私のお師匠様達を探し出して!

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:3〜7lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 29 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:03月28日〜04月06日

リプレイ公開日:2005年04月04日

●オープニング

 どっくん、どっくん、自分で自分の鼓動が分かる。だが、それでもやらねばならないのだ。意を決して少女は冒険者ギルド内に踏む込み、キョロキョロと周囲を見回した後で受付の所まで歩み寄る。
(「良かった‥。向こうと同じような場所、きっとここが依頼の受付よね?」)
 しかし、どうやら受付の係は席を外しているらしく、少女はもう完全に落ち着いていない様子だ。ひたすらに、そわそわそわそわ。濃緑の衣服に包まれた体は細身である事も相まってか、その様子はさながら迷子のようだ。
(「どうして居ないのかしら。もう、ここに来るのだって大へ‥」)
「おお、新しい依頼の申し込みの人だな」
 ぴく、いや、その反応の鋭さはビクッと表現した方が正しいか。急に背後から声をかけられ、反射的に紡がれる見事な高速詠唱。熟練のウィザードでも、ここまでの反応は中々見られない。‥え?、あれ?、なんで魔法唱えるんだ?
「丁度、依頼書を壁に貼っていた‥って、うおおおおおっ!?」
 とぷん‥。そんな効果音と共に、足元に吸い込まれていく少女。
「お、おいっ。なんで沈むんだ!? 俺、なんか悪い事したか!?」
 慌てていたのか、思わずその場にしゃがみこんで地面を覗き込むギルド員。受ける依頼を探していた冒険者や、他のギルド員も思わずそちらに注目してしまう。しかし、当の少女はまだ浮かんでこない。
(「い、いけないわこんなんじゃ。パリでの経験が何の役にも立ってないわ」)
 地面の中でそんな葛藤があった後、少女は勢いよく地上より顔を出して、依頼の申し込みを再開する。
 ゴッ!
「す、すいません! 私、緊張しちゃうとアースダイブで隠れちゃう癖があって、パリで一度冒険者の皆さんと行動して、ちょっとは改善したはずなんですがまだダメみたいで、ええと、それで依頼なんですけど、私のお師匠様を探して欲しいんです!‥‥あら?」
 ちなみにギルド員は、鼻を押さえて近くで蹲っている。そりゃそうだ、だってさっき何か鈍い音したもん。

「‥で、お師匠様達が予定の日をオーバーしたのに帰ってこないので、捜索を手伝って欲しい、と」
 ギルド員は依頼の内容を確認する。ちなみに、最初に彼女に声をかけたギルド員とは別のギルド員だ。最初に声をかけたギルド員は、今はちょっと裏の方で手当てを受けている。具体的に言うと、まだ鼻血が止まってない。
「は、はい。予定の日は昨日なので気が早いと思うかもしれませんが、それでも今日出しておかないと‥」
 冒険者が集まり、そして出発する日までの期間がある。幸い、ちょっと手間取るかもしれない事を予想していた彼女の師匠やその同行者は、余分に食料を持っていっているはずなので、飢え死にはしないはず。
「なるほどね。ん‥? この捜索範囲はもしかして‥。運ぶ物ってウッドゴーレムって言ってた?」
「い、いえ‥仕事という事で運ぶ物の詳細までは。ただ、少し重い物だとは言ってましたけど‥」
 ギルド員は作成した依頼書を見返して、とある事に気づいた。確か、この少女の師匠が向かったという先は、余計なまでに体に彫刻が刻まれたウッドゴーレムが発見された遺跡。遺した者は「これぞ私の最高傑作だ」とか言い残していたそうだが、こんな使うのが勿体無い物を遺されても困るんである。


 ――その頃の、ドレスタットと遺跡までの道の間。
「思っていたより、かなり手間取ってしまったな」
「シヴがケチって僕とかぐらいしか集めなかったからさ」
「仕方ないだろ、アイアー。前回冒険者に依頼にして、結構使ってしまったんだからさ」
「その結果がこんなんじゃね」
 エルフの男性が後ろを振り返ると、そこには美術品といって差し支えないウッドゴーレムが聳えていた。シヴが依頼した際に発見されたものの運搬手段が無かった為、その時には置いておかれた物だ。

