山林の中の誘導者

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:3〜7lv

難易度:難しい

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月04日〜03月09日

リプレイ公開日:2005年03月13日

●オープニング

「前にあったローブの男が、また目撃されました」
 そのオルファ・スロイトの言葉から始まったこの依頼、まずは少しローブの男について説明しておこうか。
 以前に、森の中でその付近一帯を狩場としている猟師達に何度か不審な存在として目撃されていた、ローブの男に対して、身柄を確保してくるようにと依頼が出されたが、残念ながらそれは達成されなかった。盗賊団と思わしき存在と、またそのローブの男自身の力量、仕方の無い事だったのかもしれない。
 だが、そのおかげでローブの男について、スクロールを使用する事と華麗な身のこなし、それにローブから覗いた茶の髪と、なにより服に紫で何らかの刺繍がされていたのが分かった。更に言うなら、冒険者達と対峙した際の言動、明らかにこのドラゴン襲来の事件における重要参考人だ。
「‥わざとらしすぎるとは思いませんか?」
「それが海戦騎士団が動かない理由なのですか?」
「いえ、それだけでは。ドレスタット周辺全てに、同時に手が回るだけの人員はとても居ませんから‥船を所持している僕達は基本的に海寄りを、冒険者の方々には基本的に山寄りに回ってもらった方が、色々と都合が良いんですよ」
 オルファが言ったように、ローブの男はわざとらしいのだ。その格好で不審な行動を取っていれば、疑われるに決まっている。まるで、疑われる事が目的であるかのようだ。深読みするなら、猟師達に何度も目撃されたというその事も、わざとやっていたのではないかと思えてくる。
「それで、ご依頼の方は、やはりローブの男の捕縛で?」
「そうなりますが‥ちょっと厄介な事になってましてね」
 ローブの男は、村の付近に移ってきたオーガ族を誘導して彼等に村の存在を教え、そこを目撃されたらしい。その時はローブの男を優先に追っていたので村への被害は無かったが、このままではオーガ達からいつ襲撃されてもおかしくない。
「先程言ったように、ローブの男の行動は何か引っかかります」
 それで村について思い返してみたところ、確かやや有力な商人の実家‥今は商人の親が住んでいる屋敷があったはず。専属の警備も雇っているとか。まさか‥その屋敷が狙いだとでも言うのだろうか?
「そこまで分かっているなら、大人数で‥」
 ギルド員の提案に、オルファは首を横に振る。
「相手は、わざわざオーガ族を誘導してきています。それはおそらく、その襲撃の混乱に乗じたいから。‥下手に人数を伴っていけば、きっと相手はその時点で逃げ出してしまいます」
「しかし、それでは村に危険が及んでしまう事になるのではないですか?」
「はい。ですから、この依頼には僕も同行しますし、腕の立つ人を募ってもらいたいのです」
「‥なるほど、分かりました。ではその条件で」

 ‥複雑で、難しい依頼だ。
 村をオーガ族から守った上で、おそらく現れるであろうローブの男を捕縛する。しかも、オルファが言ったように、相手に「これは出て行かない方が良い」と思われれば、そこで相手は出てこなくなるのは間違い無い。
 なお、提示されている報酬はオーガ族の撃退だけのものである。ローブの男を捕縛出来た場合には、相応の報酬が追加されるそうだ。

●今回の参加者

 ea1747 荒巻 美影(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea4847 エレーナ・コーネフ(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea7211 レオニール・グリューネバーグ(30歳・♂・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea8498 月詠 閃(40歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8537 ナラン・チャロ(24歳・♀・レンジャー・人間・インドゥーラ国)
 ea9085 エルトウィン・クリストフ(22歳・♀・レンジャー・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9517 リオリート・オルロフ(36歳・♂・ナイト・ジャイアント・ロシア王国)
 ea9901 桜城 鈴音(25歳・♀・忍者・人間・ジャパン)

