いたずら魔法少年を捕まえろ!
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:1〜3lv
難易度:普通
成功報酬:0 G 65 C
参加人数:8人
サポート参加人数:-人
冒険期間:10月09日〜10月14日
リプレイ公開日:2004年10月12日
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●オープニング
『魔法をイタズラに使っている少年を懲らしめてほしい』
その日、冒険者ギルドに持ち込まれた依頼は、多くの冒険者にとって‥‥特に、実際に魔法を使う事を生業としている冒険者達にとっては、笑い事で済ませるには少し難しいものだった。
依頼人の話はこうだ。
自分が住んでいる場所の近くにある路地で、夜遅くにそこを通ろうとすると、誰もいないところから「助けて〜」と、子供の囁くような声を耳にするという事件が多発していた。
何事か確かめるために、声のするところを調べようとすると、今度はまた違う方向から「苦しいよ〜。怖いよ〜」という声が聞こえてくる。
今度はそちらの方を振り向いてみるのだが、やはり誰もいない。
何だか気味が悪いと噂になり、最近はそこを通るのを避ける者も増えてきていた。
そんなある日の事、依頼人がたまたまその路地の近くを通った時、物陰からクスクスと笑い声が聞こえてきた。
近づいて見てみると、10歳くらいの子供が噂の路地の方を見ながら必死に笑いをこらえている様子が見えた。先ほど聞こえた笑い声は、つい洩れてしまったものだったのだろう。
不審に思って少年に声をかけてみると、依頼人が引き止める間もなく、その少年は血相を変えて逃げ出してしまったのだという。
いったい何を見ていたのだろうと、少年の視線の先を追ってみると、そこには怯えた顔で右往左往する女性の姿があった。
近づいて話を聞いてみたところ、先ほどから、誰もいないところから助けを求めるような声がして、けれどもどうしていいか分からず困っていたのだという。
また、その声は丁度今さっき聞こえなくなってしまったとの事だ。
これは‥‥と、依頼人が付近の住民達に相談し、今回の依頼が出される事になった。
ギルドの受付の係員も、やれやれといった感じで肩を落とす。
「おそらくは『ヴェントリラキュイ』の魔法を使ってる。つまりは風の魔法を使うって事だから、十分に注意しろよ。捕まえて二度とこんな悪さをしないように、こってりと説教してやって欲しいってのが、依頼人の要望だ。まあ、よろしく頼む」
●リプレイ本文
魔法。
神、あるいは精霊の力を使い、様々な現象を引き起こす奇跡の法。
それは、正しく使うのであれば多くの者の助けとなり、人々に限りない恩恵を与えるであろう。
だが、もしその使い方を誤れば、人は世界を滅ぼす事すら可能となる。
忘れてはいけない。
大きな力を持つという事は、それだけ自分達がこの世界に対する責任を負うのだという事を‥‥。
「せっかくの魔法を悪戯に使ってしまうなんて‥‥」
そっと自分の頬に手を添えながら、残念そうに呟くのはロレッタ・カーヴィンス(ea2155)。時折見せる優美な身のこなしは、彼女の育ちの良さを隠せない。その身を包む煌びやかなローブの着こなしも見事である。
「う〜ん‥‥特に情報は集まらなかったね〜」
「依頼人の証言から、犯人の少年の特徴はいくつか分かったが、身元に関する情報は一切なし。まあ、それが分かっているなら、わざわざ俺達を雇ったりもしないか‥‥」
少し肩を落としながら、そんな会話を交わすのは太郎丸紫苑(ea0616)と、れぐるすすぃん(ea7411)だ。
この二人、種族や年齢の違いこそあれ、お互いにジャパン出身の志士であるという共通点がある。
イギリスにはケンブリッジのようなウィザードの養成学校もあり、魔法を学ぶ事は比較的奨励されていると言っていいが、遠い異国であるジャパンは違う。宗教的な要素が深く関わる神聖魔法はともかく、精霊魔法の技術は神皇家によって独占されており、その力を使う事を許されるのは、ごく一部の選ばれた者達だけだ。
