それぞれが追い求めるモノ

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:5〜9lv

難易度:やや難

成功報酬:6 G 60 C

参加人数:7人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月28日〜08月12日

リプレイ公開日:2005年08月05日

●オープニング

 その応接の間には、一枚の絵が飾られていた。この屋敷に住まう御仁は、とある一つの事に関しては異常なまでの興味を示すが、それ以外にはあまり興味を示さない。いや、正確にはとある時を境に興味を示さなくなった、と言うべきだろうか。
 だから、普通の貴族であればこうやってここに絵が飾られていても何ら不思議ではないが、この屋敷の御仁の事を知っている者が見れば、不自然なのだ。
 しかし、それも御仁の事情を深く知る者からすれば不自然ではなくなる。物事の裏には、いくつもの理由、原因、事情が折り重なり、表面のみから察せれる事は、それらに対してあまりにも少ない。

「反対です。もう、あの遺跡には関わらない方が良い‥」
「しかし‥君の報告は聞いた。学者達から遺跡にあった文字の解読結果の報告も受けた」
 気難しい顔で向かい合う二人。本来ならば、こうして向かい合うには二人の身分は違い過ぎるが、それを無視させるだけの理由が二人の間にはあった。屋敷の御仁にとって、目の前にいる男は貴重な人材なのだ。
「リッド卿、確かにアイセル湖の遺跡に貴方が求める物は無いかもしれない。しかし、まだ中心部までは全然辿り着いていない。まだ可能性は残されている、もう少し探索を行うべきだ」
「そう提言するのはやはり‥」
「先程も言ったはずだ、あちらの遺跡にはもう関わらない方がいい」
 自分に遠慮するなく言葉を放つ者に対して、リッド卿と呼ばれた人物は一つ息を吐く。
「命を紡ぐ秘法など無い、あの遺跡は‥命を喰らう遺跡だ。‥あの時、君が言った言葉だったな」
「はい‥」
「しかし、私に‥いや‥」
 そこまで言って、リッド卿と呼ばれた人物は壁に飾られている絵に視線を移した。
「彼女の残された時間は少ない。この月の初めに言ったように、遅くとも6ヶ月早くて3ヶ月、もっと早まるかもしれない」
「‥‥‥」
 いつしか、男もまた壁に飾られた絵を眺めていた。美しいと言うべきだろうか、魅力的だと言うべきだろうか、その壁に飾られた絵に描かれている天使の絵は優しく微笑み、こちらに向けて手を差し伸べていた。

「もう一度、アイセル湖の遺跡に行ってもらう。期間は取る、人数も多めだ、報酬も弾むし、消費した消耗品代も出すとしよう。そして‥参加者が希望するならば、一時的に私の元にある武具も貸し出そう」
「調べれるだけ調べて来い、そういう事ですか」
「そうだ。そして最後に、あの遺跡に向かう希望者を近い内に募る事を伝えてもらいたい」
 リッド卿と呼ばれた人物のその言葉に、男は立ち上がって抗議する。
「だから! あちらの遺跡に向かうのは何度も反対だと!」
「別に、君がやらなくても、私は彼に頼むだけだ」
「‥! モリスンにやらせるつもり、ですか‥」
「そうだ。彼ならば、喜んであの遺跡に向かう事に賛成してくれるだろう」
 それが、あっさりと彼を受け入れた理由か。勘付いてはいたが、友の行動を止める事が出来なかった自分を恨むと、男は自分の顎鬚を弄り始めた。こういった状況になった場合の、彼の癖だ。
(「私も、もう少しだけ準備の時間が必要だからな‥」)
 そしてこの数日後、ギルドに一枚の依頼が張り出される。内容はアイセル湖の遺跡の調査、中心部まで何としても進み、調査を行って来る事。詳しい調査内容は同行する者より伝えられる、となっている。


 依頼がギルドに張り出された頃、リッド卿は一人で壁に飾られた天使の絵の前に立っていた。
「予定通りに事は進んでいる。探索隊からの人員の引き抜きも問題無い。だから、だから‥もう少しだけ耐えていておくれ、私の‥」

●今回の参加者

 ea1798 ゼタル・マグスレード(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea3990 雅上烈 椎(39歳・♀・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea6360 アーディル・エグザントゥス(34歳・♂・レンジャー・人間・ビザンチン帝国)
 ea6632 シエル・サーロット(35歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)
 eb0933 スターリナ・ジューコフ(32歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●イグドラシルへ
「分かった。では、この剣は私が借り受けよう」
(「この剣を返す為にも、必ず無事に戻ってくる‥」)
 依頼出発直前、依頼主から貸し出される事になっていた貴重なマジックアイテムである攻撃力の高いロングソード、それを確かに受け取りながら、雅上烈 椎(ea3990)は心の内で一つの誓いを立てていた。
「だが、ゴーレム系などの、所謂硬い敵が出た場合は、レオンさんがこの剣を振るってくれ」
「ああ、そん時は任せときなって」
 ぐっ、とポーズを取ってみせるレオン・バーナード(ea8029)だった。出来る限り、状況に合わせて自分達の取る手段を変化させる。手を抜いてしまいがちの部分だが、徹底すればその見返りは確かに自分達へと返ってきてくれる。
「それにしても15日間ていう長丁場だからね。前回水場が発見出来たってのは大きいわ」
 前回の情報を元に、作成された地図を見ているフォーリィ・クライト(eb0754)。
「ええ、今回はそこを拠点にして探索を行う事になりますわね」
 フォーリィの横から覗き込んで、同じく地図を見るシエル・サーロット(ea6632)。地図にマークされた水場の位置、現地での活動は10日弱になるが、その期間分の水を持って行動するのは結構きつかったりするので、この水場はかなり有難い。

