湖を越えて、太古の街並みへ

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:6〜10lv

難易度:難しい

成功報酬:4 G 83 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月04日〜07月12日

リプレイ公開日:2005年07月11日

●オープニング

「エラルド氏からの依頼ですか? しかし、探索隊の件は次の探索地が決まるまで休止だと‥。それに‥」
「確かにこの依頼は探索依頼で、探索隊と関係が無いとは言えませんが‥。しかし、探索隊の冒険者の皆さんに対しての依頼‥というわけではないのですよ」
 ギルド員は、少し早とちりをしてしまったと思おうか。しかし、探索依頼だというのに、探索隊の冒険者に対しての依頼では無いというのは、一体どういう事だろうか? ともかく、依頼内容を聞いてみる他は無い。
「探索対象箇所は、例の‥アイセル湖にある遺跡、です。実は既に先遣隊が行っていまして、それの結果を受けて‥というわけなのです。これから話す依頼内容は身勝手な内容かもしれませんが、それに応じた報酬は用意させていただきますので」
 今、ギルド員の前に居る、冒険者ギルドに依頼を持ってきているのはエラルド氏の代理人だが、ここまで話してその表情は普段とは違うものになっていた。対しているギルド員も態度を改める。
「これ以上は、この受付よりも個室でお話を伺ったほうがよろしいでしょうか?」
「‥そう、ですね。では、お願いします」
 連れだって席を変える二人。この時点で、今回の依頼がどれほど危険な物になるのか‥ギルド員は気づいていた。

「まずは、それに‥と言った理由を説明しておきましょうか。この依頼の一週間ほど前に、探索隊の出資者グループの一人から、似たような依頼が出されています。‥何故このような事に?」
「‥申し訳ありません。その事に関しては、私は知る事の出来る立場に居ませんので」
 考えてみれば、少し引っ掛かる話だ。少し前に依頼人は探索隊の先遣隊が、既にアイセル湖にある遺跡に向かったと言った。つまり、探索隊は動いているのである。にも関わらず、出資者の一人が探索隊とは別に、個人的にも探索依頼を出してきているのだ。抜け駆けと思われても不思議ではない。
「ただ‥。あの方には、現在我等人間の下にある魔法や技術では実現出来ない何か‥それを求めている事情があると、聞き及んでいます。故に黙認さ‥‥いえ、これは私の勝手な想像です」
 慌てて自分が言った言葉を否定する依頼人。
「‥分かりました。この事に関しては、これ以上の質問は控えます。先程あなたが言いかけた言葉も、聞かなかった事にします」
「‥助かります」

「正規の探索隊の代わりに探索、同時に探索隊候補も選別‥ですか」
「選別に合格する結果を出した冒険者が、探索隊へ入るかどうかは、本人の希望次第ですがね」
 ギルド員が書き上げた依頼書の内容を見返し、唸る。それを依頼人も咎める様子は無い。
 依頼内容は、アイセル湖にある遺跡の中心部までの道の探索。遺跡のある島近くまでは大型船で比較的安全な航海が可能だが、そこから先は‥正に自分達から危険へと飛び込んでいくようなものだった。上陸地点までは強行突破だし、上陸後もモンスターが待ち構えている上に、更に先へと進めば何が待ち受けているのか‥。
「その苦戦を強いられたというモンスターは、可能性としてはまず居ない‥ですよね?」
「あれは炎や光を嫌い、それに向かって攻撃を仕掛けてきます。もし居たとしたら、その時既に先遣隊がもう一匹多く相手をしていたでしょう」
 ただ、先遣隊が苦労をさせられたモンスターはもう居ないようだが‥。
「分かりました。それならば、この条件で依頼書を張り出しておきます」
「はい。くれぐれも‥受ける冒険者の方には用心するように、と」
 探索だが、先遣隊として現地に向かった正規の探索隊が動かない理由、それは‥エラルド氏の代理人である依頼人は、これ以上の損害を出すわけにはいかないからだ‥と言った。正規の探索隊員は、エラルド氏達のグループにとって貴重な財産なのだ。
「最後に、これはアクシデントから発生した依頼であり、こういった形で急に依頼を出す事になってしまい、これまでに探索隊に関わった事にある方には申し訳無い‥という感じの文を、依頼書に書き添えておいて下さい」
 もちろん、正規の探索隊員の候補者も、エラルド氏達のグループにとって貴重な財産なのだ。


