【ドラゴン襲来】六つ足の竜、死してなお

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:2 G 88 C

参加人数:8人

サポート参加人数:1人

冒険期間:05月15日〜05月22日

リプレイ公開日:2005年05月20日

●オープニング

(「最近の依頼と比較すると、結構単純な依頼だな」)
 心の中で呟いて、再び自分の席へと戻るギルド員。彼が先ほどギルドの壁に貼り付けた依頼書には、ズゥンビ退治と書かれていた。‥しかし、それにしては、参加希望者に対して要求する実力が随分高い。
「だがまぁ‥アレだよな。ちと厄介だよなぁ」
 ギルド員は席に着くと、溜息と共にその言葉が吐かれたので依頼書の内容が気になり、少し目を通してみた。
 もしかして、発生しているズゥンビの数が多いのかと思ったが、そうではないようだ。正確な数が分からないとはいえ、総数はどうやら集める冒険者の数より少し多い程度。
 一体、何が隠されているのだろうか? 現場までは比較的街道に沿って行けるから、特に危険は無いようだし、現場もただの村跡だ。おそらくズゥンビ化してしまっているのは、元村人達だろう。気の毒ではあるが、村にモンスターと戦える者が常駐しているわけもなく、ある程度は仕方のない話だ。

 そうこうしている内に冒険者達がギルド内に入ってきて、いつものように依頼を受けようとする。どうやら先程から注目していた依頼のようだ。
「ああ、そうそう。この依頼は依頼書に書いてある通り、フィールドドラゴンのズゥンビが居るが、良いか?」
「フィールド‥ドラゴンだって!?」
 フィールドドラゴン‥最近結構な数がドレスタット付近に現れていたので、その能力を噂などで耳にした者も多いだろう。タフで足が速い。ズゥンビ化した事で、そのタフさ加減は‥想像したくないものだ。

●今回の参加者

 ea1747 荒巻 美影(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea5564 セイロム・デイバック(33歳・♂・ナイト・人間・イギリス王国)
 ea7891 イコン・シュターライゼン(26歳・♂・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea7935 ファル・ディア(41歳・♂・クレリック・人間・ノルマン王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8189 エルザ・ヴァリアント(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8218 深螺 藤咲(34歳・♀・志士・人間・ジャパン)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

エレ・ジー(eb0565

●リプレイ本文

●死者の村
「ズゥンビと化しているとは言え、元はドラゴン‥気は抜けません。それに‥まずは私達の前に居る他の方々を偽りの生から救い出し、静かに眠らせてあげなくては」
 掌に光球を生み出し、次いで周囲の仲間にグッドラックを付与していくファル・ディア(ea7935)。
「うーん、なんだか普通に引っかかってくれますね‥」
「この分ではタリスマンも効果が無いかな?」
 最初はグッドラックを優先するつもりだったのだが、一日を費やして作られた落とし穴にズゥンビが面白いように引っかかってくれたので、先にある事を試す為にホーリーライトを唱えたのだ。手馴れた者が居なかったので、お世辞にも出来のいい落とし穴ではなかったが、所詮ズゥンビの知性はこの程度なのである。イコン・シュターライゼン(ea7891)も拍子抜けしていた。
 ところである事というのは、このズゥンビが誰かの悪意によるものではないかという事。
 だが、ホーリーライトの光が届く範囲にこれない様子をみると、ゾゥンビ達に何がしかの命令は与えられていないようだ。念の為、ヘキサグラム・タリスマンを使用したエイジス・レーヴァティン(ea9907)は、これを受けて安堵の表情を浮かべていた。