●リプレイ本文

●商人の家
「オルファさんには、ローブの男の対策に回ってもらおうかと私は思ったんだけど‥やっぱりダメかな?」
「オルファ殿はここドレスタットの騎士団所属の身、目下の村への脅威を払うのを優先しないわけにもいかないだろう」
 伺うように提案する桜城 鈴音(ea9901)の意見は、レオニール・グリューネバーグ(ea7211)に否定されていた。他の冒険者達が何も言わない所を見ると、レオニールの意見で良いのか、それとも意見が纏まりきっていないのか、ともかくオルファ・スロイトはオーガ族の対処に回るだろう。
「あの屋敷に住んでいるのは商人さんの親‥でしたか? 協力してくれて、屋敷の中に入らせてもらえると、ローブの男も捕まえやすくなるんですけどね」
 荒巻 美影(ea1747)が視線を移した先には、村の大きさからするとちょっと似つかわしくない屋敷があった。なんでも、商人の祖先の出身がこの村で、事業を成功させた際に今の屋敷へと家を建てかえたらしい。
「あたしは、あの屋敷の中に何があるのか気になってるんだけどな〜」
 ナラン・チャロ(ea8537)の言葉、他の冒険者達も少し気になっている。
 村へと着き、村とその周辺を見回してみたのだが、これといって特徴はなく、何かあるとしたらやはり商人の屋敷。これが狙いだとしたら一体この屋敷には何が‥?
「戻りました。事情の説明と、騎士団所属の証代わりになりそうなのを見せたら、屋敷内に立ち入る事を許してくれましたよ」
 そうこうしている内に、商人の屋敷へと交渉に行っていたオルファが戻ってきた。今のオルファの格好は、一般の冒険者のそれと変わらない。この村に騎士団所属の者が居る事を、相手に知られないようにする為だ。
「そうか、これで随分やりやすくなるな」
 以前にローブの男と遭遇し、貴重な情報を持ち帰ったレオニール。しかし、本来の目的であった身柄の確保は達成出来なかった為か、今回の依頼への意気込みは他の冒険者よりも、頭一つ分抜けているように見える。

「うーん、道を封鎖したりとかは無理っぽいかなぁ」
 エルトウィン・クリストフ(ea9085)が頭を抱える。村を一回りしてみたが、とても通路を塞ぐような事は出来ない。かなり大掛かりな作業になるので、ただの依頼中で行うにはイマイチ現実的ではない。
「時間をかければ、出来なくもなさそうだが」
「いや‥やっぱりダメよ、リオ君。何日かかるか分からないよ」
 先程の言葉はリオリート・オルロフ(ea9517)のもの。今回の依頼はやや複雑な要素が入っているからか、少し困惑気味だ。リオリートが頼ったエルトウィンは落ち着いてはいたが、これといって手は思いついていない。
「ふむ、仕方あるまい。柵の一つや二つぐらいこさえておくだけとするかのぅ」
 村へと入ってくるルートを狭める為にと、月詠 閃(ea8498)が提案する。オーガ族相手は、余程上手い手でも考えつかない限り、素直に水際で戦って村を守るしかないのかもしれない。


●ホブゴブリンとオーク
 一体のホブゴブリンが、鼻をひくつかせながら辺りを探っている。自分の元へと届いた匂いの元を探していたそのホブゴブリンは、程なくして小皿に乗せられた食べ物を見つけ、駆け出してゆく。
「あ、かかった。じゃあ、オーガ達が来たって事かな?」
 ホブゴブリンの悲鳴が聞こえると、満足そうに鈴音は罠を仕掛けた位置へと行き、
「まずは一体‥っと。さって、これから忙しくなるかな」
 ささっと終わらせる。
 ホブゴブリンの大振りの斧もオークの槌も、冒険者ならばさほど恐怖心もなく回避出来るが、村人達ではそうはいかない。ホブゴブリン達が村人と合う前に、全部叩いてしまうのが理想だ。

