ドラゴンを連れ出して

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:1〜5lv

難易度:普通

成功報酬:1 G 89 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月19日〜01月28日

リプレイ公開日:2005年01月26日

●オープニング

「なぁーにが、ドラゴンの調教がなっていませんねぇー‥だ、あんの野郎ぉ‥」
「あの〜‥‥お客さん? そろそろ閉店の時間ですので‥」
 年も明けてすぐだというのに、なんだか凄いやさぐれた感じで杯を空け続ける男が一人、目の前に居る。この酔い方は酒で嫌な事を忘れようとしている人の酔い方だ。ほら、酒場の兄ちゃんも、満面の笑みで苦笑を浮かべてる。

「なあ、兄ちゃん。人が危ないっつってんのに、脱がない方が悪いよな? な? な? なー!?」
 はぁ‥脱がないって何をでしょうか?
「何って‥ローブに決まってんだろうが、ローブにぃ!」
 ‥ローブ、ですか? でも一体何故ローブを脱がないと駄目なのですか。
「おう、そうよ。何でか知らんがドラゴンども、ローブを着た相手を見ると途端に襲い掛かりやがる」
 おや、少しは落ち着かれましたか。‥なるほど、そういう話を聞きますね。
「それでよぉ、捕まえたドラゴンの怪我がようやく治って、買い手を探してたんだよ‥」
 ドラゴンを捕まえたのですか、それは凄い。
「ところがだ、とーこーろーがー! 俺は危ねぇっつたんだよ? つったんだよぉ!? だのに、あのバカ野朗ども、寒いからローブ脱ぐなんて嫌だーとか言って‥」
 それでローブを着たまま、ドラゴンの前に行かれましたか。
「おお‥兄ちゃん話の早い奴だなぁ。そうだよ、そうなんだよぉ! 気分良くなってきたぜ、エール追加してくれぇ」
 申し訳ありませんお客様、既にオーダーストップの時間は過ぎております。
「‥‥‥」
 ‥‥‥。
「‥そうかい、じゃあ仕方ねぇ」
 ほっ。
「それでよぉ、そいつらが人を使ってまで噂流しやがってよぉ。おかげで、折角とっ捕まえれたドラゴンを、安く買い叩こうとする奴等が居るわけよ、分かる? あんたなら分かっだろお?」
 はい、分かります分かります。なので、そんなに顔を近づけないで下さい。
「食費やら何やらで、日毎にかかる金だってバカにならねぇし‥。どーにかならないもんかねーぇ‥」
 あ、ちょっと、こんな所で寝ないで下さい。
「うるせぇバカヤロウ! そんなら頼んだエール持って来いってんだ!」
 いや、その、さっき言ったようにオーダーストップの時間過ぎてますから。
「ん? んんー? ああ‥そうだっけか、兄ちゃんそんな事言ってたな」
 はい、言いました。それで、お困りでしたら冒険者ギルドに依頼してみるのはどうでしょう?
「冒険者ギルドぉ? 具体的にはどうすんだよ」
 安く買い叩かれるのがお嫌ならば、ドラゴンを街から遠くまで連れて行って逃がしてしまえば。
「俺の儲けがねぇじゃねぇか。ダメだダメだ、既に結構な金使ってんだ、んなのダメに決まってんだろうが。確かに他人を儲けさすのはゴメンだがよ、いくらなんでもそりゃダメだぜ」
 ですから、その際にドラゴンの鱗を剥いでもらう事にするんですよ。
「ドラゴンの鱗を剥ぐ‥? おおう、そいつはいい考えかもしれねぇなぁ」
 でしょう? 街から遠く離れた位置ならば、ドラゴンが暴れても大丈夫ですし。
「おーおー! よぅし、早速その冒険者ギルドってとこに行くとするか!」
 あ、ギルドの位置でしたら僕知ってますから、良かったら案内しますよ。
「ほー! 何から何まですまねぇなぁ」
 では店長に事情を説明してきますね、少しだけお待ちいただけますか。


