引退試合? 熟練冒険者との決闘

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:1〜4lv

難易度:難しい

成功報酬:1 G 20 C

参加人数:8人

サポート参加人数:-人

冒険期間:02月07日〜02月12日

リプレイ公開日:2005年02月16日

●オープニング

 その日のギルドの片隅には、とある冒険者の二人組を必死に説得する一人の若い娘の姿があった。
「ねえ、ラウ爺ちゃんもミル婆ちゃんも、いい加減に冒険者なんて危険な仕事は辞めて、田舎で私達と一緒に暮らしましょう。お父さんもお母さんも、二人が来てくれるのをずっと待ってるのよ」
「分かっておらんのう、ニーナ。冒険はワシらにとって永遠の生きがい。ワシらに冒険者を辞めろと言うのは、死ねと言うのと一緒なのじゃぞ?」
「どうせ老い先短い命‥‥。それにね、ニーナ。私達はね、『死ぬ時は戦場で共に死のう』って、そう約束して結婚したのよ。気づいたらすっかり長生きしてしまったけど、それでも私達の心の誓いは、今も昔のまま変わってはいないの」
 ニーナと呼ばれたその娘が説得していたのは、かなり高齢の男女の冒険者。会話から察するに、三人の関係は、孫娘とその祖父母といったところだろう。
「そんな事言うけど、二人とも、もうすっかり年じゃない。冒険者の仕事で、いつ周りの人達に迷惑をかける事になるかも分からないっていうのに‥‥」
「な‥‥何を言うか!? 老いたとはいえ、ワシらも熟練の冒険者。そんじょそこらの若い冒険者なんぞに遅れを取ったりはせぬ」
「そう‥‥。じゃあ、そんじょそこらの冒険者と試合して負けたら、おとなしく冒険者を辞める?」
「いいじゃろう。そこまで言われたからには、ワシらとてまだまだ現役じゃという事を見せてやるわい。一対一などとケチな事は言わぬ。三人でも四人でも連れてくるがいい。軟弱な若造など、皆まとめて返り討ちにしてやるわい」
「お爺さん、なにもそこまで意地にならなくても‥‥」
「何を言うか婆さん。ここで逃げては冒険者の名折れじゃ」
「決まりね」
 頑なに隠居生活を拒む祖父母に対して、孫娘が提案したのは引退をかけた決闘。

 依頼書を作成しながら、係員は呟く。
「やれやれ‥‥。娘さんも上手い事話を持っていったと思うが、あの爺さん達、年は年だが実力は本物だからなぁ‥‥。こりゃ、一苦労だぞ‥‥」

●今回の参加者

 ea0933 狭堂 宵夜(35歳・♂・浪人・ジャイアント・ジャパン)
 ea1254 ガフガート・スペラニアス(64歳・♂・ファイター・ドワーフ・イギリス王国)
 ea7511 マルト・ミシェ(62歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea8807 イドラ・エス・ツェペリ(22歳・♀・ファイター・ハーフエルフ・イギリス王国)
 ea9451 央 露蝶(25歳・♀・武道家・ハーフエルフ・華仙教大国)
 eb0826 ヴァイナ・レヴミール(35歳・♂・クレリック・ハーフエルフ・ロシア王国)
 eb0846 ベルガー・ガングーニル(32歳・♂・ウィザード・ハーフエルフ・イギリス王国)
 eb1015 サミーラ・アリー(38歳・♀・ジプシー・人間・エジプト)

●リプレイ本文

 冒険者が冒険者でなくなる時とは、いつの事を言うだろうか?
 それは、年老い疲れ果てた時か?
 それは、冒険に夢見る心を失った時だろうか?
 それとも、それは‥‥。

 ただ一面に広がる平原。
 ラウとミル。そして、今回の依頼を受けた八人の冒険者がそこに集まっていた。
「この度は私どもの家庭内の事情でご迷惑をおかけしまして、申し訳ありません」
「いやはや、他人事じゃないしのぅ‥‥。私も、いつ孫やら娘やらに言われるやら‥‥」
「ワシ等も第一線は退かねばならぬ歳かも知れんが‥‥まだまだ息子どもが未熟での‥‥」
「いや、全く同感じゃ。若い連中はもっとワシらのような老人こそ見習うべきだと、ワシは常日頃から‥‥」
 マルト・ミシェ(ea7511)とガフガート・スペラニアス(ea1254)の二人は、ラウ達同様、かなり高齢の冒険者だ。今回ラウ達の置かれた状況は彼らにとって、他人事で済ませるには忍びなく、今回の件に関わる事にしたらしい。
「あ〜、悪いんだが、そろそろ始めないか?」
 放っておくと、いつまでも老人同士で愚痴をこぼし続けそうだったので、ベルガー・ガングーニル(eb0846)が止めに入る。
「何じゃ、若い者はせっかちじゃのう‥‥」
 渋々、話を中断する老冒険者一同。
「よろしくお願いします」
「ええ、こちらこそ。ふふっ‥‥礼儀正しいお嬢さんですね」
 ペコリとお辞儀をした央露蝶(ea9451)に、ミル達も笑顔で礼を返した。
「よし‥‥いっちょ、若い力をぶつけてみっか!」
「お爺さんでも相手は歴戦の冒険者‥‥頑張ってボコすのですよ」
「踊るような戦いを見せてあげるわ!」
 狭堂宵夜(ea0933)、イドラ・エス・ツェペリ(ea8807)、サミーラ・アリー(eb1015)の三人も、既に戦闘準備は整い、気合十分だ。
「お互い覚悟を決めていますよね? ならおとなしくぶちまけられてください、ククッ」
 ヴァイナ・レヴミール(eb0826)は早く戦いを始めたくて仕方が無いといった表情で、今か今かと開始の合図を待っている。
「ラウ爺ちゃん達、あんまり無理しないといいけど‥‥。それでは‥‥試合を開始して下さい!!」
 各自が配置についたのを確認すると、今回の依頼人のニーナが試合開始を告げた。
 そして、冒険者達は一斉に動き出す。