それ故に、魔法を使う事がいかに大きな責任を負うかを、この二人は良く知っていた。
当然、この事件への思い入れも相当なものである。
「とりあえず、現場周辺の調査に関してはこんなところでしょうか?」
「そうですね。僕達が身を隠せそうなところもいくつかありましたし、後は夜になって、少年が現れるのを待ちましょう」
周囲の様子をもう一度確認し、頷きあったのはマルティナ・ジェルジンスク(ea1303)とティール・ウッド(ea7415)。
今回の依頼に参加した冒険者達は、いずれも周辺の地理を把握しておく事に余念が無かった。
現場は細かい路地も多く、全てを把握するにはかなりの時間を要したが、大体の道は何とか覚える事ができた。
犯人の少年が逃走に使いそうな道に関しても、既に大体は予想がついた。
一同、準備万端である。
『‥‥という事だから、私はしばらくノンビリさせてもらうわ』
『おう、ゆっくり休め! あ〜、待ち遠しい。早く夜にならねぇかな〜』
一連の会話を、語学に秀でたロア・パープルストーム(ea4460)がゲルマン語に訳して、まだイギリス語を理解できないクリムゾン・コスタクルス(ea3075)に伝えた。
クリムゾンにとっては幸いな事に、今回の参加者の中にはイギリス語とゲルマン語の両方の言語を話せる者がマルティナ、ロレッタ、ロアの三人もいて、意思疎通に関してはそれほどの障害は無かった。特に、ロアはそのどちらの言語にも専門的な知識を有しており、彼女の果たしている役割は大きかった。
時は過ぎ、いよいよ辺りが暗くなってきた頃、冒険者達は事件が起こった現場を囲むようにして、周辺に散った。
「さて、頑張らないと‥‥」
呟いたのはサイ・ロート(ea6413)。
彼は、犯人の気を引くための囮役である。
余談ではあるが、実は、彼には少しばかりの借金があった。今のままではエチゴヤに行って保存食を買う事もできない。今後のためにも、今回の依頼は是が非にでも成功させ、報酬で借金返済といきたいところである。
そうして、サイが事件のあった路地や、その周辺をうろうろしているが、犯人はなかなか引っかかってこない。
「包囲は完璧ね。さあ、どこからでもきなさい」
周囲の様子を確認し、ロアはインフラビジョンを使った。これなら、暗闇の中でも犯人が来た時にすぐ分かる。
同行していたマルティナは、いくらか魔法に興味があったようで、ロアに一つの質問をした。
「ねえ、ロアさん、魔法ってどんな感じなんですか?」
「どんな感じって‥‥え〜と‥‥精霊から力を借りるというか‥‥精霊という力を世界から借りるというか‥‥」
どうやら魔法を使う感覚とは、言葉で説明するのにはいささか難しいもののようだ。これは実際に魔法を使えるようになって、自ら経験してみなければ分からないのかもしれない。
「あ、かかったみたいだよ」
紫苑のその言葉通り、サイの動きに変化があった。離れた場所から見ているので、はっきりとは分からないが、どうやら恐がっている振りを始めたようだ。
「おかしいわ。昼間のうちに予想しておいた場所には、子供の姿なんて見当たらない。‥‥とりあえず、二人とも一緒に探してみて」
言うが早いか、ロイはすぐさま呪文詠唱を開始し、紫苑とマルティナの二人に付与した。
『助けて〜。 助けて〜』
「そろそろいいかな‥‥」
話に聞いていた通りの謎の声を聞きながら、怯えている振りをしていたサイ。
彼は、仲間達が少年の居場所を把握するには十分な時間が稼げたはずだと判断し、ダズリングアーマーの詠唱を始めた。
そして、彼の身体から強い光が放たれる。
「そんな、まだ見つけ‥‥あ!」
予想外の事態に、作戦が失敗したかもしれないと思い始めたその時、マルティナが何かに気づいた。
建物の二階の高さにあり、どこかフワフワと不安定な人の影。
「皆さん、彼は空の上です!!」
そう。先ほどからロイ達が少年を発見できなかった理由。