「鱗は取れるだけ取ってもらいたい、結果が黒字にならなきゃシャレにならないからな」
「それで、件のフィールドドラゴンは今どちらに? 飼育するには、広大な土地が必要と知られておりますが‥」
「今はドレスタットから半日程離れた位置にいる。捕える際に負わせた怪我があったから、それが治るまではそう動いたりせずに大人しくしてくれていたな」
 夜道を歩いている間に随分と酔いが醒めたようで、男ははっきりとした口調でもって、依頼書を作成しているギルド員の質問に答えていった。
 幸運にも捕まえられたとして、フィールドドラゴンを飼育するには、クリアすべき点が二つある。一つは酒場で男が言ったように餌代がとてもかかるという事、もう一つは運動の為に広大な土地が必要だという事。前者については一ヶ月二ヶ月で蓄えを食い潰される程ではないが、問題は後者。今までは怪我のせいでドラゴンが動けなかった為に無視出来ていたが、これからはそうはいかない。
 男も商人の端くれ。安く買い叩こうとする連中と交渉が出来ないという事はないが、今回のケースは自分にあるカードが悪く、どう頑張っても足元を見られるのは確実だろう。男が他人を儲けさせるのを嫌うのは、先程までで分かっている。
「じゃあ、色々世話になったな」
 そう言って、男はここまで自分を案内してくれた青年に別れを告げ、自宅へと戻っていった。

「‥で、この依頼僕受けますんで。名前は‥ユアン・エトワード、です」
 依頼主をここまで案内してきた青年は、そうギルド員に告げた。

●今回の参加者

 ea7235 ルイーゼ・ハイデヴァルト(26歳・♀・神聖騎士・エルフ・フランク王国)
 ea7482 ファング・ダイモス(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ビザンチン帝国)
 ea7906 ボルト・レイヴン(54歳・♂・クレリック・人間・フランク王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8498 月詠 閃(40歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8872 アリア・シンクレア(25歳・♀・バード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 eb0565 エレ・ジー(38歳・♀・ファイター・人間・エジプト)
 eb0713 ドルス・バルデル(45歳・♂・ファイター・ドワーフ・フランク王国)

●リプレイ本文

●対面
「とりあえず、保存食の足りない人は今の内に買いに行っておいてもらえると‥」
 今回の依頼はドラゴンを引き連れて歩く事になる。当然、帰りならともかく行きは街道沿いには歩いて行けず、保存食もそれなりの量が要る。ユアン・エトワードの言葉を受けて、数人の冒険者がドレスタット出立前に店に走った。

「鱗ですか‥実際にはどんな効果があるのでしょう?」
 依頼書によると、今フィールドドラゴンが居るのはドレスタットから半日程の距離。そこまでを歩く道の途中で、ルイーゼ・ハイデヴァルト(ea7235)がふと疑問をもらした。
 確かにドラゴンの鱗は硬く、それに覆われたドラゴン達は本来の身体能力と相まって強力な存在となっているが、特に変わった効果があるようには思えない。この場に、ドラゴンについての詳しい知識を持った者が居れば何か分かったのかもしれないが、それはまあ仕方がない。
「うーん、やっぱり希少性っていうのが第一なんじゃないかな?」
 アリア・シンクレア(ea8872)が不安げに答える。デミヒューマン達の歴史の中でいつ頃より生まれたのか分からないが、珍しい物を手に入れようとする好事家は、探せば案外に見つかるものである。ましてや、ここは交易の要たる街ドレスタットだ。
「それにしても、ちょっと顔は合わせづらいのう‥‥ファング殿。布か何かで、ちょっと顔を隠しておくのが無難じゃろうか?」
「ええ、私達は少し距離を取って行動しておいた方がいいかもしれませんね」
 月詠 閃(ea8498)とファング・ダイモス(ea7482)の両名は、実はこの依頼にあるフィールドドラゴンと戦った身であり、少し引け目を感じながら他の冒険者達と同行していた。下手にドラゴンに刺激しない為にも、念を入れておいて損はないだろう。
「は、初仕事がドラゴンさん相手なんて、き、緊張します‥。ちょっとドキドキ‥」
「いやあ、僕もドラゴンを自分の目で見るのは初めてですよ。ああ、そうそうアリアさん、例の方法は止めておいた方がいいと思いますよ?」
「チャームのことですか?」
 言葉通りに緊張しているのが、少しギクシャクしながら歩く様に出ているエレ・ジー(eb0565)を微笑ましく思いながら、ユアンはアリアに言葉を投げかけた。アリアは、ハーフエルフである自分に対して非友好的な態度を取る人がいたら、面倒事はごめんなのでチャームで友好的になってもらおうとしていた。
 もちろん、魔法を使った事がバレないように、相手がこっちを見ていない間にするのだろう。その場合でも、相手が魔法の事を大して知らない場合ならば大丈夫だろうが、魔法‥それも最悪チャームについて知っていた場合は大きな逆効果になる可能性がある。

