命救う者にはなれない僕らだから
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■ショートシナリオ
担当:MOB
対応レベル:5〜9lv
難易度:普通
成功報酬:3 G 30 C
参加人数:8人
サポート参加人数:2人
冒険期間:07月13日〜07月20日
リプレイ公開日:2005年07月19日
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●オープニング
「シルキー、やはり君は冒険者には向いていないのかもしれない」
「はい‥‥」
先程まで客人と話していたエルフの男性は、客人が帰ると家の奥に戻り、エルフの少女に話しかけた。
「聞いたよ。魔法、撃てなかったんだって?」
「はい‥‥」
エルフの男性が、客人と話していた内容が思い返される。確か、話の大筋は野盗退治だった。少し内容について詳しく思い返すと、ゴブリンやコボルトを手下代わりに使っていた野盗だったらしい。
「モンスターには撃てても、人相手には撃てない、か‥」
「はい‥‥」
先程から、俯いてはいとしか答えれない少女を前に、男性は一つ溜息をつく。
「違うでしょ」
「え‥?」
「シルキーが魔法を撃てなかったのは、相手が人間だったからじゃない。相手が、自分より小さな子供だったから、だろう?」
「は、はい‥‥」
出発前に依頼内容についての話を聞き、不安に思っていた事が的中した。エルフの男性はそんな表情を一瞬だけしたが、すぐさま彼のいつもの表情‥笑顔に戻る。
「確かに、野盗の構成の中には10歳を過ぎたぐらいの子供も居る事は聞いていた。だから、シルキーもその子供に向けて魔法を撃つ可能性がある事は、理解して依頼を受けたはずだ。‥そうだね?」
「は、はい」
だが、笑顔の中から一種の威圧感だけは滲み出ていた。
「だったら何故撃たなかった?」
「それは‥」
「そんな状況にはならないと思っていた? だから、子供相手に撃てる自信も無いのに依頼を受けた?」
「ええと、その‥。はい‥‥」
また一つ、溜息をつくエルフの男性。
「正直だね、シルキーは。それは君の良い所さ、でも‥」
部屋に乾いた音が響く。
「二度とそんな心持ちであんな依頼を受けるんじゃない。身なりが子供でも、その手に握られた剣の切れ味は大人のそれと大きな差は無い、魔法となればその威力は大人のそれと変わらない。今回の依頼ならその可能性はまだ低かったが、君の行動のせいで死ぬのは、君だけじゃないのだから」
それからしばらく、重い空気がその部屋を支配していた。
「野盗団の対処、ですか?」
今日も冒険者ギルドには依頼が舞い込む。
「それにしても、問答無用で退治ですか‥。いくらなんでも、これは‥」
「仕方が無いのです。彼等はこれまでの説得を拒み続け、日に日にその振る舞いは酷いものになっていきました‥」
ドラゴン襲来の事件の折、一つの村が殆ど丸ごと無くなった。その事自体は珍しくないと言えば珍しくない事だったが、問題はその後。生き残った子供達は、生き残る為の手段として奪う事を選んだ。最初はその日の食べ物を近隣の村から盗む事から始まり、やがてそれは数日分、そしてどこから手に入れたのかは分からないが、武器を用いて旅人まで襲うようになった。
こんなにも簡単に、自分達が生きていく為の物が手に入る。その事は、年頃の子供ならば誰もが持つ全能感、それを満たしてくれ、一度その事覚えた子供達は説得には応じなくなっていった。
それだけならまだ説得の余地はあった。だが、付近に流れてきた、言わば本物の野盗に手下として組み込まされたらしく、今や完全に野盗として盗み奪う事はもちろん、時として命を奪う事も躊躇わなくなってきていた。
「こうなってしまった以上、もう彼等に同情をするわけには参りません」
さて、このような状況でそこの貴方ならばどうするだろうか?