「集いし力よ、眼前に立ちはだかるもの全てを吹き飛ばせ」
 淡い茶の光に包まれたエレーナ・コーネフ(ea4847)の手から、黒い帯が一直線に伸びてゆく。それに触れてしまったホブゴブリンやオークには鈍い痛みが走り、その醜悪な顔を更に歪ませる。
(「転倒、しない‥!?」)
 だが、なんと全ての相手は多少体勢を崩した程度で、転倒する事なくこちらに向かってきた。何度も魔法を使っていれば、たまにはこんな不運に見舞われる事もある。
「どうしたホブゴブリンども。その手に持っているものが泣いておるのぅ」
 それを問題無しとしてくれるのは、やはり仲間だ。
 それはまさに自らの名の如く、一閃。閃の日本刀が鞘より抜かれる度に、一体、また一体とホブゴブリンが折角持った盾を一度も使えぬままに地に伏せてゆく。息はまだ残っているようだが、生きて棲家に戻れる可能性は無いといっていいだろう。
「あまり数も多くなかったせいか、結構楽だったのぅ」
「本命は、商人の屋敷の方ですしね‥」
 最後に残ったオークにトドメをさし、閃は一息つく。相手に囲まれる事なく戦えたのは、不可視の攻撃を繰り出す閃自身にホブゴブリン達が怯えたせいもあったが、エレーナのアグラベイションの効果も大きい。

「はーい、こっちこっちぃ〜」
 エルトウィンを追いかけていったホブゴブリンは、その先にある物陰までいった時に崩れ落ちる事になる。エルトウィンを追いかけてきたホブゴブリンを、不意に出てくるリオリートが日本刀でぶった斬るのだ。
「なあ、エド。これって俺が仕事量多くないか?」
「何言ってるの。あたしは誘導役、リオ君は戦闘役、どっちも役は一個で同じ量でしょ?」
「うん? そうか一個ずつだから良いのか‥」
「良いの。じゃ、次のホブゴブリン引っ張ってくるね」
 そう行って駆け出していってしまうエルトウィン。残されたリオリートは、ちょっとだけ頭を捻っていた。
(「一個ずつ、一個ずつ‥。でも、何かおかしくないか?」)
 そう思いながらも、また大きな身を縮こめて物陰に隠れるリオリート。いや、まあ‥おかしいかどうかは微妙なとこ。

 思っていたよりもオーガ族の数は少なく、また事前に冒険者達が村人達へ、オーガ族が来た時にはどう逃げたらよいのか指示していたので、結果として守れなければいけない範囲が狭くなっていた。これならば、対オーガ族に当たった冒険者達とオルファで、十分守りきれる。


●暗躍するローブの男
 商人の屋敷の前で、一体のホブゴブリンが倒れている。その脇に立っているのは冒険者達の誰かではなく、この屋敷の警護についている者だ。ローブの男は、この隙‥警護の者とホブゴブリンが戦闘している間に、屋敷の中へと忍びこんでいた。
「貴方には、大きな威力の魔法を放つ術は無いようですね」
 ローブの男は脇に手柄を抱えてはいるものの、自分が追い詰められている事を悟った。スクロールを介して放たれた魔法は、確かに相手を捉えたはず。それなのに‥!
「こちらを侮っていたな、ローブの男」
「残念ですが、このままお帰りいただくことは了承出来かねます」
 レオニールはレジストマジックを事前に使い、全ての魔法をシャットアウトしていた。美影はヤン・ショウ・ファンを用いて、魔法のダメージを完全に軽減していた。
 以前にローブの男が使ったスリープも、レオニールには効かないし、美影に効いたとしても即座にレオニールが起こしてしまう。ここが屋外であれば、その僅かな時間でも逃げ出す事も出来るが‥。
「どうする? 精神力尽きるまで足掻いてみるか?」
 スクロールを介して発動する魔法は、通常よりも大きく精神力を削る。
「もう既に4回使っちゃってるからね。後何回も使えないよね?」
 ローブの男も人間の身のはず。それなら、ナランの言うように後何回も使えないはず。

