理由は違えど、照らされる道は同じ

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:4〜8lv

難易度:やや難

成功報酬:3 G 74 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:06月27日〜07月05日

リプレイ公開日:2005年07月04日

●オープニング

「一人だけ‥心当たりが。いや、その一人だけは試しに囲われてみたんだが‥私に対する反応がな。おかげで貴族連中に嫌気が差して、それからは全部誘いを断るようにしてきた」
 その言葉に、代わりに安めの金で絵を提供してきたが‥という言葉を続ける男に向けて、その内容には興味が無いと言わないばかりに、その男と対していたもう一人の男が口を開く。
「その一人、紹介してくれないか?」
「‥不躾な奴だな。そんなにムキになるほどの目的か?」
「目的だ」
「ふーん、言いきったね。そんなもの、僕達のような一般人にはどこか離れた位置にある話なんだけれど」
 その言葉を否定する事は男はしなかった。確かに、その男が求めていたものは、おおよそ一般人と分別されるような人間とは、離れた位置にある事だからだ。
「あまり事情は話したくないのだが‥」
 それでも男は、この掴めそうなチャンスを逃すわけにはいかなかった。
「久しぶりに見るな、そういう顔した奴は。‥いいよ、話してみろよ、聞いてやるからさ」
 そうして、アンデッドを制する術を求める男の話に、幼い頃に瞼の裏に見た天使を描き続ける男は耳を傾けた。

 この出来事があったのが丁度一ヶ月程前。それから、アンデッドを制する術を求める男‥モリスン・ブライトは単独で貴族との接触方法を考えたが、どうにも上手くいくような方法が思い浮かばない。
 いや、一個思い浮かんでいたというべきか。しかし、それは出来れば彼にとっては避けたい手段だった。その手段を選べば彼は旧友と語らう事になり、とてもあの事を誤魔化しきる事は出来ないだろう。気が合うからこその友、必ず勘付かれるだろう。
 彼がアンデッドを制する手段を求めるようになった事情、それは‥。

「いやあ、偶然ってヤツだね。まさか、こうまでタイミングが良い時になんて」
「全くだ。しかし‥どういう風の吹き回しだ? 遺跡探索には少しも興味を示さなかったお前が、今になってあの御仁と接触を持ちたいなんて言いだすとは」
「あ、ああ‥まあな」
 やはり言葉が出てこない。接触を持ちたい理由を説明していけば、必ず話さざるを得なくなる。出来る事ならば、この二人にだけは、あの出来事を話したくは無かったのに。
「探索隊に本格的に関わったら、色々拘束されちゃうよ? 僕だって、姪のシルキーを引き取って育てる事になったから、脱退させてもらったんだし」
「あ、ああ‥そうだったな。そういえば、まだ叔父と姪の関係だという事は教えて無いのか?」
「まあね。親戚だって教えちゃうと、あの子の性格だと甘えちゃうだろうから、折角の才能が伸びないと思うから」
 他愛のない雑談。
「それで、そろそろ本当の所を聞かせてもらおうか?」
 そして、その時は来た。
「シヴ‥」
「この時点でも、パリからドレスタットまでお前は来てるんだ。家族はどうした?」
 不安そうな苦笑を浮かべるアイアーと、真摯な面持ちでモリスンを見据えているシヴ。少しの間、沈黙がその場を支配したが、やがて諦めたようにモリスンは呟くように言葉を吐いた。
「家族は‥。レミリアは、死んだよ」
 それからしばらく、重い‥重い空気と言葉が流れた。

 どれぐらいの時間が経ったのか。ひどく、長い時間が経過した気もする。
「‥そうか」
 ただそれだけを言い、モリスンの話にシヴは応えた。アイアーも同様に、静かに受け止めていた。
「依頼の内容を言っておこうか‥アイセル湖にある古代の遺跡に向かうものだ。その内、一般の冒険者用にも冒険者ギルドを介して依頼が出るだろう」
「アイセル湖‥? まさか、アトランティスの民が築いたという‥」
「そのまさかだよ、モリスン」
「精霊にまつわる謎の遺跡。アトランティスの民が築いたとなれば、マジックアイテムの類もかなり期待出来る。それで依頼主の御仁も、探索隊とは別個に、個人でもこうして依頼を出してきたのさ」
 タイミングとその内容。まるで、自分はこうなるように予め仕組まれていたのではないかと思えるほどだ。全ての条件が、モリスンに『進め』と言っていた。もちろん、彼もこの機会を逃したくは無かった。
「これも、大いなる父が与えてくれた試練なのか‥」


 翌日、冒険者ギルドに一枚の依頼書が張り出された。
 内容は、アイセル湖にあるアトランティスの民が築いた遺跡の探索。第一段階として、遺跡の島へ辿り着くと共に、依頼期間の許す限り探索を行って来いというシンプルなもの。補足の説明には、黒のクレリックと火のウィザードが同行するとだけ。それ以外には全く説明がない。というよりも情報が無さ過ぎて、説明のしようが無いのだが。
 その代わり、報酬は高く、また結果次第で追加の報酬があるという。

