カニカニ☆パニック 〜あと、忘れ物〜

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:5〜9lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 86 C

参加人数:5人

サポート参加人数:1人

冒険期間:06月12日〜06月20日

リプレイ公開日:2005年06月19日

●オープニング

「な、なんでこれがここにあるんだ‥‥」
 目の前にあるモノを、呆然とした表情で見つめる青年の顔は既に蒼白。そう、それはこのような所には存在してはならないモノ。青年は慌てた様子でその建物から飛び出し、助けを求めるようにして路を駆けてゆく。息を切らせて見知った顔の下へと辿り着き、焦燥の面持ちで自分が見たモノの内容を告げる。
「なんだと‥!」
「バカな、それが本当だとしたら‥」
「と、ともかく皆で確認しに行ってみよう」

(「どうか見間違いか何かであってくれ‥‥!」)
 最初に一人でそのモノを見た青年は、そう願わざるを得なかった。自分の見間違いか何かであれば、単に早とちりして皆を騒がせる原因を作っただけで済むのだ。もし見間違いでなければ‥‥あれの担当は自分であったはずだ、上からどれだけの叱責が来るか分かったものではない。
「あるな、確かに」
 見間違いなどでは無かった。
「変だと思ったんだよなぁ‥。ちょっと積荷の量が少なく感じたし」
 そう思ったのなら、その時点で言ってくれ‥。自分の失敗を棚に上げるわけではないが、ガックリとうなだれている青年は、仕事仲間に対して心の中で愚痴を吐いた。


 翌日の冒険者ギルド。
「輸送護衛‥。目的地は、ユトレヒト侯の領内の街ですね?」
「ええ、情け無い話ですが運び忘れの物がありまして。なんとか定期市に間に合わせたいのです」
「なるほど‥」
 ギルド員は少しだけ採算の事を考えてしまう。忘れ物だけを運ぶのに、少し報酬が低めだとはいえこうして冒険者を雇ってしまっては。
 だが、商人を相手にそれは杞憂と言うもの。儲けの出ない事を、彼等がするだろうか? 海戦祭でユトレヒト侯のチームが優勝したため、祝勝会も開かれるので客足も良いだろうし、忘れ物と一緒にドレスタットから定期市に向かいたい者も運ぶつもりなのだ。
「依頼内容は、海岸沿いの道の安全に通過出来るようにする事。そのまま定期市に参加したいなら、荷馬車の護衛を行う事と引き換えに、荷馬車へ乗る事を許可する。‥こんな感じでよろしいですか?」

●今回の参加者

 ea1747 荒巻 美影(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea1798 ゼタル・マグスレード(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3260 ウォルター・ヘイワード(29歳・♂・ウィザード・人間・ノルマン王国)
 ea4847 エレーナ・コーネフ(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)

●サポート参加者

ユーリ・ノーンドルフ(ea8652

●リプレイ本文

●案外見落としがち
「出荷前に積荷のチェックをするのは常識だと思うのだが」
 じー‥‥っと、荷馬車の付近に居る従業員を見つめるゼタル・マグスレード(ea1798)。その荷馬車は、自分達が露払いをした海岸沿いの道を突っ切る予定のものだし、傍に居る従業員は忘れ物の責任を取らされて、荷の輸送をさせられていた。ただし、ゼダル自身も荷物のチェックを忘れたのか、保存食を買い忘れていた為、道中で割り増しの食事を摂る羽目になっていた。
 まあ、この依頼はそうでもなかったが、複雑な依頼だと羊皮紙一枚に書ききれず、保存食などの基本的な物の事に関しては記述されない依頼もある。記述が無くとも、消耗品の類は用意しておく事をお勧めする。
「あらあら、忘れ物なんて大変ですわね。でも、丁度、市を見に行きたかったところですのよ」
 さて、ゼタルとは反対に、ニコニコした表情で従業員に語りかけるエレーナ・コーネフ(ea4847)。定例の市であり、また交易都市であるドレスタットから近く、海戦祭などの親交もある為、ユトレヒト領内での定期市は案外規模が大きかったりする。
「普段は売ってないような物があれば良いですよね」
「ええ、珍しい書物などあれば、是非購入したいものです」
 そろそろ出発の時間となった頃、ウォルター・ヘイワード(ea3260)が知人のクレリックと別れ、荷馬車の近くへとやってきた。彼は酒場の方に所用があったので、少しの間だけ他の冒険者と別れて行動していたのだ。

