再会、決別? 朱と蒼 〜liberation red〜
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■ショートシナリオ
担当:MOB
対応レベル:5〜9lv
難易度:難しい
成功報酬:3 G 8 C
参加人数:6人
サポート参加人数:-人
冒険期間:05月24日〜06月02日
リプレイ公開日:2005年06月02日
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●オープニング
「んだとテメェ! 人のやる事に、いちいち口出すんじゃねぇよ!」
「別に、いちいち口出してなんかないですよ!」
「うるせぇ! さっきのは口出してんのも同じだろうが!」
「そうは言っても、気になるに決まってるじゃないですか! 言えないって事は、もしかして本当に‥?」
「そりゃ、お前には関係無い事だから言わねぇだけだっつったろうが!」
「関係無いかもしれないですけど、ジーザ‥」
「だあーーー!! 傍から余計な誤解受けそうな事を口走るんじゃねえ!」
‥この後、アタシは追い出されるように酒場から離れた。相手も似たような状態だった。
久しぶりに同じ依頼を受けたのさ。内容は熊退治だ、今年はどうやら少し数が多いらしい。
エールを酌み交わしながら、パリで別れてからの今までの経緯を互いに聞いていた。どうやら、少し前は自分の能力の事で悩んでいたらしい。ユアンらしいと言えばユアンらしいが、いくらなんでも依頼まで出していたとは驚いた。
まあ、それで最近の冒険者周りの話になったんだが、ユアンの奴がエムロードっていう奴の話を出した。それならアタシも噂は耳にした、なんでも署名と遺族見舞金が用意されれば死刑を免れ、更正の道を歩めるとか。ただ、罪が聖職者殺害なせいで色々あるらしい。
聖職者‥。何故だか最近、ジーザス教の教義(つっても元々あんまり知らないが)に反感を覚えるようになった。そんな感じで、別にまあ死刑免れれるならそうしてやっても良いんじゃないかと思ったが、ユアンの奴は聖職者の殺害は‥と、渋っていた。‥まあ、そこまでは良かったんだが。
「まさか、グラキさんも何かやましい事があったりとか? それで助けてやりたいとか?」
酒の席だ。今思えば、ユアンも冗談で言っているとは思うんだが、その時は‥
「別に、お前には関係ねーだろ」
って、言っちまった。つい、だ、つい。振り返ってみても良く分からないが、『何も無い』と言うのを躊躇った‥というか、そう言うのは嫌だと感じた。そっから先はユアンがつついてくるもんだから、エールが入ってた事もあって売り言葉に買い言葉だ。
今は行方不明となってしまった、自分の育ての親の言葉が頭の中を過ぎる。
(「悪い意味での私情を依頼に持ち込むな。それで一番の被害を被るのは、自分達じゃあないからな」)
「それが冒険者としての心構えの基礎の一つ、だったか‥」
幸いな事に、元々この依頼は相手を捜して倒す依頼だったので、安めの報酬で多めの人員が雇われていた。そう‥完全に一つにまとまって動くのではなく、ある程度分かれて行動したほうが効果は高く、成果も出易い、そういった依頼だったのだ。
「はあ‥。何とかならない状態じゃあないだけ、まだマシってところか‥」
●リプレイ本文
●苛立ちの朱
(「熊退治か。今回は、ユアン殿にグラキさんも一緒だったはずなのだが‥ユアン殿とは別行動か」)
今回は森の中を熊を捜して歩き回るという事で、愛馬の馬次郎達を留守番させてきた石動 悠一郎(ea8417)。
なんとなく‥いや、結構判り易いと思うが、グラケルミィ・ワーズはドレスタットを発って以来、もっと正確に言うと、依頼の班を分けると言い出して以来、ずっと不機嫌そうなのである。
「依頼中に仲直りできるとよろしいのですけど」
もちろんこの言葉は、グラケルミィには聞こえないように小声で発せられている。声の主はエレーナ・コーネフ(ea4847)、いつもニコニコとのんびりしている彼女も、今回は少々困ったような苦笑を浮かべている。
「今何をやらなければならないかは、グラキさんなら良く分かっていると思いますわ」