 戦闘開始時。
 一気に勝負をかけるようと、ガフガートを始めとして、依頼を受けた冒険者達はほとんどが戦闘エリア内の中心近くまで前に出てきていた。
 だが、一方でラウ達は自分たちが下がれる限界まで後方に下がっていた。
 まずは距離を詰める事から始めなければならないだろう。、
「‥‥年寄りとて、容赦しねぇからな!!」
 先ほどの礼儀正しさはどこへ消え失せたのか、露蝶は戦闘開始直後にいきなり狂化し、ダーツを握って、ミルへと向かい駆け出す。
「クククッ‥‥」
 不適な笑みを浮かべ、同じく凶化した状態のヴァイナが後に続く。
「参ります」
 軽やかな足取りで、サミーラもミルの方へ向かう。
「私を狙ってきましたか‥‥ですが‥‥」
 自身に向けられる殺気を感じるも、ミルは落ち着いた様子で詠唱を開始する。
 ――ブゥオ!!
 ミルの周囲に広がるのは『スモークフィールド』による煙幕。
「やはり、何らかの対抗策は用意していると思いましたが‥‥」
 ラウのところへ向かう途中、ミルの動きを横目で見ながらイドラは眉をしかめる。
 冒険者側にとっての理想は、相手に一度も魔法を使わせない事だった。
 だが、彼らの持つ能力では、中距離はともかく遠距離までは攻撃が届かない。唯一、長距離を一気に詰める事のできる『ファイヤーバード』の魔法を使えるベルガーがいたが、残念な事に、彼は試合開始早々から三連続で呪文の詠唱に失敗。通常詠唱でも高くない成功率の魔法に、先制攻撃のためだと無理をして高速詠唱を用いた事が完全に裏目に出た形になる。
「これ以上、魔法は使わせない!!」
 煙の中にうっすらと浮かぶミルの影に、ダーツを放てる射程まで距離を詰め、露蝶は手に持ったそれを飛ばす‥‥が、煙幕のせいでやや狙いを外れたらしく、これは失敗に終わる。
「おとなしく、ぶちまけられちまいな!!」
 続いて、ヴァイナが視界に入ったミルの姿に対し、高速詠唱の『ディストロイ』。しかし、これは発動失敗。
「ちっ、だが、まだ終わりじゃねえ!!」
 一度の失敗くらいは彼も計算のうちだったのだろうか、すぐ二回目の高速詠唱に入る。
 そして、これが成功。神の破壊の力を受け、ミルの影は粉微塵に吹き飛び、灰と化す。
「ククッ、まったく他愛もな‥‥がああ!!?」
 勝利を確信したヴァイナを襲ったのは、地中から噴出したマグマの炎、『マグナブロー』。
「な‥‥!?」
「ふふっ‥‥戦場での油断は命取りですよ」
 重傷を負い、地に膝を着くヴァイナの視界には、今さっき彼が倒したはずのミルの姿があった。
「本物は‥‥どこだ!?」
「くっ、こいつも偽者か!」
「この煙‥‥どうすれば‥‥」
 ようやく発動した『ファイヤーバード』の魔法で一気に距離を詰める事に成功したベルガーと、格闘攻撃の届く範囲まで近づいた露蝶とサミーラだったが、ミルの整えた状況はかなり厳しいものだった。
 煙幕に視界を遮られて、ミルの姿を捉えるのは容易ではなく、やっと攻撃を成功させたと思いきや、それらは『アッシュエージェンシー』で生み出された偽者達。しかも、ミルはその煙の中でも、『インフラビジョン』を用いる事で一方的にサミーラ達の位置を確認できている。
「なっ‥‥!!」
「うっ‥‥!?」
「きゃああっ!!」
『マグナブロー』のマグマが三人を重傷に追い込んだのは、すぐの事だった。

