選ばれし者達へ

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 90 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月11日〜09月26日

リプレイ公開日:2005年09月20日

●オープニング

 とある酒場で、男が二人、卓を挟んで向き合っている。
「どういう事だ‥?」
「‥仕方が無いのだ。私の古い友人があそこへ行きたがっている」
 どっからどう見ても、険悪な雰囲気丸出しである。特に片方の大男の方は、今にも相手に掴みかかっていきそうな姿勢だ。反対に、もう一人の男は酷く冷静‥いや、その表情の暗さと静かさは悩みからくるものか。
「もうあの遺跡には近づかないと約束したはずだ」
「私もそのつもりだったさ。だが、友人は真剣だ‥あの地にある何かを確かめたいと思っている」
「そんなもん、勝手に行かせればいいじゃねぇか」
「死地に向かう友を見捨てろというのか」
 少し落ち着いたのか、大男の方は姿勢を戻して椅子の背に身体を預ける。
「そうは言ってねぇよ。お前もあの遺跡の事は説明したんだろう? それでも行きたいなんて言う奴は、どっかおかしいぜ」
「ああ、彼もそれは認めていた。ある意味、もう彼には失うものが無いからな」
「‥どういう事だ?」
 二人の男。一人はシヴ・ノイ、火のウィザード。もう一人はデガンツ・ゼベン、クレイモアを携えたファイター。そして、彼等が話している彼という男はモリスン・ブライト、最愛の家族を失った聖職者。

 運命の歯車が狂い始めたのは何時からなのか。
 それとも、歯車は正しく、彼等はただ選ばれ導かれているだけなのか。
 止まらぬ流れに巻き込まれていく者は、どのように思っているのだろうか。

「ダメだ。やっぱり俺にはあそこに行く気にはなれねぇよ‥」
「‥そうか。それも仕方あるまい」
 シヴは、席を立ち卓を離れると、そのまま酒場を出て行く。残されたデガンツも、もうすっかり温くなってしまったエールを飲み干すと、酒場を後にしようとした。しかし、それは一人の女性によって少し引き止められる。

 数日後、冒険者ギルドにリッド卿から大口の依頼が舞い込む事になる。
 止まらぬ流れに巻き込まれた者は、そこから脱する事は許されないのだろうか‥。

●今回の参加者

 ea4677 ガブリエル・アシュロック(38歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4847 エレーナ・コーネフ(28歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)
 ea6282 クレー・ブラト(33歳・♂・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 eb0933 スターリナ・ジューコフ(32歳・♀・ウィザード・エルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

●炎の道標
(「再び、遺跡までの地理の書かれた地図を手に取る事になるとはな‥。これが、私の運命なのか」)
 シヴ・ノイの右手にあるのは、依頼において目的となっている遺跡までの地図。ただ、わざと過剰な道が書かれていて、この地図を見ただけでは遺跡までの道筋は分からないようになっている。
「遺跡の情報を独占‥ちゅうても、ここまでやってあるとはなぁ」
 クレー・ブラト(ea6282)は感心したように地図を眺める。彼が持っている地図は、シヴが持っている物と全く同一の物だ。この地図に、これから得られる情報を書き込む事によって、初めて遺跡までの道筋が判明するのだ。
「灯火よ、道を照らせ‥!」
 バーニングマップ。一枚の地図が燃え落ち、残った灰にくっきりと一つの線が浮かび上がる。
「なるほどなぁ。これを、こっちの地図に書き込めばええんやな?」
「ああ、そうだ。書き終わったら、もう一枚同じ様に書き込んで、向こうの班にも渡してやってくれ」
 今回、リッド卿からの依頼は二つ出ている。どちらも同じ遺跡に向かうものだが、単に班分けに関して手早く明確に分けてしまいたかった為にこういった形を取ったらしい。今、二つの依頼の参加者達は、ドレスタットから3日の位置にある補給地に着き、これからの遺跡に向けての進撃の準備を行い、英気を養っている所だ。