(「だからこそ、私はグラキさんの事が好きになったのですし」)
少しだけ今回の熊退治の依頼で班を分ける経緯を聞き、何となく他人事では無いと感じつつも、グラケルミィが行動を起こすのを待っているのはシエル・サーロット(ea6632)。
「私達がすべき事は、その時に背中を押す事ですわ」
「そうですね‥。あまり余計なことを言って、意固地になられても困りますから」
日が昇ってから半日。
少し前に昼食もとりおえ、そろそろ森の中へと進んでいこうかという時間だ。森の中でも比較的街道に近い範囲では、ブラウンベアが出るという。駆け出しの冒険者には厳しい相手だが、この依頼に参加している冒険者達ならば、それほど苦戦をする事は無いだろう。
「いつものグラキらしくどーんと頼むぜ、熊くらい『ちょっとドツいてやれば』楽勝だろ?」
「あ、ああ‥。‥そうだな、まずはちゃっちゃと熊を片すとするか」
気がかりといえば、先程から他の冒険者も気になっていた事ぐらいのもの。それも、レオン・バーナード(ea8029)の言葉を受けて頭を切り替えれたようなので、もうそれほど心配は要らないだろう。
力押しも技法を凝らすのも、どんな状況でもどちらかが正解であり続けるという事は無い。正解かどうかを決めるのは、行動を行う者と選択される行動が相性が良いかどうか、その場に必要とされているかどうかなのだ。
●熊の特性
隊列を組み、熊を捜して森の中を歩き回る冒険者達。
「思ったより木が多いな。この中で戦うとなると、ちょっと戦いにくいかも」
「横に払うという攻撃は無理であろうな」
そんな感想をレオンと悠一郎が述べる。
「熊というものは縄張り意識の強い生物ですから、複数が同時に現れる可能性は低いですけどね」
「そうだ、レオンさんは猟師としての技能をお持ちですよね? 何か他に相手について‥」
「いや、おいらがやってるのは猟師じゃなくて漁師なんだ。だから、熊の事はちょっと分かんないな」
大丈夫、安心して、セシル・クライト(eb0763)さん。前に同じ間違いをしてしまった人が居るから。
「まず、これで一頭目ですね‥」
セイロム・デイバック(ea5564)が、皆の前に横たわっているブラウンベアに目線を落とす。
「思ったより弱かったな」
エレーナのバイブレーションセンサーで大まかな位置を捉えた後、普通に接近していって普通に倒した。今の冒険者達ならば特に苦戦するような相手でも無いのだ。
「やはりと言うべきでしょうか。オークといいベアといい、身体が強靭な相手にはオーラが効きにくいですわね‥」
「それと、手数で押すというのもダメなようで‥」
ただ、シエルのオーラショットがどうにも効きづらかったし、セシルの攻撃は熊相手に軽かったようだ。
「仕方ありません。必ず成功する保障はありませんが、少し威力の高い方を撃つとしましょうか」
この後、順調にグレイベアも倒して班は順調に森を進んでゆく。
●その模様はまるで大月輪
「バイブレーションに、それらしき反応がありましたわ」
「それらしき? どっちですか?」
「あ、話に聞いていた熊のようですわ。とても大きなものが、一つだけ反応しました」
最初のエレーナの言葉に、質問を返したセシルが言った『どっち』。これは、反応は熊なのかもういっぽう班なのか、という事だ。
何しろ班を分けて以来、互いの班は話し合ってはいないので、合流に関してどうするのかは全く決められていない。広大な森林の中で、それぞれが勝手に討伐対象の熊を捜していては、カチ合う可能性も低いだろう。
「どうしましょう? もう一方の班と合流してから、熊に向かいましょうか?」
確か向こうにはリカバーを使える者が居たはず、大きな保険になってくれるだろう。
「私はまだまだ魔法を使えますから、見つけ易いとは思いますが‥」
シエルとエレーナはそう言いながら、揃ってグラケルミィの方を見る。いや、グラケルミィを除いたその場の冒険者全員が、グラケルミィの反応を伺ったと言うべきか。
「な、なんだよ皆して‥。アタシに決めろってか?」
じーっという目線、かける6。
「ああもう、分かった分かった! じゃあ、合流してから向かうぞ、いいな!」