 前回と同じように、大型の船で遺跡の島近くまで向かい、上陸用の小型船に乗り換える。
「前回はここでウォータージェルに襲われたのですわよね‥」
「いきなりの奇襲だったわけか。初めの内に消耗してしまうと後が厳しくなるからな、今回はしっかり警戒していこうか」
 シエルの言葉に応じてか、それとも聞かなくても考えていたのか、ゼタル・マグスレード(ea1798)がブレスセンサーを発動させる。
「‥! そこの木陰、何か居るぞ!」
 すると、陸地に上がってすぐにある木陰に何かの存在が感じられた。
「この状況だと、相手はこちらに気づいていますわよね」
 スターリナ・ジューコフ(eb0933)が自分達の姿を見返す。上陸する為に船を降りた状態、近くに居る者からすれば発見は容易だろう。案の定、相手は木陰からスルスルとその姿をこちらに向けてきた。
「うわっ、これまたでっかい蛇だな」
 這い出てきたのはジャイアントパイソン。レオンが得物の穂先を相手に向けながらそんな感想を漏らしたが、無理もない。情報にあった地の精霊力の影響により動植物を育む力が強いのか、一般的なサイズよりも一回り大きいのだ。
「‥! 結構動きが速いな!」
 椎がレオンの隣に進み出て、他の冒険者達を守るような布陣になる。こうして、まずは大蛇との戦闘から遺跡の探索依頼は幕を開けることになった。


●こんな所に迷いの森?
「遺跡だ探索だ冒険だ。遺跡の肝は最深部にあり。目指せ最深部! 目指せ大発見!」
 アーディル・エグザントゥス(ea6360)が冒険者達の先頭に立つ。
「まずは地図にある水場を目指すのよね?」
「ああ、そこを拠点として、探索を行う予定だ」
「魔法を使う人は、しっかり休まないと力が戻ってこないらしいからな。ま、おいらは別にどこだっていいんだけど」
 まずは地図に書かれている水場を目指して突き進む冒険者達。最初のジャイアントパイソン以降、ブレスセンサーには何も引っかからず、今の所は安全な道のりだ。先頭を行くアーディル、その後ろに続くフォーリィやゼタル、レオンも軽快な足取りで歩を進めていた。

「‥で、私の嫌な予感が的中しましたわね」
 島に上陸して数時間、冒険者達は迷子になっていた。
「ちょ、ちょっと待ってくれよシエルさん。いくら俺でも、地図があって迷うなんてないぜ」
「まあ、それもそうですわよね。さっきのは、ほんの冗談ですわ」
 そう言いながら軽く笑うシエル。だが、一瞬の後には表情を曇らせる。
「それもそう‥なのですわよね」
「地図を見ているのはアーディルさんだけじゃなかったしね。ある程度、他の皆と話ながら道を決めてきたんだし」
 どう考えてもおかしい。歩いた距離を考えれば、もうとっくに水場に着いていてもおかしくない。まさか地形が変わっているとでも言うのか? この遺跡の事を考えればそれも考えれなくはないが‥。
「ちょっと気になってきてたんだが‥僕達は先程から同じ道を歩いてはいないか?」
 ゼタルの言葉に他の冒険者達は一瞬キョトンとした後に、賛同の意を‥
「そう言われ‥」
「そんな事無いって。そりゃ多分、既視感ってやつだよ。既視感ってやつ」
「‥てみれば」
 ‥いや、待った。約一名を除いて賛同の意を示した。
「フォレストラビリンスか? いや、ここに居る皆全員が効果を受けるとなると‥」
 シヴ・ノイが顎鬚を弄りながら思考に陥る。
「‥! あっ!」
「な、何? スターリナさん急に声をあげて‥」
「今小さな‥あれはきっとエレメンタラーフェアリーでは?」
「あっ、あれだね!」
 今度はフォーリィが発見したようだ。だが、そのエレメンタラーフェアリーも一目散に逃げ出してゆく。
「彼等の仕業か‥?」
 モリスン・ブライトが訝しげに彼等が去っていった方向を見やる。
「多分そうなんじゃないかな。今のところ、他に原因や犯人は見当たらないし‥」
「この遺跡自体にそういった能力があるのかもしれないが‥」
 何にせよ、結論は出そうに無かった。一つ言えるのは、原因が遺跡にあれ、犯人がエレメンタラーフェアリーであれ、冒険者達はここの地に歓迎されているとは言えないという事だけは確かだ。
 少し時間が前後するが、帰りに冒険者達がこの地点を通過する際、不自然に歪んだ木々に気づく事になる。どうやらプラントコントロールとフォレストラビリンスを複合させ、冒険者を惑わせていたようだ。