 それより数刻後、依頼書を冒険者ギルドの壁に貼りながら、ギルド員は依頼人から聞いた話を反芻する。
(「探索隊の正隊員から、『欠員』が出た‥か」)

●今回の参加者

 ea3446 ローシュ・フラーム(58歳・♂・ファイター・ドワーフ・ノルマン王国)
 ea3475 キース・レッド(37歳・♂・レンジャー・人間・イギリス王国)
 ea4100 キラ・ジェネシコフ(29歳・♀・神聖騎士・人間・ロシア王国)
 ea4847 エレーナ・コーネフ(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8474 五木 奏元(50歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea8527 フェイト・オラシオン(25歳・♀・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●突っ切れ!
「助けにいっちゃダメだ! 船がひっくり返っちまうよ!」
「ぐっ‥! くそ、厄介だな‥」
 依頼主側が用意していた水夫と共に操船を行いながら、レオン・バーナード(ea8029)が大声を張り上げる。
「結構丈夫そうな船だし、大丈夫だとは思うけど‥」
 狭い船上で狂化してしまう危険性を考え、フォーリィ・クライト(eb0754)は操舵の補助に回っている。
「帰りもこの船に乗るという事を思うと、あんまりガツンガツンやられるのは面白くないわね」
 五木 奏元(ea8474)、フェイト・オラシオン(ea8527)の2人が水中のソードフィッシュに向けて、何度もソニックブームを放つが、やはり水の抵抗というものは想像以上に大きいらしく、満足にダメージを与える事が出来ない。
「ええい! こうまで威力が落ちるとは」

「槍でもギリギリ届くという距離ですわね。確かに、追い払えはしますけれども‥」
 相手が接近して、それに合わせてキラ・ジェネシコフ(ea4100)は槍を突き下ろす。だが、迎撃などお構いなしに突撃してくるソードフィッシュは、時折船底を小突いてから追い払われていった。
「ようし、わしがなんとかしてやろうではないか!」
 船尾に立つローシュ・フラーム(ea3446)。ローシュが勢いよくハンドアックスを振り下ろした直後、水面が爆発した。ダメージはそれほどなさそうではあったが、爆発の影響でソードフィッシュは一瞬散り散りになり、船は加速し島へと突き進む。
「うっひょーーーっ!?」
「な、何をやったんだ!?」
 周囲の仲間達は、何が起こったのかすぐには理解出来なかったが、ローシュは得意そうにこう答えた。
「なに、ソードボンバーを水面の中に向けて放ったんじゃよ。思ったより上手く行ったわい」

「まだ、追いすがってくるつもりの奴がいるな」
 今度は奏元の番だろうか? 全力で振り下ろされた太刀は、先程までとは明らかに違う威力で水面に向かい‥
「うわっ、嘘でしょ!?」
 確かにソードフィッシュまで、その刃を届かせたのだ。

