【バースの戦乱】溢れ出した魔物達
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■ショートシナリオ
担当:BW
対応レベル:1〜5lv
難易度:難しい
成功報酬:4
参加人数:12人
サポート参加人数:3人
冒険期間:02月23日〜03月07日
リプレイ公開日:2005年03月05日
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●オープニング
「民衆が反旗を翻しただと!?」
城の片隅でラスカリタ伯爵家の領主代行、サンカッセラが驚愕に満ちた声を上げた。
キャメロットの西185km先にバースという地域がある。エイヴォン川の河畔にある街『バース』の北、俗にバース北方領土と呼ばれる地域は現在領主代行が掲げる霞のような理想論によって統治され、ジワジワと破滅の道を歩んでいた。
虐げられた民衆は叫んでいる。
新たな領主を迎えよう、民草の事を理解せぬ非道な領主代行をうち倒せ。
民衆達には希望の光があった。死んだと思われていた第一夫人の娘が現れたのだ。
よって民は新たな『王』を求める。
「自ら妖しい薬に手を出して自滅した莫迦者共めが。今この北方領土がいかに危険な均衡の上にいるのか欠片も理解していないと見える。大体民衆達が新たな領主にと掲げる者は」
‥‥一部の貴族だけが知っていた。
民衆の掲げる新領主の候補者が六年前にバースを恐怖に陥れた大盗賊の頭領であることを。そして正当な後継者であることも。
民も、領主も、助けの手を求めた。
暴動を起こした愚かな民衆を鎮圧せよ、慈悲すらたれぬ領主をうち倒す手伝いをと。領土に住まう多くの若者が、騎士が、魔法使いが始まろうとしている内乱のために招集された。強力なモンスターの徘徊していた北の森からは警備が消え、モンスターや盗賊達が村や町へあふれ出す。
かくして戦は始まる。
自堕落や失態を棚に上げて都合の良いときに助けを求める虐げられた民衆と。
物事に厳正過ぎるあまり人として慈悲に欠けた誠実な領主の間で。
人と人の争い。
広がった戦乱の波は多くの者を巻き込んでいた。
‥‥そして、それは人同士の争いだけに止まらなかった。
「何という事だ‥‥」
老人は、目の前で繰り広げられる悪夢に目を覆うしかなかった。
ゴブリンが、コボルトが、オークが‥‥北の森から溢れ出した、ありとあらゆる魔物達が人々の命を奪っていく。
戦乱に借り出され、守り手を失った村々は次々に魔物の群れの襲撃を受けて滅んでいった。
北の森の周辺に位置したその村もいつ魔物に襲われるとも知れず、残された者達は言い知れぬ不安を抱えていた。
「もうすぐここにも魔物の群れが押し寄せてくるわ‥‥。もう、村を捨てて逃げるしか‥‥」
「そんな事を言ったって、今のこのバースに安全な場所などありはしないわ。それに、村を離れたところで、私達を受け入れてくれるところなんて‥‥」
迫りくる危険を分かっていながらも逃げ出す場所はどこにもなく、例えそれがあったとしても、女や子供、老人達だけでは、この戦乱の中で遠くまで逃げ出す事は難しかった。
そして無情にも、魔物の群れは新たな獲物を求め、村のすぐ側まで迫ってきていたのである。
まさに今、新たな悲劇が起きようとしていた。
だが、その悲劇を止めるために動き始めた者達がいた。
戦乱の噂を聞きつけ、バースを訪れた冒険者達だ。
彼らは急いだ。
魔物達から人々を救うために‥‥。
もうこれ以上、尊い命を失わせないために‥‥。
●リプレイ本文
振るわれる剣と、人々の叫びと、消えゆく命の灯火‥‥。
戦乱の波は未だ止まる事を知らず、バースの大地は血に染まってゆく‥‥。
災いは災いを呼び、深く閉ざされた森の奥から魔物達は溢れ出した。
魔物達が姿を現したのは、冒険者達が村に辿り着いて間もなくの事。
「ぎりぎり間に合ったってところか‥‥来たぞ、お客さんだぜ! 団体さんのな!」
村の入り口に陣取り、狭堂宵夜(ea0933)はその目に魔物達の姿を確認すると仲間達に警戒を促す。
「数は十‥‥いえ、二十近く‥‥」
『ブレスセンサー』でこちらに向かってくる敵の数を確認し、アクア・ラインボルト(ea8316)は仲間達に伝える。
「まさか、これほど魔物の襲撃が早いとはな‥‥」
龍深冬十郎(ea2261)は小さく舌打ちをすると、村人達の避難を優先するために急ぎその場を離れた。
「逃げろ! 村の中央へ!」