濃緑の衣を纏ったエルフの少女なら、この話を聞くが早いか依頼を受ける手続きをしていたよ。珠に見るような良い瞳をしていた、彼女は彼女で譲れないものがあるのだろう。そして、我を通すべき所と、我を殺すべき所を、今まさに学んでいるのだろう。
●リプレイ本文
「あなた達だけでも逃げなさい!」
「で、でも‥!」
「この道を真っ直ぐ半日も行けば、他の村に辿り着けるはずだ!」
その時、小さな瞳は、両親の背後に迫る大きな獣の姿を捉えていた。いや、獣と言うには気が引ける。腕の立つ者であれば、大きなトカゲだと言い放つ事も許されるが、その大きな影は6つの足で大地を踏みしめ、その威容を周囲に知らしめていた。
「僕達の村が‥!」
運が悪かった、そう言ってしまえばそれまでの事。小高い丘まで必死に駆けた少年達が振り返ると、自分達が生まれ育った村は徐々に、しかし確実に終わりを迎えていった。
「起きろ、ガキども。偵察の奴が獲物を見つけたと報告入れやがった」
いつもの野太い声が、目覚めに不快感を差し込んでくる。
「はいはい。で、獲物って何?」
「少人数の旅人だな。喜べよマセガキ、女が半分程混じってるようだ」
「‥はっ、アンタが一番嬉しそうだよね」
「まあな」
こんなやりとりも、もう随分慣れた。獲物に女が混じっているというのは嬉しい。というのも、別に目の前に居る男が抱いているような意味でなく、単に弱いから仕事がやりやすくて楽だからだ。
「(仕事? そうか、仕事‥‥か」)
「なんだ? 変な顔しやがって」
「いや、なんでもない。寝不足かな、ちょっと頭が重い感じがするだけさ」
●誘う者達
少しだけ時間は過去へと遡り、盗賊団の偵察が冒険者達を発見するよりも更に前。
「まずは、見た目に少し手を加えて、第一印象を変えてはいかがでしょう?」
「そうやね。見た感じサイラスさんなんかは、襲う側も少し躊躇うと思うしね」
スターリナ・ジューコフ(eb0933)やクレー・ブラト(ea6282)の言葉を受け、自分の体を見つめ直すサイラス・ビントゥ(ea6044)。
「しかし、小さくなるのは無理だからな。だから敢えて大荷物を持ってきた、荷物持ちだと思わせればよかろう」
「なるほど、そういうのも良い手だと思いますわ」
サイラスの考えに賛同する荒巻 美影(ea1747)。あとは、バスカ・テリオス(ea2369)とジェンナーロ・ガットゥーゾ(ea6905)が、少し一般の旅行者にしては体格が良いだろうか。
「というかバスカ、お前それで大丈夫か?」
「‥‥大丈夫だ。俺も‥荷物持ちの役」
バスカはそう答えたが、ジェンナーロが心配するようにちょっと荷物が多すぎである。仕方が無いので、なんとか体力を浪費せずに移動出来るぐらいの量まで減らし、減らした分は他の冒険者が持つ事になった。
「なんか、ある意味労せずして商隊風になったわね‥」
そんなわけで、フォーリィ・クライト(eb0754)がそんな言葉を漏らすのも、無理は無かったりして。
「さ、伯爵頑張ってやー」
馬にも荷物を括りつけ、商隊を装った冒険者達は、依頼にある盗賊団が出没する地域まで移動を開始する。
「シルキーさん、お久しぶりですね。一番最初に、パリで試験をお手伝いしたイコンです」
「え‥? ああ、思い出しました。あの時はお世話になりました」
商隊を装って道を往く途中、頃合を見原かってイコン・シュターライゼン(ea7891)はシルキー・トライセンに声をかけた。イコンの予想通り、シルキーは一拍置いてからイコンの言葉に反応した。
(「やっぱり、盗賊団の少年達の事を考えているようですね‥」)
以前に比べれば、対人恐怖症も随分良くなったようだが、その時の彼女を知っているイコンには、シルキーが好き好んで戦いをするような者には思えなかった。
もちろん、それは今回の依頼で初めてシルキーに会った他の面々も感じた事だ。どうしてもダメだったら、坊さんの影にいな。まあ、嬢ちゃんもがんばるんじゃぞ。‥そんな言葉を、出発前の準備を手伝ってくれた冒険者達もかけていた。
(「‥! 来ましたわね‥」)
