【黙示録】闇の大地を照らす光

■イベントシナリオ


担当:BW

対応レベル:フリーlv

難易度:難しい

成功報酬:0 G 13 C

参加人数:29人

サポート参加人数:-人

冒険期間:07月24日〜07月24日

リプレイ公開日:2009年09月04日

●オープニング

 溢れ出でるは混沌の闇。
 永久の凍土の奥、暗黒の世界に陽の竜帝が目覚めた。
 その様を見届けて、魔王アラストールは歓喜に震えていた。
『忌々しき神の創りし封印。今ここに、その鎖は解かれ、真なる王は目覚められた。我らにとって、これほど喜ばしき日は無い。‥‥だというのに‥‥』
 ――――ッ!!
 周囲に満ちた闇の中、その一角を覆っていた瘴気が一瞬に晴れた。アラストールの放つ、凄まじい魔力と殺気が、瘴気の霧を吹き飛ばしてしまったのである。
 その力が向けられた先にいたのは、黒き翼の堕天使アリオーシュ。醜悪なりし魔の奇獣イペス。
『アラストール様‥‥』
『アリオーシュ。イペス。汝らほどの力を持ってしても、逃げ帰るしか出来なかったと?』
『面目ございま‥‥』
 ――ゴッ!!
『‥‥ッア‥‥!!』
『‥‥グッ‥‥!!』
 イペスの言葉の終わる寸前。アラストールの両の手が、凄まじい力で二つの悪魔の首を掴んだ。
『な‥‥にを‥‥』
『使えぬ配下に用は無い。せめて、死して瘴気となり、ルシファー様の一部となるが良い』
『お待ち下さい。アラストール様』
 その時だった。
 ふと。一つの影が闇より出でた。そこに、先日の地上での戦いで死んだはずの男が、そのままの姿で立っていた。
『ガルディアか。汝から先に瘴気と変わりたいか?』
『いえ。それよりもアラストール様、この異変にまだ気づかれませんか?』
 ――――ッ!!
『これは‥‥』
 突如、巨大な魔力の乱れを感じて、アラストールはイペス達を掴んでいた手を離した。
『アラストール様が封印の解除に力を尽くしておられた間に、畏れ多くもこの万魔殿にまで冒険者どもは踏み入ろうとしております。今のもムルキベル様か、マルバス様か、エキドナ様か‥‥いずれ名のある方が冒険者の手によって葬られたのでしょう。私が申し上げたいのは‥‥』
『皆まで言わずとも良い』
 憤怒の魔王は、その怒りの気を抑えるどころか、ますます強めた。しかし、その力の向けられる先は、目の前の部下達では無く‥‥。
『アリオーシュ、イペス、ガルディア。汝らに最後の機会を与える。我が前にて、忌々しき人間どもに絶望を見せよ。真なる力を解放し、奴らに世界の支配者が誰であるかを示せ』
 御意と頷いて、三つ影はコキュートスの大地に向かう。そして、アラストールもまた‥‥。
『解き放たれた力は、我に皇帝の加護を授けた。人間どもよ。汝らの祈りも、神や精霊の加護も、我が真なる力の前には全て無意味と知るがよい』

 今、黙示録と呼ばれる戦いは、最後の時を迎えようとしていた。
 いよいよ起こる、魔を統べる皇帝ルシファーと冒険者の最後の戦い。
 しかし、冒険者達の前には、もう一つの強大な敵が立ち塞がることとなる。
 七大魔王が一角。破壊を司りし魔王アラストールとの戦いも、今まさに最後の時を迎えようとしていた。

