イタズラ悪魔と木偶人形
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:1〜4lv
難易度:難しい
成功報酬:1 G 0 C
参加人数:10人
サポート参加人数:3人
冒険期間:02月03日〜02月08日
リプレイ公開日:2005年02月15日
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●オープニング
「腕の立つ冒険者を数人、大至急で雇いたい!!」
その男性はギルドに駆け込むなり、かなり切羽詰った様子で係員に迫った。
「まあ、少し落ち着け。そんなに慌てて、いったい何があったんだ?」
「じ‥‥実は‥‥」
乱れた呼吸をゆっくり整えつつ、彼は係員に事情を話し始めた。
この男性、キャメロットのとある富豪の屋敷で働いている使用人らしい。
事件が起こったのは、その屋敷。
「少し前に、旦那様が商人から魔除けの置物にどうかという事で勧められて、でかい木像を買ったらしいんだが、これがただの飾りの人形ではなく、正真正銘のゴーレムでな‥‥」
しかしながら、最初は屋敷に住む者の誰一人としてその事に気づいていなかったらしい。
それが本物のゴーレムだと分かったのは、つい先日の事。
「どこから入り込んだのかは分からないが、屋敷の中に魔物が侵入して‥‥。何をどうやったのかは知らないが、そいつが何かしたらしく、いきなりゴーレムが屋敷の中を暴れ回り始めたんだ」
幸い、屋敷の者が全員で協力して、ゴーレムがとある部屋の中に入ったところで、外側から扉を閉めて、そこに閉じ込める事に成功したらしい。
「それで一時しのぎにはなったんだが、部屋の中からは相変わらずゴーレムが暴れている音がするし、何より、さっき話したゴーレムに悪戯した魔物が、まだ屋敷の中にいるみたいで、俺達の隙を見て扉を開けようとしやがるんだ」
その魔物は、自在に姿を消す事ができるらしく、屋敷の者達では上手く対処できずに困っているのだという。魔物は屋敷の者達が困っている様を見て楽しんでいるらしい。
「とりあえずはその魔物の退治を頼む。後は、ゴーレムの方も何とかしてもらいたいのだが、こちらは旦那様の意向で、可能な限り傷をつけずに捕獲して欲しいとの事だ」
ゴーレムは貴重な古代の遺産でもある。さすがに破壊してしまうには惜しいのだろう。
「姿を自在に消せる悪戯好きの魔物‥‥か。ゴーレムの捕獲といい、こいつは少々厄介な依頼になりそうだな‥‥」
係員はそう呟きながら、依頼書の作成を始めた。
●リプレイ本文
その部屋には、ただひたすらに与えられた命令を実行しようとする、古の兵士の姿があった。
ウッドゴーレム。
創造した者より付与された魔力を動力とする、巨大な木像。
数あるゴーレムの中でも、材質が軽く取り回しが良いとされ、主に屋内の警護に使われたと言われている。
だが、屋敷を守るはずの役割を持つ彼は、今まさに、その屋敷を破壊しようとしていた。
全ては、その姿さえも見せぬ狡猾な魔物の仕業。
果たして、冒険者達は無事にこの依頼を達成する事ができるだろうか‥‥。
「ご‥‥ゴーレムと‥‥姿を消す魔物‥‥ですか。なんだか大変なことになっていますね‥‥。僕で‥‥良ければ‥‥お手伝いします」
杜乃縁(ea5443)はその手にいくつものロープを携え、少しオドオドしながらも一生懸命に自分の意気込みを依頼人の男性に伝えた。彼の言動は非常に頼りなく見えるが、それでも熱意は伝わったらしく、依頼人は縁に小さく礼をして返した。
「よろしく頼む。では、こっちへ‥‥」
依頼人の案内で、冒険者達はすぐに問題のゴーレムが閉じ込められた部屋の前へと案内された。中からは大きな何かが派手に暴れている音が聞こえ、屋敷の使用人らしき者達が今も懸命に扉を押さえている。
「閉じ込められてこれだけ暴れているゴーレム‥‥外に出れば大騒ぎでしょうね。見過ごすわけにはいきません」
全身を重武装で固め、フェミリア・オーウェン(eb0867)はいつでも仕事を始める事ができるようにと盾を構える。
