悩める蒼い人
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■ショートシナリオ
担当:MOB
対応レベル:3〜7lv
難易度:普通
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:03月13日〜03月18日
リプレイ公開日:2005年03月20日
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●オープニング
「どうすればいいんだろうか‥?」
思わず声が漏れ、独り言を呟いてしまう。‥彼は悩んでいたのだ。
自分の腕を見つめる。
通常の武具を扱うのには不自由はしていない、普通の村人に比べれば重い物も十分持てる。だが、ジャイアントにも優るような強靭な力はこの腕には備わっておらず、腕力は自分の長所にはなりえない。
自分の手を見つめる。
少しは手先は器用な方だと思う、スピアを投げて鳥を射抜いた事もあった。だが、ドワーフやパラに比べれば不器用と呼ぶのが相応しく、これも自分の長所にはなりえない。
見えないはずの自分の頭を見るような感じで、目線を上に移す。
冒険者として必要な知識は叩き込んだはず、COの種類、魔法の種類、出会う可能性の高いモンスターの知識に、隣国の言葉。しかし、エルフに比べれば知識を得る速度は鈍り、これも長所にはなりえない。
(「どうすればいいんだろうか‥?」)
その思いが頭の中を駆け巡り、そして際限無く膨らみ続ける不安が自分を押し潰す感覚。今までにこなした依頼の数も増えてきたが、未だ失敗はない。しかし、これは『今は』失敗はないという事ではないのだろうか?
次に受ける依頼では、自分はどう動けばいい? 目の前の敵を倒すだけ‥それではどうにもならない、そう直感的に思う依頼も目に入るようになってきた。結局、自分に自信がなくて躊躇う内に、他の冒険者達がこなしたのだが。
「うーん、まあ‥依頼をするのは別に悪くないのだが。‥人が集まるかは難しいぞ?」
目の前ある羊皮紙には、既に依頼が書き上げられている。だが、冒険者ギルドの受付係は‥報酬の欄に目を落とすと、不安そうにそう告げる。だが、依頼として出されるのに問題は無いとされれば、このような依頼も立派に一つの依頼なのだ。
内容は、今後の自分の冒険者としてのあり方を悩むユアン・エトワードに、自分なりの冒険者像や、自分が得意な技能を活かしにくい依頼での動き方。それに、特に他者より大きく秀でた能力を持たない場合はどうすればいいのか。似たような境遇の方からアドバイスをもらえないか‥というものだ。
ただ、自分と同等程度の力量の方の意見でないと参考にならないかもしれない、そう考えたユアンの意向から、少し多くの依頼をこなした冒険者に来てもらいたいそうだ。
●リプレイ本文
●目指すモノは何ですか?
「うわっ、暗っ!?」
場所はドレスタットの街外れ。8人もの人を集めると、ユアン・エトワードを合わせて全部で9人の大人数となり、ユアンが借りている棲家では狭い。また酒場などを使うとなると余計な出費が出てしまうし、周囲の目もあるので何かするには不便だったりする。
そういう理由で晴天の下を、待ち合わせと相談の場所に指定されたのだが‥。エヴァリィ・スゥ(ea8851)が思わず言ってしまったように、そこにはもうこの世の終わりとでも思っているかのような青年が居た。
「う、うーむ。これは思っていたより重傷なのかもしれませんね」
ボルト・レイヴン(ea7906)は、自分があまり具体的なアドバイスを考えてきていない事を後悔した。どうやら依頼を出してから本日までの間に、より悩みこんでしまっているらしい。
「ユアン殿は生真面目なのだろうな。とは言っても、このままではちょっと困るか」
鑪 純直(ea7179)も、ユアンと同じ悩みを抱える一人だったので、ユアンの気持ちは痛いほどに良く分かる。
そうこうしている間に、ユアンも冒険者達が来た事に気がついたらしく、顔をこちらに向けて挨拶をするが、明らかに元気が無い。ここ数日満足に眠れてないな、と誰でも分かるぐらいだ。