「あ、そうそう、ローブは脱いでおきましょうよ」
 いざフィールドドラゴンと対面しようかという時に、ルイーゼはぼーっとしていたクレリックの冒険者に声をかけた。
 別荘‥ではないか、使われなくなった小屋を買い取ったか借りたか、それの傍にとってつけたような柵があって、その内にフィールドドラゴンは居た。もう殆ど怪我も治っているようで、歩き回りたいのかうろうろと狭い範囲の中でぐるぐるしている。
 ここで依頼に関する諸注意をもう一度受けた後、冒険者達はフィールドドラゴンを伴って野山へと分け入って行くのだった。


●不幸な鬼達?
 のっし、のっし。フィールドドラゴンを引き連れて、冒険者達は野山を歩いてゆく。
 日中でも日陰になっているような場所は、いつかの日に降ったのであろう雪も溶けずに残ったままで、その光景は冒険者達に冬の寒さを実感させる。防寒着を忘れた者は、時折震えながら歩いていた。
「どうじゃ? おぬしらも飲んでみるか?」
 そんな中で、ドルス・バルデル(eb0713)は酔わない程度に発泡酒をちびちびと飲みながら、周囲にも勧めていた。結果的に体を温める効果もあるので、悪い行動では無いのだが‥まあ、それが出来るのはある程度酒に強くないと無理なわけで。
「そうか‥最近の若いのはノリが悪いのぅ‥」
 やんわりと断わられていた。そして、向こうでひそひそ話。
「もし、加減間違えて酔われたらどうします?」
「ユアンさんに任せればいいんじゃ? そういった方の応対は慣れてそうですし‥」
「ああ、そう言えばユアンさんの副業ってそうだっけ」
「と言うわけで、もしそうなったらユアンさんお願いします」
「えええええ」

 ピクリと可愛く動いた耳は、哀しいか被差別の対象たるもの。
「皆待って、サウンドワードを使うわ」
 しかし、それが今は冒険者達に迫る脅威を事前に察知させる。結果はビンゴ、彼女にしか聞こえない声で音が返してきた答えは‥ホブゴブリンによって揺らされた草がこすれる音で、西に20mぐらいの所だよ。というもの。
「西‥だから、左の林の中‥!」
「左だな、承知した! ちくわよ、少しそこで大人しくしておってくれ!」
 林の間からホブゴブリンやゴブリンが抜け出てきた時には、冒険者達の迎撃体勢は完全に整っていた。
「おおおっ、フルバーストォ!」
 強烈な先制攻撃は正に流派コナンの真骨頂、あっという間に一体のホブゴブリンがその場に崩れ落ちる。愛馬のちくわを後方に置いて、駆け出してきた閃も同様にホブゴブリンを斬り捨てる。それごと壊せばいい、もしくは太刀筋が見えないならば防御する事は出来ない。彼等にとっては、相手の持つ盾など有って無いものなのだ。
 初撃を交え終えると、レオン・バーナード(ea8029)とドルスがそれぞれ応対していたゴブリンは一目散に逃げ始めた。こうもあっさりホブゴブリンが二体もやられては、それも仕方ないか‥? いや、違う。気づいたのだ、冒険者達の背後に、何か大きな存在がいる事を。
『ななな、なんか居るゴブー!?』
『こっこんなの聞いてないゴブ!』
 とでも言っているのだろうか? 何かわめき合いながら大慌てでゴブリンやホブゴブリン達は散り散りに逃げ出し始める。その逃げ足たるや、ゴブリンってこんなに足速かったっけ? と思いたくなるほどで、冒険者達は自分達が連れている存在が、野の中でどんな位置にいるのか改めて思い知らされた。