「ウッドゴーレムの身長と重量はどのくらいなんだ?」
「そうだな‥‥。重量はそれ程でもなかったはずだが、身長はあんたとほぼ同じか、少し低いくらいだったと思う」
朱恵霞(eb0802)の質問に依頼人はそう答えた。それなら何とかなりそうだと、持参したロープを見て安心する。
「一つ頼み事があるのだが、エールの入った樽を用意してもらえないだろうか?」
「また、何でそんな物を?」
ヨシュア・グリッペンベルグ(ea7850)の要望に、依頼人は少し困惑した表情だ。
「魔物を退治するのに必要なんだよ」
「私達の推測が正しければ、それで問題の魔物を誘導できるはずなのです」
ネイ・シルフィス(ea9089)とエミリエル・ファートゥショカ(ea6278)が簡単に事情を説明すると、依頼人も一応納得した様子を示してはくれたのだが‥‥。
「分かった。では、こちらで何とか手配しよう。早ければ明日か明後日には何とか届くはずだ」
この返答は冒険者達にとっては少し予想外だった。本当は、今日一日で全てを片付けてしまうつもりだったからだ。
「そこを、何とか今日中にできないだろうか?」
ヒューイ・グランツ(ea9929)がさらに頼んでは見たものの、今回の騒動で屋敷の使用人達の人手が足りなくなっている事や、今からの運搬用の馬車の手配なども考えると、やはり難しいとの返答だった。
「ふむ‥‥。では、待っていても仕方がない。始めるか‥‥」
ガロ・ハンラム(ea7183)がそう提案すると、冒険者達はあらためて相談の上、予定を少し変更する事にした。まずはゴーレムの捕獲を最優先とする事にしたのだ。ここで姿の見えない魔物に邪魔をされると厄介だが、現状では冒険者で周囲を囲んで、警戒している事をアピールするしかない。
「み‥‥皆さん‥‥いきますよ。準備は‥‥よろしい‥‥ですか?」
縁は仲間達が頷いてくれたのを確認し、緊張した面持ちで扉に手をかけた。
扉を押さえていた使用人達とタイミングを合わせ、勢いよく扉を開く。
――ズンッ!!
「はあっ!」
扉を開けた次の瞬間、中から飛び出してきた巨大な拳に素早く反応し、恵霞は生身でそれを受け止めにかかった。
「痛っ!!」
巨大な丸太を叩きつけられたかのような強い衝撃が、恵霞を後方へ弾き飛ばす。
「だ‥‥大丈夫ですか?」
「うっ‥‥今のはちょっと効いたけど‥‥でも傷つけたら駄目だから、痛いけど我慢するよ」
心配して駆け寄った縁に、強く打った背中の痛みを我慢しながら恵霞は応えた。自分の身より依頼の成功を優先するこの姿勢は、冒険者として賞賛に値する。
「私の装甲とあなたの攻撃‥‥どちらが上か勝負です」
「誰一人、傷つけさせはせん!」
仲間達の盾となるべく、オーウェンとガロがライトシールドを構えてウッドゴーレムの攻撃を引きつけ、受け流す。下手に衝撃を与えれば、その時点で今回の依頼は失敗となりかねない。攻撃を受け止めるにも、慎重な対応が必要だった。自然と、その戦いは防戦一方になる。
「よ‥‥よし!」
オーウェンとガロがウッドゴーレムを引き付けている間に、縁達がロープで拘束しにかかる。
「これなら動けないでしょう」
完全にウッドーゴーレムを拘束すると、オーウェンは安堵の表情を浮かべた。
「けれど、まだ魔物の方が残っている」
ヨシュア・ウリュウ(eb0272)は周囲の警戒を続けながら、別室へと運ばれていくウッドゴーレムの姿を見ていた。
冒険者達にとって、魔物の妨害が無かった事は幸いだったが、それで安心するわけにはいかない。下手に隙を見せれば、せっかく拘束したウッドゴーレムを解放され、また暴れさせられる可能性もある。どちらにせよ、騒動の原因となった魔物を退治してしまわない事には、この依頼は解決したとは言えないのだ。
――翌日。
屋敷のとある一室には、意外な光景が広がっていた。
「いやあ〜、美味しいですね、このお酒〜」
「ええ〜。とっても〜」