「なんとも分かり易い。死者の復活や不老長生を目指す者が喜々として食いつくであろう存在です。依頼は完璧に果たすつもりですが、この件については深入りしたくないですわ」
「シヴもその方が良いと言っていた‥。だが、私には、それでも確かめたいものがあるのだ」
 クレーとシヴが、これから使用する地図を作成していた頃、モリスン・ブライトはスターリナ・ジューコフ(eb0933)を始めとした冒険者の面々に、自分の目的を話していた。
「なるほどな。それでこの遺跡に向かいたかったわけか」
 やはり人づてでは情報に誤りが生じてしまうのか、ガブリエル・アシュロック(ea4677)がモリスンに対して、あまり不用意にアンデットに近づかなように勧めたのが、そのキッカケだった。
「研究熱心、なのですわねぇ」
 モリスンが行っているのは、アンデッドの制御法の研究。目的は人体に憑依したアンデッドを強制的に、確実に排除する手段の確立である。自分が行っている研究を熱く語るモリスンを見ながら、エレーナ・コーネフ(ea4847)はいつものようににこやかに笑っていた。

 保存食と水をバックパックに詰め、持っていく物のチェックを行ったり、体力の無い者の荷物を他の者が一時的に持つなどの相談をする冒険者達。だが、こうして各冒険者達が着々と準備を進めていく中、一人の男だけが、不安を隠すようにしてその顎鬚を弄り続けていた。
(「嫌な、予感がする‥。また、仲間を失う事になりかねない、そんな予感が‥」)


●天使と悪魔と生者と死者
 怖いくらいに順調だった。まるで、自分達は選ばれた者で、遺跡は自分達が足を踏み入れるのを心待ちにしているかのようにも感じる。それ程までに、何の障害もなく冒険者達は遺跡へと辿り着いた。
「途中で見かけたトラップの痕。あれを覚えていれば、この先にトラップが残っていたとしても判別がつきますわね」
 本来なら冒険者達の往く手を阻んだであろうトラップの数々も、今は無力と化している。
「なんやか拍子抜けしたなぁ。まぁ、肝心のアンデッドはまだ出てきてへんわけやけど」
 スターリナとクレーが先頭に立ち、遺跡の内部へと進んでいく。まだここは遺跡の入り口、各所の風化が結構進んでいるせいか、大分光が差し込んできていて、予想していたよりも随分明るい。
「エレーナ、そろそろ警戒を頼む」
 ガブリエルの言葉に応えて、エレーナがバイブレーションセンサーを発動させる。モリスンのディテクトライフフォースでは、アンデッドを探知する事は出来ないのだ。

「でもなぁ‥『アンデッドと判断するしかない』、そういうモンやったわけやろ?」
「魔法に対する反応を見る限りでは、そうとしか思えない存在‥だったわけですものね」
 慎重に先頭を進むクレーとスターリナ。
 遺跡までの道中で、シヴが語ったアンデッドについての情報‥。確かに生きている人間のように振舞う事もあったが、一度戦闘となれば動作は単純で、こちらを襲う事しか考えていないようだった。もちろん、大怪我を負っても動きが止まるまでこちらを襲い続けて来た。
 魔法に対しての反応もそうだ。ブレスセンサーやディテクトライフフォースでは探知出来ず、バイブレーションセンサーやディテクトアンデッドでは探知出来る。腐敗が進んでいないという、その肉体の不自然さはあるにしても、アンデッドの一種と判断するしかない。
「人が知っている範囲は、まだまだ世界の一部でしかない‥そういう事ですわね」

 モリスンの足が止まる。その隣で、エレーナも同じように壁面に書かれた文字を読んでいる。
「‥読めるのか? ここに書かれている文は、中々難しい語句が使われていると思うが‥」
「え? ええ‥まあ、少しだけです。文の流れはなんとなく分かるのですが、正確な意味までは‥」
 記憶の糸を手繰りながら、エレーナは目の前にある文を読み解こうと試みる。
「死の‥理? を、受け入れる事を‥拒む、者よ。でしょうか‥?」
 アンデッドに関する事柄が書かれているのだろうか?
「その前の部分に、やがて訪れるその存在‥とあるな」
「ああ、そこの部分は読めませんでした」
「やがて訪れる‥か。まだ生きている者に対しての言葉のように思えるが‥」
「‥! 何か来ますわ!」
 エレーナとモリスンの思考は、スターリナの言葉で停止させられる。それと同時、ガブリエルとクレーは得物を抜き放ち、暗闇の向こうより接近してくる存在に対して、いつでも反応出来る態勢を整える。
「来たか‥?」
 シヴ、スターリナ、エレーナ、モリスンも、いつでも魔法の詠唱を開始出来る状態へと移る。
「‥! な、なんや!? 普通のアンデッドかいな!?」
 だが、現れたのは、しっかりと腐敗の進んだアンデッド達。
「ただの、ズゥンビのように見えますが‥」
 動作を見る限り、その動きは緩慢で、知性があるようにも見えない。
「ディテクトライフフォース‥! ‥反応無しか。通常の生命では無い事は確かだ」
 冒険者達の動揺を察知して、モリスンが相手の存在を確かめるが、反応は彼自身が先程言った通りだ。


