弟弟子が出来ました♪

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:3〜7lv

難易度:普通

成功報酬:2 G 4 C

参加人数:4人

サポート参加人数:1人

冒険期間:10月04日〜10月09日

リプレイ公開日:2005年10月13日

●オープニング

「う〜ん、まさかあの子がこんな‥」
 人は見かけによらないもの‥とは良く言ったものだが、今回の場合はエルフだったりする。
 まあ、そんな細かい事は横に置いておくとして、いつも微笑みの男性エルフ‥アイアー・ゼクが、今は珍しい事に苦笑の表情。笑顔と言えば笑顔に違いないのだが、はてさて、彼を悩ませている種は彼の弟子にあった。

「おかわりっ!」
 満面の笑みで空になった器を差し出すパラの少年。
「はいはい、ちょっと待っててね〜」
 その器を受け取り、新たな食事を盛り付けるのはエルフの少女。
 彼女の名前はシルキー・トライセン、以前は対人恐怖症で、事あるごとにアースダイブで地面に潜っていたものだが、今ではすっかり冒険者の肩書きが相応しいウィザード。
(「ああん、もう‥あんな顔でおかわりっ‥なんて、可愛いなぁ‥」)
 ‥なんだかちょっと雰囲気が怪しいが。

 少し、時間経過順に説明しようと思う。
 まず、アイアー・ゼクの所に新しい弟子が来た。元々、アイアーの知り合いの下で基礎の修行などはみっちりこなしており、ウィザードとしてのレベルは‥例えて言うならばデビューしてから半年程の冒険者ぐらい。
 冒険者として活動する為に、地方からドレスタットに出てきたのだが、アイアーが現在ドレスタットに居るという事を聞きつけた為か、それとも修行の詰めをアイアーに見てもらう為か、彼はアイアーの家に住む事になった。それが、パラのアスト・アステという名の少年だ。
 それで、彼はシルキーの弟弟子という形になったわけなのだが‥。
「それじゃあ今日からよろしくね、シルキーお姉ちゃん」
 あどけない顔に浮かぶ、満面の笑み。
 まあ、色々省いて言ってしまうとクラっと来たわけです、シルキーさん。それはもう、かなりの勢いで。

 その後、本当の姉弟のように半月程を過ごし、アストもドレスタットの生活にも慣れてきた頃、アイアーが手頃な依頼を見つけたので、アストは晴れて冒険者デビューをする事になった。
(「心配だわ‥!」)
 君の瞳の中に炎が見える、そんな感じ。
「お〜い、シルキー‥人の話聞いてる?」
 アイアーの呼びかけにも反応せず、まさに心此処に在らずといった感じ。
「お師匠様!」
「は、はいっ!?」
 何を思いついたのか、急に振り返って声をあげるシルキー。アイアーもびっくりである。
「やっぱり私、心配です。影からこっそり見守ってこようと思います!」
「影から見守るって、アストの事‥だよね?」
 もの凄い勢いで首を立てに振るシルキー。隠密行動など得意に見えない彼女が、一体どうしようというのだろうか。
「お師匠様はこんな時の為に、私にアースダイブを教えて下さったんですよね!」
「え? いや、違‥」
「じゃあ、行ってきます!」
 アイアー、あらゆる意味で完全に置いてきぼり。

●今回の参加者

 ea1798 ゼタル・マグスレード(28歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea9803 霧島 奏(41歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 eb1964 護堂 熊夫(50歳・♂・陰陽師・ジャイアント・ジャパン)
 eb2435 ヴァレリア・ロスフィールド(31歳・♀・神聖騎士・人間・イギリス王国)

●サポート参加者

カールス・フィッシャー(eb2419

●リプレイ本文

●最低人数揃えば
「人数がギリギリになってしまいましたね。一体一体を個別に、確実に仕留めていくようにしましょう」
「そうだな。少数人数での戦闘だ、不意をつかれ、或いは囲まれるなどすれば一気にこちらが不利になる」
 今回のバグベア退治の依頼に参加した冒険者は5人。たったの5人で出発する事になったのは心許ないが、冒険者ギルドのギルド員が、最低でもこの人数が居れば依頼を達成出来ると判断したのだから、戦い方次第で十分依頼は達成出来るはずだ。もし、依頼の達成が不可能な人数でも出発するような依頼書を書いたり、参加する冒険者の数が最低数揃っていないのに出発させてしまうようなら、それは単にギルド員の職務放棄である。
「地形を利用したり、罠を仕掛けていきたいところですね」
「こっちの戦力も把握しておきたいわね。アスト君が使える魔法は何があるのかしら?」
 どうやら、参加した冒険者達はそれを良く理解しているようだ。ゼタル・マグスレード(ea1798)、霧島奏(ea9803)、護堂熊夫(eb1964)、ヴァレリア・ロスフィールド(eb2435)は、今自分達の下にある戦力を把握し、それを最大限に活かす方法を考えていた。
「えっと‥僕が使える魔法は、グリーンワードとグラビティーキャンだよ」
「ん‥? 二つ?」
「確か、使える魔法の数は三つだと‥」
「うん、でも後の一個は秘密。切り札は自分以外には教えるな‥って、師匠が」
 可愛い顔をしながら、このアスト・アステという少年はしっかりしている。冒険者としての最初の依頼が、ゴブリンやコボルト程度でなく、バグベア退治というのも頷ける話かもしれない。
(「アスト君も、当然戦力の一員と考えては居ましたが‥」)
(「十分に一人前の冒険者のようだな」)

