鶏とか鶏とか鶏とか。あと、鶏もあります。
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■ショートシナリオ
担当:MOB
対応レベル:5〜9lv
難易度:やや易
成功報酬:5
参加人数:8人
サポート参加人数:7人
冒険期間:05月31日〜06月05日
リプレイ公開日:2005年06月07日
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●オープニング
「大変、大変! ウチのコッコ達が逃げ出しちゃったわ!」
そう言いながら女性は村の宿まで駆け込んできた。
村と呼ぶには少し規模が大きく、ドレスタットから歩いてくると、位置的に丁度この村付近で日が暮れる事もあって、この村には旅人達へと宿を貸す事が仕事として成り立っていた。村の女性が駆け込んで来たのは、主に冒険者達へと貸し出されている家屋の所だ。
「コッコ‥?」
反射的に「聞いた事の無いモンスターだな?」と考えを巡らせ、頭を捻る冒険者も居たが、すぐさま女性の言った「ウチの」というフレーズが思い出される。モンスターを飼う村人など、まず居ないだろう。
「すまないが、コッコというのは?」
なんとなく予想はついたが、念の為に女性へと質問をする冒険者。
「コッコ達はコッコ達よ! ああ‥まさか、コッコ達がこんなに捕まえにくいなんて‥」
「いや、コッコは何なのかと‥‥。いや、まあ、もう、鶏という事で良いか?」
質問に答えてくれなかったので、ちょっと焦った冒険者であったが、もう一度聞いてもきっと同じ答え方をされると思ったのだろう、もう自分で「コッコ=鶏」と言ってしまった。
「村の人も頑張ってるんだけど、思ったより鶏って捕まえられなくて‥。それで、身体能力の優れた冒険者さん達にお願いしようかなって」
「なるほどな‥」
合点がいったように頷く冒険者。少し辺りを見回してみると、結構経験を積んだような冒険者ばかりだ。彼等からしてみれば、この程度の依頼ならば楽なものだろうし、報酬額もちょっとした小遣い程度だろう。
「それに‥」
「なんだ、まだあるのか?」
話は終わったと思っていたら、女性がまた話始めたので、冒険者は再びそちらに視線を戻す。
「この村に伝わるお話なんだけど、昔にも同じ事があって、その時にはエルフの剣士が一人で全ての鶏を捕まえてくれたそうなのよ」
女性の話は続く。村に伝わる話にあるそのエルフの剣士の姿は、一つは12歳前後の少年剣士、もう一つは18歳前後の青年剣士。何故だか知らないが二通りあるらしい。但しそれ以外の事は共通で、緑色の服を着て、帽子を被っていたとか、ミルクが好きだったとか、お供にシフールが居たとか、前転しながら移動すると速いとか、三角形のバッジが宝物だとか、実は四つ子らしいとか、なんとかかんとか。
「その話がどうかしたのか?」
不思議そうな顔をする冒険者。まあ、それもそうだろう。
「分からない? その話と同じかそれ以上の手際で鶏を捕まえれば、あなた達の話は村に残るかもね」
「む、むぅ‥?」
人を焚きつける手としてはそこそこ有効だろうか。この女性、なかなか油断ならない性格なのかも。
●リプレイ本文
●伝説再び
「でやあ〜〜〜〜〜!」
ズバババババッ! 小気味の良い音と共に、レイジュ・カザミ(ea0448)の周囲の草が乱れ飛ぶ。ちなみに乱れ飛んでいる草は二種類で、一つは地面に生えていたもの、もう一つはレイジュが身につけていたものだ。
「キャメロットのHERO、葉っぱ男とはこの僕の事さ! コッコさんの捕獲は任せて!」
回転による眩暈にも負けず、剣を振り終えてバシっとポーズを決める。もちろん、笑顔は忘れないし、大事な部分の葉っぱだけは残ったままだ。また一つ、彼のレベルは上がったのかもしれない。
「その者、草原の中で舞いて草木を乱れ飛ばすべし。おおお‥古き言い伝えは真であったか‥」
いや、そこのお婆さん。それ、違うヤツですから。いや? この場合、違わなくもない‥のか?
