【入学式】ぼくらの夢の始まりを

■ショートシナリオ


担当:BW

対応レベル:フリーlv

難易度:易しい

成功報酬:5

参加人数:6人

サポート参加人数:-人

冒険期間:04月20日〜04月25日

リプレイ公開日:2005年04月29日

●オープニング

 ――神聖暦1000年、春。
 今、新たな学生達を迎える入学式が開かれようとしていた。
 この入学式に参加する新入生というのは、この春から入学する者達だけではない。
 前年度の入学式に参加していない学生達も、皆、同様に新入生として参加する事になる。 
 そのため、一部の新入生の中には複雑な心境で入学式を迎える者もいたようだが、それでもせっかくの機会だからと、多くの学生達が参加するようだ。

 そう、これは一つの始まり。
 どんな物事にも始まりはあり、それは『現在』へと繋がっている。

「ねえ、キミはどうしてケンブリッジに来たの?」
 入学式の準備の最中、最初にそう言い出したのは誰だったか‥‥。
 気がつけば、その会話はすぐにあちこちの生徒達の間に広がった。
 それぞれに抱いた夢、希望、思い出。
 耳を澄ませば、聞こえてくるあの声。
 目を閉じれば、思い浮かぶあの瞬間。
 それは、今とは違う一つの始まり。
「えっと、ボクは‥‥」
「私は‥‥」
 語られるのは、それぞれが持つ自分だけの物語。

「ねえ、キミは‥‥?」

●今回の参加者

 ea0616 太郎丸 紫苑(26歳・♂・志士・パラ・ジャパン)
 ea3972 ソフィア・ファーリーフ(24歳・♀・ウィザード・エルフ・ノルマン王国)
 ea7051 李家 澳継(38歳・♂・武道家・人間・華仙教大国)
 ea9951 セレナ・ザーン(20歳・♀・ナイト・ジャイアント・イギリス王国)
 eb1422 ベアータ・レジーネス(30歳・♂・ウィザード・人間・フランク王国)
 eb2072 リエラ・クラリス(25歳・♀・神聖騎士・ハーフエルフ・ノルマン王国)

●リプレイ本文

 ケンブリッジの入学式は、先生方の話や各施設の利用の仕方、ケンブリッジでの生活方法など、堅苦しい式典が終わり、大いに賑わっていた。
 会場には様々な料理が並べられ、集まった教師や生徒はそれぞれに自己紹介をしたり、雑談を交わしたり。
 ようは、ちょっとしたお祭りだ。
 演劇を披露する者、ちょっとした遊びを提案する者、大きな声で騒いでいる者、皆それぞれに今日のこの日を楽しみ、お互いの新たな始まりを祝福していた。

 会場の一角。
 小さなテーブルの一席に、彼らは集まっていた。
 集まっていた‥‥と言っても、意図しての事ではない。
 ただ偶然に、近くにいた者が同じテーブルについた、それだけの事。
 けれど、これも一つの出会い。
 ケンブリッジという学び舎において、それぞれの目標に向かい、共に歩んでいく仲間達との‥‥。
「皆さん、初めまして。私、先日フォレストオブローズに入学いたしました、リエラ・クラリスといいます。まだ、この学校については、わからないことばかりですけど‥‥ええと、在校生の皆さん、同じく新入生の皆さん、よろしくお願いします」
 リエラ・クラリス(eb2072)は集まった学生達に深々と礼をする。少し緊張している印象は見られるが、柔らかで上品な物腰、感じられる穏やかな雰囲気は、まさに神聖騎士のそれ。
 彼女の自己紹介が終わると、続いてセレナ・ザーン(ea9951)が挨拶をする。
 十歳の少女とは思えないほどセレナの礼は丁寧で、どことなく育ちの良さを周囲に感じさせる。
「セレナ・ザーンです。わたくしもフォレストオブローズの所属です。リエラ様、志を同じくする者として、よろしくお願いいたします」
「あ、はい。セレナさんですね。こちらこそ‥‥」
 セレナの手を取り、微笑むリエラ。
 リエラもセレナも、とても上品な礼だったが、その礼一つを取ってみても、人によって違いがあるのだなと、周りの者達は感じる。
 こうしたそれぞれの違いを知り、お互いの良い面を吸収していくのは大切な事。
 さて、続いては‥‥。
「ボクはケンブリッジ魔法学校の太郎丸紫苑で〜す! みなさん、よろしくお願いしま〜す☆」
 先のセレナとはうって変わって、子供らしい屈託の無い笑顔を浮かべ、元気良く自己紹介をしたのは太郎丸紫苑(ea0616)。
「お初にお目にかかります。私はフリーウィル冒険者養成学校の新入生で、ベアータ・レジーネスと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
 紫苑の次に挨拶をしたのはベアータ・レジーネス(eb1422)。
 そして、最後は李家澳継(ea7051)。
「同じく、フリーウィル所属の李家澳継。取り敢えずは一人前の武道家目指して頑張ろうとしてる所‥‥かな。まあ、よろしくな」
 こうして簡単に挨拶を終えると、彼らはしばらくの間、雑談を交わした。