なんだかヤケに見えたがまんざらでも無い様子で、グラケルミィは合流してからという選択をしたのだった。
「で、でかいな‥!」
ロングソードを握る手に力が入る。レオンが見上げているのは、自分の身長の倍を更に上回る体を持った一頭の熊。この黒い毛皮で覆われた巨体こそが、ジャイアントベアと呼ばれる個体だ。
「ぐあああっ!?」
セイロムの左腕の骨が鳴く。オーラで作られたシールドを通して、相手の放った攻撃の衝撃が抜けてくる。デミヒューマン等とは根本的に違う身体を持つゆえの怪力。
「集いし不可視の力よ、眼前のものを抑制せしめよ‥!」
「よしこれで‥。!?、いや、効いてな‥」
大急ぎで紡がれた魔法がジャイアントベアに届くが、不運な事に抵抗されてしまったらしく、相手の動きは全く鈍らない。そのまま暴れ回るジャイアントベアは、セイロムに続いてセシルへとその爪を繰り出すと、その身をまるでオモチャのように弾き飛ばした。
「セシルさん!? くそっ、見掛け通りか以上ってとこだな!」
シルバーダガーでは身を守る事は適わなかったが、幸いにしてまだ一撃。吹っ飛び方は派手だったが、致命傷にはまだ遠い。セシルが落ち着いて怪我の治療を受けれるように、レオンとグラキは前面に踊り出ると、二人はそのまま相手に立ち向かう。
「今回はおいらが先に行かせてもらうぜ、グラキさん!」
「おう、やっちまおうぜ!」
ジャイアントベアが、もう一方の班から前へと出てきたいた、エルフと人間のファイターに気をとられた時を見計らい、シエルによってオーラを纏わされた得物を構えて二人が飛び出す。そしてそれと同時、エレーナが再度のアグラベイションを放ち、相手の動きを抑制する事に成功する。
「ガァァァアアア!」
「う、ウソだろおい!?」
だが、ロングソードとウォーアックスのクリーンヒットを受けてなお、ジャイアントベアは眼光鋭くこちらを睨みつけていたのだ。3mを越す巨体の孕む、生命力の恐ろしさよ。
(「やばい! 反撃がくる!」)
レオンやグラケルミィがそう思った瞬間、二本の線がジャイアントベアを突き刺した。
「我、武の理の持て穿つ刃を放つ‥飛突!」
「火の加護を受けし槍、これで終わりにします!」
一つは飛ぶ刺突、もう一つは突き下ろされる槍。タイミングを合わせたのは炎を纏う槍使いの方だ。
それらが動いた線を延ばすと、ジャイアントベアの内部で交わる。事前の打ち合わせや練習などはない、ただの偶然。だが、偶然の言葉通りに事は実際に起きても不思議ではない。
「悠一郎さんもあちらの方も、やりますわね‥」
「まさか、こんな倒し方になるなんてな」
二名による打ち合わせ無しの同時攻撃。以前、同じ方法で倒されたブラウンベアが居たのだから。
「藤咲殿といったか‥見事な突きであったな」
こちらが技の刺突であるとすれば、向こうは力の刺突。悠一郎は少し離れた相手の方に視線を送りながら、感心したように呟いていた。
●もう一度再会、朱と蒼
(「どう説明されるのでしょうか‥?」)
不安そうにグラケルミィの方を見つめるシエル。
(「‥‥私は神の教えよりも自分と身内、そして冒険者である仲間の皆さん達の方が信じられますね。‥騎士の私がこの様な事を言っていたのは内緒ですよ」)
依頼の途中、セイロムがそんな事を言っていた。確かに、ナイトやクレリック、神聖騎士であっても、冒険者として活動している者は、比較的ジーザス教の教義よりも個人の道徳観に従って行動している者が多い。だが、それが周囲からどう評価されるかは、やはり周囲次第なのだ。
「なんでなのか、アタシにも良く分かんねぇんだけどよ、傍に居て欲しいと思う‥その、なんだ? 女が居るのさ。依頼を受ける仲間としてでなく、な」
完全に不意を突かれた表情のユアン。だが、大手振って認められるものではないが、一般的な犯罪の類では無いと分かり、少し安心したようだった。それから数度言葉を交わし、再会した朱と蒼は再び別れる事になるが‥それはドレスタットに戻ってからのお話。
なお、倒された熊だが、熊の肉はしっかりと調理しないと、食べるにはちょっと‥なシロモノのため、調理用の道具も調理出来る人材も居なかったので、残念だけれども諦める事になった。