渡来の品を挟んで
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■ショートシナリオ
担当:MOB
対応レベル:フリーlv
難易度:やや易
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:02月13日〜02月16日
リプレイ公開日:2005年02月20日
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●オープニング
「それで、今回のご依頼の内容は‥具体的にはどうなります?」
「三日間の間の臨時の手伝いですな。まあ、裏方の仕事が中心になるでしょうが、もし出来るというならば接客もお願いしたい」
今日もまた冒険者ギルドに依頼が一つ。依頼主と受付の間でのやりとりが終わった後、出来上がった依頼書を見てみれば、おや‥報酬額が書かれているはずの箇所には報酬無しと書かれている。
数ある依頼の中にはこういった依頼もある。完全に出来高払いの依頼だったりというのを始め、色々と理由は考えられるが、今回のはどうやら報酬は金銭ではなく、別の形で払われるようだ。依頼内容の本文を読んでいけばそれは分かる。
この依頼の依頼主は、とある酒場の店主。依頼の内容は三日間の酒場の業務の手伝い。なんでこんな依頼が冒険者ギルドに来るんだと思うかもしれないが、早くに人手を集める必要があり、しかもある程度信頼のおける者が良いなら、案外に適した場所だったりもする。
話を戻して、依頼を出す事になった経緯を説明しよう。今の時期に合わせて、イギリスよりシードルと呼ばれる果実酒を仕入れ、一つ企画を打ち出した所、これが中々上手くいって予約の数も上々。14日前後は忙しくなるだろうと喜んでいたのだが、複数の従業員が体調を崩してしまい、どう考えても人手が足りない。
そこで‥というわけだ。折角の機会なので店主や従業員もシードルを味わってみたかったらしく、三日間の間のお客に出す分を考えても少し余るぐらいの量が仕入れられており、依頼を受けてくれた方々に報酬の代わりとして出すそうだ。但し、貴重な品であるので一人一瓶は到底無理な話で、最終日の夜に店内で飲んでもらう事になる。
「へぇ〜‥14日の予定はこれにしようかな」
「珍しいお酒が飲めるのね、しかもお酒に弱い人でも飲みやすそうだし‥」
そんな感想が漏れるが‥
「何言ってるんだ? その依頼だと14日は丸々一日働き詰めだと思うぞ?」
「え、なんで? ほら、仕事が終わった後に店内でって書いてあるじゃない」
「依頼期間は13、14、15の三日間だからな」
そういう事である。こういう仕事の人達にとっては、イベントのある日が働く日。
「ええー、14日じゃなきゃ意味ないじゃない!」
「いやあ‥受付の俺に言われてもなぁ‥」
「なんとかならないの?」
「いや、ならないだろ」
苦笑しながら返すギルド員。ちなみに、彼の前に居る冒険者は、まだこの依頼を受ける手続きはしてない。
「なんでそんな風に納得出来るのよ。貴方だって、14日は夜遅くまで仕事って言われたらどう思う?」
「どうもこうも‥。今みたいに、まあ仕方ないかって思って仕事を続けるだけだ」
「‥あら? じゃあ、貴方って14日もここでお仕事なんだ」
「そうだが」
「あ‥えー‥‥じゃあ、まあそれは脇に置いておくとして」
「置くなよ」
というわけで、少し日はずれるけれども、シードルを傍に仲間や恋人と過ごす夜はいかが?
