●リプレイ本文
キングコブラ‥‥。
それは、王の名を冠せし大蛇。
その牙は力なき者に容赦なく襲い掛かり、その毒は容易に他者の命を奪う。
果たして‥‥冒険者達はこの恐るべき毒蛇にどう挑むのであろうか‥‥。
「わぁ‥‥。素敵なお屋敷ですねぇ‥‥」
目的地に辿り着いた時、シーモア・レッドハート(ea1321)はその美しい外観に、つい見とれてしまった。
手入れの行き届いた広い庭と、その向こうに見える、まるでお城のように美しく大きな屋敷。
「綺麗なところだけど、このだだっ広い屋敷のどこかにキングコブラっていうのがいるんだよね‥‥? まったく、ジャイアントよりでかくて致死毒持ちって、どんな蛇だよ‥‥」
南雲要(ea5832)が愚痴をこぼす。
「油断ならん相手でござる。捕まえられれば御の字でござるが、無理ならば始末するでござるよ」
「キングコブラさん自身は悪くないんだけどね‥‥」
山岡忠信(ea9436)のその言葉に、頷いて答えたノリコ・レッドヒート(ea1435)の表情は暗い。
実は、ノリコは大の爬虫類好き。いかにキングコブラが危険な動物であると知っていて、場合によっては殺さなくてはいけないと分かっていても、助けてあげたいと思う気持ちが、どうしても先にきてしまう。
「‥‥ん? あれは‥‥」
シュヴェルヴァー・ヒューペリオン(ea1382)が屋敷の玄関の前に立つ人影に気テいた。
「ようこそいらっしゃいました。冒険者の皆さん。私はこの屋敷で執事を勤めさせていただいているザレと申します。何かお知りになりたい事があれば、私がお答えいたします」
ザレと名乗った初老のその男性執事は、どうやら冒険者達の世話をするために避難先からこの屋敷に戻ってきたらしい。
それでは‥‥と、前に出てきたのはフィーナ・ウィンスレット(ea5556)とマルティナ・ジェルジンスク(ea1303)の2人。
まずはフィーナから。
「なるべく家具などに傷はつけないように注意しますが、事が事ですので、多少は目をつむっていただけますでしょうか?」
「確固たる保証はできませんが、よほど酷い傷つけ方でない限りは大丈夫です」
その言葉にフィーナが安心したところで、続いてマルティナの質問。
「ヘビさんに関してなのですが、ご飯はいつもどんなモノを?」
「飼料としては、専属の商人が定期的に他の種類のヘビを運んできてくれましてね。それを生きたまま、飼育箱の中に入れておりました。旦那様は、箱の上に空けた覗き穴から、キングコブラが他の種類のヘビを丸呑みにする様子を見るのを日課にしておりまして」
話を聞いて、かなりグロテスクな映像が冒険者達の脳裏に浮かぶ。
「え‥‥えっと‥‥そのヘビさんを入れていた箱とかは‥‥? あと、できれば工作用の道具なんかも貸していただきたいのですが‥‥?」
「飼育に使っていた箱でしたら、上の階の旦那さまの趣味の部屋にあるはずです。道具は屋敷の中に置いてある物なら、好きに使っていただいて構いません。玄関のすぐ近くの部屋に庭師が使っている工具が置いてあったはずです。残念ながらモノがモノですので、今は餌の方の用意が無いのですが‥‥」
しかしながら、冒険者達自身にとって。餌の入手が困難だという点は予想の範囲内だった。必要な工作用の道具さえ揃えば用意には事足りるであろう。
「おや? 失礼ですが、そちらの方はもしかして‥‥」
「ふに? 私ですか〜?」
何かに気づいた風な、執事の視線の先にいたのは央露蝶(ea9451)。
「‥‥いえ、何でもありません。仕事さえこなして頂ければ、別に何も‥‥」
言葉とは裏腹に、どこか不満そうな執事。おそらくは、露蝶がハーフエルフだと分かったからであろう。すぐ側に、シーモアやフィーナといった同じ年頃のエルフの女性がいたため、種族的な特徴の違いに気づかれたようだ。
何となく一同は嫌な空気を感じたが‥‥。
「うに、がんばります!」
当の露蝶自身は執事のその態度にも気にした様子はない。
慣れているのか、生まれ持った性分かは分からないが、ともかく気分を害した様子が無いのは仲間達にとっては幸いであった。
冒険者達は本格的な捜索を始める前に、その準備に取り掛かった。
屋敷の中に入り、いきなりキングコブラに襲われたりしない事を祈りつつ、各種工具や資材等を調達。
全員であれこれと相談した末、とりあえずは暖炉があった居間の天井付近と、床に一つずつ、中に仕掛けた餌に何者かが食いついた時、入り口の蓋が閉まるというタイプのシンプルな仕掛けを設置。
ただし、捕らえるべき対象の大きさゆえ、それは室内に設置する罠としてはかなりの大きさの物になっていた。中にはマルティナが用意してきてくれた『強烈な匂いの保存食』を分けて入れている。また、それにはシュヴェルヴァーの提案で、小さな皮袋に執事に頼んで持ってきてもらった酒を入れた物が括りつけられている。
ちなみに、シュヴェルヴァーの事前準備はもう一つあった。使うのは、これまた執事に頼んで持ってきてもらった、依頼人愛用の煙草。彼は、煙草のベトベトしたヤニを武器に塗っていた。