「早く!」
巫覡彌涼(eb0832)とレオン・クライブ(ea9513)も村中を駆け回り、人々に避難を呼びかける。
「こちらの都合などお構いなしか‥‥」
物見兵輔(ea2766)が呟く。
「くっ、まだ何の準備もできていないと言うのに‥‥」
罠を張って待ち伏せるつもりであった霞遙(ea9462)も仕掛けの作成を断念し、両の手に手裏剣を構えて、魔物達に向き合う。
「泣き言を言っても仕方ありません‥‥絶対に守りきりましょう。私達はその為に来たんですから」
刀を携え、アレクセイ・スフィエトロフ(ea8745)は決意を新たに、目の前の敵へと走り出した。
仲間達が魔物の群れとの戦闘に突入したその頃、エクス・アルマンディン(eb1152)は一人、フライングブルームに乗って北の森まで急いでいた。
しばらくすると、眼下に見えたのは鬱蒼と茂った森の中から出てくるホブゴブリンとオークの群れ。
「あいつら‥‥行かせるかよッ!」
すぐさま魔物達の進行方向に先回りし、姿を見られぬよう注意しながら急下降するエリス。フライングブルームを降りてそのまま地上を走り、再びオーク達の姿を視界に捉える。
懐から取り出したのは、『フォレストラビリンス』のスクロール。
「‥‥ブヒッ?」
突如出現した見慣れぬ迷いの森に、魔物達は向かうべき方向を見失う。
「これで少しは時間を稼げるか‥‥」
そして、村では冒険者と魔物達の戦いが始まった。
「ゴブッ!?」
ゴブリンを襲ったのはライトハルバードの一閃。狙い違わず、それは魔物の首を撥ねた。
「さぁ、来たまえ! 人間様の恐さをたっぷりと味あわせてあげよう!!」
声高に叫ぶその男の名はジャッド・カルスト(ea7623)。周囲を囲むゴブリンやコボルト達を容赦なく薙ぎ払うその姿は修羅を思わせる。
「ガアーーーッ!!」
「ぐっ‥‥ちぃっ!」
一瞬の隙。
振るわれたオーガの棍棒が彼の肩を捉え、激痛に顔を歪めたジャッドは後退する。
だが、オーガはさらに追い討ちをかけようと彼を追った。
その時‥‥、
「そこっ!」
「‥‥ガ!?」
放たれるは『ライトニングサンダーボルト』。唱えたのはアクアだ。
鋭い雷の一閃に、オーガは傷を負う。
「隙あり!!」
怯んだオーガの背後から、日本刀を構えた冬十郎が『スマッシュ』を見舞う。その一撃はオーガの背を深く切り裂き、かの魔物は地に倒れ伏した。ジャッドはただ後退したのではない。初めから、オーガをアクアの魔法の届く範囲へ誘導するのが目的だったのだ。
「ふっ‥‥、貴様ら烏合の衆とは違うのだよ。冒険者はな‥‥!」
受けた傷の痛みに耐えながら、彼は再びその手に携えた武器を振るう。
「ゴブッ!?」
前線の冒険者達の包囲を抜け、村の中へ足を踏み入れようとしたその瞬間に、そのゴブリンは全身を襲う電撃に重傷を負った。
「そう簡単に、この先に進めると思わないで貰おうか‥‥」
それは、ゼタル・マグスレード(ea1798)が魔物達の侵入を防ぐために仕掛けておいた『ライトニングトラップ』の魔法。
魔物達の襲撃までの時間は僅かであったが、その間にもあちこちに仕掛けておく事ができたこの魔法は、多くの魔物達に深手を負わせていた。
「これだけ数がいると、逃げ回るのも楽ではありませんね‥‥」
「ですが、上手くこちらの作戦通りに引き付けられれば‥‥」
エミリエル・ファートゥショカ(ea6278)と遙は陽動に専念して動いていた。
敵の数があまりに多いため、背後から襲われる危険な場面も数回あったが、それでも二人は持ち前の反応の良さを活かし、巧みな動きで魔物達を翻弄している。
「はあっ!!」
エミリエル達が誘導してきた魔物達は、アレクセイが『スタンアタック』で気絶させていく。ゴブリン達に対する『スタンアタック』の成功率はおよそ二回に一回程度であったが、それでも効率の良い戦法ではあった。アレクセイが大量の血を見る事で狂化する性質を持ったハーフエルフであれば、これはなおさらの事。
気絶した魔物達へは後ほど兵輔や宵夜がトドメを刺して回った。
攻め入って来た魔物達を何とか撃退した後で、レオンは周囲を埋め尽くす魔物達の死骸を見て呟く。
「魔物より、盗賊共より、領主に対する反乱を選んだ結果がこれか‥‥」
ほどなくして、北の森へ魔物達の増援を阻止しに行ったエクスが戻ってきた。
「ある程度の時間稼ぎはしてきたが、魔法の効果は一時的なものだからな。しばらくすれば、次の魔物達がまたここに攻めてくるぜ」