●今回の参加者

 ea1135 アルカード・ガイスト(29歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea1747 荒巻 美影(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea6360 アーディル・エグザントゥス(34歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 ea6632 シエル・サーロット(35歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea7256 ヘラクレイオス・ニケフォロス(40歳・♂・ナイト・ドワーフ・ビザンチン帝国)
 ea7983 ワルキュリア・ブルークリスタル(33歳・♀・神聖騎士・エルフ・ノルマン王国)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 ea9907 エイジス・レーヴァティン(33歳・♂・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●すんなり上陸とは行くまいて
「ええい、結構な歓迎をしてくれるもんじゃて」
 そう言いながら、いつでも振り下ろせるようにブレーメンアックスを構え、水面に目を凝らすヘラクレイオス・ニケフォロス(ea7256)。その隣では、相手の考えが分かっていたのか、ここに到着するまでヘラクレイオスとは一線を引いて行動をしていたエイジス・レーヴァティン(ea9907)が、同じように水面に目を凝らしていた。
「‥見つけた」
 Gパニッシャーと呼ばれるメイスによって激しく水面が打たれると、それはそのまま水面の奥に潜んでいたウォータージェルを捉える。
 エイジスの腕力と魔法の補助を持ってしても、水によるクッションの効果は大きいらしく、ウォータージェルは一撃だけではまだまだ活動を終える気配を見せない。だが、エイジスはそのまま続けてもう一度メイスを振り下ろしていく。
(「な、何なのじゃこいつは‥!?」)
 それまで笑みを絶やさなかった男が、モンスターとの戦闘状態に入るや否や、その雰囲気が豹変してしまっていたのだ。エイジスのその姿は、ヘラクレイオスのハーフエルフに対する認識をより確固たる物にしたようだったが、それと同時、その戦闘能力には感服せざるを得なかったのも確かだ。
「モリスン、反応は!?」
「思ったより多いな。ヘラクレイオス達の居る方向に3、それとこちらからも接近してきている奴が居るぞ」
 ディテクトライフフォースの助け無しに、己の視力のみでウォータージェルの位置を探り当て、なおかつあそこまでの打撃を与えれるような者は、そう居ない。
「任されましたわ!」
 後衛の護衛についていた荒巻 美影(ea1747)が、相手の攻撃に耐えている間に、エイジスはもう既に2匹目に対してそのメイスを振り下ろしていたのだ。武器の能力の助けもあったとはいえ、その戦闘能力の高さは‥いや、その戦闘の様子には少し怖いものがある。

「案外に厄介な相手でしたね‥。水面下の敵ですか、少し盲点だったかも知れません」
 ウォータージェルを払い終え、陸地に完全に上がって一息をつく冒険者達。アルカード・ガイスト(ea1135)が言うように案外に厄介な相手だった。モリスン・ブライトがディテクトライフフォースを使用した際に分かった事だが、数もそれなりに多かった。
「でも、皆さん怪我の程度は軽いものですから。これぐらいなら、私が治せますからね」
 美影やヘラクレイオス、それにエイジスの怪我をリカバーで治療して回るワルキュリア・ブルークリスタル(ea7983)。こうして、ウォータージェルの奇襲をやり過ごした冒険者達は、島の内部へと歩を進めていく。


●先ずは、確保
「さて、待った。先へ歩を進める前に、やらないといけない事があるな?」
 分かっているだろう? そう言わんばかりの表情で、シヴ・ノイが皆を見渡す。現在、自分達が置かれている状況を考えてみよう。確かに、シヴの言うように、先ずやらなければならない事がある。
「拠点作りじゃな、夜に戻って休めるようテントを張れる広さがあり、見晴らしが良いに越した事は無かろう」
「他には?」
 再度、シヴが皆を見渡す。少しの間の沈黙、それを破ったのはシエル・サーロット(ea6632)だった。
「緊急時に水や食料、薪などの燃料を確保できそうな場所を捜しておく事でしょうか」
「いい線を行っているな。特に、今回のような状況では水が現地調達出来るのか、出来ないのかが最優先だ」
 少し感心したように頷きながら、シエルの発言を聞いていたシヴ。普段は皆、あまり意識をしないのかもしれないが、水‥それも飲用に耐える水というものは想像以上に確保しにくい物だったりする。
「そうですわ。シヴ様や他の皆さん、地図の方はどうします?」
「そりゃ描くだろ。その為に俺はわざわざ羊皮紙を数枚買ってきたんだ」
 ルメリア・アドミナル(ea8594)の提言に、アーディル・エグザントゥス(ea6360)は待ってましたとばかりに反応したが、シヴはどうも微妙な表情をしていた。
「どうしました? 何か問題でもあるのですか?」
「いや、確かに地図を作成するのは良いが、作った物は全て依頼主に渡す事になるぞ」
 思い返せば、船に乗っている間、冒険者達はあまり甲板に出ないように注意された。理由は航路についての情報を、漏らすわけにはいかないという事だった。探索隊の有力出資者、情報を集める術もしっかりしているが、それ以上に情報の重要性も把握しているのだ。