 ただ、そのパンパンに膨らんだ荷物だけは少し気になった。
「アスト、その荷物だが‥自分で十分持てる量なのだろうな?」
 心配したゼタルが声をかけた。彼もそうだが、ウィザードは一般的に他より体力の面では劣っているので、持ち運ぶ荷物については人一倍考慮しなくてはならない。ゼタルのようにドンキーと連れているのなら良いが、そうでないアストには少々多すぎる荷物に思えた。
「え? 大丈夫だよ、重い物は入ってないもん」
(「「何が入ってるんだろう‥?」」)
 確かに、試しに熊夫が持ってみたが、アストでも十分持ち運べるような重さだった。それだけにその中身が気になる。だが、冒険者同士、あまり他人の荷物を詮索するものではないので、依頼に必要なものが揃っているのであれば、それ以外に何を持ってきていても構わないと思う事にした。
 ‥まあ、中身は全部保存食なんだけど。


●なんか、居る
「‥何か、オマケが付いてきているようなのですが」
 アストに聞かれないように、すぐ隣に居るヴァレリアにだけ聞こえるような小さな声で話す奏。『自分達を尾行している存在』については、ドレスタットの街中から感じられていた。
「やっぱり、あの姿はシルキーさんだと思われるのですが‥」
 熊夫が言うには、彼女の名前はシルキー・トライセン。ドレスタットでの打ち合わせの最中に、アストが言っていた自分の兄弟子‥いや、この場合は姉弟子とでも言ってしまおうか? ともかく、そういう存在だ。
「依頼の参加枠は空いていたのですから、参加して堂々とついてくれば良いのに‥」
「それだと、アストに邪険にされると思ったんだろ?」
 後ろでボソボソと話をしている3人。アスト以外の冒険者達は、どうやらシルキーがずっとついてきている事が分かっているようだ。まあ、こうやってコッソリ誰かの後をつけるなんていう行動は、シルキーには到底出来そうにない行動なのだから仕方無い。
「アスト、初依頼だからかやはり緊張しているようだな、もう少し肩の力を抜いた方がいい。そんな様子では、バクベアと遭遇する前に体力を消耗してしまうぞ?」
 幸いと言うべきなのだろうか? アストはどうやら初依頼という事実から少し緊張しているようで、後ろからついてきているシルキーの存在にまで、気が回っていないようだった。

 はてさて、そんなこんなで一日目の行程は終わり、冒険者達は本日の宿を取る事にした。明日は目的地までの距離と道筋の関係上、野宿するしかないが、今日のところは村の宿でぐっすりと眠れるのである。
「この辺りも結構、ドラゴンの襲来から立ち直りつつあるな」
「それでも、表面的なものだけでしょうけどね」
 この宿も修理したと思われる箇所があった。
「明日からが本番と言っても過言ではないからな。今日の所は早い内に休んで‥‥」
 ゼタルの視線の先には窓、窓にはそこから覗く影、影の正体は‥もちろんシルキーである。
「ゼタルさん?」
 キョトンとしたアストが、その視線の先を感じ取って振り返ると、そこには誰も居ない。
(「な、なんでこっちがこんなにハラハラしなければならんのだ‥」)
 アストがもう一度正面を向くと、それに合わせてまたひょっこりと顔を覗かせるシルキー。アストが振り返って窓の方を見ると、それに合わせて顔を引っ込めるシルキー。阿吽の呼吸とかそんな領域。
(「まさか、お互い知っててやってるんじゃないでしょうね‥?」)
(「それはともかく、視線がどことなく怖いのですが‥」)
 ゼタルはなんだかこれから先を思うと疲れが出てきて、すぐにでもベットに身を預けたくなったし、奏は奏でそのあまりにタイミングのあった光景に変な勘繰りをしてしまうし、熊夫はシルキーの視線が段々鋭くなってきているのを感じていた。

