【怪盗はキミ?】奪われた宝刀

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:1〜4lv

難易度:やや難

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:10人

サポート参加人数:-人

冒険期間:01月16日〜01月23日

リプレイ公開日:2005年01月24日

●オープニング

「お願いです。どうか、我が家に先祖代々伝わる宝刀を取り返して下さい」
 ギルドにそう依頼してきたのは、お静と名乗る一人の美しい女性。
 御髪にさした螺鈿の櫛と、ほんのりと薄く唇に塗られた紅‥‥。
 服装や身体的特徴から見ても、おそらくジャパン出身の女性と見て間違いないだろう。
「そいつはまた‥‥。詳しく聞かせてもらえるかい?」
 受付の係員はそう言うと、羊皮紙を広げ、依頼書の作成を始める。
「はい。あれは、私がこの国に来て間もない頃‥‥。まだ、この国の言葉すらまともに話す事のできなかった私は、ジャパンで雇った通訳の方に、とある商人を紹介していただきました」
「ふむ‥‥?」
「連れてこられた私を見て、その商人は宿の手配から食事の世話、さらにはイギリス語の先生まで、私に必要だったあらゆるものを準備してくれると言いました。私も最初は、何と親切な方だろうと、そう思ったのです‥‥」
 そこまで話して、お静は悔しそうに眉を細めた。
「その時の、お世辞にも多いとは言えない程度のお金しか持っていなかった私に、商人はこう持ちかけてきました。まずは一生懸命に勉強して、この国の言葉を覚えなさい。そして、私が言葉を覚え、この国で働いて稼げるようになるまで、自分が世話した分のお金は請求しない‥‥と」
「そりゃあ、ますます親切な商人だな」
 係員がそう言うと、お静は首を横に振った。
「今思えば、それらの親切は全て私からあの刀を奪うための策略だったのです。商人は最後にこう言ったのです。今はお金を請求しない代わりに、もしもという時のために、私が大事にしているその刀を預からせて欲しい‥‥と。その後、月日は流れ、私がこうしてこの国の言葉を話せるようになり、働き口も見つかり、お世話になった分のお金を商人に返そうとしたその時に、あの刀は借金のカタにとっくに売ってしまった‥‥と、商人はそう言ったのです。私が必死に食い下がると、商人は人が変わったようになり‥‥感謝されこそすれ、恨まれる筋合いはない。お前のような恩知らずの顔など二度と見たくない‥‥と、無理やりに私を追い返し‥‥」
「事情は分かった。だが、どこに売られたかも分からない刀をどうやって取り返すんだ?」
「それなのですが、調べてみたところ、商人があの刀を売ったというような話は他のどこにも出ていないのです。おそらく商人はあの刀を売っておらず、自分の物にして持っているのではないかと‥‥」

「‥‥と、そういうわけで、問題の商人の屋敷から、その刀を取り返してきて欲しい」
 集まった冒険者達を前に、係員は告げる。
「だがまあ、この手の悪党に正攻法で取引しに行っても、まず返しちゃくれないだろうな‥‥」
「はっきり言えばアレか? 盗人の真似事をしろ‥‥と」
 呟かれた係員の言葉に、冒険者の一人が率直な質問を返した。
「そうは言ってないが‥‥。どうするかはあんた達次第さ」
 依頼人の話を聞く限りでは、悪いのは明らかに商人である。
 だが、その悪事の明確な証拠が存在しないのでは、法に訴える事も難しい。下手をすれば、犯罪者として捕まるのはこちら側だ。
 果たして、冒険者達はいかにして、この依頼に挑むのだろうか‥‥。

●今回の参加者

 ea0945 神城 降魔(29歳・♂・志士・人間・ジャパン)
 ea1644 ヒンメル・ブラウ(26歳・♀・神聖騎士・人間・神聖ローマ帝国)
 ea4816 遊士 燠巫(38歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea5410 橘 蛍(27歳・♂・忍者・人間・ジャパン)
 ea8784 一 二三四(27歳・♀・忍者・パラ・ジャパン)
 ea8807 イドラ・エス・ツェペリ(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea8984 アレクサンドル・ロマノフ(23歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9420 ユウン・ワルプルギス(20歳・♀・ウィザード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9557 ミハイル・プーチン(21歳・♂・バード・ハーフエルフ・ロシア王国)
 ea9982 秋 静蕾(30歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)

