●リプレイ本文
神聖暦1000年。
新たな年を迎えたその瞬間にも、キャメロットは聖夜祭の真っ只中だった。
冒険者達がその露店の前を通りがかったのは、そんな時。
ある者は友人の家を訪れた帰りだったし、またある者は、待ち合わせをすっぽかされて、やけ酒を飲んだ帰りだったり‥‥と、それぞれの事情も様々。
だが、そんな事情とは何の関係もなく、今から彼らが行う事は唯一つ。
筒の中から1本の木の棒を引く。ただそれだけだ。
しかしながら、それは新たなる年を迎えた『己』という存在を試す儀式。
今、それぞれの期待と不安を胸に、冒険者達は新年最初の大勝負へと挑む。
「いや、こいつは驚いたな‥‥」
商人は満足そうに呟いた。‥‥と言うのも、この商売はよほど冒険者達の興味を引いたのか、一気に押し寄せた冒険者達に、店を開いて数分でクジは無くなり、ゆっくりと彼らに賞品を渡す暇も無かったほどの盛況ぶりとなった。
仕方なく、商人は集まった冒険者達全員にクジを引いてもらった後で、賞品を渡していく事にした。
「1番、3番、5番、7番、8番‥‥それから、10番、11番、12番‥‥あとは、14番と15番。以上の番号を引いたお客さん達への賞品は、こいつだ」
一気に番号を読み上げると、商人は並べてあった賞品の中から『ある物』を手に取り、冒険者達に渡していった。
その『ある物』とは、『強烈な匂いの保存食』である。
「こいつは予想外だったなぁ‥‥。どうしたもんかな、これ?」
『1』と書かれた棒を手に、陸奥勇人(ea3329)は、渡された賞品を見ながら、やや困惑した笑みを浮かべている。
「私はちょうど持っていませんでしたし、依頼によっては使う機会もあるでしょうから、完全にハズレとは言い難いのですが、当たりと言えるかどうかも難しいですね。‥‥普通と言ったところでしょうか?」
勇人に同じく、やや複雑な笑みを浮かべているのはケンイチ・ヤマモト(ea0760)。彼の持っている棒の番号は『11』。
「ん〜。ま、新年早々、運を使いきることもねぇし、良しとしておくぜ」
「そうですね。一年はこれからですから」
サッと気持ちを切り替えて、穏やかな笑顔を浮かべる2人。
「はっはっは〜。‥‥普通って言うな〜!! ‥‥にしてもリアクション取りにく〜やでホンマ‥‥。これじゃボケきれへんやないか〜!」
何やら、賞品の当たりはずれで色々とリアクションを考えていたらしいイフェリア・アイランズ(ea2890)も、ちょっと困り顔。なにせ、複雑なリアクションで目立とうと思っていたら、回りの皆も複雑なリアクション。少し読みを外した模様。
「今年も普通に過ごせそーですね♪ うん。去年みたいに、ぼのぼの過ごすのも楽しいですの」
イフェリアのすぐ隣で様子を見ていたエヴァーグリーン・シーウィンド(ea1493)は、そう言って笑った。彼女の手には『14』と書かれた木の棒が握られている。
「‥‥ま、新年の最初から突っ走ってたら収拾つかんようなるしな。‥‥んでも、すぐにブーストかますで〜!!」
「私も『しょーじん』して頑張るですの!」
彼女達は、今年も元気いっぱいだ。
一方、それとは正反対に、思いっきり落ち込んでいるのがこの2人。
「‥‥年はじめからこれとは‥‥」
「まあ‥‥こんなものですね‥‥。でも‥‥こんなんで‥‥今年はやっていけるんだろうか‥‥」
『8』番を引いた冬花沙桜(ea3137)と、『5』番を引いたシーナ・アズフォート(ea6591)だ。
「こういう時は神社で‥‥そうか、ここには神社が無いのですね‥‥。ああ、ジャパンにいた頃が懐かしい‥‥」
遠い故郷に思いを馳せ、涙を流す沙桜。
いや、何もただの運試しでそこまで落ち込む事はないだろうに‥‥と、思わなくも無い。
「ううん、落ち込んでちゃダメだよね。しっかりしろ、私。‥‥そうよ。今年こそ、大好きなあの人に‥‥」
言って、頬を紅くするシーナ。
どうやら、強い想いの力で立ち直る事に成功したようだ。
果たして、彼女のこの想いは、今年こそ実を結ぶ事ができるのだろうか‥‥。
「‥‥待ってろよ。絶対に追いついてやるからな」
そして、シーナと同じように、ソウジ・クガヤマ(ea0745)も、ある人物を心の中に思い浮かべ、遠く空を眺めている。その手には、彼が引き当てた『15』番の賞品である『強烈な匂いの保存食』が強く握られて‥‥といのはさすがに絵にならなかったので、彼の愛用するスクロールが強く握られている。
「‥‥にしても、もっと良い物を期待してたんだがなぁ」
ちなみに、彼が期待していた物は、彼がこの運試しに払ったお金の数倍から数十倍の値で取引される希少品ばかり。商人の採算を考えると、さすがに期待しすぎだった気がしなくもない。
だが、ソウジと同じように少しばかり過度な期待をしていたものの、渡された賞品にそれなりに満足していた者もいる。
『12』番を引いた彼女の名はアリシア・シャーウッド(ea2194)。