彼の話を聞きながら、冒険者達は各々に体を休める。
「調べてみましたが、魔物達は全てが一群になって行動しているわけではなく、ある程度の種族ごとの群れで行動しているようです。私もゴブリンやオークの他、オーガやズゥンビといった魔物の別々の群れを見かけました」
最初の魔物達の襲撃の前の事。アレクセイはアリョーシカと名付けた駿馬を駆り、仲間達から先行して魔物達の調査にあたっていた。
「そうなると‥‥あまり村から離れた場所で迎え撃つのは得策ではないですね。一つの群れの相手をしている間に、他の群れに違う方向から村を襲われでもしたら、大変な事になります」
エミリエルの言葉を言い換えれば、こちらが魔物達に対して反撃に出て村から離れる機会を見誤れば、それが村の壊滅に繋がりかねない難しい状況であるという事も意味している。
「なら、ここを襲いに来た魔物どもを全部力づくで追い返して、人に危害を加える気を失くさせるか‥‥」
宵夜の考えはかなり強引なものではあったが、冒険者達の中で魔物達を北の森まで誘導できるような他の手段を用意しているものはいなかった。
ただし、これはかなりの時間と労力を要するだろう。
「皆、また魔物が出たぞ!」
警戒にあたっていたゼタルの声に、束の間の休息を取っていた冒険者達は再び武器を取り走り出す。
待ち構えていたのは、黒き鎧を身に纏ったかのような固い甲の体を持つラージアント達。
「まったく、次から次へと‥‥」
彌涼は日本刀と十手を構え、巨大な魔物達を打ち倒すべく駆け出した。
‥‥冒険者達と次々に現れる魔物達との戦いは、それからも長く続いた‥‥。
――翌日。
「ふあ‥‥もう、朝か‥‥」
大きな欠伸をしながら、宵夜は昇る朝日を眺めていた。
あれから魔物達の襲撃は深夜にまで渡って数回あり、冒険者達は交代で休息を取りながら何とか村を防衛していた。
「大丈夫か?」
「ん? ああ大丈夫だ。あんたこそ‥‥」
兵輔の言葉に宵夜は平然と答えたが、二人ともお互いにだいぶ疲労が溜まっているのがよく分かった。
「‥‥このままじゃ埒が明かねぇ‥‥。こっちに攻めて来る魔物の数も少しずつ減ってきてる。一か八か、ここらで攻めてみようぜ」
エクスの提案に仲間達はしばらく議論を交わした後、順に賛同の意を示した。
これ以上の戦いの長期化は自分達にとって不利。体力の残っているうちに決着をつけてしまう事の必要性を誰もが感じていた。
「光よ! 地を穿つ雷神の叫びよ! 我が槍穂となりて彼の者を討ち果たせ!」
レオンとアクアが押し寄せるコボルトの群れに『ライトニングサンダーボルト』を放ったのを皮切りに、冒険者達は村を離れ攻勢に転じた。
「男の拳はブン殴るためにあるんだよッ!」
拳のみで攻撃を続けるエリス。ウィザードとは思えぬ奮戦ぶりで、コボルト達を次々に殴り倒していく。
「あれは‥‥」
ふと、エミリエルが群れの中に一際目立つ体格をしたコボルト戦士を見つける。
「この群れを率いているのは奴か‥‥」
「それなら‥‥」
『疾走の術』を使い、俊敏さを増した兵輔と遙がコボルト戦士との距離を詰める。
「ガウ!?」
忍者刀と手裏剣の連続攻撃に対応しきれず、傷を負ったコボルト戦士はその場から逃走を試みる。
「そうはいくかよ!!」
逃げ出そうとした先、待ち構えていたのは冬十郎。
渾身の力を込めた『スマッシュ』と『バーストアタックEX』を合わせた一撃は、鎧ごとコボルト戦士の体を切り裂いた。
その様子を見て、残ったコボルト達も我先にと逃げ出し始めた。
――しばらく後。
冒険者達が魔物達を北の森まで追い返せた頃には、既に日が傾き始めていた。
「‥‥あはは‥‥暫く魔物相手の依頼は請けたくない‥‥ですねぇ?」
アレクセイは大地に身を横たえたまま、苦笑を浮かべる。
コボルトの群れに続き、あれからズゥンビやブラウンベアといった魔物達とも遭遇した冒険者達の疲労はほぼ限界に達していた。
「‥‥何匹か逃がしてしまったわね‥‥」
彌涼の言葉に、一同の表情が曇る。
出会った魔物のほとんどは、退治するか森に追い返す事に成功していたが、しっかりとした誘導方法が無かったため、一部の魔物達は北の森以外の場所へと逃走してしまっていたのである。
これが後にどのような影響を及ぼすかは分からないが、その一点を除けば冒険者達の戦いは概ね成功と言えた。
冒険者達によって村は守られた。
だが、バースの戦乱が続く限り、いつまた新たな脅威が村を襲うとも知れない。
果たして、この戦乱の結末は‥‥。