●今回の参加者

 ea2262 アイネイス・フルーレ(22歳・♀・バード・エルフ・ロシア王国)
 ea6137 御影 紗江香(33歳・♀・忍者・人間・ジャパン)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8737 アディアール・アド(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea8742 レング・カルザス(29歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea8872 アリア・シンクレア(25歳・♀・バード・ハーフエルフ・ビザンチン帝国)
 ea9387 シュタール・アイゼナッハ(47歳・♂・ゴーレムニスト・人間・フランク王国)
 ea9482 エリーナ・ブラームス(27歳・♀・神聖騎士・人間・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●沈まないようにはしてるんですけど
 ぷか〜‥‥。
「噂に違わぬ見事な沈みっぷりで。あなたと同じ[地]のウィザードのアディアールです、宜しくお願いします」
 ゆっくりと浮かんできたシルキー・トライセンに対して、アディアール・アド(ea8737)は丁重に挨拶する。ホントに目の前で沈まれた時にはビックリしたが、ギルド員の二の舞にはなりたくなかったので、覗き込みはしなかった。
「ほっほ。知り合いが言うておった通りじゃのぅ」
 以前、パリでシルキーはギルドに依頼を出した事がある。どうやら、シュタール・アイゼナッハ(ea9387)はその依頼を受けた冒険者と面識があるようだ。
「あうう‥。直そう直そうとは思ってるんですけどぉ」
 知り合いが言っていた通り、それは自分の癖がまだまだ直ってないという事だ。その事を自覚しているシルキーは、ただでさえ小さい体を更に縮込ませてしまう。
「ほっほ。直す気があるのじゃから、その内直るじゃろう」
「ええ。さっきも話に聞いたように急にではなく、ゆっくり浮かんできてましたし」
 失敗を次に活かすのは得意なようだ。まあ、失敗の被害を受けたのは罪のないギルド員だったが。

「初めまして、私はアイネイス・フルーレと申します。人の心に届く唄を求めて、冒険者をしていますの。よろしければアイネと呼んでくださいな」
 アイネイス・フルーレ(ea2262)と同じように、冒険者達は順々に挨拶を交わしていく。普通はここまで丁寧にはしないものだが、人見知りの激しいシルキーにはある程度形式化したような挨拶はありがたかった。
「それで‥ギルドの方にお聞きしましたが、どうやらシルキーさんのお師匠様達が運ばれているのは、全身に彫刻の施されたウッドゴーレムと思われるのですが‥。その辺りの事は何も聞かれてないので?」
 ルメリア・アドミナル(ea8594)が、頃合を見計らって本題に入る。
「え、ええ‥。お仕事だから、という事で運ぶ物に関しては何も聞かされてなくて‥」
 申し訳なさそうに、シルキーは少し目線を落としながら答える。
「では、どうやって運ぶかなどは‥?」
「あ、それなら。なんでも、一度見たら忘れれない運び方をするそうで‥」
「う、う〜ん‥?」
 一度見たら忘れれない運び方と言われても‥。冒険者達は頭を捻る。
 シルキーの師匠、アイアー・ゼクは地のウィザード。その友人のシヴ・ノイは火のウィザード。他に数人力持ちな人達と一緒に向かったらしいが、どんな運び方をするというのだろう?

「あ、そうだ‥。気になったんですけど、あちらの方も今回一緒に行って下さる方ですよね?」
 おずおずと質問をしたシルキーの目線の先には、アリア・シンクレア(ea8872)が居た。先程から話の輪の外にいて、こちらの相談内容を聞いていない風だったので、シルキーも少し不安になったのだ。
「大丈夫だよ」
 そう言ったアリアは、今まで他の冒険者達との会話内容を言ってのけた。少々常人離れした耳の良さだ。
「す、すごーい!」
「え‥と?」
 そこまでは良かったのだが、そのアリアのパフォーマンスにシルキーがやたらに食いついた。アリアがハーフエルフという事は気にしていないのか、それとも単に気づいていないのか。同じように食いついたアイネイスから、何やら物を受け取って、シルキーはアリアの背後に回った。
「じゃあじゃあ、こんなのも分かっちゃったりします?」
 チャリーン。アリアの背後で、硬貨の落ちる音がした。
「ああ、その音は銅貨が落ちた時の‥って、何を言わせるんですか」
 アリアが慌てて自分のペースに戻ったが、彼女のおかげで随分とシルキーは打ち解けたようだった。


