其の道に広がるは、属さぬ都市
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■ショートシナリオ
担当:MOB
対応レベル:4〜8lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 84 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月07日〜05月18日
リプレイ公開日:2005年05月15日
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●オープニング
『アイセル湖のどこかにある遺跡』
それが、捕縛されたローブの男より手に入った情報だった。詳しい位置は、ローブの男から未だに引き出せていないが、どうやらそこには今回の事件に関する重要な手がかりがあるのは確かなようだ。何しろ、そこから『何かが持ち出された』というのだから。
「アイセル湖‥‥聞き覚えがあるな。確か、このドレスタットより数日の距離北にある、広大な湖の事だ」
「数日‥というのは徒歩での話ですよね」
「ああ、徒歩での話だ。しかし‥あそこに向かうとなると、何かあった場合に困るかもしれないな」
「そうですね。確か、あの辺りは‥」
「湖の周辺に点在している都市や集落は、ノルマン王国にもロシア王国にも属していないからな」
立場ゆえに行動が制限される事は往々にしてある。しかし、海戦騎士団が在しているドレスタットは境界線近くにある為、海戦騎士団も境界線付近のグレーゾーンで活動する事も多い。そういった状況で問題が発生したとしても、対応にはかなり手馴れている。
つまり、海戦騎士団があまり動けない理由が他にあるという事だ。
「やはり、こういう時の冒険者ギルドですか?」
「あまりドレスタットから人員を離すわけにはいかない‥。それが上の判断だ。」
「伯爵は出が出ですから、嫌っている方も多いですからね‥」
「というより、味方も多いが敵も多いというのが正しいのだがな」
間接的に睨みを利かせる事によって、海戦騎士団などの動きを鈍らせて事件を長引かせ、エイリーク伯の失脚を狙う輩は当然居る。というよりもエイリーク伯の性格などを考えれば、居ない方がおかしい。あるいは直接的に、辺境伯の地位を取って代わろうと画策している者も居るかもしれない。
「ともかく、依頼自体はシンプルな聞き込みだ。アイセル湖周辺の都市や集落を回ってもらい、湖のどこかにあるという遺跡の位置の特定や、遺跡に関する情報を集めてもらいたい」
「分かりました。その内容でギルドの方に持って行きますよ、兄さん」
「ああ、頼む。出し終わったら戻ってきて、またこちらの仕事を手伝ってもらえるか?」
「はい‥。やはり、なかなか黒幕は掴めませんか?」
「推測は出来るさ‥。ただ、証拠になるようなものが無い」
「やはり、サキア兄さんが目をつけている貴族は‥」
「オルファ、名は出すな。‥自分達の考えが洩れる可能性は、出来る限り抑えるものだ」
ジャパンの言葉で、壁に耳あり障子に目あり‥という事だろうか。やはり、完全な一枚岩の組織ではないという事は、どこでも同じ事なのかもしれない。
数刻後、冒険者ギルドには一つの依頼が貼り出された。内容は、アイセル湖周辺の都市や集落を回ってもらい、アイセル湖のどこかにあるという遺跡に関する情報を集めてもらいたいというもの。ただし、その地域はノルマン王国の領地でもロシア王国の領地でもないので、良識を持って行動してもらいたい。
この遺跡は、去年の暮れよりの一連のドラゴン事件と深い関わりのある遺跡である事が、捕縛された犯人グループの一人の証言から判断されている。詳しい事情や、この遺跡に関して現時点で判明している事(主に言い伝えや伝承)は、出発前に説明されるらしい。
●リプレイ本文
●いや、まあ、馬を大事にはしてるけど
「皆さん、まずは現時点で分かってる事をお伝えしたいと思います」
依頼に出発する直前、依頼書に書かれていた通りにオルファ・スロイトが、現時点で遺跡について分かっている事を説明するべく、冒険者達を一箇所に集めた。その場に集まった人数は全部で10人。
「説明を聞く前に、わたくし、ちょっとそちらの方が気になるのですけれど?」
「あ、それはわたくしも伺っておきたいですね」
