白き氷雪の大地で、今日もまた

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:11〜lv

難易度:普通

成功報酬:7 G 77 C

参加人数:4人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月21日〜01月30日

リプレイ公開日:2010年02月16日

●オープニング

 降り続く雪が、全てを白銀に染めていく。
 この地を襲った幾多の悪魔や、それを率いる魔王との戦い。
 大地が割れ、天が啼き、人と悪魔の激しい戦いが何度となく繰り返された、あの日々が、ほんの一時の夢物語であったかのようで‥‥。
 ただ今は、厳しい寒さの中を、人々が精一杯に生きている。

 大きなことをやり終えた。その満足感の一方で、何か大切なものを失ったような感情。
 ふっと、そんな寂しさを覚えて、今日も冒険者ギルドに足を向けた。
 幾つかの依頼書と並んで、今日も新しい依頼が一つ。
 一定期間、開拓村の仕事を手伝って欲しいという内容だった。
 冬の時期は、食べ物を求めて魔物が人里を襲うことも珍しくない。それらからの護衛はもちろんのこと、天候によっては除雪作業の手伝いや、キエフとの間で、食糧・資材の運送など仕事は多種多様。
 簡単に言うなら、護衛を兼ねた雑用係である。
 今や英雄や豪傑として名を知られた自分達に、こんな仕事‥‥と、そう思った。
 その時だ。
 ふと、近くで様子を見ていたらしい係員が、バンと背中を叩いた。
「おいおい、なあに府抜けた顔してんだ? 平和が戻ったとは言っても、魔物がすっきりいなくなったわけでもなけりゃ、まだまだ発展途上のこの国が、急に豊かになったわけでも無い。そんなわけで、お前ら冒険者の仕事はまだまだこれからもあるってことだ。仕事があるってのは、ありがたい話だぜ。さあ、しっかり働いてきな!」
 そう言われて、心にのしかかっていた、重い何かが取り除かれたような、そんな気がした。
 今見直しても、熟練の冒険者が受けるような仕事には見えない。どちらかと言えば、新米の冒険者が受けるような依頼だ。
 けれど、そんな仕事だからこそ、今の自分に何かを与えてくれるかもしれない。

 行こう。忘れていた何かを、取り戻しに。

●今回の参加者

 ea9527 雨宮 零(27歳・♂・浪人・人間・ジャパン)
 eb0655 ラザフォード・サークレット(27歳・♂・ウィザード・エルフ・イギリス王国)
 eb0882 シオン・アークライト(23歳・♀・ナイト・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb5706 オリガ・アルトゥール(32歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)

●リプレイ本文

 いつもと同じ景色がある。
 いつだって、共に過ごしてきた仲間がいる。
 それでも気付かぬ内に、世界は確かに変化していて‥‥。
 知らないもの、不思議なものが、今日もどこかで生まれている。
 それを探しに、それを見つけに。
 新しい始まりはいつだって、今ここに。