「何処を、何を伸ばすかが解らないと言うのは、即ち自分がどうしたいかが解っていないからです」
一通りユアンの話を聞いた後、荒巻 美影(ea1747)がスパッと言ってのける。対するユアンは返答に困っているが、それもそのはず。確かに冒険者の名に恥じないようにはなろうとしているが、ユアンが目指す冒険者像は何なのか。
「でも、一つだけ伸ばしても、自分の得意な場面以外では全く役に立たないんだよね」
エヴァリィの発言に、他の冒険者達も頭を捻る。一つに絞らなくとも、何かの分野の能力を実用レベルにまで鍛えるとなると、どうしても出来ない事が出てくる。
「何でも一人で出来るなら‥仲間は、要らないんだし」
エヴァイリィの口から続けて放たれた言葉、それはおそらくここに集まった冒険者達は理解しているだろう。
「同じ位努力を重ねた者同士なら素質のある者の方が強い、それはどうにもならん事なのかもしれん」
その言葉を放ったのは石動 悠一郎(ea8417)だったか。自分が依頼で役に立つべく能力を伸ばした分野、その分野において、毎回毎回自分よりも秀でた者と同行し、結果は当然秀でた者の方が良い物を残す。
「まるで、自分が何の役にも立っていないかのような錯覚に陥っておるのだな」
純直は、決してそんな事はないとユアンを諭すが、まだどうにも気が晴れないようだ。
「とりあえず軽く手合わせしてみましょう。体を動かす事で、考えが良い方向に向かう事もありますし」
「それも良いかもしれないな。今のユアン殿では、どうしても悪い方に考えが行ってしまうだろう」
●わざとだと思う人手を挙げて
美影に誘われ、素手での模擬戦闘を開始する二人。その戦い方を見ていた他の冒険者達は、ユアンがどんな性格をしているのかが良く分かった。堅実に防御を重ね、相手の防御の甘い部分を見逃さない。
(「隙を見せたら、狙い済ました鋭い一撃を撃ち込んでくる‥」)
対している美影にはそれが良く分かった。ユアンの得物はスピア、威力の程は普通だが、良くも悪くも重量は軽めで、突きに適した武器だ。そう、彼はその長所を生かすべく点を射抜く技を身につけている。
「基本的な技能は、十分備えているように見えるが‥」
感心したように悠一郎が呟く。
「やっぱり、派手さに目が入っちゃってるんじゃないかな?」
タイニークラスとはいえ、ドラゴン相手にも十分通用するような破壊力。空を自由に舞う鳥ですら、正確無比に射抜く技。それに、状況を劇的に一変させるような魔法。どれもこれも、嫌でも目につく。
「それよりも、もっと大事な物をユアン殿は備えておると思うのだがな」
嫉妬やコンプレックスは負の感情ではあるが、同時に前に進む原動力となり得るもの。
「人当たりもよく協調性も高い方、己を磨く向上心もある。あの性根や姿勢こそ某には羨ましく映るがどうだろう?」
「確かにな。ただ‥純直殿も言ったように、少し生真面目過ぎるのだろう」
悠一郎も、与えられた状況下で、最も自分の力を発揮出来る道を選んできていた。辿り着いたドレスタットの地では、他の武具と合わせて装備出来るような盾がなく、代わりに身のこなしを鍛えた。
「手に入らない物を手に入れようとしてしまっている‥のだろうな」
「互いに補いあえばいいのにね」
手に入れられるのならそれは努力して身に付け、そうでない部分は他者を頼る。冒険者ギルドの依頼は、基本的に複数人で受ける形式になっている。依頼を成功に導くのは、決して個人の能力ではない。
ぼにゅーん、にゅんにゅんにゅん‥。
そんな真面目な雰囲気の中、急に脱力感のある効果音が聞こえた気がした。しかも、ちょっと余韻付きだ。
「え? あ‥え、と‥? ご、ごめんなさい!」
赤面しながら慌てて謝るユアンに対し、ちょっと痛そうに胸を抱えて蹲る美影。なんの事はない、ユアンの鋭い突きに対して、なんとか身を捻って避けようとしたが、ちょっと物が大き過ぎて横っ面から直撃しただけだ。
「む、ユアン殿? 見ていたが、おぬし‥ポイントアタックを使えるよな?」
「ユアン殿‥。確かに、部位を狙う攻撃は有効だが‥」
「え‥? ユアンさん、狙った‥の?」
慌てふためきながら弁解するユアンに対し、美影の方は先程から胸を抱えて蹲ったままで、