●リプレイ本文

 それは、静かなある夜の事。
 闇の中で、彼らはその時を待っていた。
 耳を澄まし、目を凝らし、ただひたすらに、その機会を‥‥。

「仕事の時間ですね‥‥。行きましょう」
 イドラ・エス・ツェペリ(ea8807)のその言葉に、集まっていた冒険者達は顔を見合わせ、静かに頷きあった。
「上手くいけばいいのですが‥‥」
「成功させなければ意味が無い。失敗は許されない」
 橘蛍(ea5410)と神城降魔(ea0945)の二人の視線の先にあるのは、今から彼らが向かう商人の屋敷。
 自分達が今から行うのは、下手をすれば、盗人として自警団に処罰されかねない危険な行動だ。
「ここまで来ておいて、こんな事を言うのも何だけど、相手の商人も変わってるね。普通、一つの国の言語をそれなりに話せるようになるには、ある程度の期間は必要な筈。まあ、僕みたいに、あらゆる言語に長けている優秀な者は別として、だよ。その期間の住居と食事、更には教師の用意までしておいて、その対価がたかが刀一本。なんとも優しい商人じゃないか」
 今回の依頼の発端に関して、ユウン・ワルプルギス(ea9420)には色々と思うところがあったらしい。
 そんな彼女の言葉に対し、明らかに商人の方が悪者だと考えていたミハイル・プーチン(ea9557)は、やや複雑な表情。
「う〜ん‥‥そうでゲすかねぇ? ジャパンの刀で依頼人が宝刀とまで言った品でゲすから、かなりの値打ちもんに違いないと思うでゲすよ。ユウンさんは今回の依頼、あんまり気が乗らないんでゲすか?」
「私はあの商人に実際に会ってみましたが、信用できない相手ですよ。大体、彼が雇っている用心棒達にしても、多過ぎです。よっぽど隠したい事情や大勢の敵がいるのだと思いますね。裏でどれだけ悪い事をしているのやら」
 ミハイルに続いて言ったのは、一二三四(ea8784)。
 数日前、彼は商談と称して、珍しい忍者刀があるので取引したいと商人に持ちかけた。
 だが、それで屋敷への潜入には成功したものの、中では四六時中監視をつけられ思うように調査ができず、商談においても、肝心の取引日の指定はやんわりと断られてしまった。色々と理由をつけて粘ってはみたのだが、話術に関しては相手の方が一枚も二枚も上手だった。その時の商人の顔は穏やかではあったが、裏では相当腹黒い思案を巡らせていたに違いないと二三四は思っている。
「おっと。勘違いしてもらっちゃ困るな。受けた依頼は最大最高の力をもって遂行するのが、僕のポリシーだ。心配しなくても、自分の仕事はきっちりしてみせるよ」
 実際、ユウンは今までの調査の面でも、特に活躍した者の一人。『バイブレーションセンサー』での探知と『アースダイブ』での潜入調査など、屋敷内の構造や人の流れを把握するのに、彼女の果たした役割は大きい。
「まあ、本当はこんな真似をせずに穏便に済ませたかったんだけどねぇ‥‥」
「あの商人ときたら、結局、刀を手放そうとはしてくれなかったもんね。あ〜あ、散々脅かしてあげたのになぁ‥‥」
 そう呟くヒンメル・ブラウ(ea1644)とアレクサンドル・ロマノフ(ea8984)。
 今日までの間に、冒険者達はある手段を用いて商人に刀を手放すように仕向けていた。
 その手段とは『呪い』である。
 実際に商人を呪ったわけではない。その内容は、商人が奪った刀について『どうもあの刀は呪われているらしい』という噂を流し、商人を不安にさせ、自ら刀を手放すように仕向けたのである。
 ただ噂を流すだけではない。例えば、アレクサンドルは『サイコキネシス』であらゆる物が勝手に動いているかのように見せ、心霊現象が起こっていると思わせられるような悪戯を何度も行っていたし、ミハイルは『テレパシー』や『ムーンアロー』を用いて、思念で妖しい言葉を聞かせたり、少し痛い思いをさせたりと、いかにもそれらしい体験を商人にさせていた。
「しかし、それが少しばかり裏目にでてしまったのは残念だったな」
 遊士燠巫(ea4816)も呪いの悪戯に関わった一人だ。彼は使用人に変装しての潜入捜査の傍ら、訪れた部屋を散らかすなどの地味な悪戯をしていた。
 燠巫が言うように、この作戦は少し裏目に出た。
 というのも、商人が依頼人から刀を預かっていた数ヶ月もの長い間、そういった呪いの現象じみたものは一切起こっていないのである。
 それを突然、『あの刀は呪われている』などと言われて、それらしい現象を起こして見せたところで、商人には信じ難かったのだ。
 結果、何者かの悪質な悪戯だと判断した商人は警戒を強め、さらに用心棒の数を増やすという事態が発生してしまったのである。
 これにより、二三四の予定していた『忍び込んでの刀の捜索』などは、今の彼の技術では難しくなってしまった。
 また、その悪戯の容疑者として、刀の元の持ち主‥‥お静に密かに監視がつけられてしまうという事態まで引き起こしていた。
「でも、おかげで潜入捜査はしやすくなりましたよ。僕にしろ静蕾さんにしろ、簡単に雇ってもらえましたから」
 蛍は使用人として商人に雇われ、内部調査を行っていた。
 今ここにはいないが、もう一人、秋静蕾(ea9982)も用心棒として屋敷に潜入している。
「僕はここで見送りだけど‥‥。全員、屋敷の地図は頭の中にちゃんと入ってるね?」
「大丈夫です。しっかりと覚えましたから」
 屋敷の前まで来たところでユウンが仲間達に訊ねると、イドラは微笑んで応えてみせた。