とても楽しそうな様子で、ウリュウとグリッペンベルグがエールの注がれた杯を酌み交わす。だが、芝居がかったセリフから、冷静に見れば明らかな演技である事が分かる。
彼女らの隣で、ネイも上機嫌にエールを飲む振りを‥‥。
「あれ? ‥‥ちょいとフラつくねぇ‥‥」
「もしかして、本当に飲んだのか?」
「えっと‥‥ちょ、ちょっとだけ‥‥」
グリッペンベルグが訊ねると、ネイは酔いを醒ますためにブンブンと頭を左右に振りながら返事をした。どうやら、かなり酔いが回っている様子。
「少しくらいなら私も‥‥いえ、ここはじっと耐えなければ‥‥ああ、でもやっぱり少しくらい‥‥」
気持ちよさそうに酔ったネイの姿を見て、本当は目の前のエールを飲みたくて仕方のないエミリエルは、自分自身の欲望に悪戦苦闘中。
「‥‥何だか、このままだと大変な事になりそうな予感がします‥‥」
アル・アジット(ea8750)は、時間が経つにつれ自分達が用意した罠に嵌まっていく仲間達の様子を見ながら、一刻も早く魔物が出現してくれる事を切に願った。
「‥‥ん? どうやら、来たようですね‥‥」
――ザッ、ザッ。
最初に異変に気づいたのは、物陰に身を潜めていたヒューイだった。
姿は見えないが、微かに聞こえる小さな足音と、床に撒かれた灰の上に残る足跡。
それが少しずつエールの樽に近づいていくにつれ、他の冒険者達も皆、その存在に気づいた。
「‥‥そこです!」
その存在がエールの樽に後一歩と迫った、そのタイミングを見計らい、アルは手元に用意しておいた小麦粉を投げつけた。
「ギッ!?」
白い粉に全身を包まれ、浮かび上がったのは毛むくじゃらの身体をした、人間の子供ぐらいの小さな悪魔の姿。鋭い爪を武器とする彼の者の名は‥‥。
「やはり、グレムリンだったのですね」
エミリエルはそう言って、オーラパワーの付与されたダーツをその悪魔に向けて投げつける。
「グギィ!!」
深々と肩に突き刺さったダーツに、グレムリンは醜悪な顔をさらに醜く歪めると、即座に踵を返して逃げ去ろうとした。
「逃がしません!」
一瞬の早業で、スリングから銀の礫を放つヒューイ。
「ギィ‥‥!」
小さな呻き声を上げ、床に倒れこむグレムリン。
さらに、魔法のメイスを手にしたアルのブラインドアタックEXと、グリッペンベルグのホーリーが魔物に追い討ちをかける。
「はあっ!!」
「浄化の光を受けよ!」
度重なる攻撃によって、既にグレムリンは満身創痍。
「これで終わりです!!」
トドメとばかりに、ウリュウはオーラパワーの付与された剣を振り下ろそうとした。
しかし‥‥。
――ドンッ!
「うっ‥‥!?」
突如背中を襲った強い衝撃に、ウリュウのその攻撃は邪魔されてしまう。だが、不思議な事にウリュウの背後には誰の姿もない。
「今のはまさか‥‥!?」
ヒューイは気づいた。
そう。姿が見えないせいで気づかれていなかったが、この屋敷を訪れていたグレムリンは、一匹ではなかったのだ。
「何とか、敵の姿を捉えないと‥‥そうですわ! ネイさん、エールの樽を魔法で思いっきり破壊して下さい!」
「思いっきりだね? 分かった!!」
エミリエルには何か策が浮かんだらしい。
「一撃で決めるよ! ‥‥貫け雷光!!」
ネイの手から放たれたのは『ライトニングサンダーボルト』の魔法。それはエールの詰まった樽へと一直線に飛ぶ。
――バシャ!!
雷撃の直撃を受けた樽は破壊され、中に詰まっていたエールは飛沫となって周囲に飛び散った。
そして、その飛沫によって浮かび上がったのは、紛う事なきグレムリンの姿。
「今度は‥‥外しません!!」
駆け出すウリュウ。
「グ‥‥ギギィーーーーッ!!」
剣と、銀の礫と、ダーツと、聖なるメイスと‥‥そして、一筋の光と疾風の刃。
全ての攻撃を受け、悪魔は断末魔の叫びと共に消滅した。
「ありがとう。あんた達に頼んで良かったよ」
冒険者達は、屋敷の中に、もう他にグレムリンがいない事を確認した後、依頼人を始めとする使用人達に見送られて、それぞれの帰途についた。
なお、ゴーレムは今も拘束されたままだが、近々専門家の元に引き渡されるとの事だ。