「海戦祭か‥、3日間暴れに暴れたけど結局チームは最下位だったんだよな‥」
「最下位‥というと、オクトパスチームですか」
 レオン・バーナード(ea8029)はそんな事を漏らしたが、実は今回の依頼に参加している冒険者の内、オクトパスチームだった者はなんと4人。エレーナ以外は皆、オクトパスチームだったのである。まあ、海戦祭開催時にドレスタットに居なかった者も居るが。
「でも楽しかったよな。その海戦祭の時に船に乗って改めて思ったんだけど、いい季節になってきたよなぁ。漁に出てよし泳いでよし、海好きにはたまらない季節だ」
 先程の言葉の内容は、今は殆ど気にしていないのか、レオンは誰が見ても上機嫌なのが分かるような表情をしていた。漁も泳ぎも、レオンにとっては得意中の得意な事だし、何より彼は海が好きなのだろう。
「ただ、今年は少し沖に出るのが躊躇われますけどね‥」
 ウォルターの言った言葉、それはやはりドラゴン関係の事だろう。ドラゴン達が襲撃をかけてきた原因は分かったが、解決まではまだまだかかりそうだ。その解決までは、海に住まうドラゴンに船が襲われる危険性は、多少なりと残ったままである。


●カニカニ☆パニック‥のはずだったのに
「ビッグクラブ‥赤い奴は普通の奴の3倍ですかね?」
「えっと‥それは、横歩きの速度が?」
「それはそれで見てみたい気もしますけどね」
 ウォルターの言葉に、前衛として前を行くレオンと荒巻 美影(ea1747)が反応する。確かに赤い奴が居た場合には3倍かもしれないが、そんなビッククラブは多分居ないので安心して欲しい。
「それにしても今回は人数が少ないな。ま、何とかなるだろうけどさ」
「我が拳は守りの羊拳ですし、耐えるだけなら出来ますから、その間に皆さんが何とかしてくれるでしょう」
 そう言いながら、美影は後方に控える3人のウィザードを見やる。ビッグクラブは強固な殻で身を守る、中々の強敵と聞くが、彼等の魔法はそれを撃ち抜いてくれるだろう。‥いや、というか、まさかあんな結果になるとは。

 波の寄せる音が響く海岸沿いの道、どんな人間でも気づける程に潮の匂いがする。そんな、一見平和そうな道を行く冒険者の前に現れたのは、情報通りに数匹のビッククラブ!
 ハサミを鳴らしてこちらを威嚇しながら、まるで道を塞いでいるかのように、道の両脇にある岩場と岩場を行ったり来たりしている。時折、こちらを誘っているかのように岩場と岩場の間で立ち止まっても居た。
「仕掛けては‥こないみたいですね」
 美影がポツリと呟く。隣に居るレオンも意外そうにビッグクラブの様子を窺っているが、やはり相手は岩場と岩場を往復するだけで、美影の言うようにこちらに仕掛けてくる様子は無い。
「集いし不可視の力よ、眼前に立ちはだかるもの全てを吹き飛ばせ‥」
「「グラビティーキャノン」」
 ばきょ、ばきょ、ばきょっと小気味の良い音と共に、ひっくり返るビッククラブ。自慢のフットワークも魔法が飛ぶ速度に比べれば遥かに遅く、避ける事など適わずに直撃を受ける。
「「グラビティーキャノン」」
 べきょ、べきょ、べきょ。ウォルターとエレーナによる、二度目の同時グラビティーキャノン。あんまり前へと進んでこないビッグクラブに、面白いように決まっていく。ビバ、遠距離攻撃。
 ただし、相手も弱い相手ではない。最初にゼタルが撃った、初歩クラスの威力のグラビティーキャノンは殆ど効かなかったし、エレーナが撃っている一歩進んだ段階の威力を持つグラビティーキャノンでも、抵抗されたのかダメージは少ないように見えた。
「やっぱり硬い相手なんだな。ここは、殻を壊すように叩くべきだよな?」
 レオンがバーストアタックで殻ごと中身に打撃を与えると、そろそろ自分達の不利を悟ったのか、一斉に岩場の影へと逃げていくビッククラブ達。
「まずいですわ。馬車が来た時にまた出て来られると少し‥」
 ビリッ! バリバリバリ‥!
 美影の懸念の言葉を遮って、雷音がその場に響く。
「うーむ。流石にこうも大きなサイズの蟹となると、調理するには難しいか」
 ゼタルが隙を見て仕掛けておいた、ライトニングトラップが発動したのだ。流石に岩場そのものよりは少し離れた位置にしか仕掛けられなかったので、1匹しか仕留める事は出来ず、他には逃げられてしまったが、ここまで叩いておけば、しばらくは出てこないだろう。
「なんだか、結構楽に終わりましたね」
 なんだか拍子抜けな表情をしている美影だが、相手と自分の相性が良い時はこんなもんである。