 ――ドドドドドッ!!
 白銀の大地を漆黒の波動が走る。人の身において極限にまで高められた重力の力の行使。その男、ラザフォード・サークレット(eb0655)の放った強大な魔力が、雪の中に真っ直ぐな道を生みだす。
「‥‥ふむ。こんなところか」
 除雪というよりは、雪を押し固めるようにして作った道。ひとまず通りやすくなったなら、それで良いという即席の道だ。
 今は村から預かった荷を、キエフに届けるまでの道中。男二人の雪中行。
「これだけ雪が積もっていると、普通は、しばらく足止めを余儀なくされるものですが‥‥」
 軍馬の手綱を引いて、雨宮零(ea9527)は歩を進める。この冬の時期、深い森に国土の多くを覆われ、各公国や村々が、それぞれ離れた場所に点在する形であるロシアにおいては、それまでに冬支度を整えておくべきであり、物資の売買も蓄えの放出が主だ。今の時分に、深い雪道を通って製品を町に届けるというのは珍しい例だ。
「近年の月道の活性化の影響もあるらしいな。他国からロシアを訪れる者が増えて、今なら普段より高く物が売れそうだとか。噂では、商人達が仕入量を増やそうとする動きなどもあるようだが‥‥」
 貿易の変化は、商業に携わる者とっては大きな利を得る絶好の機会である。国にとっても、上手くすれば‥‥と、しかし世の中はそう単純に出来てはいない。
「ただ正直、あまり歓迎できない話でもあります。元々、物資の総量は限られていますし、今のロシアも、食糧が潤沢なわけではないし、貧しい人の方がずっと多い。そこに、他国の人間への売り込みや輸出を目的にした大量の買い付けが来て物価の高騰などとなっては‥‥。どうか各国の為政者には、安易な判断は避けて頂きたいものです」
「ほう。零からそのような話を聞くとは思わなかったな。良い意味で意外だ」
 ロシアでは魔物との戦ばかりで、あまり使われることがなかったが、零には専門的な政治の知識があった。自分達の受けた仕事が、世間の流れにどのように関わっているのかと、ちょっとした雑談に知恵を使うことも出来る。
「しかし、生憎と私はそちら方面に関しては疎くてな。出来れば、もっと分かりやすい話題に移りたいのだが‥‥」
 笑みを含んで言い、ラザフォードはずいっと零の傍らに擦り寄ってくる。
「な、何ですか‥‥?」
 身構える零に、長身の男は姿勢を低くし、零の耳元にそっと囁く。
「で、結婚生活はどうかね? 毎晩、鬼のように激しく、極めて激しく、それはもう、たまらんほど激し〜く、励んでいるのだろう?」
「‥‥っ!?」
 問われて、耳まで真っ赤になる零。しかし、落ち付きを取り戻すと、ラザフォードにこう返す。
「その答えは、ラザフォードさんも良い人を見つけて、身を固めたら分かりますよ」
 ――ズン。
「‥‥ぐはあ!?」
 心の砕かれる音。胸を押さえて、膝をつくラザフォード。
「あ、でもラザフォードさんって、冒険者一筋って感じがしますものね。女性との縁なんて、持ちませんよね」
 クスクスと笑顔で追い討ちをかける零
「お‥‥おのれ、零。これが既婚者の余裕というやつか‥‥」
 がくっ、と雪の中に倒れるラザフォード。
 ‥‥壮絶な自爆であった。

 後日、無事に荷を送り届けた二人が村に戻ると、出立の前はまだ雪の多かった村の周囲が、除雪によって随分と綺麗に整えられていた。シオン・アークライト(eb0882)の働きによるものである。
「ただいま、シオン」
「おかえり、零。会えなくて寂しかったわ。‥‥あ、ついでにラザフォードも」
「とってつけたように言うな!」
「仕方ありませんよ。彼女にとっては、おまけですもの」
 ニコリと微笑んで、オリガ・アルトゥール(eb5706)も二人を出迎える。幾度となく共に冒険を重ねてきた四人。気の合う仲間達。
「オリガ‥‥真実や正論が、常に正解であるとは限らないと知っているかね」
「もちろんですよ。けれど、あえてその間違いを犯したくなるのも、人の一面だと思いませんか?」
 応えるオリガは、極上の笑顔だった。
 そんなやりとりを無視して、シオンから羊皮紙を受け取る零。
「それじゃ、これ。二人がキエフまで行ってる間に、今後の仕事の予定や、周辺の危険地帯を纏めておいたから、目を通しておいて。長旅で疲れただろうし、今日は先に宿で休むといいわ」
「ありがとう。でも、そっちも無理をしないでね。困った時は、いつだって助けるから」
 他愛ない会話。しかし、それはすぐに現実になる。
 ――数刻後。日の落ちかけた頃だ。
 雪の中に散らばる、無数の大きな足跡。角の生えた人影。
 オリガが炊き出しで野菜や肉を煮込んでいた、その臭いにつられたのか。姿を見せたのは、オーガの群れ。食べ物を求め、冬の森から人里へと魔物が姿を現すのはよくある光景だ。一匹や二匹のオーガ相手なら、村人達自身にも自衛の備えはあるが、十や二十もの魔物に襲われては、村一つ容易に滅ぶ。
 ただ、今この場においては、百や二百の鬼ですら蹴散らす程の手練れが揃っていた。
 ――ッ!
「やれやれ、迂闊な者達だな。声も足音も丸聞こえだ」
 雪上に浮かぶラザフォード。放つ重力の枷が、屈強な魔物達の足を止める。
 そのオーガ達の元に、駆ける二つの影。振るわれる敵の剛腕を次々とかわしていく。
「遅いですよ」
「そんな攻撃、当たらないわ」
 紅き光を帯びて、閃く刃。零の剣は鬼の首を刎ね飛ばし、シオンの剣は屈強な鬼の胴を一閃にて切り伏せる。互いの呼吸を知る二人の、息のあった連携が次々とオーガを屠っていく。
「つい最近まで狡猾な悪魔の相手ばかりしていましたから、こういう戦いも久しぶりですね」
 言葉の後に、笑み一つ。紡ぐ言葉より、生まれ出ずる氷雪の棺。
 叫びを上げる間も無く、生き残っていたオーガ達は次々と凍りついていく。
「そのまま春までお眠りなさい」
 長く過酷な戦いを生き抜いてきた彼らの確かな実力が、オーガ達を圧倒しての勝利だった。