●選ばれし者
(「何だ‥!? 何が起きた‥!?」)
 冒険者は必至に頭の中にある記憶を思い返してみる。
 確か、何の変哲もないズゥンビが現れ、そして自分達はそれを退けた。そして、そのまま先へと進むと、話にあった腐敗の進んでいないアンデッドが居た。‥異常な光景だった。大広間で、華麗にダンスを踊る一組の男女、それがアンデッドだったのだから。
 誰も、その場から‥大広間に入った入り口から先へと進む事が出来なかった。明らかに怪しい、怪しすぎる、何かの罠が仕掛けられているとしか思えない。警戒を強め、周囲を窺う自分と仲間達‥それが最良の選択だったはずだ。
「逆に利用された、というわけか‥」
 ガブリエルが痛む体をさすり、起き上がると、他に2名が自分と同じようにこの場に居る事が分かった。
「まぁ‥、あんな高い位置から私達落とされたのですわねぇ‥」
 上を見上げると、ぽっかりと三箇所の穴が見える。そう‥急に足場が消え、自分達は地下へと叩き落されたのだ。

「んー‥? ひい、ふう、みい♪ 思ったより上手く行きましたねぇん?」
 上に残された冒険者達は、先程まで大広間の中央で踊っていた一組の男女から話しかけられていた。
「ど、どないなってんのや‥?」
「わ、私にも分からん。確かに人間のように振舞う事はあったが、ここまでは‥」
「自分達から話かけてくるような存在は居なかった、と?」
「あ、ああ‥」
 残されたのは、クレー、スターリナ、シヴの3名。
「幸運に思って下さいよぉ? 貴方達は選ばれたのですから♪」
 ギィ‥。会話の最中に入る、上空の不自然な音。直後の轟音、木の割れる音。
「なっ!? 何が降って来た!?」
 咄嗟に身をかわし、難を逃れる冒険者達。
「あーら‥残念、避けられちゃましたか。しかも、壊れちゃいましたねぇ‥。ま、寿命です、寿命♪」
「こ、これ‥ウッドゴーレムか?」
 ボロボロに朽ちて崩れてるその姿を見て、クレーはそう感じ取った。製作されてから随分長い年月使用され、碌に整備もされなかったのだろう、その体を構成している木材は、先程の落下の衝撃に耐えられなかったようだ。
「ほぅら余所見しないの!」
「ぇ‥!?」
 吹き飛ばされ、壁に叩きつけられるクレー。
(「速い‥! なんてものじゃない、なんだこいつは!?」)
「デビルかっ!?」
 クレーを殴り飛ばした女性のアンデッドに対し、その足元へファイヤーウォールを張るシヴ。
 単純な魔法の威力だけでなく、身を包んだ衣にも炎が燃え移る。異常な戦闘力を示した相手も、これには堪えたのか引き下がり距離を取る。未だ燃え続ける衣服を力任せに破り捨て、惜しげもなく肢体を晒すと、やはりその肉体はどこも殆ど腐敗していない。
(「とてもアンデッドとは思えない‥やはり、デビル?」)
 敵の正体が掴めない。デビルだと思えるが‥それならば、ファイヤーウォールそのものの炎で怪我を負う事はあっても、そこから燃え移った炎では傷付かないはずだ。
「黒の発光‥!? 黒の補助魔法か!」
 シヴが身構える。先程のやりとりの間に、男性のアンデッドが魔法を詠唱し終えたらしく、その身を黒き光で包んだ後にシヴとスターリナに迫る。今度は、スターリナがライトニングトラップを発動させるが、その雷撃は相手に何一つ怪我を負わせる事をしなかった。
「残念賞♪」
 クレーと同じく、壁まで吹き飛ぶスターリナ。
「な‥‥んで‥?」
 答えは単純だ、おそらく‥ニュートラルマジック。