●リプレイ本文
●悲しいけどこれ、客商売なのよね
「まあまあ、そう言わんと‥他の冒険者と同じように扱ってくれへんか?」
酒場の店主と向き合う冒険者が二人、場所は店の奥にある個室だ。三人とも困ったような表情をしているのは確かだが、レミィ・エル(ea8991)とウェンディ・ナイツ(eb1133)の二人は、気まずさがありありと浮かんでいる。先の言葉は、個室に入るまえに店主にかけられたクレー・ブラト(ea6282)の言葉だ。
事の発端は最初も最初、店主が雇われてきた冒険者達と面談した時だった。店主としては、働きにきてくれた冒険者達が何が出来るのか‥例えば、今回ならば接客の経験はあるのか等、また名前と顔を一度ちゃんと確認しておかないと仕事をする上で不都合だ。そして、そこで二人がハーフエルフである事がバレた。
「こうなる可能性はあったからな。ただ‥、客の目に止まる位置では働かせられないよ」
帰れとは言わない、しかし裏方の仕事に従事してもらう、そう言われてしまった。それぐらいならば店としても容認出来る範囲なのだろう。これでも好意的な方である。店によっては、無用のトラブルを避ける為に、ハーフエルフの出入りを禁止している所だってあるのだ。
「耳を隠せば問題ないと思っていたのだがな‥‥」
ようやく解放されたレミィは、店主に言われた通りに裏方の仕事に回りに行く。
「あ、あの‥裏方の仕事って、やっぱり力仕事とかなんでしょうか‥?」
「まぁ、やっぱりそういうじゃないか?」
二人が期待していた接客役は、残念な事に最初の時点で消えてしまった。
「ええい、もうこうなったらとことん働いてやる」
「そ、そうですよね‥。三日間のお仕事頑張りましょう!」
グッと拳を握り締めて宣言するレミィと、それに応えるウェンディ。希望の仕事には就けなかったが、働く事は認められた。ここでふてくされて、同行してきた他の冒険者達に迷惑をかけるわけにもいかない。
●異国の習慣
シードルを愉しめるイベント中とはいえ、通常の営業もやってないわけではない。夜に来る予約の方々とは席の位置を離しているが、普通のお客さん達もいつも通りに飲みに来ていて、その分仕事は多い。
「ばれんたいん、か‥。どんな行事なのだろうな?」
御神 美沙輝(eb0537)がぼそっと呟く。
「少しはこっちの習慣も分かってきたが、どうやら親しい仲の人と過ごすらしいな」
すると長渡 泰斗(ea1984)が応えた。
泰斗は生まれはジャパンだが、ゲンプクしてすぐにノルマンへと渡って来たのだと言う。どうやら十年ぐらい前の事らしく、それからこのノルマンの地で暮らしている泰斗には、少しずつ異国の習慣が分かってきていた。聖夜祭が家族愛ならば、バレンタインは隣人愛と言うのが正しいだろうか。
「そうか‥。む、仕事だ」
またも美沙輝はぼそっと呟いて、卓についたお客さんの所に注文を取りに行く。
(「あれで大丈夫か‥?」)
泰斗の心配通りに、美沙輝は三日間の間に何度か「もう少し愛想良く出来ないか?」と言われていた。が、泰斗も酒場の者も、ましてや美沙輝自身も知らないが、一部の客には何故か受けていたようなのである。まあ、好みは人それぞれ‥と言っておこうか。
「と、俺も自分の仕事しないとな」
泰斗も自分の仕事に戻る。既に裏方の力仕事には二人居るので、彼の仕事は器を下げたり悪酔いをした方の対処をしたり。特に閉店間際の性質の悪いお客さん相手の対処には、随分と頼りにされたようだ。
そんな陰で、御蔵 忠司(ea0901)はひたすらに野菜を洗っていた。酒場の店主も、実は忠司がこれまでに結構な数の依頼をこなし経験を積んだ冒険者だとは、夢にも思うまいて。
●ちょっと予想外の状況
「‥待ち人来れずやしね」
こちらもぼそっと呟く、クレー。どうやら酒場へと向かう期日までに、待ち人の予定が開かなかったらしい。
(「二人とも頑張ってんやろなぁ‥」)
目下の所、クレーの気がかりはレミィとウェンディのハーフエルフ二人だった。先にも挙げたように二人は裏方に。男性達が余っているのに、女性達に力仕事を強いる事になってしまったのには気が引けるが、これも仕方の無い事だ。
「で、ご注文は何にしはります?」
だから、クレーは自分の話し方には癖があるので裏方の仕事を希望していたが、表の仕事に回されていた。
「はい、出来上がったわよ」
「こっちも出来上がったよ」