 日は移って。
 二度目のキエフまでのお遣い。
 今度は、オリガとシオンの二人で。女二人の道中となれば、少し危険な気もするが、これには理由があった。
「実は、ずっと悩んでいたことがあって‥‥」
 村から離れてしばらく。頃合いを見て、シオンはオリガに話を切り出す。オリガの方も予想はついていたらしく、微笑みを浮かべて次の言葉を待つ。
「その‥‥や、やっぱり愛しい人と結婚したのだから、次は当然そんなこと考えちゃうわけで‥‥。もし、赤ちゃんができたら、私はどう行動するべきかなって‥‥」
 そこにあったのは勇ましい女騎士ではなく、一人の乙女の姿。
 そんな人生の後輩に、オリガは優しく応える。
「大丈夫です。今は不安も多いでしょうけど、実際に赤ちゃんがお腹に宿ったら、そんな不安はどこかにいってしまいますよ。命が宿るというのは、それくらいの奇跡なのですから。大変なことも多いですけれど、貴方達なら、きっと‥‥」
 辛くなった時、迷った時は、自分を頼ってくれれば必ず力になると、そう約束して。
「ありがとう、オリガ。冒険者になって、零や貴女に会えて、私は本当に幸せだと思う」
 瞳に僅かな涙。けれど、満ち足りた笑顔で。

 依頼最終日。
 キエフへの帰路にあった冒険者達は、それぞれの夜を迎えていた。
 零とシオンは肩を寄せ合い、暖かな火を眺める。静かな雪の森に、零の奏でる笛の音が、響く。これからも変わらぬ愛を、その胸に抱いて。
 それを子守唄のようにして、テントの中で眠りにつこうとしていたオリガは、娘達のことを想う。冒険者として、母として。愛する子らのため、これかも精いっぱいに生きていこうと。
 そして、周囲の見回りに出ていたラザフォードは、これからの未来に想いを馳せる。
(「依頼が終わった訳だが‥‥。さて、次は何をしてみようか?
  キエフに留守番させている妖精を成長させる方法でも考えるか?
  すっかり馴染んだウサ耳を流行らす方法を思案するのも良いだろう。
  或いは、公国に顔を出し暫く協力してみるか。
  キエフのウェイトレスやギルドマスターを口説いて、生死の境を彷徨うのも面白い!
  あぁ、そうだ! 千年後まで生き続ける方法も考えねば!!」)
 思案は尽きず、冒険への情熱は、その胸に今も絶えず。
「ふっ‥‥いやはや、全く‥‥やりたい事は山積みだ!」
 笑みを浮かべて、彼は愉快そうに世界を見つめていた。

 想い果てなく、夢は無限に。
 時に涙し、笑い、怒り、悲しみ。
 友情を、愛を、絆を胸に。
 彼らはいつまでも、きっと果てなく、『冒険者』であり続ける。