●今回の参加者

月詠 葵(ea0020)/ デュラン・ハイアット(ea0042)/ 銀 零雨(ea0579)/ ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)/ オルステッド・ブライオン(ea2449)/ オラース・カノーヴァ(ea3486)/ イグニス・ヴァリアント(ea4202)/ サラ・フォーク(ea5391)/ リュリス・アルフェイン(ea5640)/ リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)/ ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)/ シャルロット・スパイラル(ea7465)/ エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)/ ミュール・マードリック(ea9285)/ ブレイン・レオフォード(ea9508)/ 雨宮 零(ea9527)/ ラザフォード・サークレット(eb0655)/ シオン・アークライト(eb0882)/ 不破 斬(eb1568)/ ラスティ・コンバラリア(eb2363)/ カイオン・ボーダフォン(eb2955)/ フィーネ・オレアリス(eb3529)/ セシリア・ティレット(eb4721)/ オリガ・アルトゥール(eb5706)/ セイル・ファースト(eb8642)/ アンドリー・フィルス(ec0129)/ ガルシア・マグナス(ec0569)/ リスティア・バルテス(ec1713)/ ジャッカル・ヘルブランド(ec3910

●リプレイ本文

 暗き闇の世界に、瘴気が渦巻いていた。
 身を切る冷たい風が、冒険者達の進軍を拒むように吹き荒ぶ。
 けれど、長く続く戦いの、その悪夢の終わりはすぐそこまで来ていて‥‥。

 その凍れる大地に、巨大な竜の姿があった。
 知らぬ者達が見れば、巨大な悪魔の出現かとも思えただろう。だが、鋼鉄の鱗に身を覆われたその竜は、冒険者達と共にあった。
「グラビティドラゴン、私に影の竜の力を」
『よかろう』
 リュシエンヌ・アルビレオ(ea6320)がその身を竜の前に現わして願うと、淡い輝きの果て、彼女は黒曜石のごとく輝く鱗を持つ、一体の竜へと変じていた。
『オノレ、ニンゲンドモ!!』
 叫び、襲い来るは無数の悪魔。凍れる大地の封印より解き放たれた巨人に、異形の魔物達。それが、冒険者達と共にあった、数体の竜へと襲いかかった。一撃にて倒されていく竜達。それもそのはず。ただの灰より生まれた偽物。
 だが、その内に真の竜の姿あり。シャルロット・スパイラル(ea7465)の変じた炎の竜。
『次から次へと‥‥だが、ここまでだ。さぁ、リオートぉ‥‥灰すら残さず焼き尽くすぞ!!』
 傍らに寄り添うは、鬼のごとき形相の巨人。炎を纏いし者、イフリーテ。シャルロットと深き絆で結ばれた精霊である。
 大きく開かれたシャルロットの咢より、吐き出されるは炎のブレス。合わせるように、リオートの手より放たれる爆炎の魔法。
 飲み込まれた有象無象の魔物達は身を焼かれ、叫びを上げていく。
「いつまでも、こんな奴らに時間をくってられねーぜ。皆、進め!」
「僕達が道を開きます! さあ、行きましょう!!」
 焼き払われた戦場の一角。残っていた魔物達を巨大な戟にて薙ぎ払うのは、グリフォンを駆るオラース・カノーヴァ(ea3486)。そして、鍛え抜かれた名刀を存分に振るう銀零雨(ea0579)。彼らの後に続いて、冒険者達は次々とコキュートスの先を目指して歩を進めていく。
「ここから先は、地獄の貴族や魔王の地‥‥。皆、心してかかれよ」
 仲間達の背に、悪魔に抗うための神の魔法を施して、ヴィクトル・アルビレオ(ea6738)は駆けてゆく皆の無事を祈った。