「今回の件、自然に起きたようには思えなかったのですが‥。ともかく、いつドラゴンの方が来るか分かりません。今の内にこのズゥンビ達を倒してしまいましょう」
「そうね。さっさと此方を片付けてしまいましょう」
 前日はズゥンビフィールドドラゴンの姿は確認出来なかった。近くに居ないのか‥とも思えるが、いつこちらに来るか分からない。イコンの提案に荒巻 美影(ea1747)は賛同し、自身にオーラパワーを付与してズゥンビ達と対峙する。
「目の前の脅威を排除しておけば、後で楽になるものね」
 事前の打ち合わせ通りに、まずはエルザ・ヴァリアント(ea8189)のファイヤーボムが、ズゥンビ達に向けて放たれ、爆ぜる。
「死者の方々よ、今、眠らせます」
「ドラゴンも村人も、苦しみ続けてるだろうから、早く解放してあげなきゃね」
 前に立つイコンとレオン・バーナード(ea8029)の合間から、深螺 藤咲(ea8218)は器用にロングスピアで敵を攻撃した。ただ、この戦い方だとちょっとスマッシュは使いづらそうだ。エイジスは手数は少ないが、的確に相手に合わせて威力を変えた攻撃を繰り出していた。

「火霊よ。その尊き御魂の片鱗を我が前に示せ」
(「さすがに数が多いわね‥」)
 再びエルザが火球を放つ。現地での時間が長めに取られていただけあって、ズゥンビの数は結構多い。
「村一つ丸ごとズゥンビになってしまってい‥という表現がしっくりきてしまいますね」
「でも、まだこれぐらいなら平気だな」
 スマッシュを多用していた藤咲やレオンなら、疲労の色が目に見えて分かるほどに。
「藤咲さんもレオンさんも、あまり無理をしないように。このズゥンビが相手の間なら、ホーリーライトの範囲内でかなり安全に休めれますから、一旦下がる事も考えて下さいね」
 この二人に対してだけではなく、ファルは戦闘中味方を気遣って声をかけていた。油断の無い冒険者達を相手にして、ズゥンビ達は一体、また一体とその動きを止めてゆく。

「ところで、ズゥンビになるっていうのは強くなったっていうことでいいのかな‥?」
 粗方ズゥンビ退治が終わった頃、レオンがふと疑問を口にした。
「どうなんでしょう‥? 動きが遅くなるから、弱くなる気もしますが‥」
「でも、今回の場合だと、ただでさえタフなのが更に‥なんだよね」
 この場に熟練の冒険者が居たら、こう答えてくれただろう‥元のモンスター次第。
 一般に、動きの素早さ等が脅威のモンスターは弱くなるが、防御面が脅威のモンスターは強くなる。あとは、ズゥンビの性質を理解していれば、ある程度予測がつく。


●悲劇の執念
「来たよ‥」
「来たわ!」
 エイジスとエルザの声はほぼ同時だった。二人は同じタイミングで、こちらに接近してくる大きな影を目撃したのだ。
「ちょ、ちょっと待て! 思いっきり全力疾走でこっちに突っ込んで来んぞ!」
 レオンが慌てるが無理もない。ズゥンビと化した為か、その速度は落ちているように見えるが、その生者とは異なる光を放つ眼光は、不気味な色の液体を垂れ流し、ただ獲物を喰らいたいかのように開かれた顎は、生前のフィールドドラゴンとはまた異なる迫力を持っていた。
「あれは、見ただけでホーリーライトの光の効果は無‥‥」
「!? どうした!? ファルさん!?」
(「しまった‥!!」)
 身に纏った衣服を掴み、青ざめるファル。
(「すっかり忘れていたわ‥!」)
 同様に、ファルの隣でエルザの表情も崩れていく。
「二人ともなんで‥?」
 レオンは不思議そうな表情を顔に浮かべるが
「ローブ‥。忘れていました、ドラゴンが執拗に攻撃を加える対象の事を」
 という答えを聞いて、一瞬にして納得がいった表情に変わる。
「じゃあ、あいつは今、ローブを目印にしてんのか!」
「それでは、このままでは‥!」
 レオンとイコンも、今の状況を打開する手が思い浮かばない。あの、巨大な質量をどう止めれば良いのか。止め切れなければ、生物としての正常な判断を失っているズゥンビでは、無理矢理ファルとエルザを狙うに決まっているし、二人にそれを回避するだけの力は無い。
「ど、どうしましょう‥!?」
 藤咲にもどうする事も出来ない。掘られた落とし穴には、既にズゥンビ達が埋まっている。冒険者達へと迫り来る巨躯は、生前の思いが歪んで強固に固着しているのだ。ローブを着ているものを襲う、その命令だけをこなすゴーレムにも例えれよう。
「‥‥‥」
 その時、無表情に、それがさも当然の行動であるかのように、エイジスがその手に鉄塊を携えて割って入る。彼もまた、レザーローブを羽織っており、ズゥンビフィールドドラゴンはエイジスに狙いを定めたようだ。
「ォォォォォォォ‥‥!」
 唸り声を上げて更に開かれる大顎。それが見えているのかいないのか、そんな事を感じてしまうほど、酷く冷静にエイジスがクレイモアを振り上げると、相手の頭部に全力で叩きつけた‥。