(「こんな相手が居るとはな‥!」)
 最初にクレーが飛ばされた時、その手より零れ落ちたティールの剣を拾い上げて構えるシヴ。
「クレー! スターリナ! 逃げろ! コイツは、私達の手に負える相手ではない!」
「なぁに言ってるんですか、逃がすわけ無いじゃないですか♪」
 シヴが構えたティールの剣が、力任せに弾き飛ばされる。だが、それでもシヴは相手を見据えたままだ。
「‥気に入らない表情ですね」
 女性のアンデッドが割って入り、シヴを蹴り飛ばす。
「じゃあ、こっちのお二人に餌になってもらいましょう。貴方は‥そうだな、メッセンジャーで♪」
 ゆっくりと、クレーとスターリナの下へ歩み寄る男性のアンデッド。二人の下に残された抵抗の手段は、無い。卑しい笑みを浮かべながら近づいてくる男の後ろに、はっきりと死の像が浮かび、クレーとスターリナの意識を支配する。
「あ‥♪」
 その、怯える二人の姿を見て、ますます男は顔を歪めていく。
「イイ、イイですよぉ! その表情!」
 殴打。
「やめ‥‥! ろ‥」
 シヴの喉下へ撃ち込まれる、女性のアンデッドの掌打。
「イヒッ! イヒッヒヒヒ! 安心しなさい! ッヒ! 殺しはしません! この子達は餌なんですから、この惨状を見ても乗り込んでくるような人を待ってるんですよ! その自信とそれに伴う身体、魂‥貴重ですからねぇ! ッヒッヒヒヒ!」
 殴打、殴打、殴打。
「やめろぉぉぉーーー!!」
 潰れた喉から搾り出される濁った叫び。
「ア、あ〜♪ そんな顔してそんな声出せるんじゃあないですかぁ♪」
 殴打、殴打、殴打、殴打、殴打。

「さ、それを持って出て行きなさい♪」
 立ち去っていく男女のアンデッド。
「あ、そうだぁ。イイ声聞かせてくれたお返しに、一個だけイイ事教えて差し上げますよ♪」
 情報が少ない時は、普通、思いつく限り最悪の展開を予想するものだと‥。十全の状態で敵と向き合う事など、これから先はそうそう許されるものでは無いのだから。


●執念の収穫
「これは‥!」
 大急ぎで羊皮紙に模写していくモリスン。
 彼等の遥か上にて惨劇の起こっていた頃、彼やガブリエル、エレーナはなんとか地上に戻るべく道を探していた。その途中で発見したのが、この部屋。
「儀式の間‥でしょうか」
「禍々しいな‥」
 エレーナとガブリエルの感想そのままに、その部屋は禍々しく‥何かの儀式を行う間として作られているようだった。
「あら‥? この先にもまだ部屋があるようですわね?」
 エレーナの視線の先には小さな穴があった。どうやら道として作られているのではなく、遺跡が崩れた出来た通路のようだ。
「狭いな。よ‥っと」
 必死に模写を続けるモリスンを他所に、エレーナ達はその先を覗いてみる。エレーナに続いてガブリエルが小さな穴を潜り抜けると、そこにはまた大広間が広がっていた。
「なんだこの大広間は‥? 本来ここへと通じていた通路は‥崩れているようだな」
 ガブリエルが視界の端に崩れ落ちた通路を捉えた。
「何でしょう? この‥大きな魔法陣は」
「床には魔法陣が描かれているが、壁には特に何も無いようだな」
 その大広間を包む空気、それに対する直感でこの魔法陣への言葉を紡ぐとすれば‥『眠っている』。

「‥ダメですわ。こんなの、さっぱり分からない」
 魔法陣を調べ始めて一分もしない内にエレーナは諦めざるを得なかった。
「モリスンにも後で見てもらうか‥」
 彼でも分からないだろうな‥。そう思うガブリエルの考えは当たっていた。
 複雑怪奇な文字が躍っている魔法陣。それこそ、国が管理している書物の中にしか資料が無いような文字ばかりが躍っている。この魔法陣の中には、現代に生きる人間達の誰もが知らないであろう文字すら存在しているかもしれない。
 遥かな過去に描かれた魔法陣。分かったのは、これと‥先程までモリスンが熱心に書きとめていたアンデッドに関する先人の知識・技術、それが別々のモノらしいという事。
「この魔法陣、気にはなるが‥」
 この遺跡に残っていた、アンデッドに関する先人の知識・技術に関する情報を手に入れる事は出来た。

 この後、ガブリエル達3人はなんとか地上へと戻る通路を発見し、そして、クレーとスターリナの二人抱えながら遺跡外部へ脱出しようとするシヴと合流する事になる。