説明が始まる前に、キラ・ジェネシコフ(ea4100)やエレーナ・コーネフ(ea4847)が気になっていた事を切り出した。オルファの隣に、彼と似たような顔がもう一人居たのだ。この事は、この依頼に参加しているもう一人の神聖騎士も気になっていたようで、顔を縦に動かしていた。
「これは失礼した、お嬢さん方。私の名はサキア・スロフト、隣にいるオルファの兄だ」
「オルファさんのお兄さんでしたか‥。道理でお顔で良く似てらっしゃると思いました」
サキアの自己紹介は簡潔だった。その後の様子からは、あまりこちらを気にせずに依頼に集中してくれ‥のような気配が感じられたので、冒険者達は素直にオルファの話に耳を傾けた。
「結局、向かう先の都市や集落については、殆ど情報が無いのか?」
オルファの話が終わってすぐに口を開いたのは、ゼタル・マグスレード(ea1798)だった。
「アイセル湖のどこかに遺跡があるという話だが、いくらなんでもこの状態で情報を集めろと言われてもな‥」
「まあ、それも含めての依頼なのでしょうけれども、ちょっと不透明すぎますわね」
ゼダルの続ける言葉に、キラが賛同の意を示す。
「申し訳ありません。騎士団の資料室を許される限り引っ掻き回してみたのですが、特に文化などに詳しく書かれているものは中々‥」
対するオルファの返答は、言葉通りに申し訳なさそうに告げられた。
「分かっているのは、精霊信仰という言葉で括られている物があるという事ぐらい‥ですか」
「はい‥。そうなりますね、エレーナさん」
精霊信仰。詳しく説明すると長くなるので現地で体感した方が早い、サキアがそう進言した。
「要約すると、高位の精霊もまた神である‥という考えですよね」
このジ・アースにおいて、宗教というものは細かな違いを考えに入れれば無数にある。ジーザス教も、白や黒としておおまかな括りはあるが、細かい部分は地方ごとに微妙に異なっていたりもするのだ。
「ところでさ、紫ローブの男が捕まったのに、あんまりハッキリしないよね〜」
ナラン・チャロ(ea8537)のその発言に、一瞬その場の全員がキョトンとなったが
「違いますわよ、ナランさん。同じようにローブを着てますけど、捕まったのは紫ローブの男ではありませんわ」
「え? そうなの?」
「ええ、そうですわよ。わたくし達はこの目で見‥あら? ナランさんも見た事ありませんでしたっけ?」
キラとエレーナに否定され、自分の記憶を辿るナラン。
「う、う〜ん。そう言われると、確かにローブの色は紫じゃなかったような気が‥」
ところで、この兄弟、正しい名前はフロスト兄弟じゃなくてスロフトだ。つまり記録係が間違えたわけで、だけれども愛馬が凶暴なのは共通らしく、記録係はしばらく馬を見たくなくなったらしいとか何とか。
●情報収集も楽じゃない?
「こういう仕事の時問題なのがあたしの出生、つまりハーフエルフだってことね」
馬の背に乗り、揺られながら街道を進んでいく冒険者達。その中で、フォーリィ・クライト(eb0754)だけが少し浮かない顔をしていた。普段、明朗快活な彼女を知っているだけに少し心配になるが、こうなってしまうのも仕方ない事だろう。
「地方へ行けば行くほど、偏見からくる差別は酷くなりますものね」
「狂化がな‥。心情的に、そうそう受け入れられるものでは無いだろうからな」
「んー、まあ気にしない気にしない! バレなきゃ平気なんだしね」
同情の声を撥ね退けて、フォーリィはいつもの笑顔に戻ったのだった。
特に障害もなく最初の街に到着した冒険者達だったが、思うように情報収集は進まなかった。
「何か、情報をつかめるといいのですが‥」
ボルト・レイヴン(ea7906)はそう思っていて、言い伝えや伝承を参考にして情報を集めるべく動こうとした。だが、例えばどんな人間にどんな風に聞く気なのだろうか。もちろん、こちらの状況を説明すれば相手も事情が分かり、それなりに協力してくれるだろうが
「う〜ん、そういう話は良く分からないな」
無駄足に終わる事は多い。普通の人は、そんな湖のどこかにある遺跡について詳しくはないし、知っていたとしても噂程度‥冒険者達が既に知っている程度のレベルの情報ばかりなのである。
「ふむ‥。なかなか上手くいかないものだな、ボルト」
ボルトと行動を共にしていたキシュト・カノン(eb1061)。彼はゲルマン語が話せないので、情報収集は完全にボルトに任せきり。その分、荷物持ちや雑用をしようとしていたが、キシュトははっきり言って既に荷物を持ち過ぎで、これ以上荷物を持ってもらおうとは思えなかった。
「少し休憩を入れるとしますか」
