導かれし者達へ

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:6 G 90 C

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:09月11日〜09月26日

リプレイ公開日:2005年09月20日

●オープニング

 すっかり温くなったエールを飲み干し、自分もそろそろ卓を離れようと思った矢先、その卓に近づいてくる影があった。その人物に掛けられる言葉に、男はハッとして顔を上げる。
「よう、ガンツ。 ‥? なんだ、しけたツラしてんなぁ」
「‥! ぐ、グラキじゃねえか。こっちに戻って来てたのか?」
 一人は女、グラケルミィ・ワーズ。もう一人は男、デガンツ・ゼベン。親と子‥とまではいかないが、10以上年の離れているこの二人。簡単に言うと戦闘に関しての師匠と弟子の関係にあたる。
「丁度いい時に会ったぜ。ほら、探索隊がちょっとごちゃごちゃしてるだろ?」
「ああ、上の連中が揉めているらしいな」
 ここまで言ってデガンツが、何かを思いついたような顔になる。
「って、グラキ。なんでお前探索隊の事を‥」
「んだよ、知らねぇのか? ああ、いや、ちょっと待て。さっき、こっちに戻ってきてたのかって言ったよな? 全く、可愛い弟子の事ぐらい、もうちょっと興味持っておいて欲しいもんだぜ」
 この後、自分が探索隊入隊を志願している事と、そしてその為にいくつか依頼を受けた事。そして、そろそろ出るとされているリッド卿からの遺跡探索依頼に、自分は参加する予定である事をデガンツに告げるグラケルミィ。
 当然、デガンツの反応は決まっていた。
「止めておけ。あそこにだけは行くんじゃない」
「そりゃ、どういう意味だよ」
 グラケルミィは一気に苛立った表情になって言葉を返す。
「あそこはな‥‥‥」
 しまった、という表情をするデガンツ。自分と、シヴと、アイアー、それに他数名で約束したのだ。グラケルミィにだけは、あの遺跡に関する事は極力話さない事にしていた事を。
「どう、説明したものか‥」
 デガンツが言葉に詰まる。しかし、こうやって言葉に詰まっていればグラケルミィが何かに勘付きかねない。彼女の勘の良さは、彼女に戦闘技術を教えたデガンツが一番分かっていた。
「なんだよ、急に押し黙っちまって。ま、どんなヤバい遺跡だって言われても、アタシは行くけどな」
「そうか‥よし。なら、俺も行くとするか。ここのとこ、探索隊の依頼がなくて困ってたところだしな」
 グラケルミィを留まらせる為に遺跡の説明をすれば、下手しなくても必ず彼女はあの事に勘付く。そして、勘付かれたが最後、どんな言葉をもってしても彼女が遺跡に向かう事を止める事は出来ないだろう。そう思ったデガンツは、自分も依頼を受ける事を決意する。

 数日後、冒険者ギルドにリッド卿から大口の依頼が舞い込む事になる。
 導かれるようにして集う者達、彼等を導いているモノは天使か悪魔か‥。

●今回の参加者

 ea6561 リョウ・アスカ(32歳・♂・ファイター・人間・イスパニア王国)
 ea6632 シエル・サーロット(35歳・♀・ナイト・人間・ビザンチン帝国)
 ea8029 レオン・バーナード(25歳・♂・ファイター・人間・ノルマン王国)
 ea8417 石動 悠一郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8594 ルメリア・アドミナル(38歳・♀・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb0754 フォーリィ・クライト(21歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

●導くのは、灯火
「これが、シヴはんに作ってもろうた地図や」
「え? あ‥ありがと」
 頭にいくつもの?マークを浮かべて、向こうの班から地図を受け取るフォーリィ・クライト(eb0754)。
「お、来たな。変わってねぇなぁ‥今もこうして管理してんのかよ」
 受け取った地図には幾筋もの道が書かれているが、その中に一本だけ最近書き加えられたと思われる道がある。これが遺跡までの正しい道筋で、これ以外の道へと進めば厄介なモンスター達が出迎えてくれるのだ。
「なるほどねぇ‥」
 この地図は、バーニングマップで同一の地図を燃やす事で、初めて作成する事が出来る。
「地図と、遺跡までの情報を知っていてバーニングマップを使える人、その二つが揃わないと無理なのですわね」
 ルメリア・アドミナル(ea8594)も感心したように地図を眺めている。
「そういう事だ。この地図無しに闇雲に行こうとしても、まあ‥まず死ぬだろうな」
「まず死ぬって、そんなに危険なの?」
 だが、デガンツ・ゼベンに脅しているような感じは見られない、本気で言っているようだ。
 冒険者達は今、ドレスタットから3日の位置にあるリッド卿が用意させた補給地に居るが、ここから先の地は殆ど人の手が入っていない。食料や水を確保するだけでも一苦労だし、モンスターも何が出てくるのか全く分からない。
「ああ、そうだ。今の内にデガンツさんに聞いておきたい事があるんだけど」
「それは、わたくしもですわ。グラキさんから少しお話を聞きました‥向かう先の遺跡について、お教えして頂けませんでしょうか?」
「‥‥‥」
「わたくしからもお願いします。グラケルミィ様に秘密にしておいて欲しい事があるのなら、それについてわたくし達も口外しませんわ」
 シエル・サーロット(ea6632)も加わり、冒険者3名から質問攻めに合うデガンツ。
「そうだな‥あんた達自身の命に関わってもくる事だ。それに、この依頼が終わった後でグラキの奴に教えようとも考えていたしな‥」
 弟子の成長は喜ぶべきものだ。だが、どうして彼女はこちら側へと来てしまったのか。こちら側へ来なければ、一生隠し通せたかもしれない、一つの、一人の事実。
「それでは、この遺跡がグラキさんの‥」
 そして、それは、話を聞き終えたシエルが呟いた言葉。