 その悪魔達と対峙した時、ラスティ・コンバラリア(eb2363)は進んで前に立ち、同時に、仲間達に先へと進むことを促した。それに応えて、リュリス・アルフェイン(ea5640)は別れ際に、一言を告げる。
「お前のけじめ‥‥つけてこいよ」
 ラスティはしっかりと敵を見据えたまま、ただ頷いて返した。リュリスや他の者達は、先へと急ぐ。もっとも、この場に残ることを選択したのはラスティ一人ではない。
「こいつには、私も用がある」
「やれやれだな。感情だけで挑むな。一人や二人で勝てる相手でもない」
「同感だな。私も力を貸すとしよう」
「自分も、助太刀させてもらう」
 不破斬(eb1568)、エルンスト・ヴェディゲン(ea8785)、オルステッド・ブライオン(ea2449)、そしてガルシア・マグナス(ec0569)。
『随分と、好き放題にやってくれてるみたいじゃねえか。ああ? 調子こいてんじゃねぇぞ、屑どもの分際で!』
 それは、醜悪にして奇怪なる異形の悪魔‥‥イペス。
「汚い口‥‥。それに、その無様な姿‥‥。でも、貴方の性根に比べればまだマシな方よ」
 返すラスティに、イペスは怒りの奇声を上げた。かつての姿を知る者が見れば、同じ存在とはとても思えないだろう。
『勇ましいことだな。加えて、我らを相手に、その程度の人数で十分という判断‥‥舐められたものだ。だが、直ぐに後悔することになる』
 凛として美しく。それは、清き天使の顔をして‥‥しかし、今は悪しき黒の翼をもって‥‥。裏切りと復讐の悪魔、アリオーシュが剣を抜く。そして、二体の悪魔を包むのは、本体の力を解き放ったことを意味する、黒き霧。
「では‥‥始めよう!!」
 オルステッドの一声。彼の乗る天馬、セントアリシアの白き翼が羽ばたいた。

 戦いの音が、広がる。
 幾多の剣撃が交差し、舞い踊る闘技場のごとき光景。
 そこで冒険者達が対していたのは、貴族服に黒い帽子を被り、二刀を携えた長い髭の老紳士。
「‥‥刺し、穿つッ!」
『甘い』
「‥‥なら!」
 姿と気配を消して近づいたイグニス・ヴァリアント(ea4202)の一撃を、その老人は危なげなくかわすと、続くブレイン・レオフォード(ea9508)とセシリア・ティレット(eb4721)の剣を受け止める。しかし、これで両の手が塞がった。
「隙ありです!」
 月詠葵(ea0020)の、ありったけの力を込めた斬撃が、悪魔の身体を捉える。
『ぬう‥‥』
「終わりです!」
 よろめく身体。それを見逃さずセシリアは氷の剣を刺し、ブレインの霊刀も続き、さらには、イグニスも白き聖水で悪魔の顔を殴りかかる。
『ぐうっ‥‥!!』
 呻き声を上げて後ずさる悪魔。その背後に‥‥。
「はああっ!!!」
 突如として現れる騎士の姿。魔法により転移したアンドリー・フィルス(ec0129)の剣が今、悪魔へと振るわれる。超越魔法により強化された彼の、全身全霊の一撃。これで終わると誰もがそう思った。しかし‥‥。
 ――フッ。
「何っ!?」
 剣のあたる寸前で、目の前の悪魔の姿が消える。次の瞬間に、彼の背を凄まじい斬撃の連続が襲った。
魔法や防具の魔力で固く身を守っていたアンドリーであったが、その上でなお、敵の剣は彼の身を切り裂き、大きな傷を受ける。
『ふむ、今のは少しだけ危なかったのう‥‥』
 笑って言う悪魔の姿に、イグニスは己の目を疑った。
「嘘‥‥だろ‥‥」
 無傷。
 その悪魔の身体をあらためて見れば、先の冒険者達の全力の攻撃をまともに受けたはずの場所は、どこもカスリ傷一つ無かった。
『なかなかの演技であったろう? いやはや、そんな程度の魔力しかない武器で儂に傷をつけられるなどと、人間とは本当に浅はかで愚かよな‥‥』
「そんな程度って‥‥」
 セシリアは、己の氷の剣を見直した。おそらく、今の冒険者達が手にしている武具の中では、最高峰の魔力を宿している武具の一種であろう。それが効かないなどと‥‥。
『何を驚いておるのかな? 今までにもお前達は見てきたはず。真の力を解放した上級悪魔の力が、どれほどのものか。ましてや、それが‥‥』
 邪笑を浮かべて、老人はその姿を、今度は金色の髪の若き剣士に変えて‥‥。
『この僕、メフィストフェレスの力ともなれば、このくらい当然だろう?』

