
 出会って何年目かのプレゼントとして、男はアタシに冒険者としての登録をくれた。その後、すぐにまた何処かへと出掛けちまったが、今度の留守は長かった。一ヶ月‥二ヶ月‥半年が過ぎても男は帰って来なかった。この家も、男の親兄弟か誰かが処分しにくるのだろうと思っていた。
 しかし、誰も来なかった。男も自分と同じく天涯孤独の身だったんだ、アタシを拾い育てたのは、寂しかったからなのかもしれねぇ‥。
 どっちかと言うと親のような存在だから、男を想い続けているなんて事はねぇが、その時からすっぱり異性に興味が無くなっちまった。と言うのも、命の危険なんて掃いて捨てるほどあるのに、男が向かい続けた未開の地の先に興味が行った。おかげで死んだ場所‥いや、行方不明になった場所すらさっぱり分かりやしねぇ。


 ――それからしばらく後の冒険者ギルド。
「遺跡の再調査の依頼か‥。ん、この遺跡の名前は‥」
 グラケルミィは一つの依頼書に目を止める。そこに書かれた遺跡の名前に、聞き覚えがあったからだ。
「ああ、やっぱ注意書きにグリムリーの事が書いてあるわ」
 グリムリーとはオーガ族の一種だが、一風変わった事に直接の戦闘はそれほど得意ではなく、他者を不愉快にさせる言霊という種類の特殊な能力を持っている。悪路を進んでいる最中にちょっかいを掛けられるとなると、戦闘力に優れた相手よりもこういった相手の方が、何倍もの厄介さを生じさせる時がある。

●今回の参加者

 ea1803 ハルヒ・トコシエ(27歳・♀・ジプシー・人間・ノルマン王国)
 ea6360 アーディル・エグザントゥス(34歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 ea6632 シエル・サーロット(35歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea7935 ファル・ディア(41歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8474 五木 奏元(50歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea9602 ガルザイン・スノーデサイズ(37歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 eb0206 ラーバルト・バトルハンマー(21歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 eb0382 安寧門 金角(30歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)

●リプレイ本文

●足跡残った悪路を進んで
「ふ〜‥。やっぱり、シューくんは置いてきて正解だったみたいですね〜」
 遺跡に向かって進み始めて一日目の夜。日も落ち、先に進み辛くなった冒険者達は、今日の所はここで野宿をする事に決めた。シューくんとは、ハルヒ・トコシエ(ea1803)が飼っているライディングホースに付けられた名前だ。
「連れて来れるなら連れて来たかったがな」
「あんな急な坂があるんじゃ、ちょっと馬を連れて来るのは無理ですからね」
 五木 奏元(ea8474)の言葉にアーディル・エグザントゥス(ea6360)が応じて、今日の行程を詳しく振り返る。ドレスタットを発って半日程の距離を進んだ所でロープを使って、崖に近い急な坂を下りたのだ。

「‥しかし、最初も最初で大変でしたけど、この先も色々な意味で大変な依頼になりそうですねぇ?」
 ファル・ディア(ea7935)が言う『最初』とは、依頼の始めにガルザイン・スノーデサイズ(ea9602)が女性陣につっかかった事と、ハルヒがグラケルミィの髪を見るなり、あれこれ手入れしてあげようと熱心に勧めた事だ。
「い、色々な意味って何だよ‥」
 思わず想像してしまうのは、先程見張りの順番まで眠る為にテントへと入っていった二人の女性の事。
「いえいえ、まだ話にあったグリムリーも出てきていませんし‥って事ですよ。おや、鼻を気にしながら何を想像されて?」
「うっ。うるせえな‥俺だって暦の上ではお前と同じぐらいだが、ドワーフの中じゃその半分程度の扱いなんだぜ」
 ラーバルト・バトルハンマー(eb0206)は非常に戸惑った表情をした後で、このままだと髭の色が黒から赤に変わりそうだと思ったのか、考えを紛らわす為にまだ張り終わってないテントを張るのを手伝いに向かってしまう。