「よーしよし、良い子だ。馬次郎、此処でおとなしく待ってるんだぞ」
 そんな石動 悠一郎(ea8417)の様子を見ているリョウ・アスカ(ea6561)とレオン・バーナード(ea8029)はちょっぴりデジャヴ。いや、ちょっぴりとかデジャヴとかじゃなくて、まあ‥昨日の夜も見た。
「昨晩、レオンさんがデガンツさんから聞いてきてくれた話だが‥」
「今から向かう遺跡も、アイセル湖の遺跡と同じで『生きてる』ってヤツ?」
 まるで、遺跡自身が意志をもっているかのように、生きた存在が遺跡へと辿り着くのを拒んでいるという。
「地図の件にあるような遺跡周囲の状況。それに、トラップ‥特殊なアンデッド達」
「確かに障害が多いね」
 普通なら、遺跡に対する探索を中断してもおかしく無いほどの投資が、探索部隊に対して行われている。それにも関わらず、今回こうして遺跡への探索が行われるのは、依頼主のリッド卿の固執が原因に他ならない。


●導くのは、誰?
「ふうむ‥やはり刀とはバランスが違うな」
 遺跡に到着して二日目。初日は遺跡周囲の状況の確認だけで終わったが、二日目からは本格的な調査が開始されていた。向こうの班も、ついさっきランタンを手に遺跡内部へと足を踏み入れて行ったところだ。
「それにしても、こいつ等ただのズゥンビみたいだったな」
 慣れぬ西洋剣の感触を今も確かめている悠一郎の隣、倒れ伏したズゥンビ達を見ながらレオンがそんな事を呟く。
「確かに‥ごく普通のズゥンビのようでしたわね」
「まさか、この状態から復活〜‥とかしないよね?」
 いぶかしむシエルと、恨めしそうな動きをしながら周囲に問いかけるフォーリィ。ハーフエルフの彼女が素の状態のままという事は、このズゥンビ達はさしたる緊迫感も与えられない‥今の冒険者達にとって弱い存在だったという事だ。
「ガンツ、どうなんだ?」
「んーむ‥こういう普通のズゥンビは居なかったハズだ。もっと‥人と互角かそれ以上に素早い動きすらするような相手だったんだが」
 道中、デガンツから遺跡に出るアンデッドについて聞いていた冒険者達は、一様に頭を捻る。
「遺跡の力が弱まっている‥というのであれば、助かるところですわ」
 そう言いながらもルメリアはどこか残念そうで、他の冒険者達もそれには同じ思いだ。
 確かに、遺跡の力が弱まっていて、強力なアンデッドの個体が存在しなくなっているのだとしたら、遺跡の探索自体は容易に進む事になる。だが、探索終えた時に得られる物も、同時に衰えてしまっている可能性が高い。

 だが、そんな心配はこの日の太陽が西へと落ちる頃に拭いさられる事になる。‥最悪に限りなく近い形で。
「向こうの班は、3人を連れて先に補給地点まで帰る事になった‥か」
 向こうの班が遭遇した、異常な戦闘力をもったアンデッド‥いや、デビルだろうか。
「シヴさんの話では、前に居たものと違って完全に人並みかそれ以上の知性があるようですわね」
 その上で尚、遺跡へと足を踏み入れて来いと誘って来ている。
「で、でもさ、モリスンさんが既にアンデッドに関する情報を手に入れてくれたんだろ? だったら‥」
「いや、依頼主の希望は‥今生きている者の命を延ばす事だ。アンデッドとなって残る事ではない」
 デガンツ自身も詳しい事情は知らない、リッド卿からその事情を聞かされているのはシヴぐらいのものだ。モリスン達は地上に戻る事を優先したため、遺跡の内部の調査が行われていない部分が残っている。そこに、まだ依頼主の求める物が残っている可能性がある以上、仕事はこなさなければならない。