「結構、重いでござるな」
忠信は一人、高価そうな調度品の運び出しを行っていた。万が一の場合を考えての事だ。
「これで準備完了だね。それじゃ、みんなで頑張って、無事に依頼を果たしちゃおうよ」
と、女性陣に向かって微笑む要。
冒険者達は次の行動に移った。
仲間達が二手に分かれてしばらく後‥‥。
「‥‥寒いですね」
「‥‥寒いです」
「‥‥寒いな」
「‥‥寒いよね」
屋敷の庭先には、寒空の下、設置した罠を見張るマルティナ、シーモア、シュヴェルヴァー、要の4人の姿があった。
だが、この時期の外の寒さは、肉体的にも精神的にもかなり辛い面がある。
「‥‥あの、私、考えたんですけど‥‥」
マルティナに仲間達の視線が集まる。
「これだけ寒いと、ヘビさんもお外に出るのは嫌がるんじゃないですか?」
ただでさえ低い周囲の気温が、さらに下がったのは気のせいだろうか。
‥‥この後、4人が一斉に屋敷の中へ走ったのは言うまでもない。
一方、屋敷の内部、二階の客間。
「‥‥皆さん、気をつけて下さい。どうやらこの部屋にいるみたいです。ちょっと見えませんが、そこのソファの後ろの方にいるらしいです」
フィーナが『ステインエアーワード』によって得たその情報に、ノリコ、要、露蝶の三人の間に一斉に緊張が走る。
こちらのメンバーは地道ながらも確実に部屋の一つ一つを調べていった。特に、魔法による探査ができるフイーナの働きは大きい。
反応は見つけたものの、より安全に捕獲するために、彼らはいったん居間まで撤退して、木箱を持ってくる事にした。
居間の前に辿り着き、扉を開けると、そこに待っていたのは外から戻ってきたばかりのマルティナ達。
何やら皆、真剣な表情である。
「‥‥あれ? どうし‥‥」
ノリコが訊ねようとしたところで、忠信が静かに人差し指で何かを指差す。
「もしかして‥‥」
露蝶がその指の先に視線を合わせてみると‥‥いた。
それも、何と今ノリコ達が開けたばかりの扉のすぐ横の壁に張り付くようにして‥‥。どうやら、自分達は最悪のタイミングで入室してしまったようだ。
「き‥‥キャアアアーーーーーー!!」
「いけない!」
「くっ‥‥! 一式・隼!!」
響く叫び声。それは露蝶のもの。訪れた緊張感に、発現する狂化の兆候。
それを見て、ノリコは慌てて露蝶を取り押さえた。
そして、驚きのあまり露蝶に襲いかかろうとしたキングコブラを、間一髪で要が『ソニックブーム』の衝撃波で吹き飛ばす。
「殺す! 殺してやる!」
「露蝶さん、落ち着いて!」
完全に理性を失った状態の露蝶を必死に抑えるノリコ。
通常の戦闘であれば狂化状態でもそれほど問題はないが、今回の場合は相手が悪い。冷静さを失った状態で挑めば、死につながりかねない。
「まだ動けるのか!」
要が『ソニックブーム』を放った後、壁には大きな亀裂が入っていた。だが幸か不幸か、その直撃を受けたはずのキングコブラは思ったほどダメージを受けた印象はない。
「‥‥こいつ!?」
シュヴェルヴァーの長槍がキングコブラめがけて突き出されるも、大蛇はその一撃を想像以上に俊敏な動きでかわすと、何と突き出された長槍そのものに巻きつき、シュヴェルヴァーに迫った。
「手を放すでござる!」
「くっ‥‥!?」
シュヴェルヴァーの手が槍を放したその瞬間に、忠信は巻きついたヘビごとその槍を蹴り飛ばした。
「今です!」
この隙に、シーモアは『スリープ』を発動。
これが無事に成功したらしく、キングコブラは微動だにしなくなる。
「ふえ‥‥。わ、私‥‥」
しばらくして、露蝶の狂化も無事におさまったようだ。
「ふう‥‥。一時はどうなるかと思いました」
フィーナが、呟いた。ちなみに、彼女も今まで攻撃魔法の詠唱の最中であった。
冒険者達は、誰一人被害がでなかった事に心の底から安堵した
後ほど、残っていたもう一匹のキングコブラも、先ほど発見された客間で、シーモアの魔法により無事に確保されることとなった。
「皆様、お疲れ様でした」
執事からそれぞれの手に報酬が渡される。
「あれ? 俺の分だけやけに少ないような‥‥」
「いや、俺も何だか少ない気がする」
訴えたのはシュヴェルヴァーと要。
「シュヴェルヴァー様は、ご使用になった煙草とお酒の代金が、要様は、壁の修理代がございますので」
その辺はさすがに無償とはいかなかったらしい。
「ところで、このお屋敷では他に何か珍しい動物は飼っていらっしゃらないんですか?」
訊ねたマルティナに執事が答えて言うには、
「屋敷で飼われているのはキングコブラだけですね」」
それを聞いて、珍獣観賞ができるのではないかと期待していたメンバーは少し肩を落とす。
「ふぇ〜‥‥。でも、報酬たくさん貰えたし、良かったですよ〜」
そう言って明るく笑う露蝶。
予想通りにならなかった部分は色々あったものの、冒険者達は無事に依頼を成功させ、その後、キャメロットへと帰還した。