●小賢しき者の影
「うわー‥ここを進むしかないのか?」
 アーディルが思わずそう言ってしまったのも無理もない。冒険者達の目に広がっているのは、ドロドロにぬかるんだ悪路。周りを見回してみても、両側には崖‥つまり小さな谷のような地形になっていて、かなり大回りしないと上には登れそうになかった。

「「うー、歩きにくい」」
 誰かと誰かの声が重なった。他の冒険者達も内心では同じ事を思っているだろう。
「くそっ‥!」
 ずるりと足を滑らせて、ガルザインが体勢を崩す。
「おい、大丈夫か?」
「‥‥。フン、女の助けなど借りんわ」
 パシン、とグラケルミィが差し出した手は払われる。
「何? てめぇまだそんな事を‥」
「ちょっと、グラキさんもガルザインさんも落ち着いて‥」
 慌ててシエル・サーロット(ea6632)が仲裁に入るが、二人は睨み合ったままだ。
「とにかく先に進んで、とりあえずここを抜けましょうよ」
 アーディルが提案するも、その場に突如として湧いた険悪な雰囲気は消えてくれない。
「ん‥なんだ、今確かに影が動いたように見えたが‥。上‥?」
 少し先の地面の影が動いたように、安寧門 金角(eb0382)の目には映った。その影は谷の両側にある崖の影の一部‥。金角は崖の上の様子を確認するべく、頭上を見上げる。
「二人とも落ち着け、上を見てみろ‥‥おそらくあいつがグリムリーだ」
 金角の言葉を受けて冒険者達が一斉に上を見上げると、そこには自分達を見下しながらニヤニヤと笑っているグリムリーと思わしき者の姿があった。先程からガルザインが必要以上に感じている不快感の正体は、おそらくあいつの仕業だろう。
「あんな位置から。これではこちらからはどうにも‥」
 ハルヒがサンレーザーを、シエルがオーラショットを、それぞれ放とうと詠唱を始めたが、グリムリーはその二人の姿を確認すると即座に‥
「ああっ、引っ込みやがった! ったく、本気で感じ悪ぃなおい!」
 以前にこの道を通った者に同じ事をして、手痛い反撃でも受けたのだろうか? 何にせよ、厄介な事を学習してくれたものだ。


●あっけない結末?
 どうにか谷を抜け、冒険者達は一段落するが、不快感の原因となっているグリムリーは退けてはいない。だが、どうやら奏元に考えがあるようで、彼は他の皆に先に進みつつ相手が出てくるのを待ってもらうように告げていた。
「不快感の正体が分かっているとはいえ、手出しが出来んとはな‥」
「仕方ありません、とにかく今は先に進む事に専念しますか」
 依頼の内容な遺跡調査であって、グリムリーを倒さなければならない事は無い。ファルの言うように、今は先へと進む事を優先しようと、冒険者達は再び道を進み始めたが、こちらの姿の見える位置から言霊を使ってきているのか、不快感を覚える者が絶えない。
「くそっ‥なんて嫌な奴だ」
 足元など先に進むために注意払うべき箇所へと、意識を向けなければならない悪路。普通に道を歩いていれば気づけるはずの相手の動きも、聞こえるはずの音も、この状態で知覚する事は難しい。かといって足を止めれば、こちらが注意を払って捜しているのが分かるので、相手は出てこない。
「こうなったら、とにかく先を急ぐか‥」
 そう言って、アーディルが先を急ごうと足を速めた直後、彼の視界に緑の塊が広がった。いや、広がっていったと言うべきか、木の陰に上手く隠れていた形になっていたスモールビリジアンモールドに、接触してしまう羽目になったのだ。
「アーディルさん!?」
 モールドの胞子は致死性の毒。ハルヒが慌てて駆け寄るが、彼女には治療する手立てが無い。
「ど、どうします‥? 私はアンチドートは使えませんし‥」
 ファルにも動揺の色が隠せない。アーディルも解毒剤は持ってきておらず、また手に入れようにも街は遥かに離れた位置にある。どう頑張って急いでも一時間では間に合わない。
「仕方ありませんわね、これを使って下さい」
 そんな中でシエルが差し出したのは、その場の皆が求めていた解毒剤。
 備えあれば憂いなしとはこの事、アーディルも多少の油断はあっただろうが、たったあれだけで命を落とす事になるのは‥‥。いや、命が失われる時というのはこれぐらいにあっけないものだ。
 ちなみに解毒剤の代金だが、ドレスタット帰還時に何割か補償してもらえた。