●ルドナス・ワーズ
(「待っていたよ、あの時からずっと‥」)

 向こうの班が進んだ道を歩んでいく冒険者達。
「この先の大広間だよな、そのアンデッド達が現れたって場所は」
 レオンにある大広間に近づくにつれ、冒険者達は警戒を強めていく。だが、大広間へと足を踏み入れた冒険者達を出迎える物は誰もいない。壊れたウッドゴーレムと、壁のあたりに少し血の痕が残っている事と‥
「これが、エレーナさん達が落とされた穴みたいね」
「足場が消えたという事は、魔法か何かによるものだとは思われますけど‥」
 ポッカリと入り口の辺りに何箇所も空いた穴。シエルが言うように魔法的な何かによるものだとは思うが、どういう仕掛けなのか、正確な所は分からない。フォーリィが覗き込めば、かなり下まで落とされる事が確認出来る。
「向こうから誰か来るぞ」
 悠一郎の言葉に応じて、ルメリアがブレスセンサーの詠唱を始める。大広間の向こうから、闇に閉ざされた通路の向こうから現れたのは、男女のアンデッド‥だけではなく、もう一人、男性が居た。この場にいる二人にとって、忘れられようもない男が。
「ルドナス‥!?」
「なんで‥!?」
 ルドナス・ワーズ、かつてこの遺跡を訪れた探索隊の隊長であり、グラケルミィを拾い育てた男。
「待っていたよ、あの時からずっと‥」
 大広間に響く声。
「ブレスセンサーに反応‥1つ」
 告げられる事実。
「ど、どういう事だよ、それはぁ!」
 例え、それがどんなに受け入れがたい事だとしても。

 向こうからの情報では、男女のアンデッドはディテクトライフフォースに反応しなかったという。そして、今目の前に居る3人からは、ブレスセンサーによる反応は1つ。普通に考えて先頭に立っている男の反応だろう。
「ルドナス、本当にお前なの‥か?」
 デガンツは相手の姿を見た時から、その正体に完全に意識を奪われていた。
「お、おいガンツ。これは一体、どうなってんだよ!?」
 グラケルミィも同様だ。そして、ゆっくりと近づいてくる相手に対し、殆ど警戒も出来ずに立ち尽くしている。他の冒険者も、目の前の男が二人の知り合いらしいという事と、そして何より魔法に対する反応は、彼をアンデットではなく普通の生きている存在だと言っている。
(「そうだとしても、おかしいですわ‥!」)
 だが、シエルを始めとした数名は違和感を感じ取り、警戒を続けていた。その理由は、男の後方に居る男女のアンデッドもそうだが、何よりデガンツの話ではルドナスが絶望的な状況で仲間と離れ離れになったはずだという事。生きてこの場に現れるのは、到底信じられる事ではない。
「二人に、見せたいものがあるんだ。少しこっちに来てくれないか‥?」
 歩み寄りながら、懐から何かを取り出す男。デガンツはその誘いのままに足を踏み出していく。
「ちょ、ちょっとデガンツさん!」
 制止の声が耳に入っているのかいないのか、目の前で起きている事は、到底信じられる出来事では無いはずなのに。だが、それも無理もないのかもしれない‥。補給地点でデガンツから聞いた話、それは今目の前に居る男、ルドナス・ワーズを見捨てて逃げ帰ってきた話だったのだから。
 ドッ! そして、その思いを嘲笑うかのように‥いや、笑みなど何も零れないまま事は進む。
「ルドナス‥!? 何‥を‥‥?」
 崩れ落ちるデガンツ、血を滴らせる刃、それが、全て。


●正体不明
「我、武の理の持て穿つ刃を放つ‥飛突!」
 真空の突きと斬撃がルドナスに迫る。悠一郎やフォーリィは何処と無く勘付いていて、いつでも動ける体勢でいた。
「リョウさん、グラキさんの援護をお願いしますわ!」
 シエルも同様だ。オラーパワーをリョウの斬馬刀に付与して送り出す。
「何やってんだよ、お前えぇぇ!」
 かつての仲間を刺した男に対し、グラケルミィがウォーアックスを振りかぶって迫る。だが、その渾身の力をもって振り下ろされた鉄塊は受け止められ、グラケルミィも他の冒険者も、その信じ難い光景に驚愕せざるを得ない。
「人間に出来る業じゃないな! あなたの正体は一体何なんだ!」
 リョウの斬馬刀も凌ぐが、流石に多勢に無勢を感じ取ったのか一旦後退するルドナス。彼の後方から、男女のアンデッドが迫る。こちらもこちらで、人間の脚力で可能ではない速度だ。
「速いっ!? こんなに速く動くアンデッドなんて、見た事ないぜ!」
 ライトシールドで相手の攻撃を受け止めながら、その異常な身体能力を目の当たりにするレオン。