●迂回路を往こう
 捜索範囲から考えて、ギルド員が気づいたように遺跡からのゴーレム輸送に間違いはなさそうだが、遺跡に至る道は二つある。一つは以前に冒険者達が使った道で、距離が短いかわりに酷い悪路。もう一つは結構な遠回りになるが、それなりに開けた道。
「遠回りの道から捜索するというわけですか」
「それに、帰ってくるはずだった日を考えると、そちらの道を使ってそうですからね」
 アイネイスの言葉にルメリアが応えると、シルキーもそれに頷いていた。

「ところで、シルキーさんのお師匠さんってどんな方ですか?」
 道行きながら、エリーナ・ブラームス(ea9482)がシルキーに尋ねる。ルメリアやアリアも、最初の時に聞こうとしていたのだが、ルメリアは質問のタイミングを逃し、アリアはなんだがペースに乗せられてしまったようで。
「えっと‥、とにかくいつもニコニコしてるんですよ。怒った時は見た事が無いような‥」
 その他にも、今存在する地の精霊魔法は全部使えた気がするとか、そうでありながらかなり上位の効果で使用出来た気がするとか。
「気がする、と言われてものぅ‥」
 シュタールの困ったような表情になってしまうが、続けられる説明に納得する。シルキーに教える為に魔法を使う事はあったが、どれも初歩の効果で使っていたのだ。
「おお、それもそうかのぅ。威力の大きい魔法なんぞ、事情が無い限り使わんからのぅ」
「それにしても、地だけとはいえ全て使えるなんて凄いですね。私もいつかは‥」
 エリーナは初歩の効果で発動させるのも、まだ覚束ない。文武両道タイプは一面だけを見ると厳しいのだ。

 暖かき太陽の陽射しに 草花は目覚め
 心地よき小川の流れに 魚達は跳ねる
 ほら聞こえてきた あの優しき足音
 穏やかな気持ちを そよ風にのせ運ぶ
 春の女神は もうすぐあなたの元へ

 アイネイスの歌声が野に響く。そろそろ季節は春へと移り、朝夕はともかく昼間は随分と暖かくなってきた。周囲にモンスターの気配は無く、実に平和な道中。ともすれば、今が依頼を受けている最中という事を忘れてしまいそうなぐらいだ。
「‥まだ、この辺りを通過してはいないようですね。もっと先という事ですか」
 アディアールがグリーンワードを用いて、野花に大きな物が通過しなかったかを問うた。答えは彼が仲間に伝えたように「いいえ」だ。既にドレスタットを発ってから4日目。捜索しながらという事であまり距離は進んでいないが、そろそろ見つけないと向こうの食料も心配になってくる。
「これだけ人里から離れると、出てもきますわよね。皆さん、何かこちら来てますわ」


●ウルフとかその辺りの何か(ウルフだよ)
「グルルルゥ‥」
 唸り声もそこそこに、ウルフ達は襲いかかってきた。超人的な聴覚で彼等と草木のこすれる音を捉えたアリアが、サウンドワードを使用してその事を確信し、仲間に伝えはしたが、とにかく相手の足が速い。
(「これでは間に合わないか‥!」)
 アディアールは、アリアに指示された方向にある木に対してプラントコントロールを使ったが、動きを止めるには動かせる速度が遅すぎた。それでも、行動が早かったおかげで、相手に迂回を強制させる事は出来たのだが。
「くっ‥! 避けるだけで精一杯だなんて」
 前に立ったエリーナは随分厳しそうだ。装備が重いせいか相手の攻撃を避けるだけで精一杯、魔法も発動させれない。
「シルキーさん、援護してやってくれんかのぅ」
「はい! いきますよ〜」
 シュタールに促され、クエイクで地面を揺らすシルキー。不可思議な現象を前に、一瞬ウルフ達の動きが止まる。更にアイネイスがスリープでウルフ達を眠らせると、ここぞとばかりに多くのウルフを巻き込める方向を狙ってルメリアがライトニングサンダーボルトを放った。
「風の怒りと光となって、敵を撃て、ライトニングサンダーボルト」
 勢い余って、ウルフ達の向こうに生えていた木を抉るほどの雷撃が突き抜ける。
「さすが雷撃手と呼ばれる事はありますね、それで片付けるとしましょうか」
 アディアールは感心しながらサイコキネシスを発動させ、相手が一直線に集まるように石を飛ばす。
「あのウルフがこの群れのリーダーです、あれを狙って!」
 アイネイスが自分の放ったムーンアローが命中したウルフを指差す。エリーナや他に前に立った冒険者達が、なんとかウルフの攻撃を耐えている内に、ルメリアは二度目の魔法の詠唱を終えた。

