刈り取るのは誰が為?

■ショートシナリオ


担当:MOB

対応レベル:7〜11lv

難易度:難しい

成功報酬:5 G 79 C

参加人数:5人

サポート参加人数:3人

冒険期間:11月11日〜11月20日

リプレイ公開日:2005年11月20日

●オープニング

 その依頼書に書かれている事はシンプルだった。依頼主は貴族であり、代理人がドレスタットまで出向いてきて依頼を行った。どうやら急ぎの依頼であるらしく、早めに人を集めてくれ‥と、依頼していた。
 依頼内容は盗賊の捕縛。
 殺害は許可されていないのが少し気になるが、貴族の依頼‥それも急ぎの依頼だけあって報酬の払いもいい。既に騎士数名が相手の逃走ルートを妨害しているらしく、冒険者達に課せられている事は、相手の予想逃走経路に先回りして盗賊団を捕縛する事、ただそれだけだ。
 但し、どうやらこの盗賊団は中々に実力者が揃っている上、頭のキレる者が中に居るのか、相手を言動で惑わした隙を突いて逃走を行う事があるそうだ。依頼を受けた冒険者は、決して相手の言葉に耳を貸さず、すみやかに相手の捕縛を行ってもらいたい‥との事。

「戦闘力を測る依頼としては、申し分なさそうですね‥」
 そんな事を呟くのは、オルファ・スロイト。彼は、近々行われる海戦騎士団増員(ドラゴン事件関係が落ち着くまでの一時的だったり、正規ではないが指示に従う‥分かり易く言うとグレーゾーンの隊員)の為に、冒険者達の調査を行っていた。
 どこかに所属して‥となると、一般の冒険者とは違う立場になる事を理解している者を選ばなければならない。下手な者を所属させれば、海戦騎士団、ひいてはエイリーク伯の面目を潰し、他の有力貴族達につけいる隙を与えるだけなのだから。
「すみません、この依頼を担当する予定の記録係の方。ちょっと‥」
 知らない事は幸福なのか、それとも不幸なのか‥
「あれ? この依頼主って確か‥グラキさんが参加している‥。これも何かの縁ですし、協力しようかな」
 そして、知る事は幸福なのか、それとも不幸なのか‥

●今回の参加者

 ea1747 荒巻 美影(31歳・♀・武道家・人間・華仙教大国)
 ea8189 エルザ・ヴァリアント(19歳・♀・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 ea8417 石動 悠一郎(35歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 ea8737 アディアール・アド(17歳・♂・ウィザード・エルフ・ビザンチン帝国)
 eb1502 サーシャ・ムーンライト(19歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●サポート参加者

閃我 絶狼(ea3991)/ ルルティア・ヘリアンサス(ea4257)/ レイル・セレイン(ea9938

●リプレイ本文

●運命のいたづら?
「おや、ユアン殿久しぶり‥お主もこの依頼を受けるのか」
「あ、お久しぶりです悠一郎さん」
 奇妙な巡り合わせというべきか、石動 悠一郎(ea8417)もユアン・エトワードと同じく、この依頼の依頼主がリッド卿だという事で依頼を受けていた。
「拙者がちょっと所用で居なくなってる内に、これの前にリッド卿からの依頼を受けた仲間と連絡取れなくなってな。どうにも不審に思ったので、事情を知る為にも参加したのだ」
「そうだったんですか‥」
 少しだけ、残念そうな表情を浮かべるユアン。悠一郎からは、遺跡とそこに居たデビルの話、それにリッド卿が愛した娘の話とそれに伴うデビルの誘惑、それらを聞く事は出来たが、今グラケルミィ達が何をしているかは聞けなかった。
「もしかして、この依頼で追う盗賊というのは、それに何か関係しているのかもしれませんね」
「うむ。惜しげもなく騎士達を動かすとなると、遺跡から持ち帰ったアーティファクトが盗まれたのかもしれん」
 悠一郎もユアンも、まさかリッド卿がデビルの誘いに乗ったとは思えなかった。もし、ここで悠一郎がモリスンの方にコンタクトを取っていれば、また違った流れが生まれたかもしれないが‥
「その話、私達にも詳しく教えてくれないかしら?」
「私達の友人も、悠一郎さんと同じ依頼を受けていたそうですから」
 エルザ・ヴァリアント(ea8189)とサーシャ・ムーンライト(eb1502)が会話に加わってきた。しかも、である。この二人の友人というのは、ユアンも良く知っている人物である上に、今回の一連の騒動の中では『デビルに気に入られて呪いを掛けられた』という、結構中心的な位置に居たりもする。
 ‥世界というものは、広いように見えて結構狭いのかもしれない。