「油断していた(からヤン・ショウ・ファンを使い損ねた)わ‥」
と呟くのみ。
わざとらしく純直や悠一郎は咳払いをし、真に受けている様子のエヴァリィは、するすると後退しちゃったりして。
●考え方を変えてみよう
「ほっほっほ‥。とりあえず、お疲れ様だのぅ」
そう言いながらシュタール・アイゼナッハ(ea9387)は、模擬戦闘を終えた二人に飲み物を手渡す。なんだか予想外に疲れているようにも見えたが、それはひとまず置いておいて。
「ユアン様、お久しぶりですわ」
今度はルメリア・アドミナル(ea8594)達がユアンの相手をする。
「もう他の者から聞いておるかもしれんがのぅ。まぁ、その場合は我慢して聞いてくれんかのぅ」
シュタールは例を挙げて話を始める。デビル等に対しては基本的に銀製または魔法の武具、それに魔法そのものぐらいでしか打撃を与えられない。だが、自分にはそれらの手段を持っていない。この場合は、手段を持っている者がそれを行使出来るようにサポートを行う。
「有効な手段があっても、それを活かせるとは限らんし、相手も自分にとっての脅威は優先して除こうとしてくるじゃろぅ?」
「しかし、誰かを守れる能力を考えれば、僕は‥」
「抜き出ている物が無いのが、ユアン様には不安なのですね」
依頼を成功に導くのは、決して個人の能力ではない。しかし、互いに補えば補い合う程、それぞれの個人は自分の得意な分野の能力しか考慮しなくても良くなる。
「力に優れた方は、知に欠ける事が有り、素早い方、賢い方は力に欠けることが有りますわ。相手の有利な戦場で戦うので無く、相手を不利な戦場に誘導する事で戦うと良いと思いますわ」
「それは、そうなのですが‥」
「まだ何か納得出来ない様子ですね。それなら‥コロッセオを一度見に行かれるとよろしいのでは?」
コロッセオ。この施設では、冒険者同士が互いに実力を競い合っている。体力溢れる者が有利なのは確かだが、それだけでは安定して勝つ事は出来ないし、時に感心させられるような試合も見られる。何か掴む事が出来るかもしれない。
「ええ。未だユアン様のようなタイプは活躍しにくい。ですけど、今はユアン様のようなタイプは活躍しにくい。そう考える事も出来るのではないでしょうか?」
「私が最後になっちゃったねえ」
ふと気がつくと、切り株の上に一人の女性が膝を抱えて座っていた。今の今まで何処に居たのかと聞かれれば、冒険者ギルドやユアンが副業として働いている酒場、そんな所に彼の人なりを聞きに行っていたのだ。
「結論を言うと、ごく普通の人‥ね。評価の分かれるところ」
フレイハルト・ウィンダム(ea4668)はそう言ってのける。かくいう自身はマスカレードを着けていて、まあ‥冒険者の中では珠に見られるタイプなのだが、怪しいもんは怪しい。街中で魔法を使っても何も言われなかったのは、関わりあいになりたくなかったからではないだろうか。
「自己分析も判断力も有することなく他人に問題解決を依存するその姿勢、なにより失敗がないのでなく失敗する可能性を避けている惰弱性、冒険者にあるまじき態度だ」
ちょっと厳しめに言葉を放つフレイハルトを、ルメリアやシュタールは止めようとしたが、それは更にユアンによって押し留められた。『失敗をする可能性を避けている』、それが彼に響いたからだ。
「時には、リスクを承知で踏む込む必要もあると‥?」
●今は千里のどれぐらいなのだろう
「皆さん、色々とありがとうございました」
そう言って、ユアンは今回集まってくれた冒険者達に礼をしながら、アドバイス料を手渡していった。最初に会った時に比べて随分と表情が晴れている事に、冒険者達も満足そうな顔をしながら受け取っていく。
「我が輩のように格闘術と魔法を両立させている者なら、ユアン殿のような悩みに当たっておる者も多いと思う」
「何にせよ、気に悩み過ぎる事はない‥という事だのぅ」
「そうそう、観戦するなら無差別級がオススメですわ」
別れ際に一言残していく者、さっさと受け取ってその場を後にする者、冒険者は実に様々。自分の色を、依頼を成功させる道に沿わせて出せる者なら、それがどのような色でも鮮やかに映える事だろう。