結局、体力に勝るはずのキシュトが先にバテてしまい、不本意ながらもボルト達は休憩を取る事にしたのだ。
一方その頃、ゼタル・マグスレード(ea1798)とエレーナは、その街の古株の集まる場所で情報を集めていた。
「アイセル湖のどこかにある遺跡、それもかなり重要な遺跡だ。何か知っている事はないだろうか?」
当初は、遺跡の周辺に都市や集落があると思っていたゼタルだったが、目的の遺跡があるのは小さな海と思っていいほどに広い湖であるアイセル湖のどこかで、そのアイセル湖の周辺に点在しているのが、この街や集落なのである。
「そうさな‥。確かに、ここいらに伝わる言い伝えの中に、その湖にある遺跡の話はある‥」
「ほ、本当か!?」
「そう、慌てなさるな‥。あるっちゅうても、詳しい位置など分かりゃせん‥」
「大体の位置は分かるがの。あの辺りに向かおうなんざ、普通の人間ならまず考えんからのぅ」
(「普通の人間なら考えない‥? やはりドラゴンが関わる遺跡だけあって、危険という事でしょうか?」)
だが、話が進んで行くにつれ、そして、この後他の街や集落を回って行くにつれて、普通の人間ならそこに向かおうとは思わないというのは、ただ単に危険なだけではない事が分かっていった。
「いやー、信じにくい話かもしれないけどさ。子供達の中の‥なんて言うか、お坊ちゃんみたいな子かな? その子が言うには、あたし達が捜してる遺跡には、でっかい樹が生えてるんだってさ」
最後に、その場にナランが合流した。子供達の話に、どこまで信憑性があるものか‥とその時は思っていたが、この大きな樹というのは意外な事に、別行動をしていた者達の話と合わせる事が出来たのだ。
●遥かな古よりの伝説
「有難う。御手を煩わせてしまって御免なさい」
スッ‥っと澱みのない動きで礼をし、その場を離れていくキラ。彼女がその場を離れて少し経つまで、さきほど話をしていた者はどぎまぎした様子で、落ち着き無くその場に留まっていた。
「はぁ‥キラさん、さすがねぇ〜」
そこへ、フォーリィともう一人の神聖騎士が合流してきた。キラとしては普通に振舞っているつもりなのだが、やはりどこか優雅に見える。それが付け焼刃でない、身についた礼儀作法というものだろう。
「それで、フォーリィさんの方はどういった情報が手に入りましたかしら?」
「う〜ん、それがね‥やっぱり、最初に知ったあの事と同じような内容なんだよね」
依頼期間の残りも、もうそれほど残っていない。すぐに互いの手に入れた情報の確認に入る。
「俄かには信じがたい話ですが、ここまでくるとなると、この言い伝えは信じるしか‥」
「言い伝えの内容が、完全に、全部本当っていう事は無いかもしれないけどね」
しかし、遺跡より持ち去られたのは、ドラゴン達のダイジナモノ‥『契約の品』である。それも、あれほどまでのドラゴン達が人の住まう地に現れ、その所在を捜したのだ。眉唾物の話でも、嘘だとは言い切れない。
『その遺跡の中心に生えているのは、このジ・アースを支えている世界樹』だという。
無論、他にも様々な情報はあった。おそらく目的の遺跡以外にも、アイセル湖には島が点在していて、情報は錯綜してしまっていたが、中でも‥嫌でも目を引く情報がこれである。
「実在するとしたら、まさしく神話の産物‥と言うべき遺跡ですわね」
「この辺の都市に伝わる伝承かぁ‥。ドラゴン達の事を考えると、有り得なくもない話だけど」
この後、キラ達はエレーナ達と合流し、情報の整理を行った。だが、遺跡の内容に関しては、残念ながら『世界を支えている世界樹が生えているらしい』以外の有益な情報は無く、それなら位置の特定を‥と思ったが、こちらも中々絞り込めず、遺跡の推測位置は結構広い範囲のどこか。という事になってしまった。
「なんだろね‥あの像。綺麗な女の子の形をしてるけど、どことなく人間っぽくないような‥」
ドレスタットへの帰路につく直前、ナランが先程から気になっていた像を指した。
「ええ、なんでも水の神‥だそうですよ。土台の所にそう彫られていましたから」
「水の神?」
「ああ、なるほど。これが精霊信仰というもので、おそらくあれは水の精霊なのだろう」
人知を超えた存在に対する、尊敬や羨望、それに畏怖。この地に住まう者達にとっては、冒険者達の目の前に佇んでいる像のような存在もまた、ジーザス教におけるセーラ様やタロン様と同じく神であるのだ。
もう一歩遺跡に対する何かの手がかりが欲しかった気もするが、それでも貴重な情報を抱え、冒険者達はドレスタットへと戻り、オルファに今回の調査の報告を行ったのだった。