 しばらくして、最初にその話題に触れたのは、ベアータだった。
「あの、少し皆さんにお聞きしたい事があるのですが、よろしいでしょうか‥‥?」
「は〜い。何ですか〜?」
 笑顔で紫苑が返事をすると、ベアータは穏やかな笑顔を浮かべながら、話を切り出した。
 それは、ベアータがここケンブリッジに入学した理由。
「実は、私がここケンブリッジにやって来た目的は、勉強のためだけではないのです」
 どこか憂いを秘めたその言葉。
「私は‥‥生き別れになった妹を探して、ここに来ました」
 突然の告白に、一同は言葉を失う。
 それから、ベアータは妹の特徴などを詳しく話してみたが、残念ながら、ここにいる者の中からは、何の情報も得られなかった。
「ある日、風の噂に聞いたのです。妹をこのケンブリッジで見かけたと‥‥。本当かどうかは分かりません。でも、もし本当なら‥‥と」
 淡々と語るベアータ。
「その‥‥何か妹さんの手掛かりは‥‥?」
 セレナが訊ねると、ベアータは首を横に振った。
「でも、私は信じています。必ず、また妹に会えると‥‥」
「どうか‥‥神の祝福があらん事を‥‥」
 十字架を手に、祈りを捧げるリエラ。
「ありがとうございます」
 恭しく礼を述べたその時のベアータの横顔は、どこか寂しげだった。

 しばしの重たい沈黙の後、次に口を開いたのは澳継。
「実は‥‥記憶喪失ってやつでな‥‥」
 そのたった一言で、全員の視線が彼に集まる。
「おいおい、揃って深刻な顔を向けるのはよしてくれよ。特に、女の子に暗い顔なんてのは似合わねぇぜ」
「す‥‥すみません」
「その‥‥でも、どんな顔をすればいいか分からなくて‥‥」
 困った様子でリエラとセレナが俯くと、澳継は小さく苦笑いを浮かべながら話を続けた。
「ここに来る前、酒を売る店で働いてた事があってな‥‥」
 少し遠くを見るように、視線を上に向ける澳継。
「そこで働いてた事は覚えてるんだ。でもな、それより前の記憶がちょっとな‥‥」
 分からない事ばかりの自分。
 何も思い出せない自分。
 そんな自分に耐えられなくなり、彼は故郷を離れ、ここケンブリッジへとやって来たのだという。
「記憶が無いというのは、やはり辛いですか‥‥?」
 ベアータが訊ねると、澳継は意外な答えを返した。
「いや、別に記憶が無いのは構わねぇんだ。むしろ、そんな事を気にしてウジウジしてる方がよっぽど嫌だね、俺は」
「え? 記憶を取り戻す方法を探しに、ケンブリッジに来たんじゃないんですか〜?」
 紫苑が不思議そうな表情で、そんな疑問を口にすると、澳継はこう言った。
「どっちかって言えば、その逆だな。俺にとって大事なのはこれからさ。俺は、過去の俺じゃなく、新しい俺になるために俺はここに来たんだ。だからよ、これからのここでの生活が楽しみで仕方ねぇのさ」
「‥‥強いのですね、澳継様は」
「‥‥そんなんじゃねぇよ。俺はただ、前に進むことしか知らないだけさ」
 感心するセレナに、澳継は笑顔でそう返した。