 黄金の翼が空を舞う。光無き世界において、異質にさえ思えたその翼の周囲を、やはり幾多の翼が駆け巡っていた。
 入り乱れて飛ぶ翼獣の中で、炎の鳥に啄ばまれて二つが大きく傾いた。白き鷲と、グリフォン。
「ちいっ! ヒョードル、下がれ!」
「まさか元商人が、これほどに‥‥」
 デュラン・ハイアット(ea0042)は囮とした自分のペット達に指示を出す。ラザフォード・サークレット(eb0655)は目の前の敵の強さに、いささかの焦りを覚えた。
 放った暴風や重力波の魔法を、敵である炎の鳥は墜ちることなく突っ切ってきた。グリフォン達は盾となって攻撃を受けた。
『どうした? 顔色が悪いぞ。‥‥まさか、もう手が無いなどと、つまらないことを言ってくれるなよ?』
 炎の翼が消えると、一人の男の姿が空に現れた。それは、先の地上での闘いで死んだはずの、ガルディア。空中に浮かぶその肉体は、不安定な飛行をしているデュランのそれとは違い安定している。それは、デビルの能力の一つ。
「ふん。残念なのはこちらだよ、悪魔ガルディア。もう少し面白い男かと期待していたものを、ついに完全な悪魔に成り下がったか。所詮、その程度の男だったのならば、もはや用も無い。我ら人間が引導を渡してやろう」
 高らかに宣言するデュラン。しかし‥‥。
『そんな遅くて安定しない飛行で、私達とやろうってのは命知らずよねぇ』
 現れたのは、白き翼の獅子。魔法を使う者にさらなる力を与えるという悪魔、ヴァブラ。
(「くっ‥‥挟まれた!」)
 焦りの感情を抑えつつ、全力で頭脳を回転させるデュラン。だが、彼の危機はすぐに救われた。
『よそ見は感心しないな!!』
『ああもう、しつこい男‥‥!!』
 ヴァブラへと、雷のごとき速さで迫る竜。ジャッカル・ヘルブランド(ec3910)の変じたサンダードラゴン。
『うざったいのよ! 本体の力を使ってる私には、あんたの攻撃も魔法も通じないっての!!』
『だが、貴様の攻撃も竜になった俺の鱗には通じない!』
 ぶつかり合い、もがく獅子と竜。同じような光景は、すぐ傍にも。
『離れろ!』
『いいや。絶対に離れねぇ!』
 巨大な陽の鳥‥‥ホルスの翼に、一体の竜の姿。カイオン・ボーダフォン(eb2955)の変じた太陽の竜、サンドラゴン。
(『‥‥つぅ、何て力だ!! こりゃ、長くは保たねぇぞ、姉さん‥‥』)
(『耐えて下さい、カイオン。ホルスだけは、けして死なせてはいけない』)
 カイオンの視線は、地上にある、オリガ・アルトゥール(eb5706)の変じたブリザードドラゴンへと向けられる。空を飛べぬ竜であるため、彼女の出来ることは、魔法による防御が主だ。ホルスの放つサンレーザーが、アイスミラーに止められる。
「くそっ‥‥。どうにか出来ないのかよ‥‥」
 乱戦の様子を見せる仲間の戦闘を、リュリスは歯痒い想いを抱えたまま、地上から見上げていた。