「レイジュさんは元気だねー‥」
「まあ、それがレイジュさんらしさと言えばらしさですし」
ちょっとばかりムスっとした表情で、双海 涼(ea0850)と一緒に、手持ちの保存食を細かく刻んでいるのは、ユニ・マリンブルー(ea0277)。
それもそのはず。ちょっとしたお使いを頼まれて、この村に新鮮な卵を求めてやってきたはいいが、肝心の卵を産む鶏が大脱走中なのだ。仕事が増えるが、そうしないと卵が手に入らないので捕獲もやるしかない。
「刻め、刻め、刻めぇ〜。憎いあんちくしょうの顔目〜掛けぇ〜」
「りょ、涼さん!?」
ただ保存食を刻むというのも退屈なもので、つい歌いながら作業をしてしまうのも無理もないだろう。
「それにしても、保存食を使う予定の人って結構多いのね」
普段の髪型から少し変え、耳を覆い隠したものにしているユラ・ティアナ(ea8769)がポツリと漏らす。彼女が漏らしたように、保存食を使って撒き餌作戦を取る冒険者は多い。先に挙げた涼とユニもそうだし、リョウ・アスカ(ea6561)や操 群雷(ea7553)もそうだ。
「でも何か、面白い光景よね」
丁度その場に居合わせたので少しだけ手伝うと言い出した者も含めて、全部で8人もの冒険者が一緒になって保存食をぶちぶち刻んでいるのだ。それも鶏捕獲用に。
「ちょっと作り過ぎましたか?」
「いや、鶏引きつけておく必要あるアル。少し余裕持てた方がヨロシね」
●ひたすらに黙々、黙々
「そういえばどこかで聞いたことがあるでござる。その昔、大魔導師が羽の生えたオーグラーに化け、アーティファクトを奪い、恐れられたというでござるよ。それを退治したのがエルフの剣士にござる」
冒険者と飛脚‥各地を走り手紙等を届ける職業だ、それを両立している音羽 朧(ea5858)。彼がその飛脚として走り回ったどこかの街や村で聞いた話だろう。
「緑の服より丈夫な、青い服に着替えたという伝説もありますよね」
まあ、伝説‥というよりも、おとぎ話の類かもしれない。あまり深く考えない方が良いと思います。
「‥‥‥」
そんな陰でバスカ・テリオス(ea2369)は既に鶏捕獲に向けて動き出していた。
「一羽目だ‥‥」
鶏を扇型に動きつつ端に追い詰め、捕獲する。地味だが体力的にキッツイ方法だ、効率も良くは無いだろう。むしろどこぞの武道家がトレーニングに用いた方法な気がしなくもない。だが、長時間走る事が得意な上に、体を鍛えることが好きなバスカには、この程度なんでも無いのだろう。
「拙者も、負けてはおれんでござる」
その姿を見て、朧も鶏捕獲に向けて動きだす。彼の周りに煙が起きると、その直後より音が消え、姿をこうして視界に捉えているにも関わらず、まるでその存在が消えてしまったかのような錯覚を受ける。
「湖心の術ね。‥それだけじゃないけど」
同じ忍者の涼にはすぐに分かった。朧の動き、陰で動く者として必要な事を備えた動きであったのだ。
ずりっ、ずりっ。微妙な速度で地面に裏返って落ちている鍋が動く。
「へへ、コッコを捕まえるなんてちょろいもんだねっ♪」
得意げに鍋の元へ近づいて、鍋を取ってその中に居た鶏を素早く捕獲するユニ。
「他の皆はどんか感じかな〜?」
ただ、この方法は少し効率が悪いかも‥? という考えがユニの頭の中を過ぎる。
一羽を鍋の中に捕えてしまうまでに時間がかかったし、捕まえたらもう一度罠を仕掛け直さないといけない。まあ、鶏なので何度も引っ掛かってくれたが、そこらじゅうに鶏の餌が撒かれているので、上手い具合に誘導出来るように餌を撒くのも難しかった。
「って、レイジュさん何やってるの!?」
ユニの問いに、口元に指一本立てた手をあてて、「しーっ」という動作をするカモメ。いや、レイジュ。えーっと‥説明するよ? いい?
頭はカモメの被り物、残りは葉っぱ一枚という姿のレイジュが、匍匐全身しながら鶏に接近していっている。対する鶏の方は、鶏のくせに鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしつつ、とりあえず餌が散らばっているのでそれを啄ばんでいたりする。
「コケッ!?」
「コケェッ!?」
ぶおんぶおんと、柵の中に鶏を投げ込んでいるのは涼。あ、今、鶏の反応見て愉しそうにしましたね?