 絶え間なく攻め続けていた成果か、ついにレオニールの手に握られたメイスがローブの男を捉える。
「ぐぅ!? ‥仕方、ない、ですねぇ‥」
 苦痛に顔を歪めたローブの男は、自分が大事に抱えていたものを指で弾く。
 コォォォ‥ン‥‥
「良い、音色でしょう? これは月道渡りの品でしてね。こちらの物とは違い、あちらの物は非常に出来が良い‥。で、この壷が狙いだったのですが‥諦めましょう。屋敷の方から弁償を要求されたくないなら、割っちゃダメですよ‥ねぇ?」
 ひょいっと、脇に抱えていた壷を冒険者の目前に投げて寄越す。
「わわっ!?」
 慌ててナランが受け止めるが、その隙になんとローブの男は窓を割りながら外へと飛び降りる。
「バカなっ! この高さから飛び降りただと!」
 窓から顔を出したレオニールに目に映ったのは、炎を纏って飛ぶローブの男の姿。
「ファイヤーバードか‥!」
「次から次へと‥。様々なスクロールを持っているのね」
 すぐに頭を切り替えて、階段を駆け下りてゆくレオニールと美影。二人を後押しするかのように、丁度このタイミングで、他の冒険者達も商人の屋敷周辺へと近づいてきていた。まだ、完全に逃げられたわけではない。


●要素は足りていたはずなのだ
「ローブの男!?」
 ファイヤーバードの効果が切れ、着地した地点の一番近くには鈴音が居た。咄嗟にナイフを繰り出すが、これは余裕を持って回避されてしまう。新たな敵に対し、ローブの男は苦々しい表情でソルフの実を噛み砕く。
「集いし力よ、眼前のものを抑制せしめよ」
(「地の術、抑制‥? まさか!」)
 淡い茶の光に包まれたエレーナを視界の端に捉えたローブの男は、抑制という言葉を聞いて背筋を凍らせる。行動を鈍らせるアグラベイション‥。今その効果に晒されれば、逃げ出す事は不可能かもしれない。
 しかし、ローブの男は抵抗に成功した。神は、かの者に向いているとでもいうのか? いや‥
「ぎゃああああ!?」
「全く反応出来ておらんかったな。お主、目は良くないほうかのぅ?」
 自慢の身のこなしも、攻撃が見えているからこその物。だが、ローブの男はまだ倒れ伏さず、もう一度炎を纏って空へと舞い上がる。
「エド!」
「分かってるわ。絶対逃がさないんだから」
 リオリートに目配せされると同時か、それよりも一瞬早いか、エルトウィンはスリング用の石を投げつける。それは寸分違わずローブの男の顔面を直撃し、コントロールを失ったのか、ローブの男は無様に落下していき、その身を岩壁に打ちつけた。
「捕まえたぞ‥!」
 そこへレオニールが駆けつけ、そのまま相手に肉迫する。よろよろと立ち上がったローブの男は、レオニールの体と岩壁に挟まれ、潰され、そして岩壁へと飲み込まれた。

 ‥!?
 冒険者達が、今何が起こったのかに気づいた時には、既にロープの男は崖上へと浮かび上がっていき、こちらを見下ろしていた。体の数箇所から血を流し、息も絶え絶えといった状態だが、眼球だけはギラギラと光り、こちらを睨みつけている。
「邪魔立てだけでなく、ここまでやってくれるとはな。‥絶対に許さんぞ貴様等ぁ! その面、二度と忘れん‥今度会う時は八つ裂きにしてくれる、覚悟しておけ!」
 口から血を滴らせながら、そう言ってのけたローブの男は、踵を返して逃亡してゆく。
(「見栄をきってくれるものだ‥」)
 ローブの男の手の内、そして実力の底、もう見えていると思っていい。冒険者達の胸をよぎった思いは、決して間違った受け止め方ではないだろう。今回は無理だったが、近い内に奴を捕まえる事は不可能ではないはずだ。