それは、少年が建物の影に身を潜めていたのではなく、リトルフライの魔法によって、小さな路地の間の、空中で身を隠していた事が原因であった。インフラビジョンで見ても、これでは屋内を移動している人間だと思えてしまうだろう。隠れていそうな場所に目星をつけてはいたのだが、まさか空から来るとは思っていなかったので、これには一同驚きを隠せなかった。
だが、これで少年の姿は確認できた。
さあ、追いかけっこの始まりだ。
「空の上とは、してやられたな」
『待てーーっ、この悪ガキ!!』
「ま〜て〜、ゲフゲフ‥‥」
「お願いします〜。待って下さい〜」
れぐるす、クリムゾン、ティール、ロレッタといった、今まであちこちに散らばって身を隠していた仲間達も次々に姿を現し、少年を追いかけ始める。
ちなみに、ティールがむせているのは何やら原因があるようなのだが、それが何なのかはよく分からない。何かの病気なのかもしれないし、たまたま喉にホコリでも吸い込んだのかも知れない。まあ、余談ではあるが。
「うわわっ! 何、この人たち!?」
距離があったためか、サイのダズリングアーマーで少年の目を眩ます事はできなかったらしい。少年はこちらの姿を確認するやいなや、一目散に逃げ出し始めた。
特に、彼はクリムゾンにだけは絶対に捕まりたくないと思っていた。異国語で怒鳴り散らされながら、鬼のような形相で追いかけられれば、そう思うのも無理はないか。
「逃がしませんよ。皆さん、こっちです」
空を飛べるマルティナがしっかりと少年をマークし、仲間達を誘導する。
隙さえあればアグラベイションで少年の動きを鈍らせようと、紫苑が機会を窺うが、少年はこちらを撒くために、入り組んだ路地の間をかなりの速さで移動しており、気を抜けばすぐに視界から消えてしまうため、それはできなかった。
「うっ‥‥、もう時間が‥‥」
魔法にはいずれも効果を発揮していられる時間というものがある。少年は自分の飛んでいられる時間の限界が近い事を認識していた。しばらくすると、彼は地面に着地し、そこからは走って逃げ出し始めた。
だが、そうなってしまえば、有利になるのは数の多い冒険者側だった。
間もなく、少年は冒険者達によってすっかり囲まれてしまった。
「まあまあ、そんなに恐がらなくてもいいんですよ。ちょっとお話をするだけですから」
今からどんな目に合うかを想像し、すっかり青ざめた表情になっている少年に対して、あくまでもロレッタの表情は穏やかだ。
「金色の短い髪に、碧色の目‥‥話に聞いていた少年で間違いなさそうですね」
ティールの言葉に、一同は頷いて納得しあう。
「ごめんなさい。僕‥‥ただ、魔法を使えるようになって、嬉しくて‥‥でも、師匠には、まだ人に見せるには早いなんて言われて、でも‥‥」
聞いてもいない事をペラペラと話し始める少年。その顔は今にも泣き出しそうだ。
「ねえ、君。イタズラされた人の気持ちを考えたことある〜? ボクも魔法をはじめて使えたとき、すっごくわくわくした。『神皇さまのために使うんだ!』って、はりきったよ〜! 君も魔法を他の人のために使ってみたら絶対に気持ちがいいよ〜!」
紫苑が笑顔で少年に話かける。
「いいか? 私達も含め、魔法を使う者は世の中に大勢いる。だからこそ、誰かが魔法を悪用すると私たちにも迷惑になるんだ。それを忘れるな。今後もこのようなことを続けるのなら、お前は私達の敵だ。だが、今度から他人のために魔法を使うというのなら、お前は私たちの仲間だ」
れぐるすも表情は厳しいものの、その言葉の中には少年に対する思いやりが含まれていた。
それらの言葉の奥にあるものを、少年も感じ取ったのだろうか、泣き出しそうになるのを必死にこらえながらも、二人の言葉にじっと耳を傾け、そして、こう呟いた。
「本当に‥‥ごめんなさい。それと‥‥ありがとう」
翌日、少年は冒険者達に案内してもらって、迷惑をかけた付近の住民達の元を順に謝ってまわった。
誰に言われたわけでもない。少年が自分でそうしたいと言い出したのだ。
彼が今後、どんな魔法使いになるかは分からないが、少なくとも今は、その少年を見守る冒険者達の目は穏やかであった。