スターリナが、目の前の風景の中に不審な人影を発見した。良くは見えないが、影の大きさは少し小さく感じた。おそらく、相手の中で最も隠れて行動する能力が低い者‥一番歳の低い子供だろう。
●力で以って奪う者達
草陰から二本の矢が飛び出してくる。狙われたのは、どうやっても一番その姿が目立ってしまうサイラスだ。
「くっ‥!? だが、弓を使う者は二名という事か‥?」
避ける事も払う事もままならず、その身に二本を矢を生やしてしまうサイラス。その姿を嘲笑うようにか、周囲を取り囲むようにして草陰から次々と盗賊団員達が現れる。
(「仕方が無いとはいえ、不利な状況からスタートってのは嫌なもんだね」)
ジェンナーロが心の中で愚痴を吐く。あくまでも自分達は襲われる側なので、愚鈍なフリをして盗賊団に囲まれてしまわないと相手が警戒するだけで、下手をすれば戦闘に持ち込む前に勘付かれて逃げられてしまう。
「さ、この状況がどんなものなのか分かるだろ? 置くモノ置いて、引き返してもらおうか」
置くモノ‥と言いながら、冒険者達が抱えていたり馬に積まれている荷物に目を移し、最後にはスターリナの方に視線を留める盗賊の一人。怯えているような振る舞いの相手にいたくご機嫌のようだが、それはスターリナの狙い通りだったりする。
(「とりあえず、自分らは一旦退がるフリした方が良さそうやね‥」)
全員が商隊に扮しているこの状況で、相手の要求に従わないのは不自然なので、美影、フォーリィ、スターリナ、シルキーをその場に残し、男性陣は荷物を置いてその場を離れていく。矢を受けたサイラスを気遣いながら、相手の射手の位置を把握した上で。
残された物を眺め、下卑た笑いを浮かべながら盗賊団員達が近づいてくる。
「くっく‥、こんな大当たりの日は久しぶりだぜ。おかげ様で随分と溜まってんだ、今日は‥」
「それには応じかねますね」
そんな盗賊に対し、それまで怯えていたフリをしていたスターリナは態度を一変させ、言葉を放つ。
「何を‥?」
不可思議な相手の態度の変わりように、盗賊は一瞬頭の回転が止まった。
「あぐっ‥ぁ‥‥!?」
冒険者達からすれば、予め想定していた行動。美影は同じように自分の近くへと来ていた盗賊に対し、懐からナックルを取り出し握り込むと鳩尾に一撃を叩き込み、そのまま続けて腹部への強打に体を折った盗賊の頭部に強烈な回し蹴りを放つ。
「今からは、これまでの行いに応じた報いを味わいなさい?」
盗賊の一人が地に倒れる音を耳で拾いながら、スターリナは手を自分の前に居る盗賊へと掲げた。
「ぎぃやあああああっ! あっ、あああああああっ!?」
高速詠唱による、即時発動ライトニングトラップ二連発。
「お、お前ら!? うを!」
突然の事に、慌てて倒れた二人の仲間の元へと駆け寄ろうとする盗賊に対しては、フォーリィがソニックブームを撃ち込んだ。そして、周囲に接近してきていた他の盗賊団‥少年達には、シルキーがアグラベイションを唱えていた。
「シルキーさん!?」
シルキーにそんな事は出来ないと思っていた冒険者達は一瞬戸惑う。
「わ、私は‥!」
「‥! そのまま補助をお願いしますわ!」
それでも、やはりシルキーが少し無理をしている事を感じ取った美影は、シルキーにそのまま『補助』を行う事を指示して、盗賊団に対して向き直った。
●見過ごす事は出来ないのだ
「貴様らが‥‥貴様ら‥がぁぁぁ!!」
最も早くに仲間の元へと駆け戻ったバスカ。そのまま最奥に居た盗賊団の一人に対して、ロングスピアをただ真っ直ぐに突き出した。単純な一直線の攻撃だが、それゆえにその威力は‥。ロングスピアをなんとか引き抜くと、相手はその場に崩れ落ちた。
「お前らがドラゴン襲来の事件の被害者だってのは知ってる。だが、やっちゃいけないものはあるんだ!」
もう既に、彼等は罪を重ねすぎた。自分達が討たなければ、彼等はこれからもより弱い者より奪う生活を続けていくだろう。少年達が、正しい道へ導く大人に出会えなかった事を悲しみながら、ジェンナーロは長さの違う二本の刀を器用に操り、少年達を斬り伏せていった。