 万魔殿の直前。
 そこにあったのは、圧倒的な存在感。
 その周囲の瘴気は、どこか異質で‥‥。
「おいおい、何て殺気だよ‥‥。前に地上で感じた時より、さらにヤバくなってる印象だが‥‥」
 セイル・ファースト(eb8642)は、己の身を包む強烈な悪意に、冷や汗を浮かべた。オーラの力で精神を昂揚させていなければ、彼ほどの冒険者でさえ、この場を逃げ出すことを考えたかもしれない。それほどに、危険な雰囲気がこの場にはあった。
「こんな出鱈目な気を放てる悪魔は‥‥やはり‥‥」
「ええ。ロシアの地を荒らしてくれた張本人。その首、ロシアの騎士である私の手で‥‥」
 雨宮零(ea9527)とシオン・アークライト(eb0882)が、剣を手に、寄り添うように並び立つ。
 ――ッ!!!
 何かが動いた。瘴気の闇の中で、おぞましい感情の波が爆発したようだった。
『我を討つと言うか。身の程を知らぬ人間どもよ』
 真紅の髑髏‥‥魔王アラストールの姿が、そこにあった。
 相対した若き騎士、ヤングヴラド・ツェペシュ(ea1274)はアラストールへと剣を向ける。
「出たであるな、魔王! 皆、迂闊に奴の魅了の範囲に入らぬよう、気をつけるのだ!」
「はい!」
 応えたのは、魔王アラストールに対峙するのは初めてとなるサラ・フォーク(ea5391)。白き聖水を取り出し‥‥。
 ――――ッ!!?
 ほんの僅かの時間だった。魔王が呪文の詠唱を初めて十秒。冒険者達の視界を覆う六色の光。
「‥‥冗談だろう?」
 己の身を守る防具が、その攻撃に何の意味も持たなかったことを、その身に受けた痛みで理解して、ミュール・マードリック(ea9285)は放たれた攻撃が何なのかを、嫌でも解らされた。
「第二波、来ます! 皆さん、すぐに回復を‥‥!」
 己の身代わりに塵となった呪符を見て、フィーネ・オレアリス(eb3529)は傷の深いリスティア・バルテス(ec1713)へ治癒魔法を使う。回復して即座に、今度はリスティアがサラへと治癒魔法を使う。あの力の前に、結界など意味が無い。
「まさか、こんなことが‥‥!?」
 驚愕の表情で、誰もが魔王アラストールを見た。
 放たれる光は再び、凄まじい力で冒険者達を薙ぎ払う。
「間違いなく‥‥エレメンタラー‥‥ボイス‥‥」
「キングスエナー無しに‥‥こんな短時間の詠唱で使えるなんて‥‥」
 急ぎ治癒薬を飲んで、どうにか零とシオンは命を繋ぐ。
「周り全部を巻き込む杖の時と違って、俺達のいる方向にだけ絞って力を放ってやがる‥‥。反則だろ‥‥」
 一切の防御を無意味とするその力の恐ろしさを、冒険者は身をもって知っている。額に流れた自分の血と汗を拭って、セイルは勇気を奮い起し立ち上がる。
『これこそがルシファー様の陽の封印が解かれた証。そして、破壊を司りし魔王たる我の真なる力。さあ、裁きの時だ人間達よ。我が力の前に、滅び消え去るが良い』

「貴方の欲望はここで終わりよ! 滅びなさい!」
 ラスティの凍れる刃の輪がイペスへと投げつけられ、斬の振るった刀が異形の身を切り裂く。だが、直撃したはずの刃は、イペスの身を傷つけることなく弾かれた。
『はっ! そんな玩具が効くか!!』
 醜い鵞鳥の頭が眼前に迫ったかと思えば、ラスティの身を獅子の爪が襲う。
「ぐっ‥‥」
 間一髪でかわす。だが、本体の力を解放した悪魔に、並の魔法や魔法武器では効果が無いのは変わらない。これでは嬲り殺しにされる。
「一人の力で届かなくとも、我ら人には、それを補う方法がある」
 不意に、手に戻った氷の刃に魔法がかけられる。ガルシア・マグナス(ec0569)のオーラパワー。再び、ラスティは氷輪を投げる。
『があっ!? 馬鹿な!!』
 それは、確かな傷跡を残して、イペスの身体を捉えた。
「イペスよ。マカール殿は武人として散った。闇に魅了されど、強き心は何人にも動かせはせぬものだ‥‥それを今見せてやろう。人は、悪魔の力になど屈しないと」
 斬の刃もまた、オーラの輝きを得て‥‥。
『ふざけんな!! お前達なんぞに殺されてたまるか!!』
 翼を広げ、空高く飛ぶイペス。
『馬鹿者! 戻れ!!』
 叫んだのは、アリオーシュ。だが、命惜しさにイペスは聞き入れなかった。だから‥‥。
『滅びろ』
 空に、一体の竜。
 エルンストが身を変じたサンダードラゴンがイペスの身体を抑え、そのまま力任せに大地へと‥‥。空においては最速を誇る風の属性の竜。その速度の前には、イペスの翼では逃げ切れない。
『い‥‥嫌だ! 離せぇーーっ!』
 地に待ち受けるは、刃を構えた斬とラスティ。
「終わりだ。犯した罪の重さ、その身に刻んでやろう」
『があああああ!!!』
 閃いた刃の果てに、醜悪な悪魔は瘴気の闇へと溶けて消え失せた。
「あとは、貴方だけだな‥‥」
『おのれ‥‥』
 オルステッドの蒼い刃を受け流すと、アリオーシュはその手より、黒炎を放った。
「はあっ!!」
 ガルシアが即座に回り込んで剣を浴びせる。カオススレイヤーの刃が悪魔の身を捉える‥‥が、悪魔はスウっと一瞬で消えてしまった。先のイペスとは違う。倒した印象ではない。
「‥‥逃したか?」
「だが、深手を負わせた。あれでは、しばらく戦いには出てくるまい」
 転移されては追撃は諦めざるをえない。彼らは、先へと進んだ仲間達を追った。