 澳継に続いたのはセレナ。
「わたくしがケンブリッジに参りましたのは、家を継ぐためです」
 彼女が言うには、騎士である父の跡を継ぐためには自分もまた騎士にならねばならず、もし彼女が騎士とならねば、他の血筋から養子を取るか、婿を迎えるしかなかったそうだ。
「別に政略結婚が嫌というわけではありませんが、一生の事ですから、一つでも多く選択肢を持っていたいのです」
 冷静に語るセレナに、周りの者達は何と言えば良いのか分からずにいた。
 確かに、騎士の家に生まれ、その名を継ぐ事を考えるのは自然な事かもしれない。
 だが、セレナはまだ十歳の少女だ。
 家柄や血筋の事など気にせず、親に甘え、友と遊び、自由な生き方を選びたいと考えても不思議ではない年頃のはず。
「そういうのって、ちょっと嫌だとか思った事はねぇのか?」
 澳継が訊ねる。
「これも、騎士の家に生まれた者の務めと考えておりますので‥‥」
 否定でもなく、肯定でもない返答。その意図するところは、察するしかない。
「セレナさんは立派ですね。私も見習わなければ‥‥」
「いえ、そんな‥‥」
 リエラの言葉に、少しだけセレナの表情が曇って見えたのは、気のせいであろうか。
 いや、そうではない。彼女が騎士を志した理由には、皆には明かせないもう一つの別の理由があったから。
(「兄様‥‥」)
 心の中に浮かぶのは、王ではなく神に仕える事を選んだ兄の姿‥‥。
 家督を継ぐ事を放棄し、彼女の前から姿を消した兄。
 それでも、彼女にとっては大切な人だから‥‥。
(「いつの日か、兄様が帰ってくる場所を残しておきたかったから‥‥」)
 その胸に抱いた強い想いは、今も変わっていない。
 きっと、これからも‥‥。

 神に仕える事を選んだ騎士は、ここにもいる。
「立派な騎士になるため‥‥と言ったら月並みですけど‥‥。私には、どうしても勝ちたい人がいるのです」
 その瞳の奥に、強い意志の光を宿しながら、リエラは語る。
 彼女が超えるべき目標としているのは、とある剣闘士らしい。
「重い長剣を片手で軽々と扱い、優れた技を幾つも使いこなすその腕は、達人と呼ばれる域に達しています」
 彼女の中に思い浮かぶのは、その剣闘士と戦う友の姿‥‥。
「元々は、私の友人とその剣闘士との戦いに立ち会ったのが全ての始まりで‥‥」
 彼女はそこで見た。そして感じたのだ。
 人は、これほどまでに強くなれるのだという事を。
 今の自分には遠く及ばない、遥かな高みを。
「‥‥リエラさん?」
「あ‥‥すみません」
 紫苑に名を呼ばれ、物思いにふけってしまっていたリエラは我に返る。
「戦いに敗れたその友人に代わって、彼を超えるのが私の夢なのです」
 そう言って、彼女は笑った。

「実はね、ボクのご先祖様は魔法使いだったらしいんだ〜。それで、ボクもご先祖さまみたいに、いっぱい魔法を使えたらな〜って思ってたんだ」
 最後に残った紫苑が話したのは、少し不思議な思い出。
「あれは、まだボクが故郷のジャパンにいた頃、ちょうどこの時季だったかな〜。森の中で迷子になった時、お花畑でアースソウルに会うことができたんだ〜」
 そのアースソウルは、小さな女の子の姿をしていたと紫苑は言う。
「目の前に現れたその子の姿を追っているうちに、気づいたらボクは森の中から抜け出してたんだ。あれはきっと、あの子が助けてくれたんだって思う」
 笑顔で語る紫苑のその思いで話は、まるで、幼い頃に聞いた童話のようで、聞いていた皆も、自然と心が温かくなっていくのを感じた。
「森を抜けたら、いつの間にかそのアースソウルの子はいなくなっちゃってたけど、その時にボクは思ったんだ。もっと魔法の勉強を頑張って、精霊の事を知る事ができたら、またあの子に会えるかなって〜」
「ええ。きっと会えますよ。一緒に頑張りましょう」
「うん☆」
 幼さの残る瞳に目いっぱいの輝きを宿して、紫苑はベアータの励ましに応えた。

 語られたのは、それぞれの思い出。それぞれの始まり。
 そして、今日この日がまた、自分達にとっての大切な始まりの日となる事を‥‥。そして、お互いの夢が叶う事を願いながら、彼らはしばらく共に同じ時間を過ごした。