●ちょっと端の方の鱗を取るだけですから
「そろそろ‥この辺りで良いんじゃないでしょうか?」
 村やそれを繋ぐ道からは結構遠くまで離れ、誰が言い出すのか皆が待っていたが、最初に口を開いたのはルイーゼだった。
「しかしドラゴンの鱗を剥ぐ‥か、獲った魚の鱗を剥ぐみたいにはいかないんだろうなぁ」
「まずはアリアさん、ドラゴンとのお話をお願い出来ますか?」
「分かってるわ。そうだ、人ならともかく‥ドラゴン相手ならチャーム使っても?」
「あ、それいいかもしれませんね」
 アリアの持った能力は、この依頼において非常に有効に働いた。とはいえ、いかんせんフィールドドラゴンの知能は獣と同等程度なので、話が全て終わるまでには結構な時間がかかったし、例の『ダイジナモノ』については、今現在分かっている事以上の情報は得られなかった。
「うーん、やっぱり無理だったか‥」
「まあ、ある程度鱗取るのは了承してくれたようじゃから、それで良しとしておいた方がいいのかのぅ」

 ぺり、べり、ぶち。
「なあ‥確かに分かってくれたみたいで、暴れたりはしないんだが‥」
 なんかめっちゃドラゴンが睨んでくる、というか‥
「さっさと終わらせろよ。‥みたいな感じですかこれは?」
 どうやら、ドラゴンを挟んで分かれている男性陣側と女性陣側で、ドラゴンのする顔が違うっぽい。別にアリアは普通に会話しただけなので、単にこのドラゴンの性格なのだろうが。‥って、なんだこのドラゴン。
「‥では、失礼しますね」
「ど‥ドラゴンさん、痛かったら言って下さいね‥」
 にこにことした表情を返すドラゴン。まあ、取った箇所に軽く手当てをしてくれているのだから、これぐらいはドラゴンとしても返してくれるだろう。魔法の効果もあるのだろうが、フィールドドラゴンは元々温厚な性格なのだ。
「なあ、もし痛いようならこっちの腕ぐらい噛ん‥」
 かぷっ。あ、言い終わらない内に噛んだ。
「レオンさん!?」
 それもこれ以上無いタイミング、人の言葉は分からないはずなのに。‥と、冗談(?)はここまでにしておいて、鱗を取るのは了承してくれているので、殆ど傷にもならない程度‥咥えたような感じだけでレオンは解放された。


●またね、ドラゴン
「ほら、そろそろお別れですよエレさん」
「ドラゴンさん、また会いましょうねぇ〜」
 最後までフィールドドラゴンに引っ付いていたエレも離れて、冒険者達とフィールドドラゴンは別れた。気のせいか、ドラゴンも別れ辛そうにしてように見えた。
「ああっ、ほらほら泣かないの」
「うう‥そう言われてもぉ〜」
 涙腺が弱いのか、思わず泣いてしまったエレをなだめながら、とりあえず普通の道の方に出る為に歩き出す冒険者達。
「また会おうと言っても、戦いの場は勘弁願いたいのう」
「そうですね、早い内に宝を返してあげたいものです」

 ところで、その後は鱗を届けるだけとなった帰りの道中で、宿を取るために立ち寄った村でのお話。
「ほれ、帰りぐらいは少しは飲んでみてはどうじゃ? 酒の飲めない奴は一人前になれんのじゃぞ?」
 他の冒険者達は断わったが、ユアンだけはどうしても断わりきれずにドルスから杯を受けた。どうやら彼は酒にはあまり強くないようで、数杯ですぐに様子が変わっていったのだが‥問題はその変わり方。
「うっ‥うっ‥、ドルスさんちょっと聞いて下さいよぉ〜」
 何が悲しいのか、突然泣き始めた。
(「こっこれは、泣き上戸というヤツか‥!?」)
 そうだバルスさん。そしてこれは、俗に言うライトニングトラップを踏んだというヤツだ。結局、バルスが突如陥る事になったピンチから逃れる事が出来たのは、日付も変わった頃だったり。