 魔王と呼ばれる力を持つ者。千の姿をもつ者にして、全ての剣技を極めし者‥‥メフィストフェレス。その恐怖が、目の前にあった。
『さて、誰から死にたいのかな?』
「‥‥武器が通じないとか、剣技を競う以前の問題なのですよ‥‥」
 葵の額に、小さな汗の滴が流れる。
「はあっ!!」
『ちっ‥‥』
 再びの、アンドリーのパラスプリントによる不意打ち狙い。だがメフィストは、これを振り向きもせずに剣で受け止めた。返す刃が、アンドリーの身を貫き、弾き飛ばす。
「ぐはっ!!」
「アンドリーさん!」
 駆け寄ったブレインは、手持ちの回復薬を彼に飲ませる。
「卑怯な‥‥。堂々と剣で勝負なさい!」
 訴えるセシリアを、魔王は鼻で笑った。
『僕は悪魔だよ。お願いごとをするなら、代わりに魂を差し出してくれるかな?』
 これが返礼とばかりに、メフィストフェレスは竜巻の魔法を起こす。凍れる大地にセシリアの身体が叩きつけられる。鍛え上げられた防具も、この落下による衝撃では意味を成さない。
「くっ、どうすれば‥‥」
「‥‥手はある」
 口元の血を拭って、アンドリーは力強く、ブレインにそう返した。
 そして‥‥。
『ほらほら! 無駄に足掻いてないで、早く楽になったらどうだい?』
「この‥‥!!」
 かろうじて、攻撃を耐え凌ぎながら、イグニス達は反撃の機会を待つ。
 そこに、メフィストの背後を狙ってブレインが飛び込んでくる。
「はああ!!」
『何だよ、まだ懲りな‥‥ぐうっ!!』
 油断していたメフィストは、その剣を交わし損なう。それが仇になった。メフィストの身に、斬撃の跡が刻まれる
「やはりな。他を受けても、俺の剣だけはけして、その身で受けようとはしなかった理由‥‥」
『お前達‥‥』
 ブレインの剣には、力が宿っていた。アンドリーの魔法。オーラによる強化。
「武器に魔力が足りぬなら、さらに足せば良い。それだけのことだ」
 言って、アンドリーは他の冒険者達の武器にも魔法を施す。
「そうですね。そして、一人の剣では勝てなくても‥‥」
「ええ。今度こそ‥‥」
 剣にアンドリーから貰った力を宿して、葵もセシリアも、残された力の全てを、その腕に込めて‥‥。
『おいおい、そんなことで、もう勝ったつもりかい? ‥‥いいよ。その希望、粉々にしてあげようじゃないか!!』
「いくぞ!!」
「うおおぉぉおッ!!」
 アンドリーとイグニスが吠え、冒険者達は駆ける。
 竜巻が舞い雷光が届いて、その果てに‥‥。