 ミル側の煙幕に閉ざされた戦いのその一方で、ラウ側の戦闘も始まっていた。
「さあ、ワシの実力を見せてやろうかの!」
 イドラや宵夜が自分に近づいてくる間に、ラウは『オーラボディ』と『オーラエリベイション』を自身に付与し終えていた。
「オーラなんてなんてただの飾りです‥‥偉い人にはそれがわからんのです」
 最初にしかけたのはイドラ。日本刀とロッドによる『ダブルアタック』がラウを襲う。
「確かにその通りじゃな。‥‥当たらぬ攻撃には、オーラも意味をなさぬ!」
「くうっ‥‥!!」
 ラウはイドラの攻撃を手にしたハルバードで容易く受け流すと、即座に反撃を喰らわせる。何とか重傷には到らなかったが、イドラの受けた傷は既にその一歩手前の段階。
「死ぬなよ、爺さん!」
 続けて攻撃してきた宵夜は、ラウに超近接状態での戦闘を挑んだ。『スタック』である。
「もらった!」
 パリーイングダガーにて、スタック状態から『スタッキングPA』へと繋ぐ連携技。
 それは、見事にラウに命中した‥‥が、鎧を通過した攻撃も『オーラボディ』に守られたラウには今一歩攻撃力が足りず、カスリ傷で終わってしまう。
「小僧、今のは中々いい攻撃じゃった。ワシでなければ相当効いたじゃろうて」
「‥‥なあ、爺さん。そんな平然とした顔で言われると、逆に落ち込むんだが‥‥」
 宵夜は苦笑いを浮かべるしかなかった。
 ――ズンッ!!
「‥‥ぬう!?」
 不意に、ラウは何か強い力に自分を抑えつけられるのを感じた。
「地味な魔法も強いじゃろう?」
 力の正体は、マルトの『アグラベイション』。
「くっ‥‥!! ワシとした事が、こんな魔法にかかるとは‥‥!」
 動きを抑えられたラウに迫るのは、ジャイアントソードを構えるガフガート。
「その辺の冒険者には負けぬ‥‥か。大層豪語したようじゃがな、ワシ等も何も考えずにこの依頼に来た訳ではないからのぅ。これで終わりに‥‥ぐおっ!?」
 ――ゴウッ!!
 だが、ガフガードの攻撃は、大地より吹き上げるマグマによって妨害される。
 自分に向かってきた冒険者達を全て重傷に追い込んだミルが、こちらの戦いにも加わったのである。
「私達の生きがいを、簡単に終わらせるわけにはいきません!!」
「何!?」
 ミルのさらなる『マグナブロー』が、今度はマルトを襲った。
「くっ! これ以上、邪魔をさせるわけにはいかないのですよ!」
 イドラが、全力でミルに向かって駆け出す。ここでもう一度ガフガードにダメージを与えられては、自分達ではラウに対抗できなくなる。
 幸い、今のミルは『スモークフィールド』の範囲から出ている。もし、ここで彼女がガフガードへの攻撃より自分の身の守りを優先したなら、その時はラウが確実にガフガードの攻撃を受ける事になる。彼女の選択は‥‥。
「あなた! 勝って下さい!!」
 イドラの刃がミルに届くより一瞬早く、高速詠唱により第二の『マグナブロー』が発動する。
 ――ゴウッ!!
「ガフガードさん!!」
 ミルを倒し、振り返ったイドラの視線の先、ガフガードはいない。
 だが、そこには、横たわる宵夜の姿が。
「後は‥‥頼んだぜ‥‥」
 『マグナブロー』は、人や物でなく空間を対象とする範囲魔法。宵夜はそれを見越してか、マグマの噴出する範囲の外に逃がしたのである。‥‥己の身を犠牲にして。
「‥‥もはや、ワシも絶対に負けるわけにはいかぬ!!」
「よかろう‥‥。次の一撃にて、決着をつけようぞ!!」
 最後に残された全ての力をかけ、二人の老冒険者は武器を振るった。
 果たして、決着は‥‥。
「‥‥いつしかヌシともう一戦、今度はサシでやりたいもんじゃのぅ」
 地に伏したラウに延ばされるガフガードの手。
「‥‥その時は、今度こそワシが勝ってみせるわい‥‥」
 全てを出し切った老冒険者は、倒れたまま、そう言って笑ってみせた。

 ――翌日の事。
 村には、若者に混じって踊りの練習をするラウとミルの姿があった。
 あの戦いの後で、サミーラが二人に勧めたらしい。
「生活の中にも、冒険はある。生きている限り、人は冒険者じゃと私は思っておるよ」
 マルトは二人に別れを告げる時に、そう言い残した。
 ラウとミルは、自分達よりも遥かに長い時を生きてきたマルトのその言葉に、何を感じただろうか。
 あるいは、彼らは自分達でその言葉の意味を見つけるのかもしれない。
 これからこの村で過ごす、冒険の中で‥‥。