「奏元‥」
「ああ、右だろ? 分かってる‥」
 大慌てとなった冒険者を嘲笑いに来たのか、その場の近くへとグリムリーが接近してきていた。これまでに何度も好き勝手にやってくれた報復に、冒険者達から放たれたのは奏元のソニックブーム。その直後に金角とラーバルト、それにグラケルミィが相手に接近してゆく。
「終わりだな、その足の怪我もそうだが‥」
 奏元のソニックブームで足を斬り裂かれたグリムリーに、金角がシェー・デュウ・ショウを叩き込んで、完全に相手の動きを止める。
「ま、ぶった斬られるか‥」
「‥ぶっ潰されるか、好きな方を選ばせてやんぜ?」
 全身を痙攣させたグリムリーの目に最後に映ったのは、大斧と大槌、それぞれを構えた二人の冒険者の姿だった。


●誰か陰謀を感じないでもない
 ゴーレムはその命に従い敵と戦う彫像の事を指す。貴重な古代の遺産ではあるが、実際に使用する際には、破損する可能性の高い行動をさせざるを得ない。
『自分の最高傑作が完成した。後世にこの素晴らしき作品を残す為、ここに隠し、保管する』
 隠された小部屋には、その言葉が彫り遺されていた。冒険者達に同行してきていた学者は確かにそう文字を読み上げ、目の前に存在する巨体の姿を確認する。確かにこれは最高傑作かもしれない、このウッドゴーレムはただのゴーレムというには、あまりにも美しくその身が彫られていたのだ。‥一種の芸術作品と呼べる程に。
「で、このゴーレムどうするの? 動いてはいないみたいだけど‥」
「これは、普通に使うのが躊躇われるように思うんですが‥」
 ハルヒが口を開いて、それをアーディルが受ける。その場に居る皆が感じているように、目の前にあるゴーレムは、どうにも「ゴーレムとしては失格なんじゃないか?」と思えてしょうがない。
「それより、これ‥どうやって持ち帰るんだ?」
 ラーバルトが言うのも尤もだ、人が持って運ぶには重過ぎる。あんな悪路をどうやって運べというのか。
「と、ともかく‥これで後は街まで帰れば依頼終了というわけで?」
 苦笑しながらファルが言葉をかけた学者は、小さくか細い声で「うん、そうだね‥」と呟いたのだった。


 ドレスタットへ数十分の距離になった時に、シエルからの催促を受けグラケルミィは前の答えを返す。
「えーと、そうだな‥うん。まあ‥その、なんだ? 女同士で恋人ってのは良く分からねぇよ‥。けど、普通の友人以上の、ごく親しい友人としてって事でいいか?」
 独りの寂しさに対する、グラケルミィの弱さがそう言わせたかもしれない。それでも、どうもシエルが期待しているような普通の恋愛関係(この言い方も適切ではない気もするが)とは違うようだが、まあ深い仲になるのはOKのようだ。
「そう‥ですわよね。まあ‥お互いの認識の差は、これからじっくりと実践をもって埋めさせていただくとして‥」
 ぼそり。
「ん? 何か言ったか?」
 グラケルミィの追求をかわしながら、心の中でグッとガッツポーズをするシエル。だが、そこへ‥!
「私も好きだよ、あなたみたいな人‥ククククク‥‥」
 同行した冒険者に挨拶をして回っていた金角が二人の所にも来て、そう薄暗い感じでポツリと言い残していった。もちろん金角は、シエルとグラケルミィの仲の事はあまり知らないし、先程の会話も聞いていない。
「シエルさんもグラケルミィさんも、十日近い間に随分髪が痛んだハズです。さあっ、今こそ私のお勧めする‥」
「わっ、アタシはパスさせてもらうぜ!」
 さっきの金角の言葉はどういう意味なのか困惑する二人の下へ、今度はハルヒが飛び込んできた。そんなドタバタした状態のまま冒険者一行はドレスタットへと到着し、余計な誤解と疑惑を残したまま依頼は終了したのだった。