 だが、そんな男性陣よりももっと訳の分からないというか、困った事態に立たされる羽目になった人が居る。この依頼の女性陣‥といっても一人だが、ヴァレリアである。
「部屋が足りないから、相部屋だと聞かされましたが‥」
 自分も相手も冒険者として身分が保障されているから。それに、まだ施設の修復が完全に済んでいない為に、宿の人達から協力をお願いしますと言われたのだ。‥で、その相部屋の相手というのが、まあ‥
「‥‥‥」
「‥‥‥」
 シルキーなわけである。
(「な、なんでこんな事に‥」)
 余り過保護が過ぎると、男の子って自分が頼りないように思われていると考えて、無茶なことするらしいんですよね。‥みたいな事を言って、シルキーを牽制しておこうとも思ったが、ここまで距離が近くなるとかえって言い辛い。
 それと余談だが、レザーアーマーを外してリラックスした格好になったヴァレリアに、なんだか一際キツい目線をシルキーが送ってたりする。その理由は、分かってても本人の名誉の為に書かないでおこうと思う。


●各個撃破
「うん‥。じゃあ、そのデッカイのが行ったのはどっち?」
 アストがグリーンワードを使って木に話しかけている。その質問する姿を見ていると、彼がこれまでに何度も何度もこの魔法を使ってきた事が分かる。するすると木から欲しい情報を入手しているのだ。
「手馴れたものだな‥」
「次は僕が役目を果たす順番だな」
 アストが木から得た情報を用い、探索の範囲を絞る冒険者達。次は、ゼタルがブレスセンサーで相手の位置を特定する段階へと移る。その次には、相手の目視‥といきたかったのだが
(「ああっ、目が、目がぁぁ〜!?」)
「だ、大丈夫か熊夫‥?」
 目を押さえて蹲る熊夫。そりゃ、こんなに遮蔽物の多い林の中でテレスコープなんて使うからである。焦点を合わせるのに目がとんでもなく疲れてしまったのだろう、何度も瞬きをしながら、なんとか回復を図っているようだ。

 地より出ずる雷撃がバグベアを襲う。
「肉体的には強いですが、こうも罠に掛かってくれるとあっては、楽なものですね」
「経験を積んだ戦士クラスとなると、少しは話が変わってきそうだがな」
 バグベアを首尾良く発見した冒険者達は、奏が調べ上げた地へ誘いこんだ。後は仕掛けられたライトニングトラップを踏ませ、一体づつ撃破していくだけだ。
「奏さん! 横はいいけど後ろはダメ!」
 アストが声を張り上げる。バグベアに対して後方に回り込んだ奏だったが、相手の後方に回りこむというのは、実は結構危ない。単一の対象を取る魔法ならばともかく、それ以外の魔法では相手の後方なんかにいったりすると普通に巻き込む。
「失礼! では、そいつはお任せしますよ!」
 そう言って、別のバグベアに張り付く奏。身動きが取り辛くなったバグベアは、力任せに奏を離そうとするが、それは適わずに逆に忍者刀によって斬りつけられた。そして熊夫が‥
「ぐっ‥!?」
 スープレックスで投げ飛ばそうとしたが、オーガ族のこういった相手にそれはちょっと難しい。今度は守勢に回る熊夫の陰で、ヴァレリアがコアギュレイトを唱え終える。
「今だ、撃て! アスト!」
 そして、もう一方では、ゼタルがウインドスラッシュで牽制している間に、アストがグラビティキャノンの詠唱を完了させ、2体のバグベアを巻き込む形で発動させる。内1体は、この攻撃で地面倒れ伏した。
「皆さん、最後まで油断せずに!」
 どうやら、この分だとヴァレリアがリカバーを使用する事もなさそうだ。
「きゃあっ!?」
 だが、それまでの順調さをいっぺんにダメにしてくれる人‥いや、エルフが居た。


●色々台無し?
 短く叫び、色々とマズいと思ったのか、シルキーはすぐさまアースダイブで地面に潜った。そして、そこにはあっけに取られたバグベアが一体取り残される形になったのだ。
(「「「「シ ル キ ィ − ! お前はー!!」」」」)
 当然、さっきの叫び声はアストにも聞こえている。なんだか色々な苦労が一気にダメにさせられたので、冒険者達は心の中でシルキーに全力でツッコミつつ、その悲鳴が聞こえた場所へと急ぐ。とにかく、あれが退治すべき最後のバグベアだ。
「なんか今さっきの声、お姉ちゃんに似てた気がする‥」
 ほら、走りながらアストもそんな事言ってるし。

 で、最後のバグベアを倒して一息ついた冒険者達。幸い、シルキーは上手く隠れたらしい。どこかで顔だけ地面から出して事の成り行きを見守っていたのだろう。そして、冒険者達はドレスタットへと帰路につき、初日に宿を取った村へ‥。
「あのー‥すみません、本日もいっぱいでして、また相部屋という事に‥」
 行きと同じく、そんな事を言われるヴァレリア。部屋につくと、予想通りの展開が待っていた。
「‥シルキーさん、ちょっとそこへ座ってもらえますか?」
「は、はいっ!?」
 あ、なんかピキ‥とかそんな感じの音がした気が‥。
 ともあれ、バグベア退治依頼は無事成功に終わったのであった。