●先行、追撃、射られる月の矢
「盗賊達の情報が途絶えた!? 一体どういう事です?」
 依頼を受けた冒険者達の気持ちを代弁するように、アディアール・アド(ea8737)が言葉を放つ。
「最後に姿が確認された村はここだ。だが、それ以降、相手は街道にも姿を見せていないようなのだ」
「完全に林の中を進んでいるというのか‥?」
 ドレスタットを発って2日の距離にある村。そこで冒険者達は、待ち合わせをしている騎士と合流した。彼の下に届けられた情報によると、盗賊達は領内を大きく迂回しながら進んでいたはずなのだが、2日前から目撃されなくなったのだという。
「これは少し予想外でしたわね。やり難いですわ‥」
 荒巻 美影(ea1747)を始め、冒険者達は皆、相手がそのまま素直に逃げてくれるものだと思っていた。まさか、完全に林の中を進むという手段を取るなど、思っても居なかったのである。
「しかし、それならば相手の速度は落ちるだろう? 進路を予想して、騎士達で完全に道を塞ぐ事も出来るのではないか?」
「だが、下手に動いて、相手に街道に戻られたら抜かれる。騎士達は今の配置から動かしたくはない」
「そうなると、私達が領土の境付近まで一気に先回りしてしまう方が良さそうですね」
 相手にしてやられた、そう言ってしまえばそれまでだが、事実自分達が不利になってしまったのは否めない。相手に先回りするのは楽なものだが、果たして相手が通るルートは完全に予想出来るのか‥。

「探査系の魔法が使えないというのは厳しいわね」
「‥ダメです。草木達からも私達が追っている相手の情報は貰えなさそうです」
 アディアールがグリーンワードを使っているが、やはり今日も相手の足取りは掴めない。
「こちらの予想通りなら、相手は今日中には領土の境を越えるはずでしたわよね。なんとか‥」
「‥いけっ!」
「ユアン殿!?」
 焦る冒険者達の中で、ユアンはスクロールを広げるとそれを発動させた。その行動に驚いた悠一郎を余所に、放たれた月の矢は勢いよく飛び、一瞬の内に‥くるりと方向を変えてユアンに直撃した。
「いたっ!?」
「だ、大丈夫です‥か?」
 心配そうに声をかける美影に、苦笑しながら平気だと返すユアン。ムーンアローの威力は他の魔法に比べて随分低い。ユアンもファイターである、この程度の威力ならカスリ傷程度にしかならない。
「とはいえ、いきなりされるとびっくりするぞ」
「そうですわ。一言ぐらいは断ってくれても‥」
「でも、それぐらいしか今の私達には手がないわね。ユアンさん、頼めるかしら?」
 とりあえず、この周辺には相手が居ない事は分かった。林の中で相手を探すのにそれほど有効な手段を持たない冒険者達は、この方法に頼る事にする。幸い、領土の境付近のみに範囲を絞ったので、相手を見つける事は出来たのだが‥