「よっし。じゃあ、方針も決まったみたいだし、内陸にある遺跡に向かって出発するとするか! ‥えっと、とりあえず海岸から遠ざかるように行きながら、水が確保出来そうな場所を探せばいいんだよな?」
「ええ、それで普通なら問題無いはずですが」
 スッ‥と、無意識の内に先頭に立って行こうとしたアーディルを、シエルが少し冗談の気配を感じさせながら見据えている。その光景に、不思議そうな周囲の面々。
「あ、あの‥普通なら、というのは?」
 生真面目というか素直というか、アーディルとシエルのやり取りに少し焦りながらワルキュリアが口を挟む。
「え? えーと、まあ、それは‥」
「俺、目的の村と違う村に到着してしまう事が、度々あるんだよな〜?」
 バツの悪そうなシエルを他所に、開き直ったようにアーディルが口を開いたりして。


●少し方向性が違うかもしれないが
「それにしてもモリスン様、何故このような依頼に参加を? やはり研究の為でしょうか?」
 日が落ち、島内で過ごす一日目の夜。ルメリアは以前にモリスンと会い、その研究内容を聞いていたし、研究に対する姿勢も見ていたので、彼女はモリスンがこのような場所に来るのは、何か研究に関係しているのだと思った。
「その研究ですが、アンデットを制するというのは、アンデッドを祓う為なのですね?」
 ワルキュリアは当初、アンデッドを制するというのはアンデッドを利用する方法だと思っていたが、ルメリアから説明を受け、モリスンはアンデッドの憑依状態を解く方法を探しているのだと知った。
「アンデッドと聞くと、普通はゾゥンビのようなものを思い浮かべますからね‥」
「うむ、アンデッドと一括りにするとどうしてもな。間違ってはいないし、実際、私も研究対象にしていた事もある」
 しかし、この島にアンデッドは特に存在しない。今までの道のりでは遭わなかっただけかもしれないが、今までに分かっているこの島の情報を考えると、特にこの島に研究対象となるような物が存在するとも思えない。
「では何故、この島に向かう事にしたのですか?」
 問われ、ある程度の経緯をルメリアに教えるモリスン。もちろん、自分がアンデッドを制する術を求めるようになったあの事件については伏せたままだ。

「それにしても昼間に見つけて、メモを取ったこの文字、何なのでしょうね?」
「さあ‥? シヴさん分かんないの?」
「すまんが分からないな。戻って依頼主に届ければ、学者連中が解読してくれるとは思うが」
 こちらではワルキュリアとアーディルが、昼間に発見した数々の文字について話し合っていた。
「それにしても、結局この島に着いてからジェルばかり出てきますわね。‥あんなの相手に、オーラテレパスは使ってみたくありませんわ」
 シエルが言うように、ウォータージェルの次はクレイジェルが地上に上がった冒険者達を歓迎してくれていた。


●違和感
「これは‥? 何か‥違和感を感じます」
「確かに。この周囲の風景、少し違和感を感じますね」
「ほお、流石にこの島に乗り込もうというだけあるな。この違和感に気づけるなら、中々良い筋をしている」
 最初に違和感に気づいたアルカードやルメリアに続いて、思わず周囲をキョロキョロと見回してしまう冒険者達。その様子を、自慢の顎鬚を弄りながら満足そうに見ているシヴ。
「おかしいですね、この種類の植物が、こんな大きさで生えているなんて」
「不自然、ですよね」
 それがどういう事意味しているのか、分かるだろうか? そんな表情でシヴは冒険者の方を見ていた。
「いやいや、そういう目で見られても分からないってば」
 アーディルが抗議すると、仕方ないな‥といった仕草の後にシヴは口を開いた。
「何人かは薄々実はそうじゃないか、と思っているかもしれないが、これは精霊力の影響だな」
 やはり、といった感じで頷く者が数名。
「植物が大きいという事は、地の精霊力が?」
「いや、この島が情報通りの島なら、地だけとは限らない」
「しかし、他に違和感は‥」
「待って、変化が必ず目に見えるとは限らないのでは?」
 少しの間、その場が騒がしくなる。だが、これで、この島が情報通りの島である事はまず間違いないだろう。古の民、アトランティスの民が築いたと言われる遺跡。それは確かにこの島に存在しているのだろう。
「これ以上進むとなると、今まで以上に一筋縄で行きそうにないという事じゃの‥」

「ともかく、得られた情報も多かったですし」
「その情報を書き込んだマップも出来たし、今回はこんなもんかな?」
 今回で成果を挙げたわけではなかったが、次回に繋がるものを多く手に入れることが出来た冒険者達は、満足そうな表情で帰りの船へと乗り込んでいく。そんな中、モリスンだけが友が一瞬だけ見せた暗い表情に気づいていた。