●掘り出し物はありましたか?
「ノルマンの‥というわけにはいかなかったですけどね」
 それでも満足そうな表情を浮かべているウォルターの手には、イギリス王国博物誌が携えられている。
 読み書きの出来る人物が限られているジ・アースでは、書物というものはそれだけで高価で希少な物だ。こういう機会でもないと、中々手に入らない。
「こちらも目的の物はありましたよ。それに、思ったより安く売っていて助かりましたわ」
 エレーナの荷物の中には、ソルフの実が二つ増えていた。
 こちらもこちらで希少な物だが、商人が仕入れに成功したのか、客寄せ用に一人一個まで特価で販売していた。なので、予算も考えて一人だけ他の冒険者に手伝ってもらい、エレーナは二個を購入したのだ。

「うーん、このドレスタットの北の地方は精霊信仰があるとか聞いてたんだけどなぁ‥」
「それらしいものは、所々見当たる程度でしたね」
 定期市を一通り見回り、一旦休憩を取っているレオンと美影。
「市の中心部の北に、大きな教会があったからな。話によると教義は白という事らしいが‥」
 二人の隣にはゼタルも居た。特に目当ての物もない3人は、一緒に行動していたのだ。
「領主のユトレヒトさんが‥司教だっけ?」
「神聖騎士では? 司教はノルマンから布教の為の派遣、をされていらっしゃるんでしたよね」
「となると、この都市周辺ではジーザス教の影響が強いのも不思議ではないか」
 ユトレヒト侯国も数ある都市国家の一つで、ゼタルが気づいたように領主の関係上ジーザス教の影響は強い。
 だが、周辺の都市国家群では精霊信仰というものはしっかりと存在している。ユトレヒト侯国は、そんな都市国家群の中で頭一つ抜けた規模をしていると言うのが、正しい表現だろうか。河川を使った海路貿易と、近隣街道の治安維持に力を注いできた代々の領主の力量への評価も高く、海戦祭にゲストとして招かれるのも、その辺りからなのだろう。

「それにしても、色々話を聞いて回ったんだけど、この辺りにはドラゴンの被害はあんまり無いみたいだね」
「‥確かに。それはちょっと気にかかる情報かもしれませんよね」
 ドラゴン達が捜している物は、自分達の下より持ち去られた『契約の品』。どんなルートせよ、それがドレスタット周辺に流れ込んだのだとしたら、別に不思議でも何でも無いのかもしれないが。
「まあ、そういう捉え方もある‥という程度のものだな」
 少しずつ前進はしているが、中々解決の兆しを見せないドラゴン襲撃から始まった一連の事件。振り返れば、手に入れられた情報はもっとあった、もしくは早い段階で入手出来ていたのかもしれない。
 水面に投げた石は波紋を作るのだ。今回、ウォルターやエレーナが手に入れた物は、書物だったり木の実だったりでドラゴン関係の事件との関連性は無いが、それらは自分達から動いたからこそ、手に入れられた物であろう。