順調に冒険者達は仕事をこなしていって、今日は三日目の昼。この二人も、かなり慣れてきているようだ。
最初は忠司と同じように野菜を洗っていたマクファーソン・パトリシア(ea2832)は、この三日目には作るのが比較的簡単な料理は任されていたし、カルナック・イクス(ea0144)に至っては、調理技術の基礎がしっかりしていた事もあって、他の従業員と肩を並べていた。
「今日も盛況だわね。これは気を入れ直さないと良い仕事は出来ないわ」
「ええ全く。レシピ見た時にも思いましたが、予約席用の料理はちょっと手が込んでますよね」
マクファーソンは忙しくなればなるほどに生き生きと働いていた。もしかすれば、ウィザードとして冒険者をするよりも、こういった仕事に就く方が、マクファーソンのやりたい事なのかもしれない。
(「う〜む‥まさか、こんなにバリバリ働いてくれるとは思わなかったなぁ‥」)
なんて思っているのは酒場の店主。気を効かして知り合い同士で参加しやすくしたのに、集まってくれた冒険者達は揃いも揃ってシングル。いや、頑張って働いてくれるのは、非常にありがたい事なのだけれども。
「ウェンディって結構力あるのね、あたしも負けてられないわ」
「まだ駆け出しですけど、ファイター名乗らせてもらってますし‥」
「壁際の、端から二番目の席か‥」
「荒事は外の方でお願いする」
「次、何の野菜を洗えばいいですか?」
「ほな、お下げしますね〜」
「ふぅ。シードルのため、シードルの‥‥」
「ええ、キリキリ働らきますとも」
いや、頑張って働いてくれるのは、非常にありがたい事なのだけれども。
●渡来の果実酒
「ああ‥、ようやく終わった」
「あんなの、男の人でも分けて運びますよね‥」
冒険者の中で、一番疲労の色が濃かったのはレミィ、次いでウェンディだろうか。酒場の店主はハーフエルフに対して理解があるようだったが、従業員のその全てがそうではなく、やはり色々と無理難題を言われたらしい。
「二人ともお疲れ様やで〜。今、他の皆が準備してくれとるわ」
「シードルに合うおつまみを、厨房を借りて作らせてもらっても構いませんか?」
「‥酒が足りないな。親父さん、発泡酒かワイン、追加で頼めないかい? 金はキチンと払うよ」
そんなカルナックと泰斗の提案に対して、酒場の店主は案外あっさりと了承してくれた。いや、むしろ向こうから勧めてくれたと言うべきか。泰斗に対しては、純粋に酒が飲みたいのなら、自分の分のシードルをエールやワインに変えても構わないと言ってもらえた。
この時期に、良く働いてくれた冒険者達に少しばかりのお礼だそうだ。「良く働いてくれた」だけが理由じゃないとは皆薄々感じ取ってはいたが、それは言わないお約束。言っちゃダメ。
「それでは美酒をいただきますか。みんなで乾杯しましょう、カンパ〜イ!」
「泰斗さんは復興戦争にノルマンに来て、そのまま残ったんですよね?」
「ああ、終戦後に復興が始まって‥コッチの人達の笑顔が眩しかったからな。それからしばらくして、冒険者ギルド関係の噂を聞いて、それで成ろうって思ったわけさ」
忠司の質問に、照れ笑いを浮かべながら言葉を返す泰斗。
「いや、まあ‥俺って一応長男なんだけどさ」
「それは‥家からは何も言われてないのですか?」
「特には。文字通り、武者修行だと思われているんじゃないかな?」
泰斗が浪人として活動しているのも、こういった事情からなのだろうか。
そんなこんなで、各人とも話が進んでいって時間も過ぎて、今はもう店からの帰り道‥いや、予定の時間より多少早いように思える。そこには、並んで歩くクレーとレミィの姿があった。
「すまない、あの時は取り乱してしまったようだ」
「そんなに気にせえへんでええよ〜」
酒が進むにつれて興奮したのだろうか、レミィが狂化してしまってちょっと騒ぎ立ててしまったので、外で酔い覚まさせる為に、クレーはレミィを連れて一足早く席から離れたのだ。酔いが醒め、頭を回していくと、どうしても今の時期が何なのかが現れてくる。
「酒場戻ってきたけど、酔いは‥醒めとるみたいやな」
「ああ、おかげさまでな」
既にレミィの瞳は赤から青へと戻っていた。
酒場に戻って来た時には、多少は他の冒険者から冷やかされはしたが、二人の仲は依頼の同行者。時間も時間だったので、丁度二人が帰って来た事を機にして、冒険者達は場を切りあげたのだった。