「あれは、ミノタウロス‥!?」
 森を抜ける直前、冒険者達は少し離れた位置に牛の頭を持った巨人を見かけた。シエルが身構えながら相手の種族を呟く。
 遺跡、それもこういったある程度の建築物が残り、天然の迷宮と化しているような場所に赴かんとする者ならば、その名前は聞いた事もあるだろう。知性は低く、迷宮内閉じ込められている事も多いが、大変好戦的な種族だ。
「ちっ! 同じ箇所を回らされていると思い、ブレスセンサーを使わなかったのが裏目に出たか」
「相手もこっちに気づいたみたいだな!」
 ゼタルが舌を打ち、レオンが槍と盾を構える。だが、構えられた盾を見てなお、そんな物には自分は止められないとでも言うのか、斧を振り上げ猛然と突撃をしてくるミノタウロス。
(「うぉ‥、こりゃちょっと怖ぇ‥!」)
 ぐっ、と体を強張らせるレオン。それを感じ取ったのか、更にその前に椎が踊り出る。
「椎さん!?」
 ゴギィッ‥!
 重く鈍い音と共に、後方へと飛ばされる椎。しかし、飛ばされはしたものの椎自身は無傷だ。
「これがマジックアイテムか‥! あれを受けて刃こぼれ一つ無いとは」

「ここは退きましょう。無駄に消耗するわけにもいきませんわ」
 椎が体勢を立て直すと同時、スターリナが撤退を勧める。
「何っ!? 逃げろというのか!?」
 いきなりのその提言に、反対する冒険者も居たが‥
「まだ依頼期間は始まったばかりですわ。それに、目的はあくまでも遺跡の調査ですし‥」
「現れる敵全部と戦ってたら、こっちの身が保たないって。期日ならなきゃ、迎えの船は来ないんだぜ?」
 他の冒険者の言う事も、尤もな話だ。
「いい判断だ。モンスターを倒すというのは、先に進む為の手段の一つでしかないからな」
 そして、シヴの言葉がダメ押しになった。
 冒険者達は呼吸を合わせると、一斉にミノタウロスから逃げ出し、更に後方へライトニングトラップ、ファイヤーウォールを置いていった。その鮮やかな退き方に、ミノタウロスは怒りの声を上げながら追撃を諦めざるを得なかった。


●断たれる世界
 少し日付は進み。冒険者達は遺跡の中心部へと確実に歩を進めていった。
「驚いたな‥。緑に埋もれているとはいえ、ここの遺跡は殆ど原型を留めているぞ」
「あ、これ知ってるぜ。なんか精霊の力を借りれるっていう、魔除けの印だ」
 どこかの街で聞いた話だったか、何かの本の中にあった記述だったか、どちらかは忘れてしまったが、アーディルは遺跡にそこかしこに彫られている印に気づいた。
「ええっと、これは確か‥‥地の精霊、かな?」
「やはり、私達が進んできた所では、地の精霊の影響力が出やすいようになっているのですわね」
「でもそうなると、この遺跡ってまだ生きてるって事?」
 『遺跡が生きている』。それはつまり、遺跡が建造された時と同じ力を持っているという事。緑に埋もれてしまっているが、殆ど原型を留めているこの遺跡ならば、そのような事になっていたとしても、何も不思議ではない。

 そうして先を進んで行く冒険者達を、出迎えてくれる存在があった。
「な、何だこの変な感覚は‥」
 突如襲い来る、強烈な違和感。
「何て言えばいいのかな? 外に居るのに部屋の中に居るような気分?」
「世界が‥‥狭く感じる。とでも言えば良いのかしら?」
 そう、遺跡自身だ。
「これ以上前には進みたくないな。かといって、横から回り込むのも許してくれなさそうだ」
「進みたくないっていうより、進めないと言うべきか‥」
「やっぱり、ここから持ち出された物を戻しに来ないと、進ませてくれないのかな?」
 この遺跡よりとある物が持ち出された為にこうなったのか、それとも元よりこの遺跡はこういった力を発しているのか、それは分からないがとにかく、今のこの遺跡は冒険者達を拒んでいるかように、その道を狭めている。

 長いと思われていた依頼期間も、瞬く間に過ぎていった。だが冒険者達は、勝手知らぬ土地にありながら上手く消耗を避けつつ探索を行い、無事に再び船へと疲れきった体を預ける事になった。
「依頼主の要望でな、君達に教えておかなければならない事がある」
 そして、そこで新たな遺跡に関する情報を得る。それは依頼主にとっては、ドラゴン達が執着するモノよりも更に価値のあるモノ。それが存在する、最も可能性の高い遺跡の話だった。