 その後、群れのリーダーを失う事になったウルフ達は、すごすごと逃げ出す事になった。そこまでは良かったのだ。
 問題はその後、上手く乗り切れたと冒険者達が和みかけた時にそれはやってきた。マッシヴな方達とゴーレム、それにそれを引っ張る燃える顎鬚(あごひげ)のオッサン。それらが空をゆっくりと飛んで迫ってきたのだ。そしてその下には、シルキーの師匠であるアイアーが歩いてきていた。
「「「‥‥‥‥‥」」」
 冒険者達も、こんなに反応に困っている事態になるとは、思ってもみなかっただろう。


●未確認飛行物体?
「し、シルキーさん? お気持ちは分かりますが、そろそろ浮かんできていただけると‥」
 アディアールが心配そうに地面に声をかけるが、シルキーは浮かんでこない。いや、地面に潜った状態では、そうそう地上からの音は聞こえないというのもあるのだが。
「あんなものを見せられてはのぅ」
 シュタールの言うあんなものとはこんなもの。
 まず、マッシヴな男達がウッドゴーレムの下に集まり、一斉にレビテーションのスクロールを発動させて、一緒に空へと舞い上がる。つまり、マッシヴな男達に支えられたウッドゴーレム、それが3mぐらいの高さに浮いているのだ。‥多分、この時点で子供とか泣く。
 そして、ファイヤーバードによって火の鳥と化したシヴ・ノイが、それを引っ張るように飛んでウッドゴーレムを運んでいたのである。ここでシヴ・ノイとメンズ&ゴーレムの間を繋ぐ物が必要になってくるが、ただのロープだと燃えてしまうので、ピンと伸ばした状態でストーンで硬化させてある。

「とてもお師匠様想いのお弟子さんですね。お二人の関係がうらやましく思えますわ」
「いや、ちょっと心配性なんだと思うんだけどね」
 アイネイスにそう言われて、ようやく浮かんできたシルキーをあやしながらアイアーは返した。普段よりはちょっと照れが混じったような表情に見えたが、その照れも一瞬で消えて、元の笑顔に戻ってしまう。よく観察していないと、何を考えているのか分かりにくい。
「ところで、このウッドゴーレムって動かないんですか? 素材に使用している樹木は何なんでしょうね?」
「ああ、こいつはこのままじゃ動かんな。動かすのが勿体無い‥とも言うか?」
 シヴにウッドゴーレムの事を尋ねるアディアール。話には聞いていたが、本当に全身に彫刻がなされているのだ、美術品と言っても差し支えない。素材についてだが、ゴーレム自体が古代の遺産である為、使われている材木も当然その時代にそこに生えていた物で、植物学者でも探さないと分からないそうだ。

(「ちょっと失敗しちゃいましたね‥」)
 バックパックに残ったワインを見つつ、アリアが溜息を一つ。このワインを勧めて、この機に魔法関係の知識をアイアーとシヴから聞き出そうとしたが、彼らはこの後ゴーレムをこの地方の領主の下へと運ぶ為、丁重に断られてしまったのだ。
「それじゃ、ルメリアさん。ドレスタットに戻るまで、もう少しシルキーの面倒を見てあげて下さい」
「はい。そちらもお気をつけて」
「また何処かでお会いしましたら、その時はよろしくお願いしますね」
 ようやくシルキーが立ち直ったのを受けて、最後にアイアーとルメリア、エリーナが言葉を交わし、片方はドレスタットへ、もう片方はこの地方の領主の屋敷へと向かう。
 そして、再び宙へと浮かび上がる物体に対し、
(「確かに有効だけど、あんな魔法の使い方はしたくないなぁ‥」)
 と思う冒険者達であった。