(「彼等には、冒険者になる道もあったと云うのに‥」)
飛んでくる矢をリュートベイルで受けながら、少しだけ勘違いをしてしまっているイコン。残念ながら、冒険者になるには、身元の保証と登録の為の費用が要る。誰でも彼でもなれないからこそ、冒険者ギルドには、時折重大な事件に関わる依頼も持ち込まれるのだ。
冒険者優位で事が進む中。一人の盗賊団の青年が、無造作にシルキーへと接近していく。他の冒険者達は、丁度自分の相手の対応に追われていて、その接近を阻む事が出来ない。正に、ここしかないタイミングでその青年は駆けた。
「‥‥!」
振り下ろされる剣が横にずれたように見えた。相手の攻撃に対してサイコキネシスを唱えたのだろうか、シルキーはなんとか大怪我を避ける事には成功したが、濃緑の衣に鮮血の色が混じる。
「喝っ!」
それまで相手をしていた盗賊を跳ね除け、サイラスがシルキーの援護に入る。だが、勢いよく繰り出された拳を、盗賊団の青年はまるで拳を『観察』しているような様子で、小さく動いて避けた。
(「な、なんだこの者は‥!?」)
分からないが、この者には攻撃が完全に見えている‥いや、攻撃を感じ取っているとでも言えば良いだろうか。戦闘の才を秘める者の中には、このような挙動を見せる者も居ると聞く。
(「あかん、なんかそいつヤバいで!」)
大急ぎでコアギュレイトの詠唱を開始するクレー。幸い、この青年は魔法の仕組みについて知らないのか、特に妨害を受ける事なく詠唱は完了し、束縛は成功する。その間、青年の相手をする事になったサイラスは、自分の実力がこんなに低かったのかと錯覚を覚えさせられた。
「あたし達にはこの子達を助ける事が出来ない。捕えて突き出されるより、今ここで殺された方が楽だわ。‥だから、あたしが一思いに楽にしてあげる」
最後に残った盗賊団の少年に対し、フォーリィはロングソードを突き立てる。この少年、先程まで瞳を朱に染めたフォーリィの纏う雰囲気に圧され、満足に剣を振るう事無く地に倒れ伏してしまっていた。
●命救えずとも
周囲が何か騒がしくなった、ようやくゆっくり眠れると思ったのに‥。だけど、今は酷く体が重い。この喧騒の中でも眠りに落ちれるだろう。スクロール? ああ、それなら、スクロールを沢山持っていた男から奪ったものだ。たしか、ロー‥
「ちょ、ちょっと皆、これ見てくれへんやろか?」
盗賊団を倒し終え、一息つく冒険者達だったが、クレーがスクロールを一つ手に持って皆を集めた。そのスクロールには、二人の人物の名前と、下段に書かれた名前の隣に、連絡を行う、といった内容の言葉が走り書かれていた。
「こ、この上に書かれている名前は‥!?」
ラテン語で綴られたそのスペルは、ロキ・ウートガルズ。
「なんでこんなものに、ロキの名前が‥どういう事だ?」
「とにかく、これはギルドで預かってもらうなりした方が‥」
思いがけぬ所から飛び出した、ドラゴン襲来から始まった一連の事件解決の手がかり。詳しい事情を聞こうにも、残念ながらこのスクロールを持っていた青年は既に事切れていた。
盗賊団の遺体を埋葬し終え、簡素だが立てられた墓標の前で十字をきるクレー。その隣では、シルキーが同じように死者の冥福を祈り、跪いていた。
「不幸な奴等だぜ。出会った大人が、よりによってこんな奴等だったんだからな‥」
「このような戦いをせねばならんかったが‥輪廻転生、これもまた慈悲なり。この魂が、来世では真っ当な道を歩めんことを」
もちろんその後ろには、他の冒険者達も居た。
「シルキーさん?」
その中で美影が、何かを呟いているシルキーに気づいた。
「‥歌です」
「歌?」
「死者に捧げる歌、魂を鎮める歌。ずっと前に、お師匠様のお友達が訪ねて来た時に教えてもらったんです」
彼等には、少年達の命を救う事は出来なかった。その事実はどうやっても変えられないけれども。
「そうやね。この子らにはゆっくり眠ってもらわんとね」
野に響く歌声。こうして依頼を終えた冒険者達は、ドレスタットへの帰路についたのだった。