●盗まれたモノの所在
「お、お主ら!? 連絡が取れないと思ったら‥しかし、何故!?」
「‥‥え〜っと。私達はリッド卿の依頼で盗賊の拿捕に来たんだけど‥貴方達、盗賊でOK?」
「いや、OKじゃないですよエルザさん! ほら、フォーリィさんも居るみたいですし」
「私達が追っていて盗賊って‥」
「シヴさん達だったんですか!?」
「グラキさん、それに他にも‥」
 全員が全員、お知り合い。‥なんでですか、なんでなんですか。
「何をしている、さっさと捕らえないか!」
 同行している騎士が叱咤するが、冒険者達は全く仕掛けようとはしない。
「ちょっと待て! どういう事だ‥なぜ彼等が追われている! 彼等が何を盗んだというのだ!」
 悠一郎が騎士に詰め寄るが、騎士は平然と答えを返す。
「盗んだものは遺跡に関する貴重な情報、その所在は当然奴等の頭の中だ。さあ、奴等が隣の領主にそれを売る前にさっさと捕らえろ! 命までは奪うなと、リッド卿は慈悲をかけて下さっているというのに‥!」
 憎憎しげに向こうを見る騎士。
「くっ‥!」
「だったら‥! 事実はどうなんですか! 答えて下さい!」
 これでは依頼を放棄する事は出来ない。いや、無理をすれば出来るかもしれないが、エルザや美影、ユアンの頭の中に、貴族の逆恨みによってその存在を潰された射手の影がちらつく。そうしてチラつく影を振り払うかのように駆け出したユアンは、相手に直接事情を問い質す。
「んなもん‥答えるまでもねぇに決まってるだろうが!」
 弾き返されるユアン。自分も本気で仕掛けたわけではないが、繰り出した槍を余裕を持って返す斧に反感を抱く。

(「やはり強い‥!」)
「貴族からの信頼を受けていたりするだけあるわね‥」
 アディアールとエルザは二人でシヴと対峙していた。現在の自分達の立場上、仕掛けたくはないが仕掛けなくてはならない。だが、相手も自分達と積極的に戦うつもりはないようで、自然とあまり面識のない相手と対峙する形になっていた。
「だったら私が!」
 レジストマジックで身を包んだサーシャが二人の間から前に出る。だが、やはり多勢に無勢と言うべきか、相手の中で格闘を主とする者が出てきて、サーシャの刃を受け止める。
(「やはり不利ですわね‥」)
 ヤン・ショウ・ファンで怪我を大幅に軽減させる美影。防戦一方だが、これは演技するまでもなくの結果。互いに本気ではないが、人数の不利はやはり辛い。
「く、くそ‥。よもや、これほどの人数が居るとは‥」
 騎士も相手のこの人数は予想外だったようだ。だが、互いに相手を仕留める気のない戦闘は、時間ばかりが経過していくだけで、終わる気配を見せようとしない。その拮抗が崩れたのは美影やサーシャがスタンアタックによって倒された時。そして、戦闘を終わらせたのは‥
「そこまでだ! 双方止まれ!!」
「グリアス殿‥何故、貴方がここに‥」
 その場に割り込んできた一人の騎士。


●グリアス・ウガスト
 どうやら、現領主のランド卿がリッド卿の乱心に対し、対処をする事を決めたようだった。冒険者達と同行していた騎士は、盗賊捕獲の依頼が中止になり、最寄の村へと戻る事になった。
「ふぅ‥なんとか、後味悪い結果だけは避けれたな」
「それは良いのですが、今回のこれって報酬は出るのでしょうか?」
 一息つく冒険者達。その中でアディアールが今回の報酬について気にしだした。他の冒険者達もタダ働きは御免だろうし、ジャパン行きの旅費を稼ぎたい彼にとっては特に御免だった。
「それについては問題無い」
 そこへ、戦闘に割り込んで来た時と同様に、グリアスと呼ばれた騎士が割り込んで来た。
「それより、向こうの者に一つ頼み事をして来たが‥それと同様にお前達も頼まれてくれるか?」
 グリアスからの要請は、今回の件はギルド等には報告しないで欲しいというものだった。余計な揉め事が起きるような懸念は出来る限り排除しておきたいという考えなのだろう。ランド卿が動いてくれた事で、冒険者達もその気はあまり無くなっていた。
「まあ、これでシヴ殿達の安全は保障されたわけだからな」
「少し納得いかないけど、揉め事が起これば一番被害を受けるのは領内の村人なわけだし‥仕方ないわね」

 こうして依頼は終わった。海戦騎士団の増員を考えていたオルファ・スロイトにとっては、冒険者達以上に空振りの結果に終わったわけだが、これで良かったのかもしれない。増員の為の目星をつけるのは、また今度にでもすれば良いのだろう。