鶏達は柵の中に投げ込まれる直前までは、涼の春花の術の効果で眠らされていたので、柵の中に投げ込まれて目を覚ます。その時にやっぱり、鶏のくせに鳩が豆鉄砲喰らったような表情で、周囲を見渡していたり。
「なぜだか鶏を抱えて投げる時は、頭の上まで持ち上げないといけないような思いに駆られますよね‥」
そう言いつつ、しっかりと天高く掲げた鶏を柵の中に投げ込むユラ。気づけば涼も、同じ投げ方で鶏を柵の中に投げ込んでいる。
「ウム! コッコ投げる方法は、これ以外許されてないアル」
こんもりと盛った餌と、バスカや朧に追われたものを待ち構える形で上手く鶏を捕獲した群雷も、同じく天高く鶏を抱えた後で、柵の中へと鶏を投げ込んでいる。これは、破ってはいけない暗黙のルールなのだ。‥きっと、多分。
「‥‥‥」
「‥‥‥」
「‥‥‥ふぅ」
(「こ、この者、やるでごさる‥!」)
そんな中、村の一角では静かに‥ホントに静かに男達の戦いが繰り広げられていた。
片や、その圧倒的な持久力と、体を鍛える事を好む性格から思い込んだら一直線に、ただひたすらに黙々と鶏の捕獲を続けるバスカ。その動きは単調で、傍から見ていて効率が良いとは思えないが、一羽、また一羽と鶏が捕まえられていく。
片や、少しだけ劣る持久力を、湖心の術と小石を利用した撹乱術で鶏を惑わせ、なかなか効率良く鶏を捕獲していく朧。一手間加えるだけあって、余計の動作がある分、鶏を捕まえれる為の動作は少ないが、効率の良さでカバーして、一羽、また一羽と鶏が捕まえられていく。
(「あいつも‥なかなか走れるな」)
(「拙者もまだまだ修行不足という事でござるか‥」)
結果だけ見れば、捕まえた鶏の数は朧の方が多かったのだが、それとは別に、男と男の意地をかけた闘いがあったのである。
こうして、春にしては少々熱いほどの日差しの中、ここだけ妙にシリアスな闘いは、勝負にバスカが勝ち、試合に朧が勝った結果となった。てゆーか、二人とももう少し喋れ。
●ぷち料理対決?
「運良く卵どころか鶏が手に入たアル。ノルマンの調理法も聞いたアルし‥ここは皆に振舞うアルね」
「では、私はイギリスの手法そのままで‥」
群雷とユラが手にしている鶏。これは、ちょっと冒険者の一人が粗相をしてしまったので、報酬を代わりに買い取らされてしまったのだ。どんな状況にせよ、犯罪は犯罪なのである。人の物に手を出してはいけない。
とまあ、それはこの程度にして。肝心の鶏だが、対処に困ったので料理の出来る二人に回ってきていた。
「ウム! 太陽を浴び、適度な運動をしたコッコのお肉モ実に身が締まテそうで料理し甲斐がありそうアルネ」
早速調理に取り掛かる群雷。
「はー‥見事な物ですね。私もそれなりに料理には自信があったのだけど」
その手際の良さに、ユラは感嘆の声を上げる。
華仙教厨士の二つ名は伊達ではなく、家庭料理とは一線を画した‥それも達人と称される者の腕前でもって、群雷は鶏を調理していく。今度は卵を用いた料理の方に取り掛かる。ハッと気づいたように、ユラも自分の料理に向き直る。完成までにかかる時間を考え、全ての料理が完成する時間を合わせる。基本中の基本とも言えるが、それだけに慣れないとなかなかコツは掴めない。
「この分だと、丁度他の皆さんが全ての鶏を捕まえ終えたぐらいに完成しそうですね」
●お望みとあらば
「起きるかなっ? 起きるかなっ?」
もの凄く期待に満ちた表情で、一羽の鶏を鞘でツンツンとしつこく突いているレイジュ。その隣には、覚悟を決めたような表情で見守るリョウ。既に家屋の中に避難している冒険者達からは、物好きね‥みたいな目線が送られているが。
ちっ‥そんなに期待されちまったら、やらねぇワケにはいかねぇじゃねぇか。そんな野太いボイスで鶏の心の声が聞こえた気がする。きっとこの鶏は、そろそろ引退を考える時期なのだろう。‥んなワケないけど。
「コケェッ‥!!」
急に、一声を挙げる鶏、そして‥!
「来たぁーーーーー!」
なんだか嬉しそうだなぁ。ともかく、近くの家屋へと逃げ込む為に突っ走るレイジュとリョウ。なんだ、なんだ。そのイタズラッ子の行動パターンは。
「‥‥‥!!」
「せ、拙者達を忘れないで欲しいでござっ‥!」
あ、バスカさんと朧さんが巻き込まれた。二人とも寡黙だったり無音で行動していたので、つい他の皆も二人がどこに居るのか確認せずにやっちゃったんだろう。
冒険者達は群雷とユラの手による華国にノルマンの手法を混ぜたものと、イギリスの手法そのままの鶏料理に舌鼓を打って、またそれぞれの道へと戻る。
ちなみに鶏達だが、何故だか随分とストレスが解消したようで、翌日から卵を産む鶏の数が増えたらしい。