 酷く鈍い音。その後に衝突音がして、エイジスは大きく跳ね飛ばされた。だが、全身を鎧で固めたエイジスはさほどの怪我もせず、立ち直り相手を見つめる。そして、再びクレイモアを手にするべく歩いていく。流石、というべきか? ズゥンビフィールドドラゴンはまだ動けるようだったのだ。
 そして、再び振り下ろされたクレイモアは、今度こそズゥンビフィールドドラゴンの動きを止めたのだった。その場に居る者は、その光景に、少しだけ‥少しだけ、何故ハーフエルフが迫害されるのか、理解出来た気がした。


●欲望の犠牲
「そういえば、このドラゴン‥鱗があんまりないわね?」
「‥ふむ。しかし、それはズゥンビ化してしまった影響なのではないでしょうか?」
 エルザの疑問に、イコンはおそらくこうなのでは‥と答えるが、それはすぐに否定される事になる。
「ちょっと待ってよイコンさん。もしそうなら、こんな風に鱗の残ってる部分と無くなってる部分が、キレイに線で分かれるかな?」
 レオンが気づいた箇所を指し示すと、そこには彼の言った通りの状態があったのだ。
「そんな! じゃあ、まさか‥このドラゴンは、生きてた時に鱗を剥がされたっていうの!?」
「多分‥そうなると思う」
 藤咲が信じられないといった風に嘆くが、フィールドドラゴンはとんでもなく強いというわけではないので、それなり実力のある者が揃えば、一時的に捕獲したりする事は難しくない。簡単に言えば、瀕死にして、息絶えるまでに鱗を取ってしまえばいいのだ。
「一体誰が、何の為に、こんな事を‥」
「‥お金の為でしょ。フィールドドラゴンを飼う事の出来る人なんて、ごく限られた人達だけだわ。でも、その個体につけられた価値を知ってる人なら、なんとかあやかりたいと思ってもおかしくないわ」
 推測された原因に対して戸惑うイコンへ、エルザは一気にそこまで言葉を続けた。それと同時にエルザは、その自分が放った言葉に対しての苛立ちを隠そうとはしなかった。

「この事は、見送ってくれたエレさんには伝えない方がいいようですね‥」
 ファルはそう呟くと、人のズゥンビと共に弔う為、残った落とし穴の中にこのフィールドドラゴンの遺体が入りそうなものが無いか、見回し始めた。
「さすがにドラゴンが丸ごと入るような穴は無いわね‥」
「おいらも埋葬してやりたいと思ってたけど、このサイズの穴はちょっと掘れないかなぁ‥」
「じゃあ、ドラゴンだけは火葬にするというのでどうでしょうか?」
 埋葬であろうが火葬であろうが、死者を弔おうとする思いに境界は無い。その提案に、反対する者は居なかった。

「セーラ様‥この者達は死してなお、苦しみの中を生きる事を強要されました‥」
 その件から始まった、死者に対して捧げるファルの言葉を自分の胸の中で再び唱えながら、その場に居た冒険者達は揃って黙祷を捧げたのだった。