『さあ、これで終わりだ!!』
 ――ッ!!
 再び、ガルディアの纏う炎の鳥がデュランへと迫る。
(「どうする‥‥!?」)
 もし、ストームを放っても耐えきられれば、このままデュランは炎に焼き尽くされるだろう。狙うなら、攻撃魔法か。だが、倒しきれなければ同じだ。なら‥‥。
「大当たりか大外れか‥‥私の博打を受けてもらおうか、ガルディア!」
 選んだのは、暴風の魔法。吹き荒れる風の中を‥‥火の鳥は抜けた!
『馬鹿め! 私の勝ちだ!!』
「いいや、まだだ!! 重力の魔術師の力、見くびるな!!」
 ラザフォードのグラビティーキャノン。大地へと引きずる力の波が、ガルディアの身を捉える。だが‥‥。
『ぬおおおお!!!』
 確実に傷は負わせている。だが、まだ止まらない。もう、炎はデュランの目の前に‥‥。
「墜ちろおおおっ!!」
 最後の一手。二発目のストーム。果たして結果は‥‥。
『グッ‥‥ガアア!!』
 ついに。そう、ついに‥‥。
 風の前に、その翼は大地へと墜ちる。
 そして、叩き落された地上には‥‥リュリス!!
「待ってたぜ、ガルディア‥‥。詫びも懺悔もいりぁしねえ。ただ惨めに嘆いて‥‥掻き消えろ!!」
『グオオオオッ!!!』
 白銀に輝く光の槍は、炎の鳥を大地に突き刺し、振るわれた魔剣の一撃が、悪魔となり果てた男を切り裂いた。
『ガルディア!? ‥‥きゃあ!!』
 白き獅子ヴァブラの翼を、黒き重力の波が襲った。
「さて、元商人に積もり積もった利子は払わせた。次は、そちらの番だ。今からは、この重力の魔術師‥‥ラザフォード・サークレットもお相手しよう!」
 高らかに宣言するラザフォード。そして、彼らのすぐ傍でも‥‥。
『くうっ‥‥もう駄目だ‥‥』
 ホルスの翼にしがみついていたカイオン。だが、ついに振り払われる。そして、この世で最も早く世界を駆ける翼が‥‥。
『‥‥っ!!』
 巨大な翼に、取りついた新たな重み。黒き竜、赤き竜、そして、鋼鉄の竜。
『皆さん!?』
『間に合った!!』
 オリガの視界。映るのはリュシエンヌやシャルロットの変じた竜達。そして、グラビティードラゴン。先に道を開いてくれた者達が、今度は後方から追いついてきてくいれた。
『そう簡単には自由にさせねぇ!! おい、今のうちに‥‥!!』
 シャルロットが仲間達を促す。
 残る問題はただ一つ。
 七大罪の王の一角‥‥憤怒の魔王アラストール。

 ――ッツ!!!!
 瘴気に覆われた世界の中で光が生まれては、再び闇へと還る。
 幾度もの破壊の果て‥‥。
 満身創痍で‥‥しかし確かな足で、セイル達は、まだ立ち続けていた。
「魅了されるから迂闊に近づくなって言う話だったが‥‥これじゃ、全く別の意味で近づけねぇぞ‥‥」
 当初、波状攻撃を試みようとした冒険者達だったが、アラストールのエレメンタラーボイスの前に陣形がガタガタに崩れたことで、作戦は一時中断。今は距離を置き、回復と戦略の立て直しの最中である。
「あの規格外の範囲魔法を連続で使われたんじゃ‥‥」
「でも、このまま逃げていても勝てない」
 シオンと零が視線をかわし、頷きあう。覚悟の合図。
「皆、死ぬかもしれないわね」
「まあ、相手が魔王では、そう言うのも今更であるな」
 サラの言葉に、ヤングブラドは笑顔で応える。
 泣いても笑っても、きっと全力で挑めるのは一度きり。恐怖に怯めば、痛みに足を止めれば、そこで終わりだ。その身が恐怖に震えても、心の中は精一杯の勇気で満たして‥‥。
「大丈夫です。皆さんは、死んでも死なせません」
「右に同じ。まあ、こっちは駄目かもしれないけど‥‥一回ぐらいは、皆が耐える回数を増やせるかもね」
 フィーネとリスティアが言う。防御を許さぬ強大な魔法。それを受けて最も危険なのは、彼女達のような魔法使いだというのに‥‥。
「覚悟は決まった‥‥か。行くぞ!!」
 ミュールの号令。一斉に魔王へと突撃をかける。
『迷いなく死を選ぶか。潔く‥‥そして、果てなく愚かな人間達よ!!』
 世界が揺れる。
 眩い光と衝撃と‥‥数多の精霊達の力が闇の王の元に集い、容赦なく、冒険者達の身を襲う。
 この世の終わりを思わせる、凄まじい轟音のその後で、誰かの足音が消えた。誰かの倒れる音がした。誰かの叫ぶ声がした。
 身体中に走る激痛に、身を焼く光に、心が悲鳴を上げる。
 後少し。もう少し‥‥。そこに、魔王の姿がある。
 それなのに‥‥。
『終わりだ』
 虚空に、魔王の重い声が響く。始まる滅びの呪文。距離は、まだ少し遠く‥‥。
 自分達の攻撃は、もう届かないのか。
 