普段は、『らんぷ亭』に勤める笑顔と元気のウエイトレス。実は彼女、珍しい物と可愛い物には目が無い。
「魔法の弓とか欲しかったんだけど‥‥。でも、これもまだ持ってなかったし‥‥。うん、ま、こんなもんかぁ‥‥。ところで‥‥ね、おっちゃん‥‥?」
「ん?」
「もう1回引いちゃ‥‥ダメ?」
期待を込めた眼差しでじっ〜と商人を見つめるアリシア。
「はっは〜。いや〜、アンタみたいな、とびっきりの美人にはサービスしたいところなんだが、もう賞品が無ぇ。それに、それじゃ運試しの意味が無いだろ?」
「う〜ん、それもそっかぁ‥‥」
仕方なく諦めるアリシア。
「よし! 気を取り直して今年こそ〜!!」
彼女の珍しい物を追い求める日々は、これからも続く模様。
さて、『強烈な匂いの保存食』を受け取ったのは残り2人。
『10』番を引いたガッポ・リカセーグ(ea1252)と、最後の最後まで残っていたのを引いたら『7』番だった五百蔵蛍夜(ea3799)。
この2人、何でも新年早々、待ち合わせの相手に見事に約束をすっぽかされたという悲しい共通点があり、揃って酷く不機嫌だったりする。
「ちっ‥‥。ま、こんなもんか。運は溜めとくもんだって言うしな‥‥」
「確かに、まぁ‥‥こんなも‥‥ウプッ‥‥!」
ここに来る前にかなり酒を飲んでいたのか、すっかり酔っ払った状態のガッポ。
その意味でかなり危険な状態のようだ。
「‥‥っと! ふぅ、危ねぇ」
「危ねぇ‥‥じゃ、ねえーーー!!」
叫んだのは露店の商人。
実は蛍夜、ガッポから離れるのではなく、敢えて彼の背中を押して突き放すという暴挙に及んでいたりする。
なお、その突き飛ばした先に露店があった点に作為的なものを感じないでもない。
「さて、今年は酒を飲みすぎないようにしないと‥‥。あと、あんまり女を泣かせないように‥‥」
「人の話を聞けーーー!!」
視線を逸らす蛍夜へ、商人が即座にツッコミを入れたその時、
「おえっ‥‥プッ」
「うわあ、待て、やめろーー!!」
ガッポが我慢の限界を迎えた。
――しばらく後。
「‥‥ま‥‥待たせたな。次の賞品の番号を発表してくぜ‥‥」
何やら酷く疲れた様子の商人だった。
「4番、6番、9番、13番。以上の番号を引いたお客さん達は、こいつを受け取ってくれ」
取り出された賞品は、これからの時期、冒険者達にとっては、必携の価値がある一品、『防寒服一式』である。
「一応、当たりの部類に入るのだろうか‥‥。ふむ、今年は頭から運が無いな」
「払った分と同じ価値の物が返ってきてるわけだから、まぁ、悲観するほど不運って訳じゃないが‥‥」
「まぁ‥‥なんとかというところでしょうか。これをうまく利益にもっていけるかが、私の腕の見せ所なのですが‥‥」
言ったのは、順に、『6』番を引いたフィル・リスキィ(ea9965)、『9』番を引いたシュナイアス・ハーミル(ea1131)、『4』番を引いた霧生正治(ea5338)。
三人揃ってどこか不満そうだったので、辺りが暗い雰囲気になってしまう。
しかし、この空気をおかしな方向に一変させる者が現れた。
「ちょっといいかな?」
「ん?」
商人を呼び止めたのは、『13』番を引いたユウン・ワルプルギス(ea9420)。
「うん。適度な当たりだね。この賞品のチョイスはなかなか良いトコロついてると思うよ」
「そ‥‥そりゃあ、どうも」
ユウンのペースに飲まれる商人。大変なのはここからだった。
この後、ユウンの話が長々と続く事になる。
「しかし、惜しいのは当たりの数だね。割合的に考えても15本の中に4本というのは‥‥」
以下、中略。
「‥‥そもそも、正直な商売をしてる露店なんて露店じゃないと僕は思うわけで‥‥」
以下、さらに中略。
「‥‥というわけだから、今度からは気をつけてよ」
「は‥‥はい‥‥すいませんでした」
辺りに妙な人だかりができた頃になって、ようやく解放された商人。
なお、ユウンのこの行動は後で妙に噂になったらしい。
‥‥ついに、最後の番号が発表される時が来た。
この運試しに挑戦した15人の冒険者達。その中で、唯一の大当たりを引き当てた強運の持ち主とは‥‥。
「大当たりは‥‥2番だ!」
商人の視線の先にあったのは、太郎丸紫苑(ea0616)の姿。
「さあ、受け取ってくれ」
「えっ‥‥、これって!?」
紫苑は、その手に渡された賞品に目を丸くする。それは、装飾を施された不思議な枝‥‥。大当たりの賞品とは『魔法少女の枝』だった。
「すっご〜い! こんなものまで入ってるんだ〜!」
これは希少かつ、使いこなせれば冒険者にとって大いに役に立つ可能性のある逸品。
だが、使い手を選ぶという大きな問題を抱える逸品でもある。
これをどうするかは、獲得した紫苑の手に委ねられた。
冒険者達の新たな一年はまだ始まったばかり。
この日、この露店で入手したアイテムを、彼らはどう使う事になるのか。
それはまた、これから先のお話。