「‥飛突!」
「雷鳴よ、疾風に乗り敵を貫け」
 後方から飛んでいくソニックブームとライトニングサンダーボルト。前に立っている冒険者達も、その射線が上手く通るように考えて動いている。その隙の少なさは、男女のアンデッド達の素早い連携に優っていた。
「スマッシュを使っている余裕は無いけれど‥!」
「これならいけますわね、皆さん最後まで油断せずに!」
 レオンが味方の援護を受けながら、女性型アンデッドと互角以上の戦いを繰り広げる。お互いに大きな怪我を負わせていないが、徐々に、しかし確実にレオンが相手を押していっているのが分かる。
「チッ‥! 油断しちゃいましたかねこれは! 仕方無い‥ルドナス、そこに寝ている男を!」
「‥! やらせるかよ!」
 男のアンデッドの言葉に従い、瀕死に近い状態で横たわっているデガンツにトドメを刺すつもりなのか、その手に持った剣を振りかぶるルドナス。そして、それを止めるべく突撃するグラケルミィ。相手を敵として認めているグラケルミィに迷いは無かった。だが‥
「‥グラキ」
「‥!?」
「助けて‥くれ。俺はアイツに操られて‥」
 止まるグラケルミィ、苦悶の表情で助けを求めるルドナス。だが、その表情はすぐに歪み‥
「‥いるんだ、完全に‥ねぇ? ッヒヒ!」
 飛び散る鮮血の華、崩れ落ちていくグラケルミィ。

「グラキさん!!」
 その光景に、シエルが弾かれるように飛び出していた。だが、いわゆる後衛としての能力しか持たない彼女に何が出来るでもなく、ただグラケルミィがこれ以上傷つかないように身を挺して守るだけ。
「ホントに‥これだから人間ってのは。ま、だからこそ楽が出来るんですが‥」
「お前ぇ!!」
 シエルを蹴り飛ばすルドナスに、真空の刃が突き刺さり‥
「クライシスシザース!」
 出来た隙にリョウが全力で斬馬刃を打ち込むが、それでも相手は受け止める。異常だ‥。このたった数分の間に何度も見たが異常な光景である。だが、それよりも目を疑いたくなるような光景が冒険者達を待っていた。
 ボトッ‥! ルドナスの腕が、壊れて地面に落ちたのだ。そう、壊れてと表現するのが正しいほど、それは酷く損傷していた。衣服に隠れていたので、今の今まで誰も気づかなかったのだろう。
「あ〜あ、時間切れ‥ですねぇ。残念‥ここは私の負けです、さあ‥殺してもらって結構ですよ?」
 壊れた両腕を広げながら、そうおどけるルドナス。いや、かつてルドナスであったモノ。
「な、なんなのよコイツ‥」
 フォーリィのその言葉は、その場に居る冒険者全ての気持ちを代弁しているかのようだ。相手が何者なのか、全くもって分からない。その性格からして、デビルの一種なのではないかと思えるが‥。
「本体は、どこか別の場所に居るようですわね」
「そういう事♪」
 ルメリアの言葉に、惜しげもなく答えてみせるルドナスの形をしたモノ。どうやら、現時点では自分の正体とその位置が、絶対にバレないと確信しているようだ。


●夢は、越えた先に
 デガンツとグラケルミィを抱え、遺跡を一旦出る冒険者達。二人の怪我は向こうの班ほどには酷くなく、数人が二人の護衛、残りが遺跡の探索を行う事になった。依頼は遺跡の探索、これを行わずして戻る事は許されない。
「これ、何かしら?」
 そんな探索行の中で、フォーリィが発見した小さなアクセサリ。中央に宝石が埋め込まれたものが、厳重に蓋をされた石の宝箱にいくつも入っていたのだ。石の宝箱に彫られた文字を読んだルメリアによると、どうやら何かの媒体であるらしい。

「二人の状態はどう?」
「大丈夫、今は落ち着いて眠っておられますわ」
 帰り道のテント、腹部に重傷を負って寝かされているグラケルミィとデガンツの横には、シエルが付き添っていた。どうやら、命に別状は無いようだ。ただ‥
 悠一郎とレオンが様子を窺いに来た時、シエルが慌ててグラケルミィから離れたように見えたのが、ちょっと気になったけれど。