 否。

 ――ザンッ!!
『グアアアアッッツ!!!』
 魔王の叫びが闇の中に木霊する。
「遅くなった!!」
 唱えられた破滅の魔法の、その詠唱の完成を寸前に止めたのは、パラスプリントで飛んだアンドリーの剣。
「無事か!!」
 アンドリーだけでは無い。
 後方から、幾人もの声と足音。
「全く、無茶をしたものだ」
 倒れた冒険者に、ヴィクトルが治癒を施す。
「攻撃を受けて完全に止まったということは、高速での詠唱までは出来ないということか」
「それならば、あれだけの人数に近づかれた状況で、エレメンタラーボイスの使用はできませんね」
 冷静に状況を分析するラザフォードとオリガ。
「そう。なら‥‥私達の愛の力、あの骸骨の身に刻んでやれるってことね」
「この愛ある限り、負けない。絶対に」
 最後の力を振り絞って、零とシオンが‥‥。
「冥王剣よ。最後まで俺に力を貸してくれ」
「怖いのはあの能力であるが‥‥誰が魅了されても恨みっこなしであるぞ」
 ミュールと、そしてヤングブラドと‥‥。
「これで終わらせらてやる。俺の、俺達の全力‥‥受けてもらうぞ魔王!」
 セイルもまた、その最後の力を両の足に込めて‥‥。
 闇に覆われたはずの世界で‥‥希望が、愛が、祈りが力を生む。強く、どこまでも‥‥。
『‥‥馬鹿な‥‥我が‥‥破壊の化身たる我が、人間ごときに気圧されるだと‥‥。認めぬ‥‥認めぬぞ。我は、魔王。全てを破壊する者。人の心が、祈り‥‥我に抗うとしても‥‥その全てを!!』
 魔王の放つ巨大な竜巻が幾人かの冒険者達を飲み込む。
「だあああああっ!!!」
 巻き上げられた天空。盾に封ぜられし魔法の力で、セイルは魔王へと飛ぶ。振るわれた刃が、魔王を捉えて‥‥。
『グオアアアア!!』
 激しい憎悪の波。振りまかれる恐怖。
「まだだ!!」
 続くシオンと零に、ヤングブラド、ミュールの剣。長き黙示録の戦いの中、どれだけの苦しみを耐えてきただろうか。それが今、一つの確かな結果となって報われる。
「ロシアの大地も、世界も‥‥けして、お前達の好きにはさせない!」
『馬鹿な‥‥。我が、滅びるというのか‥‥このアラストールが‥‥!!』
 光が、炎が、雷が‥‥。
 幾多の魔法と剣が、魔王の身体を貫いて‥‥。
『グウゥ‥‥ガアアアアアアアアッーーー!!!!!』
 地獄中に響き渡るほどの、断末魔の叫びの果て‥‥今ここに、魔王アラストールは討ち果たされる。
「や‥‥った‥‥」
 誰とはなく、互いに顔を見合わせて‥‥。
「「「「「うおおおおおおーーーーーっ!!!!!」」」」」
 勝利を喜ぶ冒険者達の声が、天地を揺らした。


 ここに冒険者達の大きな戦いが一つ、その幕を閉じる。