 こうして、船の上での戦闘は想定内のものに納まり、冒険者達はあまり消耗する事なく上陸に成功したのであった。


●忍び寄る予感
「なんだ、皆結構念入りに準備してきているみたいだな」
「ちょっと毒に対する備えに不安を感じなくもないですが‥」
「ああ、解毒剤なら僕が少し多めに持ってきている。よっぽどの事が無い限り、大丈夫なはずさ」
 上陸してすぐ、船に残す荷物と持っていく荷物を整理し、全員が所持している回復手段の確認を行う冒険者達。唯一、最後衛で戦う事になるであろうエレーナ・コーネフ(ea4847)だけが、回復手段を用意していなかったが、他の冒険者達はちゃんと回復手段を用意してきていた。
 ただ、キラが懸念したように少し毒に対する備えが弱いように感じる。キース・レッド(ea3475)が少し余分に持ってきていたものの、全員分の数は無い。
「ところで、ビリジアンスライムってどんなモンスターなんだ?」
「よく分からんがあの手合いは火で焼くのがいいのでは?」
「スライムだろ? 素早そうじゃないよな」
「この前、同じようなモンスターのゼラチナスキューブに食べられかけたから、接近戦はできれば避けたいかなぁ‥」
 冒険者達は皆、ビリジアンスライムがどんなモンスターなのか、イマイチ分かってはいないようだ。スライムの一種だとは分かっているようだが、どんな大きさで、どんな攻撃をしてくるのか‥。
「回復役が居ないとはいえ、かなりの格闘の手練が揃っているんだ、そう苦戦はしないだろう」
 だが、数日後に彼等は知る事になる。格闘の腕だけで乗り切れる程、この先の道が易しいもので無い事を。


●緑の粘塊、蠢くだけが能でなし
 その技能を活かし、冒険者一行の先導を務めているフェイト。見事な足運びで、するすると音を立てずに先へと進んでいく。その良く利く目と合わせれば、まずこちらが先手を取れる形で戦闘に持ち込めるだろう。
(「しかし、これは街並みというより迷路ね‥」)
 但し、それは地形がこうでなければの話。振り返り、後続の仲間に安全を伝えながら、フェイトはそんな事を考えていた。
「しかし、なんだか涼しいな?」
「日陰というわけでもないのに、この涼しさは少し変ですね‥」
 この島が情報通りの島ならば、ノルマン北方の精霊信仰が存在する都市国家群は世界樹であると伝え、ジーザス教を信仰する地域ではアトランティスの民が築いた、精霊にまつわる謎の遺跡とされている。
「これが、出発前に話を受けた、精霊力の影響というものなのか?」
「そうなると、この辺りは水の精霊力の影響が強いという事ですわね」
 心地好いそよ風が流れ込むのを感じた冒険者達は、この付近で一度休憩を取る事にした。

 小休憩を挟んで再会した探索行、程なくして緑色の塊を複数確認するフェイト。それを仲間に伝えると、待ってましたとばかりに、ビリジアンスライムとの戦闘に入る冒険者達。だが、そんな彼等をビリジアンスライムは盛大に歓迎してくれたのだ。
「うぐぉ!」
 緑の粘塊から、その身を千切り飛ばすようにして、接近しかけていた奏元やレオンを始めとした冒険者達へと液体が降り注ぐ。
「ぐあっ!?」
 知らぬという事は、こんなにも不幸な事なのだろうか。ビリジアンスライムの攻撃方法は、その身より酸を飛ばしてくる酸飛攻撃である。当然、普通の人間が剣で払ったり止めたりするのは不可能だ。
「ふ、不覚‥!」
「大丈夫か!? ローシュさん!」
 楽勝ではないが、まさかこんな事態に陥るとは思っていなかった冒険者達は崩れに崩れた。複数のビリジアンスライムから酸飛攻撃を受け、境地に陥った仲間を助けている間に、自身が次の酸飛攻撃の的になる。
「くそ、こんなのありかよ!」
 街並みが邪魔をしていた。初撃に失敗し、少し後退した結果、相手に接近しようとするならば、少し狭くなった道を行くしかなく、複数のビリジアンスライムの酸飛攻撃を一身に受ける事になる。
「やれやれ‥。まさかこうなるとはね、少し読みが甘かったか‥」
 ここに、一人でも盾を持って来ていた者がいれば、それを壁にしてなんとか突破口を開けれたかもしれない。今の冒険者達は、なんとか後退しながら相手の攻撃を凌ぎ、体勢を立て直すのが精一杯だ。