「始まったか‥‥」
 庭先の方で白く淡い光が見えた後、突如として屋敷のあちこちが騒がしくなったのを感じ、静蕾は目的の場所へと向かって歩き出した。
 屋敷内で用心棒として雇われていた間の調査の末に、彼女には刀の在り処について大体の目星がついていた。
 混乱の最中、彼女は静かにその場所へと向かった。

「そこの奴、ま‥‥ぐあ!!」
「やれやれ、逃げ回るのも楽じゃないでゲすねぇ‥‥」
 離れた位置から『ムーンアロー』を放っては逃げるという行為を繰り返し、ミハイルは呟く。彼のお世辞にも痩せているとは言い難い身体は、けして俊敏というほどの動きはできないが、それでも余計な武器や防具を身につけずに来たおかげで、何とか用心棒達から逃げ回る事はできていた。

「ぶ‥‥武器が勝手に‥‥!!」
「うぉあ!?」
「そんな危ない物、振り回されちゃ困るもんね〜」
 アレクサンドルは『サイコキネシス』で自分に迫る用心棒の持っていたロッドを奪い、後続の用心棒達に向かって投げ飛ばした。威力はほとんど無いが、足止めには丁度良かった。

「浄化の光よ‥‥」
 ヒンメルが詠唱を終えると、放たれたのは『ホーリー』の魔法。
 先ほど静蕾が見た白く淡い光の正体も、この呪文である。
「今、向こうで何か光ったぞ!」
 ヒンメルの方に向かってくる足音と声。
「皆、上手くいくといいけど‥‥」 

 ――ボンッ!!
「おい! 屋根の上で何か爆発したみたいな音がしてるぞ!?」
「何だと!?」
 屋根の上を小さな爆発を起こしつつ移動していたのは蛍。
 これは彼の忍法、『微塵隠れ』によるものであった。
「屋敷の中で働かせてもらった時に、皆さんと一緒に頂いたお食事の恩は今でも覚えていますが、これも私のお仕事ですから、悪く思わないで下さいね」

「はあっ!!」
「ぐっ!」
 イドラはその手に握られたロングロッドの射程を上手く利用し、狭い通路のでの戦いに難儀している用心棒達に次々と突きを浴びせていく。
「さすがに全員の相手はしていられませんね‥‥。それなら‥‥」
 彼女が隙を見て取り出した懐から取り出したのは、灯りに使うための油を入れた小さな壷。封を開いて中身を通路にぶち撒けると、途端に用心棒達の足場が悪くなる。
「うわわっ!?」
 油に足をとられた用心棒達を尻目に、イドラはその場を後にした。

「盗人風情が! 喰らえ!」
「させん!」
「何!?」
「でやあっ!!」
「ひっ!?」
 燠巫の手裏剣よって攻撃を妨害され、降魔の『ブラインドアタック』と『バーストアタック』を組み合わせた一撃により、持っていた棍棒を真っ二つにされた用心棒は、不利を悟ると即座に逃げ出した。
「何とか一人退けたが‥‥」
「まったく、次から次へと‥‥」
 彼らもまた陽動にあたっていたが、用心棒達の数は思っていたよりも多く、かなりの苦戦を強いられていた。
 だが、まだ屋敷そのものから逃げ出すわけにはいかない。彼らは仲間の誰かが無事に刀を奪還するその時を待っていた。

「き‥‥貴様、何のつもりだ!?」
「何のつもり? お前、もう分かっているはず」
 仲間達が用心棒達を引き付けてくれている間に、静蕾は商人の寝室へと侵入していた。ここは特に警戒が厳しい場所の一つであり、商人自身の他は、限られた一部の使用人ぐらいしか立ち入る事を許されていない場所だった。半ば勘に頼った判断であったが、どうやら正解だったらしい。
「腕が立つと思って雇ってみれば賊だったとはな‥‥! 渡さんぞ、この刀は!! せっかくの珍しい品を、誰が貴様なんぞに!!」
 普段から冒険者として刃物に触れる機会の多い静蕾には、それがキャメロットでは非常に珍しいジャパン独特の武器であり、高い完成度の刃を持つ刀である事がすぐに分かった。
「くっ!」
 一瞬の攻防。
 その後に残っていたのは、冷たく光る短刀の刃を眼前に突き付けられた商人の姿だった。
「お前、それを持つ資格ない。おとなしく渡せ。でなければ‥‥殺す」

 ――後日、冒険者ギルド。
 そこには、戻ってきた宝刀を大事そうに抱えるお静の姿があった。
 あの後、冒険者達は皆、何とか屋敷からの脱出に成功していた。
「ありがとうございました。皆さんには何とお礼を言ったらいいか‥‥」
 余談ではあるが、幸い、商人から自警団への盗難届けは出ていないそうだ。
 本人に後ろめたい事情があった事と、刀に関する以外の屋敷への被害が少なかった事が、冒険者達に都合の良い結果を招いてくれたと言えるだろう。

 こうして、彼らは無事に依頼を終えたのである。