「数が居るせいで、かなり厄介だな‥」
「魔法の対象に取るのは問題無いですけど、対象に取れた全員に魔法の効果が出るわけではないですからね‥」
 アグラベイションで支援を行っているエレーナだが、そうそう相手全員には効果は出ない。
「ですけど、8割方かけれたはずです。あと少しぃ‥?」
 突如、ぐらりとエレーナが地に崩れた。慌てて駆け寄るフォーリィが目にしたのは、エレーナの足首辺りに食いついたバイパー。弱いモンスターの部類に入るが、毒を持っている事で良く知られている。
「誰か解毒剤を!」
「気をつけろ! あっちにもまだバイパーが居やがるぞ!」
 キースから動物毒用の解毒剤を受け取り、エレーナに飲ませるフォーリィ。その間に、一匹のバイパー仕留めたレオンだが、まだバイパーが2匹ほど居るのを発見していた。
「こうなったら、回復手段の残っている内になんとかしてしまうしかありませんわ」
「だな。バイパーの対処はこっちに任せて、奏元さん達は全員で一気にビリジアンスライムに向かってくれ」
 その言葉を受け、バイパーの対処をキースやキラに任せて、奏元にレオンにフェイト、それに今までは控えていたフォーリィや怪我から立ち直ったローシュは、リカバーポーションを片手に一斉にビリジアンスライムの元へと駆け出していった。


●撤退するしかない
「どうする? 当初の予定だと、リカバーポーションなどが一定以下になったらという話だったが‥」
 なんとかビリジアンスライムの群れを倒し終え、一息つく冒険者達。そんな中、キースが皆に向けてこれからどうするのかを問う。
「重傷者が出ているわけじゃなし、手に負えなそうな敵が出てきたわけでもないわ。進みましょう?」
 紅みの残る瞳をしたフォーリィはそう答えたが、
「でも、リカバーポーションはまだ少し余裕があるけどさ、解毒剤の方はそうはいかないんじゃないか?」
 自分は持ってきていなかった引け目があるのか、頬を掻きながらレオンは撤退を勧めた。
「確かにな。毒は対処出来なければそのまま死に繋がる事になる」
「それに、さっきみたいな攻撃手段の敵が出てきたら、無駄に消耗する事になるしな」
 アグラベイションで動きを抑えたにも関わらず、ビリジアンスライムの酸飛攻撃を回避出来た者は、前衛を任された者達の中には居なかった。先に進めば、そもそも接近戦を行えないモンスターが存在するかもしれない。
「しかし! ソニックブームを使える者も多い、なんとかなるのではないか?」
 正直な所、強大な敵との戦いを期待している奏元は、まだ先へ進む事を提言する。
「攻撃手段だけあっても、どうにもならない‥いえ、この場合は効率が悪いですわ」
 そんな奏元をキラは押し留める。
「先程のビリジアンスライムとの戦闘‥。こんなペースで回復薬を使っていては、どうなる事か‥」
「う、む‥」
 おそらく、この時点でも回復薬代は報酬額を超える金額になってしまっているし、上陸時に水夫から聞いた島の大きさと、今までに進んできた距離を考えると、まだまだ中心部までの距離は残されている。厳しいようだが、このまま先へと進んでも、行き着く先は遺跡ではなくて死だろう。

「今回は認めるしかないね、自分達の認識の甘さを」
「マップも一応作成したのですけれど‥。追加情報といえば、多少の地形とバイパーぐらいでしょうか」
 冒険者達は撤退を開始した。得られたものは余り無く、失ったものは多かった。ただし、この結果から学べる事もあるだろう。武器を振り回す術だけ磨いた所で、そう簡単に登りつめられる程、この世界は易しくはないのだ。